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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
5/13

人の街

『楽園』と呼ばれていたカイの住処。

初めて足を踏み入れた村人たちは、その光景に唖然とする。


「楽園だ・・・・・」


立ち尽くす村人たちの前で、ソイルが、精霊力を使い、土の家を建てる。

次々と家が出来上がっていく様子に、村人たちは見惚れるしかない。


全ての家が、完成するとソイルが声をかけた。


「好きな家に住んだらいいよ」


村民たちは、ソイルにお礼を伝え、各自で決めた家に向かった。


その日の夜、村民を代表して村長が、カイのもとを訪ねた。


「カイ様、この地に住むことをお許し頂き、有難うございます」


「うん、今後の事は、ミズナと相談してくれたらいいよ」


「畏まりました」


その後、村長は、ミズナと話し合い、村での約束事を聞いた。

村長は、この地で暮らす者たちに徹底させることを誓う。


翌日から、村民たちは、与えられた仕事を始めた。

仕事は、作物などの刈り取り。


狩りは、カイの精霊たちが受け持った。


村長は、カイに、人族の常識や、読み書き、人間界の現状を教えた。




それから4年・・・・・


カイ12歳。


「村長、そろそろ出かけるよ」


「カイ様、お気をつけて。

 楽園の事は、お任せください」


村民たちも口々に、声をかけてきた。


「カイ様、無事に帰って来てください」


「お気をつけて」


「道中のご無事を」


カイも返事を返す。


「ありがとう。

 精霊たちも頼んだよ!」


「は~い。

 カイ様、行ってらっしゃ~い!」


カイと四体の精霊は、村人や下位精霊たちに見送られて

楽園から旅立った。



カイの目的は、各地の精霊に力を与え、世界を元に戻すこと。

天使と悪魔の戦いで、上位の精霊たちの数が減った今、

各地で自然の崩壊が始まっている。


最初に向かったのは、村長たちの村。

今では、誰も住んでいないが、

森から一番近いので、立ち寄ってみることにしたのだ。


森を抜け、フーカの案内に従い進む。

すると、荒廃した村が見えてきた。


「ここだよね」


「そうだよ」


村に入ると、土が乾燥し、作物が育つ状態ではない事がわかる。


「酷いね・・・・・」


「うん・・・・・」


ソイルは、悲しそうに頷く。


「すこし、試してみてもいい?」


カイの提案に、ソイルが笑みを浮かべた。

やはり、土の精霊としては、放っておけないようだ。


カイは、地面に手をつける。


「恵みを・・・・・」


カイの手から、精霊力が地に流れ込んだ。

すると、乾燥していた土地に潤いが戻り、青々とした草が生え始めた。


「うわぁぁぁ!」


ソイルが、思わず声を上げた。

一面に広がっていく草原に、ソイルの顔が綻んだ。


「カイ、有難う。

 後は、任せて」


ソイルは、カイの力を引き継ぎ、精霊力を送り込む。

ソイルの力で、広がった草原に、花が咲く。


「奇麗になったね」


ソイルは、満足して飛び回った。


「もう、いいでしょ。

 先に進むよ」


フレイの言葉に従い、村を出て、街に向かった。


街に向かい始めてから、精霊たちは、姿を消した。

その為、カイは、一人旅に見える。



カイは、姿を消しているフーカの案内に従い、歩いていると

目の前に砦のような壁が見えてきた。


「フーカ、あそこが街なの?」


「そうだよ、あれは、魔物や魔獣から街を守る為にあるんだよ」


「へえ~」


『楽園』と呼ばれるカイの住処に、壁などない。

魔獣や魔物が、襲い掛かって来る事など無いからだ。


外壁の途中で、入り口である門を見つけ、カイはそこに向かった。


12歳の少年が、一人で近づいてくる事に、

疑問を持った門兵が、声をかけてきた。


「お、おい、お前、一人なのか?」


「そうだよ」


精霊たちが周囲にいることは、秘密だ。


「そうか、街に入るには、銅貨5枚が必要なのだが、

 持っているのか?」


カイは、予め村長から聞いていたので、小袋からお金を出した。


このお金は、村を出た時に、村長たちが持って来ていたものだ。


「お、おう、確かに銅貨5枚受け取った。

 中に入っていいぞ」


カイは、人間の街に、初めて足を踏み入れる。


沢山の煉瓦と木造の建物が立ち並ぶ。

多くの人が行き来する。


馬車も走っている。


「なんか凄いね・・・・・」


「うん、でも・・・・・」


フーカの返事は、歯切れが悪い。

それもそのはず。

目の前の光景は、確かにその通りなのだが、

行き交う人々の顔には、覇気がない。


やつれた表情。

ボロボロの衣服。


色々と見ているカイに、フレアが声をかけた。


「ほら、冒険者ギルドに向かうよ」


「あ、うん」


再びフーカの案内に従い、冒険者ギルドに向かった。

ギルドに到着すると、入り口の大きな扉を開いた。


まだ、昼間なのに、酒の匂いが充満している。


「臭っ!」


カイは、思わず鼻をつまむ。


その様子を、冒険者たちが見ていた。

一人の冒険者が、立ち上がる。


「おい、小僧。

 俺たちに文句があるのか?」


威嚇するように、目の前の椅子を蹴り上げる。

『ガシャン!』と大きな音を立て、壁にぶつかった椅子が壊れた。


「小僧、何とか言ったらどうだ!」


男は、既に酔っている。


酔っている男、冒険者【ヘンリー】は、

カイを睨みつけながら、フラフラと歩み寄る。


「俺は、ガキが嫌いなんだ。

 ここは、遊び場じゃねえ。

 今すぐ出て行かないと、痛い目に合わせるぞ!」


カイを恫喝するヘンリー。

冒険者チーム『フォース』のリーダー。

荒くれ者で有名だった。


カイに、手が届く寸前、突然、床が抜ける。


「うおっ!」


ヘンリーの下半身が床にはまり、身動きが取れない。

冒険者仲間から、笑いが起きた。


「ぎゃははは、ヘンリー、太り過ぎじゃねえのか!」


「おい、いくら古いとはいえ、床まで抜けるとはなぁ」


顔を真っ赤にしながら、仲間を睨みつける。


「うるせぇ、お前ら、助けやがれ!」


だが、酒を飲んでる者たちは、動こうとはしない。

その様子に、慌ててギルドの職員たちが、助けに向かった。


助け出されたヘンリーは、カイの事など、頭から抜けていた。

カウンターの椅子に座り直し、酒を注文するヘンリー。


カイも、何事も無かったかのように、受付に向かった。


「冒険者になったら、通行税がタダになるってホント?」


「えっ!

 確かにそうですが・・・・・あの、冒険者になりたいのですか?」


「うん、お願いします」


笑顔で、答えるカイ。


「では、こちらの水晶に、手を当てて下さい」


受付に言われるがまま、水晶に手を当てる。

すると、水晶が一瞬、七色に光を放つと、

『パリンッ!』と大きな音を立てて、砕け散った。


「えっ!」


水晶が砕け散った音は、ギルドの中に響き渡っていた。


「おい・・・・・」


酒を飲んでいた男たちの動きが止まり、その顔は、カイに向けられていた。


「少々、お待ちください」


席を立つギルド職員。


「なんか、不味かった?」


フレイに、話しかけた。


「気にしなくても、いいわよ。

 どこでも、同じことになると思うから」


「わかった」


カイは、独り言に見える呟きを繰り返した後、受付職員を待つ。

暫く待っていると、一人の男が姿を見せた。

その後ろから、先程の職員の姿があった。

男は、辺りを見渡した後、カイと目が合う。


「おい、この子供が、そうなのか?」


男は、カイに向かって指を差した。


「はい、その子です」


カイを見下ろす男。

そして、砕けた水晶を見る。


「・・・・・事実のようだな」


男は、ルーペのようなものを取り出すと、

それを使ってカイを覗き込む。


すると、水晶と同じように、一瞬、七色の光が見えた後、砕け散った。


「これでも、無理か・・・・・」


男は、カイに話しかけた。


「悪いが、こちらで話を聞かせてもらおう」


男は、カイを招く。

通されたのは、2階にある応接室。


男とカイがソファーに腰を掛けると、受付の女性が、お茶を運んできた。


━━あっ、さっきの人だ・・・・・


そんな事を思っていると、男が話しかけて来た。


「色々、聞きたいこともあるが、先ずは自己紹介だ。

 私は、ギルドマスターの【ローグ】だ」


「カイです」


「カイか・・・・・お前は、どこから来た?」


「森」


カイの発言に、精霊たちが慌てる。


「カイ、あそこの事は、内緒だから!」


「あっ!

 そうだった」


カイは、訂正する。


「森の向こう」


「森の向こう・・・・・か?」


現状のこの世界では、誰がどこの出身かなど、調べるほどの力は無い。

その為、カイの事も疑われずに済んだ。


「悪いが、この用紙に、記入してくれ。

 字が書けないなら、代理で書かせる」


「問題ないよ」


差し出された用紙に、次々に記入していく。

これも、村長がカイに読み書きを教えていたからで、問題は無かった。


記入が済んだ用紙を、ローグが受け取る。


━━やっぱり、わからん・・・・・・

  暫く様子を見るか・・・・・


一通り目を通した後、サインをした。


「今日からお前は、冒険者ギルドのメンバーだ。

 依頼は、下の掲示板に貼ってあるから、そこで、自分に見合ったものを選んでくれ。

 まぁ、細かい話などは、下の受付で聞いてくれ」


ローグは、水晶の事には、触れなかった。


二人は席を立ち、応接室を出た。

1階に下りると、冒険者たちの視線がカイに集まる。

だが、カイは、そんな視線を無視して、受付に赴く。


「ローグが、ここで詳しい事を聞けって、言ったんだけど?」


「はい、わかりました」


受付の職員は、丁寧に説明を始める。


ギルドには、SSからEまでのランクがある。


受けた依頼をこなすと、ギルドカードに記録される。

そして、一定の成果に到達すると、ランクが上がり、

金額は良いが、難しい依頼を受けることが出来るようになる。


但し、依頼に失敗すると、評価が下がるという事だった。


カイのランクは、『E』。


「誰もが、ここから始めるの、だから頑張ってね。

 因みに、私の名前は【レイカ】。

 困った事があったら、何時でも相談に来てね」


「うん、ありがとう」


カイは、ギルドカードを受け取ると、依頼書を見に向かった。




不定期投稿ですが。宜しくお願い致します。

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