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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
3/13

人間界

精霊たちと赤ん坊が降り立ったのは、森の中。

周囲を見渡しながらも、精霊たちの脳裏に残るのは、あの光景。


フレアたちが、地上への道に飛び込む瞬間に見たのは、蹂躙される精霊たちの姿だった。


中立地帯を守ってきた精霊たちは、弱くはない。

だが、悪魔族と天使族に同時に責められ、

精霊女王が亡くなった状態では、勝ち目は無かった。


精霊界に住んでいた精霊たちは、上位の精霊。

上位の精霊の役割は、地上に住んでいる下位の精霊たちに力を与え、

人間界の自然を守る事だった。


自然界を守ることは、地上に住む者たちに多大な影響を及ぼす。

それは、食料だ。

作物は、地に植えて育てる。

精霊の加護が多く与えられた大地には、立派な作物が育つ。

だが、加護の無くなった大地では、作物は育たない。


上位の精霊が滅ぼされた今、地上に与える影響は、大き過ぎる。

それは、月日が経つにつれ、顕著に現れるだろう。




そんな状態の中、精霊たちが地上に降り立って、3年の月日が過ぎた。


四体の精霊は、【カイ】の面倒を見ながら、森の中で生活していた。

赤ん坊だった子の名前、『カイ』。

それは、精霊女王が、死ぬ間際につけた名前だ。


少しずつ、歩き始めたカイの世話をするフレア。


「カイ、あまり遠くに行ったら、駄目だぞ!」


カイの周りを飛び回りながら、後を追う。

そこに現れるフーカ。

フーカは、森で狩りを行い獲物を捕らえてきていた。


「あっ、カイにフレア。

 こんなところまで、どうしたの?」


「カイの散歩さ。

 こいつ、日に日に大きくなりやがって、ウロチョロするから大変だぜ」


「アハハハ、でも元気でいいじゃん」


合流したフーカは、フレアと共に、カイを連れて、

ミズナとソイルの待つ住居に向かった。






それからも年月は経ち、カイは8歳になっていた。

カイの精霊力は、3年前に開花していた。


その為、精霊たちが交代で、精霊魔法や精霊たちに付与する力の使い方を教えた。

カイは、その全てを吸収し、今では、問題なく扱えるようになっている。

また、カイの精霊力は、底が見えず、

力が無くなることが考えられないほどだった。


カイは、その力を使い、練習がてら、住居の周りを自然豊かな土地に変えていた。

その為、季節に関係なく花は咲き乱れ、

木は、果物の実をつけた。

また、ソイルが耕した畑には、作物が実り、ある種の『楽園』を築いていたのだ。


その『楽園』に、人族が訪れた。


道に迷いながらも、この地に辿り着いた男。

近くの村に住む人間【バルド】。


バルドは、田畑を耕して、生活していた。

しかし、土地が精霊の加護を失い、作物が育たなくなった事で、

慣れない狩りをする為に森に入り、偶然、この地に辿り着いたのだ。


バルドの目の前に広がる光景。

花が咲き、木々が実をつけている。

そして、田畑には、作物が育っている。


「ここは・・・・・」


言葉を失い、その光景に見惚れている。


「おじさん、誰?」


バルドに、声をかけるカイ。

カイの周りには、精霊たちがいるが、

姿を消している為、人族に、その姿は見えない。


「君は?」


「僕はカイ。

 それで、おじさんは?」


「私はバルド。

 道に迷ってしまってね」


「そうなんだ・・・・」


人間を初めて見たカイは、バルドを眺めている。

バルドの服装は汚れていて、お世辞にも奇麗とは、思えなかった。

また、体も痩せ、頬も()けている。


「君は、ここに住んでいるの?」


「そうだよ」


「そうか・・・・・お父さんとかお母さんは?」


カイは、『お父さん』、『お母さん』がわからない。


「それは何?」


「えっ?

 君を育ててくれた人が、『お父さん』と『お母さん』だよ」


誤解を招くバルドの説明。

案の定、カイは、精霊たちを、『お父さん』と『お母さん』だと思った。


「それなら、一緒にいるよ」


「そうか、なら、会わせて貰えないだろうか?」


カイは、周囲を見渡す。

そこには、『嫌々』と手を横に振る精霊たちがいた。


「ん~無理。

 嫌だって」


「えっ!」


訳の分からないバルド。

それも当然。

バルドには、精霊の姿は、見えていない。

その為に、勘違いをする。


━━この子は、一人でここにいるのだな・・・・・

  だったら・・・・・

  

バルドは、カイにお願いをする。


「もし良かったら、あそこの果実を、少し分けて貰えないだろうか?」


バルドは、この果実を持って帰り、

村の人々に、この場所を教えるつもりなのだ。


そんな事とは知らないカイは、返事をする。


「うん、少しならいいよ」


「そ、そうか、有難う」


バルドは、持っていた籠に、果実を詰めた。

そして・・・・・


「おじさんは、用があるのを思い出したから、失礼するよ」


そう言い残し、その場から足早に去って行った。




村に戻ったバルドは、村長の家に赴いていた。


「村長、これを見てくれ」


籠から取り出して果実を見せる。


「このような果物、一体何処で?」


バルドは、森に入ってからの事を話した。


「目印もつけてきた。

 迷わずあの場所に行ける。

 それに、果物だけじゃねぇ、田畑には、作物も実っていたんだ」


夢のような話。

ここ数年、人間の村や街には、あまり食べ物が無い。

その為、貧しい者達には、毎日の食事を摂ることも難しい状態だった。


そこに降って湧いたようなこの話。

証拠の果物もある。


だが、村長には、気にかかることがあった。


「これは、誰かが育てているのでは?」


「ああ、子供が一人で、育てている」


「なんと!

 子供が、そんな所に、一人で住んでいるのか?」


「そうだ、頭の弱そうなガキだから、心配は、いらない」


バルドの勘違い。

精霊の姿が見えなかった為に、カイを頭の弱い子供だと、決めつけていたのだ。


「これで、飢えを凌げるし、あの土地を、俺たちのものにすれば、

 毎日、飯が食えるんだ」


バルドの目は、狂気に満ちている。

既に、カイの事など頭には無い。


「バルドよ、その子供は、どうするのだ?」


冷静に尋ねる村長。


「気にすることはない。

 俺に任せてくれ」


バルドは、村人と共にその地に赴き、奪う事を決心していた。

そして、捕らえた子供は、魔物の餌にすると告げたのだ。


「そんな、恐ろしいことを・・・・・」


息の飲む村長。

だが・・・・・


「このままだと、俺たちが死ぬ。

 これは、仕方のないことなんだ」


確かに、この事を話せば、村人は、かの地に赴くことに賛成するだろう。

村長が、反対してもそれは変わらない。


「わかった・・・・皆を集めてくれ」



バルドが去ったあと、村長は、謝罪を口にする。


「本当に申し訳ない・・・・・」



翌日、バルドと村の住人たちは、旅支度を終え、広場に集まっていた。


「では、出発するぞ!」


バルドの声に従い、歩き出す村人たち。

しかし・・・・・


「何処へ行く気ですか?

 勝手に村を離れられては、困りますなぁ」


道を塞ぐ、領主とその兵士たち。


「【デラ】様、どうして・・・・・」


村民の顔に、絶望の影が落ちる。

この地を治める領主、【デラ ウェール】。


税収を増やし、この村を苦しめている張本人。

その男が、大勢の兵を連れて目の前に現れた。


━━誰かが、知らせたな・・・・・


バルドは、そう思った。

デラ ウェールが口を開く。


「森の奥に、『楽園』があると聞いたのだが・・・・・」


辺りを見渡すデラ ウェール。

そして、バルドに目をつける。


「バルド・・・・・だったな、詳しく話せ」


『逃げられない・・・・・おこぼれを頂くしかない』

そう考えたバルドは、観念して話した。


デラ ウェールは、話を聞き終え、笑みを零した。


「素晴らしい。

 わかりました、私も鬼ではない。

 あなた達が、その地に移り住み、そこで生活することを許しましょう。

 そして、私の街まで、作物を運ぶのです」

 

デラ ウェールは、仰々しく伝えた後、

村民たちと一緒に、兵を連れ、森の中の村『楽園』に向かった。



不定期投稿ですが。宜しくお願い致します。

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