表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
2/13

崩壊する精霊界

世界樹が蕾を付けたことは、精霊女王【ルーン】のもとに届けられた。


「それは、真の事ですか?」


報告をする風の精霊【フーカ】。


「はい、今は、他の精霊たちが見守っています」


「そうですか・・・・・」


この事実、天使や悪魔に、知られるわけにはいかない。


「いいですか。くれぐれも極秘にするのです。

 決して、天使族や悪魔族に知られてはなりません」


精霊女王は、精霊たちに通達するように伝えた。


だが、既に買収されている精霊がいたのだ。

悪魔族に憧れる光の精霊【ライム】。

彼は、光の精霊の中の落ちこぼれ。

癒しの力も使えず、歪んだ性格の為、精霊たちから避けられていた。

だが、プライドだけは、高かった。


「俺は、特別なんだ。

 あいつらのような有象無象とは、わけが違うのだ!」


その傲慢さを悪魔に付け込まれ、今では、悪魔の下僕となっていた。


そしてもう一人。

闇の精霊【マム】。

彼は、ライムとは、真逆の存在。

闇の精霊たちの中では、群を抜いて優秀な精霊。


そして、天使に憧れていた。


「いつか、僕は、天使になりたい・・・・・」


毎日にように天界に赴き、天使たちの話を聞いていた。



そんな二人に、伝えられた極秘の話。


『世界樹が蕾をつけた』


ライムは、喜び、マムは悩んだ。


━━この事を、【バエ】様に伝えなければ・・・・・・


ライムは、悪魔バエに伝える為に、魔界に向かった。


偶然、その様子を見てしまったマムは、焦る。


「どうしよう・・・・・

 このままでは、争いが起きる・・・・・」


悩んだ末、この事を天使族の一人、【マリスィ】に相談することにした。


こうして、世界樹が蕾を付けた事実は、瞬く間に広がったのだ。

しかし、天使族も悪魔族も、すぐには動かなかった。


『まだ、花が咲いたわけではない』・・・・・


両陣営の思惑は、生まれた子を手中に収めること。

まだ、時期ではない。


天使族はマム、悪魔族はライム。

この二人からの報告を待つことにした。


そして、1年の歳月が過ぎる頃、世界樹の蕾に変化が起こる。

白かった蕾の色が、七色に変化したのだ。


━━もしかして・・・・・・


世界樹に精霊たちが集まった。


「ねえねえ、そろそろかなぁ?」


蕾の周りを、飛び回るフーカ。


「大人しく待っていようよ」


世界樹の枝に座り、様子を見守る【ソイル】。


「あんたは、いつもそうやって・・・・・真面目よねえ・・・・・」


火の精霊【フレア】も、世界樹の枝に座り、

大きな欠伸をしていた。


「不謹慎だよ、今は、警備の最中なんだから!」


ソイルは、フレアを窘めた。


世界樹の周りには、ロープが張られ、一定の距離から、近づけないようになっている。

その為、ロープの中に入れるのは、警備を任されていえる四体の精霊。


風の精霊フーカ。

精霊女王に、忠誠を誓っている精霊。

だが、間が抜けている。

つまりドジっ子。


地の精霊ソイル。

真面目で、融通の利かない精霊。

でも、弱虫。

怖いことが大嫌い。


火の精霊フレア。

マイペースだが、いざとなったら頼りになる精霊。


水の精霊【ミズナ】。

皆のお姉さん的存在。

癒しを与えるやさしい一面と、世界を飲み込むほどの憤怒の一面を持つ。


四体の精霊は、精霊女王からの依頼で、毎日、世界樹の警備をしている。

だが、蕾が色を付けたこの日、精霊界に、悪魔族が襲撃を仕掛けてきた。


世界樹の周りに集まっていた精霊たちの前に、

ガーゴイルを従えた悪魔たちが姿を見せる。


「今まで、ご苦労だったな」


一際目立つ格好の男、バエが、声をかけてきた。

世界樹の前に立ち、守る姿勢を見せる精霊たち。


「ここは、精霊界、この世界の中立の地。

 今すぐ立ち去れ!」


権威を表すような、髭を蓄えた木の精霊【モンス】が、声を荒げた。

しかし、バエは、気にも留めず笑っているだけだ。


「ジジイ、貴様の出る幕ではない。

 引き下がれ・・・・・」


そこに、割って入った悪魔族の【マルバ】が文句を言う。

マルバは、ライオンの頭を持つ悪魔。

モンスを一飲みにしそうな勢いだ。


だが、モンスは、怯まなかった。


「貴様のような小僧の脅しなど、怖くもなんともないわ!

 とっとと尻尾を丸めて帰れ!」


「グヌヌヌ・・・・・貴様、言わせておけば・・・・・」


マルバは、命令を下す。


「精霊どもを始末しろ!

 世界樹の蕾は、我らのものだ!」


「「「グアァァァ!」」」


津波のように押し寄せる悪魔族。


「僕たちが、小さいからって舐め過ぎ!」


土の精霊たちが、地面を割り、悪魔族たちを奈落の底に落とす。

しかし、空から攻め込むガーゴイルには、効かない。


「こっちは、僕たちに任せて!」


風の精霊たちが、突風を巻き起こし、ガーゴイルたちを吹き飛ばした。


「ニヒヒヒ、残念でした」



悪魔族たちは、何度も襲い掛かるが、その度に、精霊たちによって阻まれた。

その光景を、黙って見ているバエ。


その姿は、あからさまに、何かを待っているように見える。


━━頃合いか・・・・・・


バエの言葉が、引き金になったかのように精霊界にもう一つの部族。

天使族が姿を現す。


「助けに来てくれたのね」


精霊女王は、安堵の表情を見せる。

しかし、その思いは、すぐに裏切られた。


「世界樹の子を、悪魔の手に渡してはならん。

 あの方は、我々が保護をするのだ!」


天使族も世界樹の子を狙い、ハーピーを従えて、精霊界に殴り込んできた。


「どうして、こんなことを!」


精霊女王の嘆きの声は、誰にも届かない。

挟み撃ちにされる精霊たち。

その時、眩い光が、世界樹を包んだ。


その光景に、全ての者たちの動きが止まる。


そして、蕾が開き始める。

ゆっくりとゆっくりと・・・・・

七色の花びらが完全に開き終えると、

その花の中心に、男の子の赤ん坊が、眠っていた。


光を含んだ銀色の髪。

真っ白な肌。


精霊女王は、そっと抱き上げる。


「この子を守ります!」


精霊女王は、その場から去ろうと飛び上がる。

しかし、誰かに足を掴まれた。


悪魔族に寝返っているライムだ。


「その子を渡せば、俺は、悪魔族に迎え入れられるんだ!」


ライムの行動を止めようと精霊たちが、精霊女王を助けに向かう。

しかし、ライムは、隠し持っていた猛毒のナイフを、精霊女王に突き刺した。


「ウグッ!」


「ルーン様!」


精霊女王は、赤ん坊を抱いたまま倒れ込む。


「頂いて行くぜ」


ライムは、赤ん坊を、精霊女王から取り上げようとしたが、

精霊女王は、残った力で、赤ん坊を抱きしめて離さない。


「あなたには、渡しません!」


毒が回り、意識を失いかけても、抱いた手の力を緩めない。

そこに、押し掛けてきた精霊たち。


「ちくしょう!」


その場から、逃げようとしたライムだったが、風に切り刻まれた。


「逃がさない・・・・・」


怒りに身を任せるフーカ。

体中に切り傷を負わされ、羽をもがれたライムに、逃げ道などない。


「お、お前たちは、いつもいつも俺の邪魔をしやがって!」


フーカを睨みつけるライムの前に、フレアが立つ。


「お前・・・・・バカだろ」


「へっ!?」


「精霊が、悪魔になれるわけないだろ!」


「そ、そんなことはない!

 バエ様が、なれると言ったんだ!」


「バエってあれか?」


フレアの指が示した場所で、笑いを堪えているバエの姿があった。


「ククク・・・・・本当に面白い。

 あんな世迷言を信じる者がいるとは・・・・・」


その声は、ライムにも届いた。


「嘘・・・・・だったんだ・・・・・」


「当然だろ、考えればわかる事だったんだよ!」


フレアは、精霊の警備隊に、ライムを引き渡した。



フレアは、精霊女王の傍に寄り、膝をつく。

その傍らに、他の精霊たちも集まった。


「ルーン様・・・・・」


薄っすらと目を開ける精霊女王。


「フレア・・・・・この子をお願いします。

 ・・・・・・地上に、逃げるのです・・・・・頼みましたよ・・・・・」


精霊女王は、そのまま息を引き取った。


「ルーン様!」


悪魔族と天使族は、この好機を逃さない。


「今だ!

 この地の力は、弱まった。

 赤ん坊を奪い取るのだ!」


悪魔族も天使族も、精霊女王の死を嘆くものなどいない。

ただ、目の前にいる赤ん坊を奪い、種の発展だけを考えている。


「こんな状態だから、この子が生まれたのかもね・・・・・」


ミズナの呟きは、精霊たちに聞こえていた。




今なお続く、悪魔族と天使族の襲撃の中、フレアの傍にモンクが近づく。


「フレア、ルーン様のお言葉、確かに聞いたな」


「はい・・・・」


「なら、急ぎ、この地を離れよ」


「でも・・・・・」


モンクは、赤ん坊の頭を撫でた。


「この子は、最後の希望だ。

 頼んだぞ」


モンクは立ち上がり、そのまま、戦火の中に消えて行った。


赤ん坊を抱くフレアの傍に、フーカ、ミズナ、ソイルが近づく。


「行くわよ」


声をかけたのは、ミズナ。

ミズナの言葉に、フーカ、ソイルが頷く。


「フレア、一緒に行くから!」


赤ん坊を抱いたまま立ち上がる。

その間に、その場にいた精霊たちが、全精霊力を注ぎ込み、

自身の命と引き換えに、地上への道を作った。


「あまり持たないから、急いで!」


「その子をよろしく」


「頼んだよ!」


苦しい筈なのに、笑顔で見送る精霊たち。


「みんな・・・・・」


フレアたちが、道に向かって歩き出す。

しかし、バエが気付いた。


「止ろぉぉぉぉぉ!」


その声で、天使族にも見つかってしまった。


「精霊たちは、あの子を地上に逃がすつもりだ!

 急げ!急いで止めるのだ!」


襲い来る天使の前に、立ち塞がるマム。


精霊力を使い、障壁を作り上げた。


「何をするんだ!

 直ぐに解除しろ!」


マムに怒号を浴びせる天使たち。

だが、マムは、障壁を解こうとはしない。


「みんな、ごめんなさい。

 僕が、天使たちに教えたんだ。

 でも、こんな事になるなんて、思っていなかったんだ。

 本当にごめんなさい」


涙を流しながら、謝罪をするマムの障壁が、とうとう天使たちによって砕かれた。


「邪魔をするなぁぁぁ!」


一太刀で、天使に命を奪われるマム。


「マム!」


思わず足を止めそうになるフーカの手を、ソイルが握った。

弱虫のソイルは、フーカの手をしっかりと握りしめると、

皆の後を追う。


「急いで!」


道を作った精霊たちの声に従い、

四体の精霊は、地上界への道に飛び込んだ。



本日2本目です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ