表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
13/13

旅立ち

2人が出した答え。

それは、少量ずつギルドが買取り、

食材として売らずに、調理して販売する方法。


値段を安くし、少量での販売。

だが、数は用意できる。

庶民の口に入るようにと、考え抜いた苦肉の策だった。


山で狩った獣の肉と一緒に、汁物にして売る。

その名も『肉汁』。


肉をメインに見せかけての販売だった。

お椀一杯、銅貨5枚。

街に入る為の通行税と同じ価格。



販売当日。

流した噂につられ、大勢の人が集まっていた。


「これより、販売を開始します。

 商品を受け取った方は、テントから離れるように、お願い致します」


商人ギルドの職員の声に従い、並んでいた人の列が、動き始める。

子供や老人、その手には、銅貨5枚が握られている。


『肉汁』を食べ始めた者から、称賛の声が上がる。


「これ、うめえ!」


「うん、温かいし、腹に沁みる」


テントの周りで、食べ始めた者達には、笑みが溢れている。

その日の販売は、夕方まで続き、用意した『肉汁』は、完売した。


だが、薩摩芋の旨さは、隠せなかった。

『肉汁』を食べた者の話の中に、必ず出てくる言葉。


「あの芋が、旨い」


3日間、販売を行った結果、商人たちから、

『あの芋は、何処で仕入れたのか』という問い合わせが、殺到したのだ。


ある程度の予想はしていたが、ここまで早く広まるとは、思ってもいなかった。

サーシャ ルマンドは、再びナタリー ウェールの屋敷を訪ねた。


「ナタリー、やはり料理としての販売でも、無理だった」


「えっ!?」


「商人たちから、問い合わせが殺到している」


「そうですか・・・・・」


頭を突き合わせて、悩む2人。

そこに、姿を現すフーカ。


「カイが、来るよ」


「カイ?」


フーカが2人に告げた時、応接室の扉が叩かれた。


そして、扉が開き、カイが入って来た。

すると、ナタリー ウェールが立ち上がる。


「ナタリー、今、いい?」


「ええ、構いませんよ」


サーシャ ルマンドは、この子が誰なのか知らない。

だが、ナタリー ウェールの態度から、大切な客人だと察した。


ナタリー ウェールに促され、カイは、空いていたソファーに座る。


「ナタリー、紹介して頂いて宜しいかしら?」


「そうね、初めてお会いに、なるのでしたね。

 この方は、カイ様。

 精霊様の主です」


「精霊様の主?

 人が、精霊様の主になれるのですか?」


驚くサーシャ ルマンドに、フーカが答える。


「カイは、人族、人間ではないよ」


「えっ!?」


「姿は、そっくりだけど、違うから、誤解しないでね」


目に前にいる少年は、どう見ても人間にしか見えない。

だが、精霊の言葉を、信じるなら、人ではないらしい。


困惑するサーシャ ルマンドだが、

精霊が嘘を吐くとは思えないので、信じる事にした。


「ところで、カイ様、何かご用事でしょうか?」


ナタリー ウェールの問いに、カイは答えた。


「うん、薩摩芋の事で、悩んでいるみたいだったから」


「えっ?」


「その件だけど、後5日もすれば、解決すると思うよ」


何気なく伝えられた言葉。


「それは、一体・・・・・」


「うん、5日後に、売れば問題ないよ」


カイは、それだけ伝えると、応接室から出て行った。

扉が閉まった後、お互いの顔を見る。


「どういう事でしょう?」


「私にもわからないけど、カイ様が、何かしたのでしょうね」


ため息を吐き、紅茶を飲み干すナタリー ウェール。

サーシャ ルマンドも、同じ様に、紅茶を口に運ぶ。


━━本当に、何とかなるのかしら・・・・・


疑問を残したまま、その日は、解散した。



次の日、商人ギルドに、領地で採れた作物が持ち込まれた。

だがそれは、今までの物とは違い、やせ細った作物ではなく、

瑞々しく、しっかりとした物だった。


「これは、一体・・・・・」


最近では、見かけなくなっていた上物。

驚きながらも、買取りを始める職員たち。


そしてまた次の日、同じように、

領地の畑で採れた作物が、大量に持ち込まれる。


3日目、4日目と、立て続けに、持ち込まれる瑞々しい作物。

全てが、領地で採れた物。


不思議に思った職員が、農民に聞いても、帰ってくる答えは同じ。


「俺にも、わからねえ。

 朝、畑に行ったら、作物が育っていたんだ。

 だから、また、精霊様の仕業だと思ったから、全部持って来たんだ」


この事実に、サーシャ ルマンドは、思い出す。

『その件だけど、後5日もすれば、解決すると思うよ』


「あの言葉の理由が、これだったんだわ」


サーシャ ルマンドは、職員に命令をする。


「持ってきた物は、全部買い取りなさい。

 ただし、高値は、つけなくていいわ」


上物だけに、職員は驚く。

だが、サーシャ ルマンドの指示は、変わらない。


「農民たちも、わかってくれる筈よ」


その言葉の通り、通常より少しの高値で、

農民たちは、納得して作物を置いて帰った。


キツネに、つままれたかのような職員たち。


そこに運び込まれる大量の薩摩芋。

勿論、運び込んだのは、ウェール家の使用人たち。

それでも、倉庫に保管している半分にも満たない量だった。


だが、消費できた事には、変わりがない。

ナタリー ウェールは、この先も出荷するつもりでいる。




ウェール家で、カイたちが、お世話になって3ヵ月が過ぎた。

ある程度の情報も集まり、畑には、作物を実らせる土壌も出来た。

そのおかげで、下位精霊たちの住処も出来上がった。


カイたちが、ここにいる意味は、もう無い。

その日の夜、カイは告げる。


「ナタリー、そろそろ行くよ」


「そうですか・・・・・」


寂しそうな顔を見せるナタリー ウェール。


「寂しくなりますね」


「戻ってきたら、顔を出すよ」


「必ず・・・・・お待ちしております」


「うん」


その日の食事は、いつもより静かだった。


旅立ちの朝、準備を終えたカイ。

精霊たちは、姿を消している。


「色々と、お世話になったね」


そう言い残し、立ち去るカイ。

その後ろで、ナタリー ウェールは、ゆっくりと頭を下げる。


━━カイ様、色々お世話になりました。

  この街を、助けて頂いた事、決して忘れません・・・・・・


カイの姿が、見えなくなるまでナタリー ウェールは、頭を下げ続けた。




カイは、街の出口に向かって歩く。


「次は、王都かなぁ」


地図を見ながら、カイが呟く。


「うん、一番近いもんね」


フーカが、姿を消したままで答えた。


暫く歩くと、街の出口が、見えて来た。

同時に、チナ ウェールの姿も見えた。


「えっ!

 なんで、あそこにいるの?」


街の出口となる門の前に立つチナ ウェール。

カイの姿を見つける。


「カイ様~!」


満面の笑みで、手を振るチナ ウェール。


「あの子、ついてくる気かも・・・・・」


フレイは、そう思いながらも、門に近づく。

だが、この場所で、聞こえるように話す訳にはいかず、

カイたちは、黙って通り過ぎた。

すると、予想通り、チナ ウェールは、後をついて来る。


カイが尋ねる。


「どういうつもり?」


「私も、お供に加えて下さい」


街を出たところで、頭を下げる。


「遊びに行く訳では無いから、無理」


即答する。

しかし、チナ ウェールは、諦めない。


「人の街に入った時、私がいれば便利です。

 それに、わからない事も、教えることが出来ます」


確かに、カイには、常識が無い。

人族の街や村で、困ることがあるかも知れない。

そう考えると、チナ ウェールがいた方が心強い。


「わかった、連れて行くよ」


その言葉に、喜び、飛び回るチナ ウェール。


「ところで、ナタリーは、知っているの?」


「手紙置いて来た」


「えっ!?」


「えっ!?」


カイは、『ここで待っている』事を約束し、

チナ ウェールに、直接伝えるように言った。


数時間後、チナ ウェールは、馬車に乗って現れた。


「この馬車、母様からの餞別です。

 早く乗って下さい」


御者を務めるチナ ウェールに従い、カイたちは、馬車に乗り込む。


「出発!」


馬車が動き出し、チナ ウェールは、気が付いた。


「これ、精霊様と話が出来ないよ!」


チナ ウェールの叫び声を残し、馬車は、王都を目指して走る。




カイと精霊たちが、本格的に旅に出るまでを、書かせて頂きました。

お付き合い頂き、有難うございました。

短編連載でしたが、お付き合い下さり、有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ