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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
12/13

街の実り

ウェール家の屋敷に到着したサーシャ ルマンド。

ツカツカと歩き、入り口の扉を叩く。


屋敷内から現れたメイドに、伝える。


「私は、サーシャ ルマンド。

 手紙を頂いたので、参上したのだが、ナタリーは、ご在宅か?」


「はい、ナタリー様から、伺っておりますので、

 こちへどうぞ」


メイドの案内に従い、屋敷内を歩く。

その様子を、姿を消した精霊たちが覗いていた。


最近は、ウェール家の屋敷内であれば、精霊たちが、姿を隠すことは無い。

屋敷内を自由に闊歩し、中庭の花を愛でたり、調理場でつまみ食いをしている。


だが、今日は、ナタリー ウェールの友人が来るので、

仕方なく姿を消している。


そして、姿が隠せないカイは、チナ ウェールの部屋にいる。

それには、ある理由があった。


昨日、サーシャ ルマンドが来ることについて話し合いを行った時、

精霊たちは、姿を消しておくことで、話しは、纏まったが、

カイについては、決まらなかった。


その時、同席していたチナ ウェールが、発言をした。


「最近は、お母様とばかりで、私の事は、蔑ろにされている気がします」


遠回しに、『私にも、意見を求めて!』と伝えたつもりだった。

しかし、その発言に対して、フーカが返した一言。


「蔑ろにするも何も、あんた関係ないじゃん!」


その一言に、チナ ウェールが大泣きしたのだ。

慰めても、泣き止まない。

フーカに、冷たい視線が集中した。


止む負えず、フーカが出した提案。

それがカイを、チナ ウェールの部屋で待機してもらう事だった。


昨日と違い、ご機嫌なチナ ウェール。

精霊たちが部屋の中を飛び回る光景。

その中で、甲斐甲斐しく、カイの世話をしようとするチナ ウェール。

しかし、一緒に待機しているミズナとフレイに、阻まれた。


「カイ様のお世話を、私にもさせて下さい!」


「結構です。

 カイには、私たちが、ついていますから!」


「そんな事を言わず、私にもお世話を、させて下さい!」


「貴方は、どうしてカイの世話を、やりたがるのですか?」


「それは・・・・・」


モジモジと口ごもる様子から、ミズナは、察した。


「人族の発情期ですか・・・・・」


「!!

 発情期ですって、違います!

 恋愛感情です!」


乗せられて、思わず口にした言葉。

精霊たちの視線が集まる。


「そのような嫌らしい目で、カイを見ないで下さい。

 不潔です」


「うん、不潔。

 同族と楽しんで」


「うぅぅぅ・・・・・」


項垂れるチナ ウェール。

部屋の空気が、重苦しくなる。

そんな空気の中、チナ ウェールがポツリと話し出した。


「私ね、精霊眼を持っているって子供の頃、伝えられたの。

 その時は、嬉しくて仕方が無かったのだけど、

 何年経っても、精霊に出会ったことが無かった。

 だから、『精霊眼なんて、どうして持っているんだろう?』って

 本気で悩んだわ。


 でもね、貴方たちに出会った時に、初めて精霊を見て、

 嬉しくて仕方なかったの・・・・・

 だから、友達になれたらって、ずっと思っていたのよ」


「それって、恋愛感情じゃなくて、友情?」


「ううん、違うの。

 私は、精霊が好き、カイ様を含めて、貴方たちが大好きなの。

 愛しているって言っても過言では無いわ。

 私は、精霊に恋をしている。 

 毎日、一緒にいたいのよ!」


『先程の重苦しい空気は、何だったの?』と言いたいくらい

1人で、盛り上がるチナ ウェールだが、

その言葉を聞いたカイたちは、チナ ウェールから、距離をとる。


━━この子、絶対にやばい子だわ・・・・・

━━カイの近くに、置いておけないわ・・・・・


フレイとミズナは、危険な子だと、判断をした。

その様子に、憤慨するチナ ウェール。


「どうして、離れるのですか!?

 私、良い話をしましたよね?」


ミズナとフレイは、全力で首を横に振る。

カイに至っては、窓の外を眺め、現実逃避を試みていた。


「もう・・・・・私の気持ちを、誰も理解してくれないのですか!」


チナ ウェールの叫びに、カイたちは、黙って頷いた。




その頃、応接室では、ナタリー ウェールとサーシャ ルマンドが会っていた。


「貴方が、私を呼びつけるなんて、珍しいですね」


忙しい最中(さなか)、呼び出された事に、嫌味を言う。


「ごめんなさいね。

 どうしても、人のいない所で、話しがしたかったの」


「そうですか・・・・・では、その話とやらを聞かせてもらおうかしら」


ナタリー ウェールは、テーブルに用意された紅茶に口を付ける。


「何処から話そうかしらね・・・・・」


勿体ぶる仕草に、サーシャ ルマンドから、笑みが零れた。


「貴方が、そういう仕草をする時は、決まって厄介ごとだったわ」


「あら、そう・・・・・」


ナタリー ウェールは、澄ましたままだ。

そして、本題に入る。


話を聞くにつれ、サーシャ ルマンドの顔が歪む。


「それ、何処まで本当で、何処からが、冗談なの?」


「全部事実よ」


ナタリー ウェールは、デラ ウェールの死から、息子の醜態。

精霊たちとの出会いと作物の事。

順を追い、全てを話したのだ。

その結果、サーシャ ルマンドは、困惑する。


「それ、証拠とかは・・・・・」


「勿論、あるわよ」


そう言うと、ナタリー ウェールは、2人きりの部屋の中で、声をかけた。


「フーカ様、ソイル様、お願い致します」


「はーい」


「うん・・・・・」


誰もいない筈のところから声が聞こえ、精霊たちが、姿を見せた。


「えっ!?」


突然現れた精霊に、サーシャ ルマンドの動きが止まる。


「あれっ、この人固まっているよ?」


「本当だね」


呑気に、覗き込む精霊たち。


「大丈夫ですよ、直ぐに目覚めますから」


ナタリー ウェールは、そう言うと、紅茶に口を付けた。

サーシャ ルマンドが、復活するのを待つ間に、

フーカたちにも紅茶が運ばれてきた。


2体の精霊は、いつも通りに、テーブルに座り

紅茶に添えてあるジャムを舐め始めた。


暫くして、正気に戻ったサーシャ ルマンド。

テーブルの上で、紅茶を嗜む精霊たちの姿が、目に映る。


「失礼致しました!」


慌てて、ソファーから降りて、跪く。

だが、フーカもソイルも、気にも留めていなかった。

助け舟を出すナタリー ウェール。


「サーシャ、そんなに畏まらないで、

 失礼があっては、いけませんが、

 この方たちは、些末な事は、気にしておりませんよ」


「そ、そうか・・・・・助かる」


ソファーに、座りなおしたサーシャ ルマンドは、改めて自己紹介をした後、

今日、呼ばれた理由の一つについて、話しを始めた。


薩摩芋の件である。


ナタリー ウェールは、ルードルに薩摩芋を持って来させて、実物を見せる。

再び、サーシャ ルマンドの顔が歪む。


「これは、献上品か?」


「いえ、一般販売よ」


「・・・・・帰ってもいいか?」


「駄目よ」


ナタリー ウェールが、鐘を鳴らすと、待ち構えていたかのように

焼いただけの薩摩芋が、運ばれて来た。


「食べてみて」


サーシャ ルマンドは、恐る恐る口に運ぶ。


「!!!」


言葉にならない程の、甘さを含んだ薩摩芋。

口の中で、消えるように溶けていく。


慌ててもう一口。

その動作を繰り返している内に

あっという間に、食してしまった。


「旨い・・・・」


空になった皿を見つめる。


「この芋を、どうするのだ?」


「勿論、販売するつもりよ」


「どれだけある?」


「私のところの倉庫が、一つ埋まっているわ。

 でも、これを販売したら、どうなるかわかっているわよね」


ナタリー ウェールが、ここに呼んだ理由が分かった。


「暴動が起きるか、こぞって商人が、買い占めるだろうな」


「ええ、あまり高値になると、庶民の口には入らない。

 それに、この芋の出所を探られたくないのよ」


サーシャ ルマンドは、ジャムを舐めている精霊たちに目を向ける。


━━多分、このお方たちが、作ったんだろうな・・・・・


そう思いながら、解決策を考え始めた。



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