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世界樹が産んだ子。  作者: タロさ
10/13

ウェール家

ニルス ウェールの命令に従い、カイに襲い掛かる兵士たち。

しかし、『カイを殺せ』という命令に、精霊たちが怒らない筈がない。


襲い来る兵士たちの前に、フーカが風の障壁を張る。

風の障壁は、鎌鼬のように、触れたものを切り刻む。


その為、襲い掛かった兵士たちの腕や足が飛び、

血しぶきが、部屋中に飛び散る。


「ギャァァァァァ!」


無残な光景を目の当たりにするチナ ウェール。


『ウゲッ!』


耐えられなくなったチナ ウェールは、

部屋の隅に走り、嘔吐した。


ニルス ウェールは、この出来事に、顔色を無くし、亜然とする。


「何が、起きたのだ・・・・・」


理解が追い付かないニルス ウェールは、カイに目を向けた。


「き、貴様、こんなことをしてタダで済むと思うなよ・・・・・・」


カイに向けてはなった言葉。

だが、答えたのは、ニルス ウェールの前にやって来たフレイだった。


「あんた終わったよ」


両手に、炎を纏う。


「ヒッ!」


慌てて部屋から逃げ出そうとするが、扉が開かない。


「何故、何故、開かない!?」


「逃がす筈がないよ、僕が、塞いだからね」


ソイルは、そう言うと、直ぐにカイの陰に隠れた。

その間にも、精霊たちに蹂躙される兵士たち。


遂に、兵士たちは全滅し、最後の一人となったニルス ウェール。

壁際に追いやられ、逃げ道は無い。


「母上、た、助けて下さい・・・・・」


先程までの態度とは、打って変わって、命乞いを始める。


「母上!

 お願いします、助けて下さい!」


泣き叫ぶニルス ウェール。


ここまで、身動きすら取れなかったナタリー ウェールが、

ソファーから立ち上がる。


そして、カイの前で、両膝を床につけた。


「カイ様、どうか、愚息をお許しください」


床に頭をつけ、ニルス ウェールの代わりに、命乞いを始める。

しかし、カイの態度は変わらない。


「生かしてたら、また村を襲うでしょ。

 それなら、ここで殺した方がいいよ」


カイの言葉に、精霊たちも頷いた。


「もう、狙わない。

 絶対だ、約束する!」


話しに割り込むニルス ウェール。

顔は、鼻水と涙で、ぐちゃぐちゃに、なっている。


ナタリー ウエールは、息子を助けたい。


━━生きてさえいればいい・・・・・


その思いから、必死に考え抜いた提案を口にした。


「もし、お許し頂けるのであれば、この者に領主は継がせず、

 屋敷の地下で、生活をさせます。

 そして、街、いえ、屋敷の外にも出させない事を、お約束いたしますので、

 どうか、命だけは、お助け下さい」


そう言い切ると、再び頭を床につけた。

必死に懇願する母の姿に、精霊たちの態度も軟化した。


「どうする?」


「し、知らないわよ」


「カイ、どうするのですか?」


ミズナの問いかけに、カイは、しがみついているソイルを見る。


「僕は、助けてあげてもいいかな?

 でも、約束を守ることが、条件だけど・・・・・」


弱気で、心優しいソイルの意見にカイは従う。

ナタリー ウェールは、頭を下げたまま返事を待っていた。


「頭を上げて下さい。

 あなたの提案を、絶対に守って下さい」


その言葉に、安堵の表情を見せ、再び頭を下げた。


「有難うございます」


この先、一生地下で暮らすことになったニルス ウェールは、

呆然としていた。


「助かったのか・・・・・」




部屋の封鎖が解かれ、外で待機していた兵士たちが、部屋に雪崩れ込んで来る。

そこに、ナタリー ウェールから命令が下る。


「この者を、地下牢に入れておきなさい!」


ナタリー ウェールの命令に、訳が分かっていない兵士たちだったが、

激しい剣幕に押され、ニルス ウエールを、地下牢へと連行した。


その後、血に塗られた応接室から、食堂へと場所を変えた。

最初に、ナタリー ウェールが、謝罪とお礼を述べる。


「この度の事、誠に申し訳ございません。

 それから、愚息の命を助けて頂き、有難うございます」


深々と頭を下げるナタリー ウェール。


本来なら、夫を亡くし、息子の命も失いかけたのだから、

カイたちに、憎しみを持っても、おかしくはない。


たとえ、それが逆恨みであっても・・・・・


しかし、街の事を考えると、そうもいかなかった。

それに、仕掛けたのは、こちらが先、何をされても文句は言えない。


ナタリー ウエールは、自身の感情よりも、

街の事を優先し、今後の領主経営に目を向ける。

そこで、どうしても、カイたちに、お願いしたいことがあった。


「カイ様、このような時に、不躾ではありますが、お願いがございます」


「何?」


「街の枯れた田畑を、作物が実る田畑に、変えて頂きたいのです」


その言葉に、チナ ウェールが『ハッ』と驚く。


━━お母様も、同じ事を、考えていらしたのですね・・・・・


チナ ウェールは、ナタリー ウェールに視線を送る。

しかし、こちらを向くことは無かった。


ナタリー ウェールは、真剣な表情のまま、

カイを見つめて、返事を待っていた。


カイは、元々、精霊を増やす為に、旅に出たのだ。

だが、出会った人間が悪かったのか、

カイは、人間は身勝手な存在だと思っている。

それは、精霊たちも同じ。


「田畑が黄泉がえる様子を見た人間が、また勝手な事を、するんじゃないの?」


フレイの懸念は、当然の事だ。


「それは・・・・・」


精霊に手を出すなど、烏滸がましい事。

しかし、目の前に利益が転がっていたら、

同じ事を繰り返すのではないかと、疑問を持たざる得ない。


今まで、二度も襲撃を受けたのだから、カイたちは疑念を抱いている。


「僕たちが、それを承諾したところで、何の得にもならないよ、

 逆に、不利益を被るだけなんだけど・・・・・」


カイの意見に、チナ ウェールが答えた。


「だから、私をあげるって、言いましたよね!」


まだ、諦めていなかったようだ。

だが・・・・・・


「いらない」


カイが、即答した。


「なんでよ!

 こんなに若くて可愛いのに、どうして駄目なのよ!」


感情的になるチナ ウェール。

このままでは、カイたちが怒りだす可能性もある。

母であるナタリー ウェールは、ため息を吐く。


「チナ、話が進まなくなるから、黙っていなさい」


「えっ!

 ・・・・・・はい」


チナ ウェールの提案が、通ることは無かった。

改めて、ナタリー ウェールが提案をする。


「では、私共に、何か出来る事は、ありませんか?」


「出来る事?」


カイと精霊たちは、相談を始めた。

そして、この世界の情報、お金、甘い物が必要だと伝えた。

勿論、甘い物と言ったのは、精霊たちだ。


「では、その全てを私共で、ご用意いたします。

 もう暫く、この屋敷に泊まっていただいて

 この街に滞在してください」


情報が入るのは、有難いことだ。

その為、この提案を受け入れた。


ナタリー ウェールも、街の人々に現場を見られず、

手を貸して貰う方法を考える事にした。




2日後の深夜、カイたちは、町外れの畑にいた。

同行者は、カイたちの他に、ナタリー ウェール、チナ ウェール、

御者の代わりに執事の【ルードル】だった。


「ここでいいの?」


カイの質問に、ナタリー ウェールが答えた。


「はい、宜しくお願い致します」


横で聞いていたソイルは、畑に向かって両手を広げる。


「カイ・・・・・」


「うん、わかってる」


カイは、ソイルの背中に、そっと触れた。

その途端、ソイルの体が、緑の光に包まれた。


「大地の精霊よ、今再び、この地に顕現せよ」


ソイルの呼びかけに、小さな緑の光が、幾つも浮かび上がり、畑の中を飛び回る。

カイは、ソイルの背中に触れていた手を放し、畑と向き合う。


「この地に恵みを・・・・・」


カイの言葉に従い、土が潤い、次々と草花が生え茂り、一面を緑が包んだ。

目の前の光景に、ナタリー ウェールたちは息を飲む。


「凄い・・・・・」


「奇跡だわ・・・・」


畑での仕事を終えると、

カイたちは、ナタリー ウェールたちと一緒に屋敷に戻った。



その日の早朝、畑に出向いた農民たちは、奇跡を目の当たりにした。

枯れていた畑が、一面の緑に変わっている。


呆然と見つめる中、馬に乗った兵士が現れ、領主の言葉を告げる。


「この地に、精霊様が舞い降りた。

 感謝と共に、この地を大切にし、作物を育てるのだ」


農民たちは、深々と頭を下げる。


「はい、畏まりました」


この事実は、瞬く間に、噂として広まる。

農民たちは、その話を聞き、『次は、私の畑を』と願った。


そして、その願いが叶ったかのように、翌日も、別の畑が緑に変わった。

そして次の日も・・・・・。


次々と畑が復活した奇跡に、農民たちは協会に赴き、神に感謝を告げる。

その感謝の言葉が、天使族に届いた。


「これは、精霊の御業。

 では、あの子は、この街にいるのですね」


【ノワール】は、その事実を、仲間のマリスィに話した。


「そうですか・・・・・よくぞ伝えてくれました。

 しかし、私たちは、人間界に、降りることが出来ません」


「如何なさいますか?」


「悪魔族が知る前に、教会を使ってみますか・・・・・」


マリスィは、教会に『お告げ』という形で人族に伝え

カイたちを保護するように計画を立てる。



不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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