第八話 隼人の思い
これは、あの日の喫茶店で隼人が打ち明けてくれたお話
僕の話をしよう。
僕はとある名家に生まれた。その影響か、小さい頃から様々なことをさせられてきた。
ピアノ,バイオリン,書道,剣道,塾など気づいた時には数多くの習い事を強要されていた。そして、成果を残すことが義務付けられていた。結果が出ないと怒られ、強制的に練習させられて辛かった。才能のない僕が、親が満足するような結果を残すことがどれだけ難しかったことか。本当は他の人のようにのびのび楽しく過ごしたいだけなのに。僕の話は誰も聞いてくれない。僕の意見なんてゴミのような扱いだ。僕はそんな生活が息苦しくて嫌気がさしていた。でも、僕はその生活から逃れることが出来なかった。そして、僕の居場所は家だけでなく、学校にも存在しなかった。学校では僕は名家の息子として扱われた。僕自身のことは誰も見ようとしない。それは虚しく、同時にとても悲しかった。そんな小学校,中学校を過ごしたが、流石に高校でもそんな辛い生活を送りたくない。僕は初めて親に反抗した。親は、何でも言う事を聞き続けてき僕が反抗するのが予想外だったらしく、母は絶句し、父は僕に説教をしてきた。親に反抗したことがなかった僕は、二人の反応をみるのが怖かった。ブルブル震えていたかもしれない。でも、僕の意思は固く、揺るがなかった。僕と親との冷戦は二ヶ月にわたり続いたが、ついに親の方が諦めた。
「好きにするがいい。金は与えるが、もううちの敷居を跨ぐことは許さない。それでもいいのか」
父は最後にそう聞いてきた。僕はすんなり了承した。それを最後に親の顔を見ることはなくなった。
僕はすぐに行動に移した。もう荷物をまとめてあったので、すぐに家を出た。
家からできるだけ離れた高校を受験し、合格してた。親の最後の情なのか、学校の近くのマンションが購入されてあり、僕はそこに住むことになった。お金は毎月最低限の額が振り込まれてくる。本当に最低限だっため、今まで通りの生活を過ごすことは不可能だ。でも、それで大満足だ。家計のやりくりの方法を学び、家事を覚えた。想像以上に大変だったが、やりがいを感じることができた。家での居場所を作ることに成功したと思えた。
学校ではそう簡単にいかなかった。誰も僕の家のことを知らないところに来たはいいものの、友達を作るのが思った以上に難しいことを知った。自分から人に話しかけたことがなかった僕は、どんな風に話しかければいいのかを知らない。話しかけたはいいものの、その後会話が続かない。最初は頑張っていた僕も、次第に諦め、一人でいることを受け入れるようになった。そんな僕に人は寄り付く訳もなく、孤立した。
僕は笑顔を作るのが思った以上に下手だったらしく、『孤高の存在』というように言われるようになった。その噂が巡り巡って、『クールでかっこいい』『無口なのにお年寄りや子供には超笑顔でギャップがすごい』など、あることないこと飛脚された噂が流れるようになっていった。そして、最終的に『何でもこなせる完璧少年』ということになった。僕はそんな噂に否定も肯定もせずに受け入れていたため、それが事実として扱われていった。
高校生になり、半年程経った頃には開き直って噂を気にせずに普通に生活していた。僕の普通が普通ではなかったようで、今まで通りの生活を送っている部分も多く、勉強時間は平均8時間を超えている時もあった。それが当たり前だった。運良く常にトップの成績を残すことができていた。
友達はいなかったが、僕のことが評価されている。そのことだけは嬉しかった。でも、僕自身のことを見ようとする人はいない。
高校生1年が終わりに差し掛かった頃辺りから、僕は第二の居場所を求めて、小説を書き始めた。元々読書が好きだったしという安直で軽い気持ちだった。
小説を書いてみたはいいものの、その後どうすればいいのか分からない。どうすれば人にこれを見てもらえるのか。出版社に送ってみるか?そうも思ったが、まずはもっと身近な人に見てもらいたい。そう思ってやめた。でも、どうやったらみてもらえるのか。…諦めようかな。僕には居場所なんてできないんだ。やっとひとつできたんだから、もうそれでいいじゃないか!
家にいるのも退屈だな。そう思った高校生2回目の春休み。気分転換にどこかに出かけたい。でも、どこに行けばいいのかな。そんな時に学校しか行き場がない自分が虚しかった。そう思いつつも行くあてのない僕は、仕方なく学校に向かった。学校も空いてないかもしれない。そう思っていたが、学校には部活動で来ている生徒がいた。部活動をした事がない、無知な僕が知らなかっただけで、春休みにも活動があるんだな。
学校に来ても特にやることがない。仕方なく僕は小学校以来やった事のない学校探検をした。
だいたいの場所をまわって、思った。行ったことのない場所に行ってみたいと。でも、そんなところが学校内に存在するのか。そう思ったが、一つだけ思い当たるところがあった。そういえば、小学生の時に屋上に行った記憶がある。学校探検の時に先生が特別と言って連れていってもらった気がする。でも、その時先生は鍵を持っていた気がする。普段は立ち入り禁止だったような。でも、もしかしたら高校では自由に入っていい場所になってる可能性もあるかも。そんな淡い期待をもって、僕は屋上に向かった。
屋上に着いたが、扉は閉まっている。残念だ。だけど、もしかしたら鍵はかかってないかも。流石にそんなことはない。考えが甘すぎるかも。と思いながら扉に少しだけ力をかける。すると、扉は動いた。僕は一気に扉を開いた。
その先に真琴の姿があった。
『お前も小説を書くのか?』
真琴のその言葉を聞いた時、僕はドキッとした。僕が小説を書くことがバレたことに対してもだが、それ以上に『お前も《・》』という言葉で真琴も小説を書くことに気づいたから。もしかすると、この人とだったら。そう思っていると
『読ませてよ。小説』
その言葉が聞こえた時いてもたってもいられずに、気づいたら、原稿がある僕の家に全力疾走していた。