第六話 告白
家に入り、母親の声がするが、無視してすぐさま自分の部屋へと向かう。部屋に入って扉を閉めた。
「ふー…」
思わずため息をつく。今日は色んなことが起きたとても濃い一日だった。今すぐにでも眠れるほど疲れていた。だが、隼人から貰った小説を読みたい。そう思い立ち、カバンを漁った。しかし、小説は見当たらない。今日の記憶を掘り起こした。…思い出した。隼人からLINEがきたから急いでいて、原稿のことをすっかり忘れていた。だから机の中に入れっぱなしだ。
どうしようかな。今からだったら急いでいけば、多分ギリギリ学校は開いている。考えた後、俺は小説を読みたいという衝動に負けて、学校へと走った。
学校に着いた。まだ夏だったこともあり、学校には部活で残っている人がちらほら見られた。それを横目に教室へと向かう。当たり前だが、教室には誰もいなくて少し気味が悪い。さっきまでここで聞こえていた楽しげな声はなく、静寂だった。早く帰ろう。そう思い、自分の席に行き、机の中を漁った。原稿は無事のようだ。俺は一応確認のために、原稿をペラペラとめくってから、カバンに収めた。
教室を出て、帰ろうとした時、ふと気になって職員室に向かった。あの女子達はもう帰ったのか気になったから。職員室に近づくと、数人の声が聞こえた。女子達はもう帰ったようで、あの甲高い声は聞こえず、男性の声が聞こえてくる。その中にはさっきまで聞いてた声が混じっていることに気が付いた。…隼人の声だ。先生達に混じって事件の後処理をしているようだ。
どうしてここにいるの?なんで俺なんかのために動くの?そう思った。職員室に入ろうとも思ったがやめて、急いで家に走った。
家に着き玄関を開ける。階段を急いでのぼり自分の部屋へと向かう。部屋に入って扉の鍵を閉めた。そこまでした後で脱力した。
「ご飯食べないの?」
少しした後、そんな声が聞こえたが無視した。母親は諦めたようで、足音が遠ざかっていくのが伝わってきた。
……今日は本当に疲れた。小説は明日にしようかな。そう思ったが、隼人の顔がチラチラと頭をよぎる。やばい。めっちゃ読みたくなってきた。こうなったら、読むしかない。そう思い、カバンから小説の原稿を取り出して、机に向かう。原稿を机に置き、集中力を高める。
そして、世界に入る。
読み終わった。集中力が切れることがなく。俺はまず、その事に驚きを覚えた前回よりはマシになってるだろうが、今回も集中力は長続きしないと予想していたから。だが、今回の作品は、凄かった。説明もわかりやすく、描写がすごく綺麗だった。伏線をはるのが上手く、回収もしっかりしている。設定もありきたりではなく、素直に面白いと感じた。でも、2箇所だけ気になることがあった。それを含めて感想を伝えたい。今すぐに。そう思い、時計を見た。読み始めてから数時間たっていて、もう23時を過ぎていた。もしかすると、隼人はもう寝ているかもしれない。そうも考えてみたが、それならそれでいい。俺はLINEした。
『小説読み終わった』
と簡潔に。すると、数分もせずに電話がきた。少し予想をしていたから、あまり驚かずに済んだ。すぐに電話に出ると、隼人の声が聞こえた。
「どうだった?」
「すごく面白くなってた」
「良かった」
そんな会話をして、俺は小説の感想を事細かに伝えた。隼人は静かにそれを聞いてくれた。
俺が話終えると、
「ありがとう」
と隼人は言った。それはこっちのセリフだ。そして、俺は疑問点をぶつけてみることにした。まず一つ目。
「なんでこの小説完成してないの?」
そう、この話はまだ終わっていない。
今回隼人が書いたのは、前回のファンタジーとは打って変わって、学園の恋愛ものだ。主人公のみんなから期待されている男の子がある日、男のように振る舞う女の子に出会う。お互いのことを知っていき、変わっていく。そんな話。俺がもらった原稿の最後は、男の子が自分の過去の出来事を女の子に打ち明け、
『君の話を聞かせて』
といったところで止まっている。これで終わりのはずがない。隼人は一息ついてから、
「まだ僕も知らないから」
と答えた。あぁ。そういうことか。その答えを聞いて、二つ目の疑問は解消されたが、聞くことにしよう。
「この話、モデルは俺たちだろ?」
「うん」
隼人は俺が質問することを予想していたようで、間髪入れずに答えた。そして、
「真琴の話を聞かせて」
そう言った。俺は覚悟を決めた。
そして、語り始めた。私が俺に変わった日の出来事を。