第三話 衝撃の事実
読み始めて数十分、集中力が切れた。
想像していなかった。まさかここまでとは……。
ここまで面白くないとは!
嘘だろ?こいつ本当に天才なのかよ!?
俺は集中力には自信がある。一度本を読み始めると、基本的に最後まで読んでしまう。例えどんなに疲れていても、眠くても、うるさくてもだ。それなのにこれは……。まだ半分も読めていないのに、集中力は限界をむかえそうだ。ちらりと小野寺の方を見る。平然を装っているようだが、ソワソワしている。…。なんか事実を伝えずらいな。どうしよう…。いやまて。もしかすると最後まで読んでみればこの本の面白さが理解出来るかもしれない、うん、きっとそうだ。そう気持ちを切り替え、また読み始めた。
数時間後、何とか読み終わったが、やっぱ全っっ然理解できない!!説明は長いし何を伝えたいのかわからない。伏線はほとんど未回収。しかもラストは夢オチだし…。逆にどうやったらこんな作品が作れるのかが知りたい。人のことを言える立場じゃないが。………さて、この悲惨な事実をどうやって伝えようか。小野寺をみると、目が合ってしまった。
「どう?面白かった?」
いや面白くねーよ!と叫ぶのを耐えた。とりあえず質問でもして話をそらそう。
「お前って普段何してたんだ?」
「面白かった?」
「どこら辺に住んでるの?」
「面白かった?」
「夜って好き?」
「面白かった?」
だめだ、逃げ道がない。ってかムカつく。
「くっそつまんなかった」
小野寺は心の底から驚いたような顔で俺を見た。
「なんで?」
そう聞かれたから、俺は丁寧に理由を説明した。最初は納得してなかったが、徐々に腑に落ちたような顔をしてた。理解出来たようで良かった。
「なんで面白い小説が書けないんだろう」
「知らねーよ」
それはこっちのセリフだ。でも、少し安心した。こんな多才な奴でも、できないことがあると知れたから。
「どうしてこんな世界にしたの?」
「見てみたかったから」
あーよく聞く理由。意外に普通だな。
小野寺が書いた世界はとにかく美しい。犯罪も戦争もない平和な世界。そこで主人公が世界を見渡す。そんな物語。小野寺は納得したような悲しいような顔で
「教えてくれてありがとう」
と俯きながら言った。そうだ。大事なことを言い忘れてた。
「でも、ラストの展開は、好きだよ。万人受けはし
ないかもだけど」
ラストは夢オチと、考えるのを諦めたようにも捉えられるが、俺はこう捉えた。
『夢のような世界は夢だったが、本当の世界もこん
な世界にするため、少しずつ変えてやる』
と。そんな前向きな考え方に惹かれた。
「ありがとう」
小野寺はそう言って、席を立った。
「今日は無理を言ってごめん」
「別にいいけど」
そう言いながら俺たちは帰路を歩いていた。俺はいいと言ったのに、小野寺がどうしてもというため、途中まで送ってもらった。ふと思い、
「そういえば、お前のことなんて呼べはいい?」
と聞いた。流石にずっとお前呼びは失礼かと思ったから。
「何でもいいよ。小野寺でも、隼人でも」
「じゃあ小野寺で」
「…やっぱ隼人って呼んでくれない?」
……自分でどっちでもいいって言ったくせに。まぁどっちでもいいか。
「わかった。じゃあ隼人で…」
少し照れくさいな。基本的に苗字呼びだから。
「俺のことはなんて呼ぶんだ?ってか俺の名前知っ
てるのか?」
「知ってるよ。森真琴さんでしょ」
おぉ。知ってたんだ。今日一びっくりかも。
「うん、合ってるよ。で、なんて呼ぶんだ?森でも
真琴でも、今まで通り君でもいいけど」
「じゃあ真琴って呼ぶ」
「わかった」
そこで会話が尽きた。
「もうすぐそこが家だから」
そう言って、別れようとしたら突然、
「普段は基本的に寝てる。家は学校の近くにある。
夜は好きだよ」
と言った。俺が呆然としていると、満足そうな顔で
「じゃあまたね」
と言って、去っていった。
…………え?一瞬なんの事だか理解できなかったが、すぐに脳が追いついた。さっき質問したからか。めっちゃ真面目くんかよ。と思いつつ、小野寺、いや、隼人の後ろ姿を見届けた。