第一話 俺と天才
「なんでこんなところに来たんだ?」
自分の置かれている状況も忘れて聞いてしまった。
まさかこいつがこんなところに来るなんて想像もしてなかった。なんでこいつ春休みに学校にいるんだよ………。そもそもこいつ屋上のこと知ってたんだ。うちの学校の屋上は卒業生のイタズラかなんだか知らないが、鍵が壊されている。俺は入学早々それに気づき、頻繁に訪れていた。でも、誰にも遭遇することはなかった。だから、俺は安心してここに来ていたんだ。それなのに、こんな奴に知られるとは…。
小野寺隼人はこの学校の特進科、しかもその中でも抜き出て成績が良く、1年の頃からこの学校で1番頭が良いと言われていたほどだ。それは2年になった今でも変わらず、涼しい顔でトップをキープし続けている。それだけでなく、こいつはスポーツ万能,音楽、特にピアノの腕前も抜群である。オマケにイケメン…。どんだけ神に愛されているんだよ……。
そんなやつだから、こんな俺でも噂は耳にしていた。道端の猫を保護した,強盗を捕まえたなど嘘くさいのもあったが、要約すると、
『完璧すぎて誰も近寄れない天才少年』
とのこと。取りあえずムカつく野郎だ。
「少し息抜きしようと思って」
「何してたんだ?」
「死ぬの?」
質問に答えろよ。意味わかんねー。
「死にたいよ」
「そっか」
…………うん、少し期待して損した。よし、死ぬか。そう思いなおしてフェンスを登り始めた後ろから、
「小説の参考になるかもだし」
という声が聞こえた。あーそういう事か、うん、納得。………ん?
「お前も小説書くの?」
「あっ」
少し赤面しながらそうつぶやく姿に少しドキッとしてしまった。
それが俺と小野寺隼人との出会いだった。