第十一話 爆弾発言
急いで駅に向かう。駅の前には、見慣れた姿が立っていた。その姿の方に近づいていくと、相手はすぐに俺に気付いたようだ。
「真琴。早かったね」
と言ったので、
「隼人こそ早かったね」
と返す。
俺と隼人は今日、この町を出る。ただし、一緒に同じところに行くのではなく、離れ離れになってしまう。俺は父親がいる隣の県へ、隼人は親の目が届かない海外へと旅立つ。
ちょうど卒業する時期で助かった。なんというタイミングの良さ。これなら俺達が急にこの町を出ても、進学のためだとしか思われないだろう。まぁ実際、進学のためでもあるのだが。
……結局俺が思い描いたような高校生活はあまり送れなかったな。ふとそう思った。でも、特に悲しみや後悔などは感じなかった。それどころか、満足感を感じている始末だ。
最終的に勉強漬けの日々を過ごす羽目になり、きつかったはずの高校生活。そのはずなのに、浮かんでくる学校生活の記憶は、そこまで辛いものではない。まぁ理由はなんとなくわかっているけど。
町を出るために進学することを決意した俺は、すぐに受験勉強に取り掛かった。でも、勉強を諦めかけて腐りきった脳を元の、いや、それ以上のものにするのは、簡単なことではない。俺一人だったら間違いなく早々に挫折していたことだろう。
しかし、幸運なことに俺には学校一の天才と呼ばれるほどの頭脳をもつ、隼人という強力な味方がいた。そんな隼人に勉強を見てもらい、先生よりも遥かにわかりやすい簡易授業をやってもらいと、あれこれやってもらって、成績が伸びないはずかなく、俺の成績は過去まれに見ない急成長を遂げた。これには先生達も驚きを隠せない様子で、急に手のひらを返すように、俺の進路指導はとても充実した。以前はやる気のなさが目に見えてわかったが、急成長を遂げた成績を見ると、
『ここの推薦いくか?』
『この成績なら〇〇大学狙えるぞ?』
など、今までの態度からは想像出来ない変貌に、驚きを通り越して手のひら返しの能力に感心してしまった。まぁ、指導自体はありがたく参考にさせてもらい、あれよこれよで俺の進路はあっという間に決定した。
そして、隼人はというと、
『この町からうんと離れたとこならどこでもいい』
という発言の元、熱の入った進路指導が進められていた。日本一の偏差値を誇るかの有名な大学に入れるという意見が出て、先生内ではそれに決まりかけていたが、
『もっとずっと離れた地でなければ大学に行かない』
という隼人の幼稚園児の駄々こねに近い発言が放たれて、先生は皆、頭を抱えてしまった。いっその事海外の大学に……という投げやりな意見に隼人が即賛成したことで、隼人の海外行きが決定したのだった。
まあなんとも単純な流れで進路が早々に決まった俺達は、残りの学校生活を執筆活動などにあてた。二人で学校に居残って一緒に小説を書いたり、時にはお互いの小説を読んで感想を伝えあったり。今思い返してみると、隼人に出会ってからの高校生活は、とても充実したものだったと思う。
「さてと、じゃあお別れだね」
そう隼人はしみじみとつぶやくように言う。
「まぁ、そうだね」
「寂しい?」
「別に……」
「そっか」
嘘。本当は凄く寂しいし、怖い。でも、そんなこと言ったって、この道が変わる訳でもないし、それに……。
「僕のためにそう言ってくれるの?」
「……隼人って人が考えてることなんでもわかるの?」
「あ、やっぱりそうなんだね?」
「あっ………」
思わず聞いてしまったせいで、バレてしまった。隼人に心配かけずに海外へと旅立ってほしかったのに。
「単純に、真琴がわかりやすいからだよ」
隼人は腹を抱えて笑う。
何もそこまで笑うことないのに。そう思いながらもどこか嬉しく思う自分がいる。
「でも、そういうところが大好きだよ」
隼人はそれだけ言うと、足早に去っていった。
……………………え、嘘でしょ?どゆこと!?脳内処理が追いつかないまま隼人の後ろ姿を眺める。
やっと処理が追いついた時には、隼人はいなかった。いつの間にか一件LINEがきていた。
『返事は再開した時に聞かせて』
隼人は一つの爆弾を投下して、海外へと旅立った。