第九話 決意
今回の話は、少し自傷行為の描写があります。
あらかじめご了承ください。
俺の話が終わり、ようやくお互いのことを知ることができた。お互いの現在に至るまでの道筋を。
そして、同時にあることに気づいた。真逆だと思っていた隼人との共通点が存在することに。その共通点とは、
『人から誤解されている』
ということだ。そんな経験、誰にでもあるかもしれないが、俺たちの場合、その影響で友達ができず、家族にすらも自分のことを誤解されているのだ。そのせいでどれだけ一人で苦しんできたことか。
でも、それも今日で終わるかもしれない。長年会えることを願っていた理解者にやっと出会えたから。
「話してくれてありがとう」
隼人は開口一番そう言ってくれた。俺はその言葉にも救われた。自分のことを打ち明けたことのない俺は、今話したことで大事な人を失うかもしれないと思うと、もう二度とこの話をすることが出来なくなる、人生最大級のトラウマをうえつけることになると考えてしまう。それを察したのかは知らないが、そう声がけてくれた隼人の優しさに、俺は安心するように、今まで堪えていた涙が溢れ出した。ここ数年涙なんて一滴も出てなかったのに、まるでダムが崩壊するかのごとく目から水が出続ける。泣いてるなんてバレたら…。
「こちらこそありがとう」
泣いていることを気づかれないように、そう思いながら言葉にしたはずなのに、
「泣いているの?」
何故バレるんだろう。どうしよう。そう思ったと同時に、
「泣いていいんだよ」
そんな声が聞こえた。
なんで隼人は…。俺の気持ちがわかるのかと思うぐらい、今の俺に必要な言葉をくれる。
俺の家では泣くことは、悪かのように扱われていた。
俺が転んで泣くと、
『そんなことで泣くなんて、将来もっと痛い思いした時に耐えられないよ』
俺が映画を見て感動して泣くと、
『こんなので泣ける人の気が知れない』
俺がテストで良い点が取れずに、悔し泣きをすると、
『こんな点数で泣いている場合か。泣くぐらいなら、もっと勉強しろ』
など、泣いた時に優しい言葉なんてかけられた記憶が一切ない。泣くと貶され、罵られ、異常なものを見るかのように軽蔑の視線が俺に刺さる。それを繰り返していくにつれて、俺から感情が消えていった。
喜怒哀楽を感じなったあたりから、得体の知れない恐怖に駆られた。このままいくと、生きているのかが感じなくなりそうだ。そう思って、俺は自分が生きていることを自分を自分にわからせる為に、痛みを与えた。
最初は自分の腕をつねったり、叩くぐらいの軽いものだった。だが、それでは物足りなくなり、わざと転んで怪我をしたり、リストカットに挑戦してみたりなど、だんだんと過激になっていた。
中学校に入ったばかりのある日、いつも通りにリストカットをしていると、いつもと感覚が違うことに気づいた。なんだろうと呑気に考えていた。そして、急に意識が飛んだ。
気づいた時には俺は病院のベットに横たわっていた。俺は大量出血で救急搬送されたそうだ。
これには流石の母親も青い顔で心配そうに俺の顔を見ている。そんな表情を見て、俺はかつてないほどのとある感情が湧き上がってきた。それは、興奮だ。
そんな感情、小学生低学年の時、ジェットコースターに初めて乗った時以来、感じたことはない。俺は医者に注意されている時もなお、その感情が抑えきれずにいた。
無事に回復して、家に帰った途端、辛い日常が戻ってきた。でも、あることに気づいた。
死のうとすることで、生きていた時に喜びが感じられる、みんなが心配してくれる。
それから俺は自傷,自殺行為を繰り返すようになった。
そんな俺に、こんな優しい言葉をかけてくれるなんて、隼人はやっぱり凄い。勘違いがなくなっても、どこか尊敬できる点を持っている。そんな隼人のことを俺は……。
「今から会える?」
この気持ちを電話で伝えてはいけない。ちゃんと直接会って伝えないと。そう思った時には言葉にしていた。
「いいよ。どこで?」
隼人は事情を聞かずに了承してくれた。やっぱり優しい。そして、察しがいい。
俺は場所を指定し、電話を切り、すぐに部屋を出た。
靴を履いてると、後ろから声が聞こえた。
「どこに行くの?」
普通なら、こんな時間にどこに行くのかという意味に聞こえてたんだろう。だが、今の俺には別の言葉に聞こえていた。
「もう解放してください」
それだけ言って、家を飛び出した。