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 部屋を出ていこうとする陛下を引き止める。彼はドアではなく、隠し扉からやってきたのだった。


「いつから?」

「言ってる事とやってる事が逆のあたりから」


 エドガー様はアーチボルド王の肩を小突いた。仲がよろしい事で。


 仕切り直しだと、飲み物が運ばれてきた。ブリギッテさんは一度祈りを捧げてから来るらしい。


「もうすぐパーティーも終わりだが、楽しめたかな? 色々、地元の食材を使った料理なども提供していたが」


「はい。とても」


「奥方にはせっかくの旅行だと言うのに、私達のわがままで振り回してしまって申し訳ない。我々は昔からエドガーに頼りきりで……」


「いえいえ、私の方こそ騒ぎ立ててしまい、見苦しいところをお見せしました」


 当たり障りのない会話。何かが変だ。


 私は初めて会った時からこの人の言動に違和感を覚えている。一度アーチボルド王が呼び出され、席を外した隙にエドガー様に耳打ちをする。


「エドガー様、おかしいですよ。あの人は怪しいです」

「……とは?」


 エドガー様は基本的に性悪説を支持していて疑り深いのだが、友人である王のことは全く疑っていない。しかし一応は話を聞く構えのようだ。


「おかしいです。だって……普通すぎます。礼儀正しくて、腰が低くて……他の国はとは言え、とても王族とは思えません」


 何がおかしいって、おかしいところがないのだ。普通すぎる。変なところがない。


 王族というのは、もっとこう……尖っていて、よく言えば唯一無二っぽさがあって然るべきだ。


 エドガー様は岩場でひっくり返ったヒトデを見るような目で私を見た。あるいは、引き潮で潮溜まりに取り残された小魚を見るような……とにかく、哀れな生き物を見る目だ。


「フィオナ、君にとっては意外なことかもしれないが、王族は普通なのが一番なんだ」


「そんな……!?」


 私からすると、王家の人々は「変人さ」を争っているようにしか見えないのだが、エドガー様からすると大事なのはそこではなかったらしい。


 私がやんごとない方々のあり方に頭を悩ませていると、静かにドアがノックされ、ブリギッテさんが現れた。


「先ほどは申し訳ありませんでした」


 どうかお許しを……と入室一番謝罪をされる。


「え、な、なんですか……?」

「先ほど、結界が揺れたのはわたしがマクミラン卿に視線を向けたせいかと思い……」


「いやですわ、おほほ。そんなわけありません」


 それは先ほどの美人事件のせいで、ブリギッテさんのことは全く考えていなかった。本当に、これからは気をつけようと思う。ちょっと感情がブレて結界に干渉してしまうことがバレたら連れ戻されてしまうだろうから。


 アーチボルド王が戻ってきたので、二人から続けて話を聞く。とは言っても、昨日とあまり変わらない話だ。二人はただ、どうにもならない間の悪さを、かつての友人にこぼしたいのだと思う。


「必死に誤魔化しているが、そろそろ限界が来ている。精霊様もなんとかやりくりをしてくださっているが、見ての通りこの有様だ」


「次の聖女候補はもう控えているのですが、記録を紐解いても、代替わりにはまだ遠く。このままだと国が無防備な状態になってしまいます……」


「むむむ」


 どうやら、話は聖女の交代による二人の愛の障害ではなく、そもそもこの国に何か異常が起きている、という話らしい。


 ここで、何か私が専門職っぽくズバリ解決策を導き出せば、わたしの株はうなぎのぼり、成果として報告……は多分できないけれど、今後の仕事に何か役に立つはず。


 エドガー様は黙って二人の話を聞いていた。コンスタンティン王子からはこの国の事を調べろと命令されているだろうけれど、彼はきっとこの事実を報告しないのだろうな、と思うし二人もきっと私の事を口外しないでいてくれると感じている。



「もうこんな時間ね……ごめんなさい、暗い話を長々と。今夜は来てくれてありがとう」



 きっと、エドガー様はなんとかしたかったのだと思う。真面目にやっていれば、愛があればきっと報われると、綺麗な話を信じたいのだ。


 詳しい話を全て聞いたわけではないけれど、きっと、この人たちと過ごした時間があってこそ、エドガー様は聖女管理局に就職したり、私の扱いに疑問を持ったに違いない。


 それはつまり、やっぱりこの二人の悩みは人事ではないのだ。私も何かをしてあげなければ『女がすたる』と言うもの。


「精霊様とお話はできますか?」


 直接本人から話を聞くことができれば、解決の糸口が見つかるかもしれない。次の聖女が育っていないと言うことは、聖女の代替わりではなく、精霊様の方に不具合が生じているのかもしれない。


「姿を現してくださる時はあるのが、なかなか意思疎通が難しいお姿をしておられる」

「先ほどは私にお顔を見せてくださいました。お話はできませんでしたが」


 精霊は、強ければ強いほど簡単には人前に姿を表さない。私だって、自分の仕える『彼』の姿を見たことがない。


「それでは……現場を見せてもらう事はできるのでしょうか」


 アーチボルド王の混じり気のないライトブルーの瞳が、じっと私を見据えていた。

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