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船が出港したので、そのまま船内を見学する事にした。


 甲板の反対側には海水を使った水遊び場があった。縁をぐるっと取り囲むようにお昼寝にちょうど良さそうな寝椅子とパラソルがあるが、ここで昼寝してはいけないとエドガー様は言う。


 すでにおじさんが楽しそうに寝そべっているので男女差別では? と思うのだが、それはだめ、ついでに水遊びもダメらしい。


「なーんでですかー」

「船旅に浮かれたよからぬ輩がいないとも限らない」


「その理屈だと、私は一生水遊びがができないまま終わるのではないですか?」


 聖女が儀式の前に身を清めるための湧き水が聖女宮の近くにあり、私が遊べる水辺と言ったらそのくらいだが、水が夏でも非常に冷たく、とてもはしゃげるような環境ではない。


「海辺の街に住んでいて、船に乗って島国まで行くのに、水遊びのひとつもできないなんておかしくありませんか?」

「それは……いや、その……そうか」


 エドガー様は戻ったら観光客が押し寄せている海岸ではなく地元民しかしないひっそりしたところに連れて行ってくれると言ったので、それなら良しとする。


 螺旋階段を下りていくとピアノが置いてあるホールにたどり着く。決まった時間に、ここで小さな演奏会が開かれるのだそうだ。


 船内にはいくつかの食堂やティールームがあり、食費はすべて代金に含まれているとのことだ。有料のレストランが上階にあるらしい。


「当たり前ですけど、ずいぶん広いですね」


 船自体が一つの街のようになっているのだ。なんと礼拝堂や床屋まであるらしい。


「そろそろ避難訓練の時刻だから戻ろう」


 部屋には備え付けの救命胴衣があり、特等船室はベランダの横に救命艇がくっついている。


 船内に魔力を使った音声案内が流れ、有事の際はこれこのように使って避難してくださいね、と説明される。エドガー様は寝台の下から救命胴衣を取り出し、私に着せる。いざと言うときにきちんと使えるかどうか確認しているのだろう。


「船が沈んだらこれを着て、小船に乗って逃げるわけですね」

「万が一船に何かあった時はここに戻って来なくても乗客分は用意されているはずだ」

「でも、それがきちんと守られていない可能性もありますよね。そうして私が海に投げ出されてしまうこともありえなくはないですよね」


「……」

「やっぱり水泳の練習は必要じゃないですか?」


 エドガー様は子供時代の経験で自由自在に泳げるのかもしれないが、正直言って自分は『浮くことができるか』どうかも怪しい。実際に船が沈むような状況になれば、それが生死の境目になるかもしれないのだ。


「……」


 押しきれそうな気がしたので、まだ一回も着ていない水浴着を見せてみた。一瞬で『派手すぎる』と却下され、頼むからもっと露出の低いものにしてくれと言われる。


 せっかくお店のお姉さんに相談して決めたものなのに、いささか過激すぎると言うのだ。仕方ないので売店でもっと地味なものを買い求める。帰りがけ、図書室があるのを見つける。


「何か勉強しておいた方がいいですか?」


 非公式な活動なので聖女としての発言を求められる場はないだろうが、あんまり世間知らずが露呈してしまうとエドガー様に迷惑がかかるかもしれない。


「特に必要はないと思うが……せっかくだから使ってみようか」


 ちんまりとした図書室に入り、目的地の地図を開く。向こうはいくつかの島で構成された国で、二番目に大きい島が王都として機能しているそうだ。


 エドガー様の説明を聞く。博物館、美術館、市場、景勝地などなど。


「学生時代に遊んでいたところに行きたいです!」

「……時間がとれれば、留学時代の友人に紹介できるかもしれない」

「友人!」


 留学時代の友人!! なんだかドキドキする響きだ。つまり、エドガー様には外国人のお友達がいると言うことだ……そこまで考えてから、手紙の事を思い出す。


「いきなり昔の友人、とか言って女性が出てきたりしませんよね?」

「そんな事あるわけないだろう」


 エドガー様はほんの少し視線を逸らし、若干早口になった。これは怪しい……。


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