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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
54/59

君を思う、永久に想ふ

 咲哉の肉体が黒い炎に包まれる。いや光、霞、そういった空中に漂う何か。

 焼かれるのではなく変換される、肉体は有耶無耶の虚像へと変わっていく。

 肉体の輪郭はぼやけ、世界と癒着していく。

 それこそは、地に落ちた天の花、この世に置いて最も不要な存在。

「天条咲哉──休止──名無し神──起動」

 楓と真祖の彼女があっけにとられているその間に姿を消す。姿を現したのは冬樹と小鬼の間だった。

「対象──確認」

「はらへっ……」

 即座、空間を歪め破裂させる。巻き込まれた小鬼は吹っ飛び対角線上のビルへと衝突する。

「……咲哉?」

 冬樹はそのあまりにも強い力の前に呆然とする。いやそれよりも、変わった、変わりすぎた咲哉のその姿に唖然とする。下半身らしきものが生えているのだから。

「対象────天条咲哉の記憶媒体から抜粋──天邪鬼と推察──対策──凝視」

 機械じみた声で淡々と言葉を放つ。

 その姿はそれこそ機構(システム)の擬人化、神そのもの。

「神性回復率1%(一分)未満──空間癒着率99%(九割九分)以上」

 刹那、咲哉の髪が伸び始める。否、影か、炎か、一切の区別がつかない。唯一人間らしい部分を残した顔さえもその瞳は暗い。

「権能【境界】起動──昇華──大権能【セカイ】起動──不能──権能の一部欠落を確認」

 遠くのビルから悲鳴に似た咆哮が届く。天邪鬼が瞬間移動を出来ずに咲哉だった何かに初めて敵意らしいものを向けた瞬間だった。

「──権能──検索──発見」

 ビルから天邪鬼が幻視の口を飛ばす。しかし、咲哉だった何かは微動だにしない。

「大権能【セカイ】再起動まで百二十────」

 幻視の口が衝突した瞬間、咲哉だった何かの周りに結界のようなものが球状に現れ攻撃を弾いた。

 近くに居た冬樹はそれの性質をいち早く理解した。

 オリジナルのアイギスと同じかそれ以上の不可侵の守りと。

「──別世天津神命より妨害を確認──活動可能時間百三十まで減少」

「はらぁ……へっ────たぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!」

 轟く天邪鬼の叫び声、その声と同時に再び瞬間移動した咲哉だった何か、名無し神は空中に現れ飛んだ。

「────────対象天邪鬼──無力化可能──活動継続──」

 名無し神は告げる、機械のように冷徹に、神のように残酷に。

「────絶滅────開始」




 三秒後、あたり一面は更地と化した。

 シャルロットの盾と冬樹の七星の守りで四人は無事だったが理解は追いつかない。気付けばあらゆるものが破壊された。

 最も早く反応したのが冬樹、その冬樹でさえ冷汗が止まらない。

『魔力反応増大!空間異常再度発生!来ます!」

 全員が身構える。各々が最善を尽くし、身を守る。

 そして赤子の手を捻るように、冬樹以外の行動は無に帰す。

『スカイホールによる空間震です!」

 それはまるで落ちた爆弾、瓦礫を吹き飛ばし文明を片っ端から破壊していく。衝撃はガラスを割り、コンクリートを砕き、鉄骨を捻じ曲げ、アスファルトを捲る。ならばそれは災害ではない。厄災である。

 それこそ、まるで、神が人の世を破壊し尽くすが如き天罰。

 だが冬樹の目は、魔眼は見ていた。これがただの余波である事、攻撃でもなんでもない事を。

「まだまだ来るぞ!咲哉は移動しただけだ!しただけでこれだ!」

 冬樹の焦りが全員に伝播する。落ち着いていて周りを不安にさせないように振る舞っている彼が誰よりも取り乱していた。

「おおお落ち着いて……」

「落ち着けるか!空間引っ張るようなこれを!」

 魔眼に映る咲哉の影、名無し神の姿は歪だった。

 一言に、木である。空間に根を張った木が物理的に移動する度に周囲の景色ごと剥いで移動している。だが左目に映る名無し神は黒い靄に包まれ肉体を隠し顔だけが見えている。その姿は人に近く、その顔もよく知っている顔だ。

 冬樹の見ている物を何となく悟り、真祖の少女は冬樹に近寄った。

「見る事に特化した魔眼、なるほど、一昔前に浄眼と言われた物に星の概念を付与した星見台ということか」

 何処かやんわりと、しかし、上品な声と言葉遣いに一瞬誰かわからなくなる。

「安心せよ、あたしだ」

「はぁ」

「君が今魔眼で見ている物は魂の本来の形、右目で見えている黒い靄は視覚化できるまでに漏れ出した名無し神の魂だ」

「魂……ってこんな禍々しい物が咲哉の、神の魂であってたまるか!」

「その通り、でも、そんな禍々しい魂が名無し神の本質なんだよ」

 目を細め、名無し神を見る。それは軽蔑、嫌悪、不快感、負の感情を込めた視線。

 真祖の少女はそれでも目を離さない。

「神話回帰」

「え」

「神が死に、天は失われた。なら、天に居た者は何処に行くのか。ある(もの)は世界の外に、ある(もの)は異世界に、ある(もの)は死を受け入れ、ある(もの)は人に抗い続け、ある(もの)は細々と信仰を受けた」

 冬樹はその言葉を聞いたことがあった。師匠にして魔眼作り、ルーン魔術に秀でた大天才その人から。

 だから、慄く。昔は聞き流したその言葉の真実が目の前に居る事を。

「そして、名前の無い神は地に落ちた」

 名前の無い神、信仰を集めずに存在し続ける神。

「曰く、その神の役割は人類の鏖殺」

 絶滅開始という言葉。

「そして、古き者の復活」

 ナナの言葉。

「残る者は無い、枯れない花という侵略兵器によって起こされる神話型テラフォーミング能力」

「それが……」

「それこそが、咲哉が封じ続けてきた神の本性、名無し神の大権能」

 まるでその言葉通りに名無し神は動く。

「世界ならざる【セカイ】の神」

 瞬間、名無し神は光を放った。




 足を動かす、腕を動かす、体を前に進める。それだけで癒着した空間が引きずられ歪み、砕け震動を生む。その振動は文明を崩壊させるには十分すぎるほどに。

 名無し神が傍を通るだけで敵は死ぬ。今目の前に居る天邪鬼以外は。

 神であり、鬼であり、人であった餓鬼は食べるという行為に欲情し、腹を満たすという行為に快感を得ている。

 余りに哀れな存在だ。けれど、名無し神に慈悲を与えるような心は備わっていない。

 事実、周りへの被害を考慮などしていない。

 だが、力を行使しているわけでもない。今は集るハエを払っているだけに過ぎない。

「大権能再起動まで十────」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 天邪鬼は異界浸食を最大限広げ名無し神のみに全力の呪いをぶちまける。

 それに対し名無し神は異界の中心に手をかざす。

「──────餓鬼道の再現と認識──────破界開始」

 握りしめた瞬間、異界は収縮を初め天邪鬼の身の内に納まる。

「破界完了──────────大権能再起動まで五──────────【虚空の門(スカイゲート)】開門」

 名無し神の宣言通り、空が割れ門が現れる。範囲は大きくはないが想像以上に深い。その門の奥で黄金色に輝く何かがある。

 黄金色の光は世界に零れ落ちる異界の光のよう、名無し神に向かって落ちていく。

 天邪鬼はその光の脅威を知ってか否か、巨大な燃える鬼の首を作り出し名無し神に向かって放つ。大口を開き地面を抉り、神を捕食せんとするその形相はおぞましい物であった。

 だが、時すでに遅し。

「神刀【世断】──大権能【セカイ】に接続───第一の刃【時重(ときかさね)】起動」

 黄金色の光を手に取ると刀を模り、それを垂直に顔の前にかざす。

「大権能【セカイ】再起動────両断せよ」

 神刀【世断】第一の刃【時重】、それは大権能【セカイ】の距離を無視しありとあらゆる場所に手が届く力。だが大権能【セカイ】は遥か昔に咲哉が砕き、砕かれた力は世界の外側に向かって投げ捨て、残った僅かな力を権能【境界】として使用していた。

【時重】は文字通り砕かれた力の一部、その効力は、時間すら超えて攻撃が届く、である。

 現在という地点から過去と未来に向けて斬ったという事実が届く。天邪鬼は魂の復活ストックを十万ほど持っている。十万回殺さなければ復活し、その間弱体化し続ける。故に、この手段こそ最善である。

 過去に向かって十万回、天邪鬼を切り殺す。

 それは一瞬の出来事、名無し神に向かって大口を開けた鬼の首は目前で霧散し、天邪鬼は全身を切断され血を吹き出した。その僅か、瞬く間に雌雄は決した。

「活動可能時間到達────別世天津神命へと肉体を譲渡────天条咲哉より妨害──肉体を天条咲哉へ譲渡……」

 この程度で、天邪鬼が死ぬならば怪異などにはならない。

 最後の最後、叫び声をあげながら天邪鬼は直接咲哉を喰らいに行った。

 咲哉の手には【時重】が、その効果は過去と未来に斬撃を届ける。

 名無し神はこれを予見していた。

「は、らへ……った」

 名無し神が未来に送った斬撃は天邪鬼は心臓を穿ち、絶命した。

 同時に、名無し神から完全に咲哉へと戻ったその瞬間、まるで死ぬかのように気を失ったのだった。

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