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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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こいねがう

「さくやぁぁぁあああ!」

「……ふゆき?」

「喋っちゃだめ……」

 着地したスパイダーは咲哉とアリスが盾の中には居れるように近く寄り、冬樹が飛び降りると自身の着ていた服を傷口に当てる。ただの気休めでもまだ何とかなる。

 なる筈……なる筈だ。なってくれなければならない。

 だが……。

「早く……アリスをつれて……逃げてくれると助かるな」

「バカ言ってねぇで自分で連れてけ」

「ハハ……無茶……言うなぁ」

 血は、止まらなかった。

「俺が……死んだら……冬樹が、たおしてね」

「死ぬなバカ、頼むから」

 心臓の鼓動が直に手に伝わる。そこに剥き出しの心臓がある。

「咲哉ごめん、ごめん……私が……」

「謝らないでアリス……、アリスが何もしてくれなかったら、あのまま死んでたんだから」

 零れ落ちる涙は咲哉の頬に落ちる。死に向かっていく彼に落ちていく。

「シャル……何とかしてここから運びだせないか?」

『……申し訳ありません……、今気付きましたが」

「何が……」

 冬樹が振り返りシャルロットを見ようとした視界の端、それが映った。

 小さな影、蹲って何かをしているそれを漸く捉えた。

 口を動かしている。何かを食べている。

 肉を噛み潰す音、骨を噛み砕く音、粗食音。

 グチャクチャ、バキッゴリッ、ゴックン。

「あーあぁーあぁぁぁあああー」

 見てしまった、血に塗れ、飲み込んだ瞬間に絶頂した鬼の顔を。食事という快楽に溺れている人の顔を。

 脅威に対する危機感よりも恐怖が勝った。結果、敵に先手を打たせてしまう。

 星が落ちるよりも早く、幻視の捕食機構は冬樹の目の前に飛んできた。

 だが、捕食機構は突如として消え小鬼を包むように現れた。そして、その刹那の後、黒い光に包まれた何かが小鬼に直撃した。

 守りは砕かれず、しかし、対象はビルから放り出され落下していく。

「咲哉君!」

 血相を変えて飛んできた楓が咲哉の惨状を見て一層青ざめる。

「私が今すぐ直すから、持ちこたえて……」

「はらへった」

 三度、小鬼は咲哉の目の前に姿を晒す。

 楓の視界には瞬間移動したように現れたが頭の中ではなぜか()()()()()事になっていた。

 盾の内側、異界浸食を隔てる物は無くなった。シャルロット、冬樹、咲哉、アリスに直に世界を呪う声が中てられる。

 だが咲哉がとっさに手をかざす。小鬼の背後に落ちていた【心】が引き寄せられ背後から対象を突き刺した。その心の柄を冬樹が手に取って盾の外へ投げた。

「嘘だろ、今落ちただろうが」

 盾を潜り咲哉の傍に楓が辿り着く。肌に触れ食い千切られた部分の再生を行おうとするがここで咲哉の肉体の特異性に気が付いた。

「嘘……」

 従来の人間の作りではない。それは内臓の構造や骨の形という話ではなく、咲哉の肉体が細胞レベルで人とは違う。

 楓に、咲哉の肉体は作れない。

「嘘、嘘、こんな……そんな事って……」

 傷口を抑える楓に咲哉は手を添えた。

「……もういいよ……かえで」

 涙で視界が滲み始めた楓の心を汲んで咲哉は優しく微笑んで言った。

「やだ!いやだよ……せっかく、楽しくなってきたのに……」

「そう……だね」

 見えなくなりつつある視界、目の焦点はあっていない。

 あと少しで、天条咲哉は死に至る。

「でもさ、人はいつか死ぬんだから、嘆いても仕方ない……」

「いつか死ぬとしてもここじゃない!こんな、こんな死に方私が許さない!」

 なら、今できる事を全力で。血管の傷口を塞ぎ出血を抑え、応急処置を施す。

 でも、もう……間に合わない。

「……サクヤ……」

「ん?」

 アリスが事の顛末を予測して声をかける。

 きっとこのままでは終わる、何もかも。だからこの最後の時間に問いかける事にした。

 背後では冬樹が星を落としてなんとか時間を稼いでいるこの間に。

「思ってたより……沢山の人に、愛されているんだな」

 咲哉の頬に涙が落ちる。

「私は……居ない方が良かったかな……」

「なん……なんでそんな事言うの?」

「あの時……助けを求めなかったら、こんな事には……ならなかったのに」

 貴方が死ぬことは無かったのにと、心の奥底で悔やむ。

「……『僕』は死なないよ」

「そうね、貴女は死なない。でも、咲哉は……」

「……泣かないで、泣くなよ、最後の時ぐらい……笑っていて欲しかったのに」

 笑える訳が無い。最愛が、その身を挺して自分を守り死にかけているのだから。

 だから、縋るしかない。それに、咲哉が封印しているその身の内に。

「……ごめんね……私はこんな形でしか……咲哉を救えない」

 その言葉に咲哉は初めて目に涙を溜めた。

「そっか……、うん分かった」

 だからこれは意地、彼は別れの言葉を言わなかった。

 願いを込めて────

「またね」

 その言葉に全てをかけて。

「────うん」

 咲哉の頬を手で包み、アリスは顔を近づける。

 最後のキスは、涙の味がした。

「名無し神に(こいねが)う……私の全てを以て、どうか、咲哉を助けて……」


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