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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
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出会い

 冬樹が去って数分後。

 アインが震えていた。

「これ、冷凍庫とかの非じゃないです。寒いです」

『頑張ってねぇアイン。私たちコックピットの中で暖まってるからぁ』

 猫撫で声の十輪がコックピットを閉じてシャルロットの治療をしながら話しかける。

「十輪さん、せめて雪村楓さんも」

「私は大丈夫です、はい。能力で周りの空気は暖かくしてあるので」

「その能力自分も欲しいです」

『七変幻無自在だったかな?私羨ましいよ。強い能力で』

「……ごめんなさい」

「『?』」

 肯定的に言った筈が急に落ち込み、うつむいてしまう楓。

「強い能力って言われても、当の私が……こんなんじゃあ」

「もしかして不足の事態にパニックになってしまったことをおっしゃっているのです?」

 頷く。涙しながら。

『気にしなくたって大丈夫。むしろシャルロットとか、東雲冬樹とかがおかしいだけだから』

『私がおかしいですか。それは認めますが、本人が居なくなると呼び捨てなんですね、十輪。ふーん』

『ちが、ちょっと待って、ねぇ、起きてたの?その目やめて!泣いちゃう私!』

 二人の掛け合いに少し陰りが薄れた楓にアインは呟く。

「最初は誰でもありますです。もちろん、自分にも。だから、気にしてたら成長しないです」

 その言葉に少し励まされ、笑ってみせる。

「ありがとうございます」

「どういたしましてです」

 ふと、堅苦しいアインに楓は提案した。

「楓でいいですよ」

「では、自分もアインと気軽に読んでくださいです」

『じゃぁ早速。アイン、楓、スパイダーの上にいますか?今排熱機関をオンにして魔力電池を冷却中ですので暖かい空気が出ます良ければ当たっててください』

「ありがとうござあっつううい!」

「楓さぁん!?」

 ただの暖かい空気が暑く感じるほど冷えきっていた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫」

 自分の行動を恥ながら改めて暖かい空気に触れようとしたその時、楓が外を見る。

 続いてシャルロットが勘づいた。

『前方、魔力反応が発生しました』

「発生?」

『何もない場所からいきなり……』

 アインがその言葉を受け身構える。

 謎の存在のその姿が見えた瞬間、それは礼儀正しく頭を下げた。

「どうかその拳を引いていただけますか?」

 氷の檻に開いた穴から一人の少女が入ってくる。

 アメジストの瞳、紫の髪の毛、大人しそうな顔付きに細過ぎる体。何よりこの極寒に到底耐えられるはずの無いドレスのような服装に一同驚愕していた

「わたくしはレーヴァテインと申します。(あるじ)である咲哉様が貴殿方の手助けをしたいと」

 その姿、まるで女神のようだった。




 冬樹の息が上がる。寒いはずなのに暑く、疲れていないのに意識が薄れる。

「大丈夫か、東雲」

「冬樹で良い!」

 全身の魔力を絞り出す、命など度外視してスカイホールを閉じることに専念する。そして……。

「こっちは任せてくれ」

「頼むぞ天条咲哉さん」

 甲冑を来た怪物五体、明らかに統率され訓練された敵を天条咲哉と名乗った少年は一人で立ち向かう。

「俺も、咲哉で良いぞ」

 日本刀を手に鞘を冬樹の近くに投げ起き、体積が倍はある怪物の斧を振り下ろす攻撃すらかわし反撃を入れる。

 統率の取れた怪物達相手に拮抗する。

 このような状況でなければいつまでも見ていたいほど鮮やかな剣技を天条咲哉は繰り出す。

「冬樹!」

「今閉じる!」

 スカイホールが閉じる。完全とは言いがたいが応急処置は完全に終わった。

「こっちは終わった……後は」

「まかせろ、大体慣れた。後は一息で終わらせる」

 構える、左足を前に右足を引いて突きの構えを取る。

 狙うは甲冑のわずかな隙間、急所である喉元。

 一体目、斜めに振り下ろされる戦斧を跳んで回避し、冑と胴の隙間に刃を入れる。引き抜くと血が吹き出し巨体が膝を折る。

 二体目、その様子を見ていた一体が雄叫びを上げながら迫り来るも、跳んで近付いた咲哉に武器を持っていた方の腕ごと切り落とし冑の外を見る隙間を突いて頭蓋ごと貫通させる。

 三体目、四体目も同じ要領で殺す。

 咲哉が通り過ぎたその後は死体の山だった。

 和服の袖で血を拭い最後の一体に目を向ける。

 赤い瞳は鮮血のよう、白い布地にできた血のシミのようだった。

 故に、自らの姿を見せる、死を見せる鏡のように。

 雄叫びを上げる。敵を威嚇し、自らを鼓舞するために。空気を震わせガラスを震わせ魂を震わせる。けれど、咲哉は怯むどころか揺れることすらなかった。

 構える。上段の構え、先程とは逆に右足を前に出し半歩開き刃を振り上げる。

 対して敵は武器でその攻撃を防ぐように持ち突撃してきた。

「無名一刀、その命、頂戴致す」

 刹那、咲哉の雰囲気が飄々したものから鋭いものへ変化した。

 そして、右足を大きく上げ、足が地面に着くと同時に振り下ろされた刃は敵の鋼鉄の武器、そして甲冑ごと頭蓋を切り裂く。

 瞬時に絶命した異界の怪物を前に咲哉は刃を構え、少ししてから懐から出した布で刃の血を拭う。

 瞳が冬樹を捉えたその瞬間、冬樹は切り刻まれるような錯覚を覚える。

 表情を崩さず淡々と命を奪うその姿があまりにも恐ろしくて。

 二人の間に訪れる静寂。先に破ったのは冬樹だった。

 懐から自動拳銃(オートマチック)を取り出し咲哉へ銃口を向ける。

「こういう約束だったよな……咲哉さん」

 あまり使ったことの無い銃を今にもブラックアウトしそうな視界で照準を合わせ死にかけの体で構える。

「問題が解決するまでの、共闘だと」

 安全装置を外して引き金に指を掛けた。

「お前は誰だ。他に、生きている奴は?」

 咲哉は溜め息のようなものを吐きながら少しだけ頬を緩めた。

「さっき言った通り、俺は天条咲哉。少し騒がしいから、それを片付けに来た」

 そして。

「生き残りは……俺と同居人だけだ」

 平然と、彼は告げる。この国の終わりを。

「本当に……一人も?」

「少なくともこの壁だらけの街で人を見掛けたことはない。そもそも、俺も十年前からここで狩りを始めたから詳しくは知らない」

 残酷なその惨状を。

「どこまで……、どこまで見た」

「……向こうの方は、大きな夢の様な広場まで。あっちは、温泉があったかなそして……」

 海を挟んだ向こう側から、陸へ続く方も。どこへ行っても人の気配が無かったことを、咲哉は事細かに語った。

「……俺が知ってるのはこれぐらいだ」

 聞いているうちに、腕は下がり銃口は下を向いていた。

「お前は……何者だ」

 その問いに、咲哉は少しばかり間を置いた。

「分からない」

 再び手に力が籠る。けれど、銃口が向くより先に咲哉は言葉を紡ぐ。

「けど……」

 真っ赤な瞳が冬樹を捉える。殺気などもはや無く、思いを馳せ、悲しむように絞り出す。

「生き神として崇められていた」

「生き……神?」

 その言葉に、冬樹は愕然とした。

「それぐらい、かな。初対面の相手に言えることは」

「生き神、現人神(あらひとかみ)の」

「真っ当なものではなくて、閉鎖的な田舎で信仰されてたカルトの神様役だよ」

 咲哉はどこか辛そうに語ってみせる。その真意を汲み取ってか冬樹はそれ以上問い掛けはしなかった。

「……そうか」

 咲哉は刃を構えず、刃は峰を向けている。それは戦う意志が無いことを示していた。

 敵意がない彼に、冬樹は警戒心が緩んでいた。

 緊張の糸が切れる。肉体から力が一気に抜け視界が潰れた。そして地面にぶっ倒れた。

「あー、眠い、死にそう」

「そこで寝れば死ぬかもね」

 咲哉が意識して左手を広げると彼の手に鞘が飛んで行く。

「……超能力の類いかぁ」

 刃を納めて歩み出す。

「送ろうか?同居人が君の仲間を連れてくると思うけど」

 咲哉がその瞳を優しいものに変わる。しかし、その表情は変わらない。

 無表情ではあるが無感情ではない。そんな彼を少しばかり信用して口を開く。

「助かった。ありがとう」

「どういたしまして」

 冬樹の意識が薄れ行く。思い瞳を閉じて眠ろうとすると魔術兵器の駆動音が聞こえてくる。

 極寒の中での移動を心配しながら、安堵して意識を手放そうとした刹那。

「起きろ冬樹!」

 咲哉の声で意識が引き戻される。

『隊長!スカイホールが!』

 続いてシャルロットの声が町中に響く。

 ぶれる意識で瞳を開く、そして飛び込んできたのは……。

「何で」

 空が割れる光景だった。

「さっきの比じゃない、もっと大きな何かが」

「何でいつもこうなんだ…なんで」

 咲哉が冬樹を片腕で担いで仲間の方へ逃げて行く。

「冬樹、すまないが、こいつを殺すのは骨が折れるぞ」

 まるで何が来るのか分かっているかの様に言う咲哉に問いかける。

「何が……来る」

 冬樹の問いに即座に答える。

「ドラゴンだ。前に一度だけ見た」

 瞬間、空が大きく割れる。

 スカイホールの先、異世界が見えるほど大きく開く。

 その先は白銀に吹雪く世界。

 そして、それは現れた。

 轟くは咆哮、重く震わす叫び声。

 その声の主はスカイホールから空間を裂いて飛び出し地面へ激突する。

 再びの咆哮を空に向かって叫ぶ。

「目測、約二十メートル、四枚の翼、四本足、確かに飛竜(ワイバーン)じゃねぇ。正真正銘の(ドラゴン)だ」

「特徴あるの?」

「大体翼が多くて四本足はドラゴンだ!」

 咲哉に担がれてドラゴンを見ながら逃げる冬樹は一度交戦した。

 だからこそ気付いたその違和に。

「待て、止まれ!あれ死にかけだ!」

 その言葉に足を止める。

「死にかけ!?何で……」

「呼吸してない!だから、魔力を吐いてない!」

 冬樹の右目は、魔眼は開き見る。周囲の魔力の色を捉えて観測する。その異常事態を。

 その言葉通り、ドラゴンはその場に倒れ込む。

 じっ、と咲哉と冬樹を見ながら。




 シャルロット達が現場に到着する。しかし冬樹は見向きもせず咲哉に支えられながらドラゴンの方に歩いていった。

 シャルロット達はその緊張感を崩せずに少し離れた場所で臨戦態勢をとったまま動けずにいる。

「大丈夫か」

『隊長、それ以上近付くのは……』

 シャルロットが制止する。けれど、冬樹は目を見ながら笑ってドラゴンへ歩み寄る。

 良く見るとドラゴンの全身は傷だらけだった。しかも、その傷は人為的に付けられている。固いドラゴンの鱗が剥がされ、翼と脚に杭のようなものを打ち付けた痕がある。

 加え、肺が潰されている為、息を吸えば肺がゴロゴロと鳴り、吐くと泡と一緒に血を吐く。

「今助けるからな」

 一歩近付く度にドラゴンが喉を鳴らす。

「フラフラだぞ冬樹」

「分かってる」

 一歩一歩、近付いていく。その度に死が擦りよってくるような気配がある。

 それでも、冬樹は助けねばならないと手を伸ばす。

「咲哉、何されても反撃するなよ。コイツらは、本来人を襲わないから」

「わかった」

 あと数歩、手を伸ばせば届く距離に到達した瞬間だった。

「隊長!」

 大きく口を開いて腕を喰い千切ろうと襲い掛かる。

 咲哉が刃を抜こうとするも先程の言葉を信じて手を止める。

 結果、ドラゴンは腕を喰い千切らずに止まった。

「俺はお前を攻撃しない。大丈夫だ」

 そこの言葉を聞いてドラゴンは口を離す。

「さわるぞ」

 鱗が剥がされていない額を触る。

 心の底から安堵する。敵意が無いこと、争う気が無いことに。

 けれど、そんな安心感を覆す様な言葉を呻くように捻り出した。

「た…す……けて」

 発音は違う。けれど、そう捉えることができる言葉だった。

「……わかった」

 涙しながら、血反吐を垂れ流して助けを請う。

 それは推察で、決して確かな証拠があるわけではない。けれど、それは言うべき事と冬樹は確信して言葉を紡ぐ。

「良く頑張ったな。ゆっくり眠れ」

 安心したようにドラゴンは目を瞑り、息を止めた。

 そして、ドラゴンの体が白化する。脆く、鉱石の様なものに変質した。

「すまん咲哉」

 冬樹がその場で膝から崩れ落ちる。気力がついに力尽きる。意識が朦朧とする。

「ドラゴンの核、心臓がある場所を開いてくれ。肺の奧だ」

 それを聞いて刃を抜いて竜体だったものをバラす。

「これは」

 引きずり出す。それは本来心臓だったもの、宝石だったもの、ドラゴンの核。それを触媒に肉体を小さくして死地を切り抜けるための奥の手。

 それは不死鳥の(さま)、自らの死体の内で生成されたのは……。

「子供?ドラゴン?」

「それは、竜人化、ドラゴンが生き残るためのとっておきだ」

 咲哉の腕に抱えられ取り出される、尻尾と角と翼と少量の鱗を持った人型の竜だった。




 意識を失った冬樹と、人型になったドラゴンを担ぎ上げレーヴァテインに近寄る。

「レーヴァテイン、二人に耐寒のルーンを」

「了解しました」

 レーヴァテインは指先に魔力を込めルーンを刻む。

「貴殿らが、冬樹のお仲間ですか?」

『はい。貴女は?』

「通りすがりの剣士でどうか」

 シャルロット、アイン、十輪の三人が明らかに不信感を表情に出している。唯一楓だけ話に着いていけてなかった。

「この子どうなさいますか?」

「冬樹が助けるって、言ってたけど……」

『呼び捨て……』

「こっちで保護しよう。俺達なら何があっても対処できるしな」

 そう言って咲哉が冬樹を引き渡そうとする。

「誰かこいつを引き取ってくれ」

「あー、では自分が出ますです」

 アインが前に出ようとしたその時、幾度と感じた不和を再び感じる。

 空を見上げる、スカイホールを見つめる。

『数値増大、再び何か気まず』

 けれど、今度は嫌な予感がした。

 咲哉の脳裏に過るは怪物の強さ。技を学び、戦い方を学び、武器と手に鎧を身に纏っていた。

 続いて傷だらけのドラゴンが落ちてきた。それは拷問の痕を残して。

 嫌な予感、次に来るもの、きっと、マトモなものでない。

 決断は早かった。

「説明を省く、俺に着いてきてくれ」

 レーヴァテインに二人を預け刃を抜いた。

『何を!』

『術式使わない!今使ったら再起不可能になるよ』

『でも!』

 取り乱すシャルロットに十輪が忠告する。その声を聞いて咲哉が冷静に説明する。

「危害は加えない。今すぐ逃げる」

 刃を地面に突き刺すとどこからと無く赤い鳥居が現れた。

 スパイダーが通れるほど大きくし、その鳥居をくぐる。

「早くね、死にかけるよ」

 全員が戸惑うも冬樹が連れていかれた以上、拒否権は無かった。

『戦闘準備だけ、決して解かずに』

「「『了解』」」

 スパイダーが鳥居をくぐる。

 するとそこは、古い木造の家、二階建ての古民家が森の中にポツンと建っていた。

「ようこそ、我が家へ。特に何もないけど、体を休める程度はできるよ」




 遥かなる空から地上に降り立つ。

 槍と盾を手に、鋼鉄の鎧を身に纏い、彼らは新たなる世界に現れた。

「団長、成功いたしました」

 一際大きな槍と盾を手にした戦士に他の戦士達が膝を着き頭を垂れる。

「承知した。では捜索を開始せよ。なんとしても神の竜玉を取り戻せ」

「はッ!」

 総勢で十名、武器を手にかつて新宿と呼ばれた新たな世界を蹂躙する。

 その先に、悪夢のような、地獄のようなものが起きうるとしても。

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