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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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邀撃作戦 【星落】2

「策がある」

『なんでしょう』

「秘密」

『……了解……、はぁ……背中に乗ってください』

 コックピットを閉じシャルロットは戦闘態勢に入ってスパイダーの背中に冬樹は乗った。姿勢制御用の重力操作が冬樹にも適用されこれで壁に張り付いても直立していられる。

「律儀に待ちやがって……余裕ぶっこんでんのかよ」

 狙撃が阻止された事により最大限の警戒を怠らず冬樹の出方を待っている。

 命を懸けた一矢は防がれた。東雲冬樹唯一の隙は潰された。

 だがいまここには彼女がいる。いかなる手段を講じてでも星創りの魔法使いが優先する者がいる。

 双方、迷いは消えていた。

「シャル!あいつに追い付け!」

『了解』

 スパイダーが宙に機体を投げ出すと前方に付いている複腕を飛ばし建物の端などに掴まり、機体と複腕を繋ぐ細いワイヤーがキュルキュルと音を立てながら巻かれブランコのように地面スレスレを加速しながら通りすぎる。

 立体機動、三次元移動手段、それがスナイパーに取り付けられた基礎能力。

 対するヘリスは逃げの一手、正確には引き撃ち、逃げながら攻撃する。

 再び湾岸線を駆け抜ける。その後ろを立体起動で追い駆ける。

 距離は縮まるどころか離されていく。

『敵速度時速五百キロ、こちらの最高速度では到底追い付けません!』

「わーってるよ!だがらこうして……」

 三度降り注ぐ星の光がヘリスの進行を妨害する。

「足場潰せば多少なりとも足は緩むだろ!」

 捲れるアスファルトと砕け散るコンクリート、さっきと同じ落とし穴戦法はまったく同じ方法で切り抜けられる。

 だが、飛んだのならば、ましてや滑空ならば、空中での回避は困難となる。

 さらに落ちる無数の星は滑空中のヘリスを空から貫いた。

 魔銀の効果で威力は大幅に落ちる。しかしトライアングル同様全くの無傷ではない。

 数さえ増やせば通じる。それが対ヘリス唯一の有効打。

 それでも魔銀の効力は凄まじいが降り注ぐ星の雨は本来決定打になる物、たまらず銀の月が展開される。あらゆる魔術を無効化し跳ね返すために。だが、そんなものを展開してしまえば冬樹の独壇場と化す。

 数個の星を束ねた光が銀の月を突き破り内側で爆発を起こす。一つ二つではなく際限なく。

 ここまで出来れば正直勝ったも同然、奥の手を使うまでも無い。

 足を止め星は落しながらも敵を観察する。

 しかし、油断は即座に付け入られる。狙撃の時のように。

 冬樹が爆発する星を落とし始め僅か数秒、二人が足を止めた地面から血と銀の混ざったトラバサミが大きく口を開いた状態で二人を襲う。

 地面を抉ったそれは瞬きの間にスパイダーの足に噛みついた。

『罠!?』

 刹那、銀の月は筒状の管を伸ばしコックピットを狙う。

 さながら狙撃銃、銃身の再現。

 撃鉄が、赤く光る。

 放たれる二発目の吸血機構は冬樹ではなく足場になったシャルロットを狙い撃ちした。

 とっさの出来事ではあったものの冬樹はグランシャリオを連続展開、限界まで守りに徹した七星の結界は軌道を僅かに逸らしコックピットの僅か隣を掠めるように抉って行った。

『きゃあ!」

 野晒しになるコックピット、左半分を吹き飛ばした威力を冬樹は眉一つ歪める事無く警戒する。

「次は、取り乱さねぇのな」

「そう何度も取り乱してたまるか」

 砕け散る金属音、スパイダーの左前脚と右後足関節部を持って行ったヘリスの攻撃によって機動力が著しく損なわれる。再び逃げに徹すれば冬樹達は追いつけない。だが逃げない。

 吸血鬼ヘリス、銀血の狼は銀の月を変形させより一層自らの吸血機構の威力を底上げする形をとる。

 銃弾の威力は火薬で変わる。ヘリスの場合は血液の量である。込める血液は最大量に、放たれる鏃は大きく、自らの体すら銃のパーツにして敵を屠る一撃を作り上げる。

機械仕掛けの輝盾(アイギス・マキナ)

 弱弱しく張られる最硬度の盾はしかし、ただのレプリカ。東雲冬樹がかつて売りにした高防御力の術式はオリジナルには程遠い。足元に及んだだけでも魔術師としては大した物なのだが、今この場においてヘリスの一撃を防ぎきるには心許無い。おそらくさっきよりも威力は高いのだから。

 相対する吸血鬼の形はまるで月光の蝶、排熱機関と反動を逃がす機関も取り付けている。無いのは引き金。放つ意思は誰にも邪魔させまいと意気込んで。

 月明かり程、冬樹が憎む物は無い。星が見えづらいから。

 赤く鈍く、銀の銃は光る、滴る。

 それほどの脅威を前に冬樹はどこか穏やかに何かを悟った。

「……やっとか」

 その時、透明な魚が冬樹の周りで跳ねた。

「主、準備、完了」

「……分かった。ありがとうヘイエ」

 使い魔の言葉を聞いて冬樹は決心する。

 星を落とす事を。

「時間稼ぎお疲れ、シャル」

 冬樹がスパイダーから飛び降りシャルの前に、盾の前に立つ。

 射線を遮るように。

『な、何をして」

「それの展開範囲を自分を包むように、ほら早く」

『でも」

「良いから」

 ヘリスは最終調整段階へと入った。あと十数秒で高威力の弾丸が放たれる。砲弾と言った方が良いかもしれない。

 だが、その攻撃に対して冬樹は切り札を使う。そう、何度も使える物ではないが。

「彼方からの呼び声を、我が声を聞きいれ給え」

 詠唱は既に終えた。あとは目標に対して落とすだけ。

 冬樹の後ろではシャルロットが盾を全方位に張り巡らせ守りに入っている。

 そしてシャルロットの遥か後方にて、光が撃ち上がる。

 後は、死なないように賭けに出るだけ。

「吸血鬼!」

 ヘリスへと呼びかける。余裕のある表情で。

 用心深いヘリスは警戒する。すました顔に張った声、砲撃を耐えれるだけの何かを仕込んでいると思考が巡る。

 だが飛び出した言葉は意外なものだった。

「それ、俺等に向けない方が良いぞ」

「……命乞いか?」

「事実だ。それを俺らに向けて放てばお前は死ぬ。例外なく」

「根拠は?」

「あと少しで分かる」

 はったり、と一蹴できるだけの証拠も無い。だが、見栄を張っているようにも見える。

 声は震えず、手足は震えず、堂々とした佇まいで東雲冬樹は見合っている。

 冬樹の後方で撃ち上がった光が一瞬視界に入るも無視をした。今の形態のヘリスにもはや爆発する星は効かない。

 はったりと判断した。何か策があると思った。最終調整が終わった瞬間、それが見えるまでは。




 それは燃えている。否、輝いている。

 それは揺れている。否、揺らしている。

 それは昇っている。否、落ちている。

 世界を超え空気の壁を破壊し、異なる位相から大地へと向かって走る巨大な弾丸(いわ)

 空間を震わせ、ありとあらゆる建造物を空気の波で壊し轟音を鳴らしながら天を駆ける。

 隕石。という規模ではない。

 物質化したそれは魔力を噴出しながら速度を上げ空気の壁を一枚一枚丁寧に割っていく。

 それは空を裂く槍、それは大地を割る矢、それは生命を絶やす災厄。

 東雲冬樹の魔法によって構築された、一つ作るのに五年の時間を費やさなければならない星創り。

 そもそも冬樹は魔力が乏しい。故に、打ち上げた魔力を宇宙空間で物質化させ溜めておく。束ねられた魔力は質量を持って星の周りを巡る衛星となる。しかし、一度体から離れた魔力は還元しない。だからこうして落とす。

 過去に一度、竜王フレアに対して使った時は大ダメージを与えられた。そして今回はたかが吸血鬼相手に使う。

 それほどまでにヘリスはイレギュラーな存在だ。なぜならば格上食いこそ彼の本領。強い者に相対することで彼は強化される。

 彼に落とされるものは竜王フレアに使用した時と同じ規模の代物、その威力は落ちるだけで都市機能を壊滅させる。

 まさしく、魔法使いの彼だけが扱える最強の攻撃手段。




 曰く、その隕石を創星の魔法使いはこう呼んだ。

「【星の理(アイテール)】」

 膨大な量の魔力塊が質量化し魔力を噴出しながら落ちてくる輝く岩は彗星のようだった。

「俺の命はくれてやる!だがッ……一緒に地獄に来てもらうからなぁ!吸血鬼ぃッ!」

 その規模、大きさ、熱、あらゆるものに気圧される。弾丸?砲弾?否、それはもはや弾道核ミサイル級である。

「ふぅうざけるなぁぁぁぁぁああああああ!何が命はくれてやるだぁあ!」

 死ぬ気など毛頭ない、あの男はわかっている。ヘリスという吸血鬼が隕石を撃ち落とす事を。しなければならないことを。

 生き汚い吸血鬼だからこそ生存の道を諦めない。

 銃口は落ちる星へと、弾丸は空へと。

「あぁ、挑んでやるとも!星を落とす偉業に!」

 いざ挑む、流れる星を撃ち落とさんと。

 爆発の如き轟音、押し出された空気は波となって壁となってガラスとコンクリートを破壊する。熱と衝撃で銃身が曲がり先端が花開く。

 放たれる超常の銃弾、血と銀の混ざったものが音速を大きく超えて星へと飛んで行った。

 衝突するまで一秒と掛からなかった。

 衝突の瞬間、ニ度目の轟音と激しい光が発生する。

 それもそのはず、冬樹の落した星は魔法の産物と言えど退魔の力は効く。即ち、魔力塊であるアイテールさえも物質から魔力へと元に戻す。だが、質量が質量だ。一人の人間の五年分の魔力、たった一発の弾丸で失われるほどの量ではない。

 魔力を噴出する、ブースターとなって弾丸に拮抗し、押し返す。

 そしてそれからがもう一つの奥の手。

「星砕き見事だよ。だがな!勝利までは譲らねぇぞ!」

 ひび割れた星は砕け、流星群となってヘリスへと降り注ぐ。広範囲の石の雨。

 弾丸は対象が失われ彼方へと飛んでいく。

 東雲冬樹の勝利は目前、後、一手。

 運命に逆らうように、月光の蝶を解除し銃の素材にしていた銀を全て盾にする。

 だがここからでも落下地点の微調整は効く。一点突破、盾の最も薄い所に雑にまとめた星々をぶつける。同時に銀の盾にひびが入り音を立てて砕け散った。

 衝突すれば辺り一帯が吹き飛ぶ、肉片なんて残されない。例え残ったとしても日が昇るまでに再生できない。

 東雲冬樹が勝った瞬間だった。


(獣の武器を忘れるな)


 その事実をヘリスは上書きする。忘れていたものを、遠い日の主の声で思い出して。

「【新・吸血機構(ワイルドハンズ)】」

 大きく口を開き吠える。血と銀の混ざったもので巨大な獣の口を、牙を象って。

 進化する、成長する、吸血鬼はその時成ったのだ。獣に。

 主を守れるだけの強さを伴って。

「【一匹古狼(ノーハード)】」

 落ちてきた星を巨大な牙が噛みつく。一層激しい光を放ちながら魔力へと還元されるがその勢いは止まらない。ヘリスは巨大な口と共に押されていった。

 踏ん張る為に、自らの爪にも血でコーティングをし地面に食い込ませる。

 冬樹が魔力の放出をより強くするが時すでに遅し。

 ヘリスは星を噛み砕いた。

 瞬間、遠吠えが響く。もはや人の言葉など忘れたように、その声は何処までも勝利を謳った。




 砕かれた星が全て魔力へと変換された。魔銀の効果によって。

 東雲冬樹の奥の手は、真正面から打ち砕かれたのだ。竜王すら打ち破った奥の手を。

 策はもうない。倒す手立てはない。覚醒したヘリスはウラノメトリアすら効かない。

 自らが押された跡を駆け抜けあと数秒で冬樹とシャルロットの元へ辿り着く。

 シャルロットが必死に叫び、冬樹に逃げるように促すもその声は届いていない。

 反面冬樹の思考はクリアだった。頭の中が真っ白と言った方が正しいかもしれない。

 悔しいという気持ちも、焦燥も無かった。何故か笑いが込み上げてきた。

 思い出せば、竜王フレアはこのアイテールを打ち砕く力を持っていた。守るべきものが近くに居て本気を出せなかったから甘んじて喰らったに過ぎない。

 勝てると慢心した。……訳でも無いが、過信が無かったと言えば嘘になる。

 だって、この大技は冬樹の歩んできた人生において二発しか使用できない代物、経験が竜王に対して使用した一撃しかないのなら過信してもしょうがない。

 純粋な経験不足と追い詰めた獣が恐ろしい事を知らなかった。それが、東雲冬樹が負けた理由。

 少し遅れて悔しさと焦燥が冬樹の胸の内を満たした。笑みは崩れ自身に対する怒りも込み上げる。

 それでも彼の凄い所はこの場面で逆転の一手を発想できる事。

 考えついた一手は検証もクソも無い。ぶっつけ本番の一発勝負。

 失敗すれば死が待ち受ける。

 その一手を躊躇なく行う。

 生き汚くてもいい。それが、生きる為に出来る最善の手だったから。

 千個の星の光を束ね十個を地上に落とす。落ちた星は綺麗な十角形を描き線で繋がれる。

「魔眼、反転、観測から投射へ」

 魔眼の機能が切り変わった瞬間、右目から血涙が流れ落ちる。悲鳴をあげたくなる痛みも、全身の血の流れが加速して血管が破裂しても、耐え抜く。

「対象、アイテールの残滓」

 見続ける、象られるまで、起動するまで。

「【夜空を映す星図(ウラノメトリア)】制限解除」

 刹那、星に象られた十角形が十六面体の結界を張り始める。

 砕かれ魔力化したアイテールの残滓は還元されないが再利用はできる。

 その場にはアイテールが魔力化され漂う残滓が、十六面体の結界が、そして、宙を内包した魔法使いが。

 それは魔術師の中でも奥義に位置する大魔術、冬樹という魔法使いだからこそ即興で組み上げられる必殺技。

「世界を包め、我が宙よ」

 それは展開されし宇宙の姿。

「結界領域、起動」

 面前にヘリスが、喉を噛み千切る為に開いた大口が見えた。悲鳴のようなものも聞こえた。だがしかし、冬樹にはどちらも届かなかった。

「【星覆う天幕(スター・アトラス)】」

 一瞬で黒く塗り潰された世界、瞬きの間に暗闇に堕した世界、そこは、一面に星が散りばめられ、足元には空の星が映る水面がどこまでも広がった世界だった。




 星の光だけでその世界は見渡せる。水面に反射する光だけで宙が見える。そこはまるでプラネタリウム。

 だが、敵の喉元を噛み千切ったと思っていたヘリスは自らの顎が空を切ったことに気付く。

 そして、敵が彼方に居る事も同時に気付いた。

「ほう」

 遥か彼方、狼の足でどれほどかかるかわからないが駆け出す。敵を打ち倒すために。

 少し遅れて冬樹の声が届く。

「なんだおまえ、まだ喋れたのか」

「獣性を取り戻しても理性まで忘れたわけではないからな」

 また少し遅れて声が届いた。その声にはどこか自嘲しているような声音だった。

「上手いこと言う。俺は……好きな奴が傷付いて取り乱したって言うのに」

「お前の方がよっぽどらしい行動と思うがな」

 三度、冬樹は遅れて声を届けた。

「……俺にとってあいつは星なんだ。空の星は、本物はどれだけ手を伸ばしても届かない。でも、あいつの心は、きっと魂と呼べる物はどんなものよりも輝いてて美しいんだ。星よりも、星のように綺麗なんだ」

 冬樹の優しい声がヘリスに届く。

「シャルは俺の北極星(みちしるべ)だ。二度と傷付けさせねぇよ」

 星が集う、空の星々が彼の背後黒い星に吸い寄せられるように飛んでいく。

「本来、魔術師が数十年単位で完成させる結界領域、展開させれば移動は出来ないものの絶大な効果を得る。俺の場合は空間拡張とウラノメトリアの制限解除、そしてアイテールの魔力を使用して大量の星を作り上げる」

 ヘリスは冬樹に向かってひた走る。だが、その距離が一向に縮まらない事に違和感を覚え始めていた。

「お前のいるそこは光の速度でコンマ一秒の距離だ音速を出したとしても数時間かかる。そして俺は、魔術でお前の声を聞いて、お前に声を届けている」

 集う星々がその姿を晒す。巨大な渦巻きがヘリスの瞳に差し込んだ。

「これは手向け、冥途の土産だ。その魂にしかと焼き付けてろ」

 渦巻くそれに、ヘリスは目を奪われた。あまりにも美しいそれにここが狩場である事も忘れて。

「【星々の渦(ギャラクシア)】」

 一千万以上、下手をすれば億は越えかねない星々が一斉に放たれる。放たれた星は光の帯となって世界ごとヘリスを焼く尽くす。一瞬で灰になる中魔銀と再生能力で何とか形は保っていたものの高熱によって銀は溶け、肉体を焼き尽くされる。

 その光の束は結界を破り結界の外、現実世界の地表すら焼き払って行った。幸い、光の帯を放った方には誰もおらず、海だった事もあり事なきを得た。

 それだけの威力、それほどの事象を持って、吸血鬼ヘリスは倒された。

「勝敗はお前に譲るよ。でも、生きる為の勝負は俺『達』に譲ってもらうからな」

 最後の最後、息絶えて燃えるヘリスの肉体は最後まで原形を保っていた。

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