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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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邀撃作戦 【星落】

 東雲冬樹の恒星創りは完璧だった。『五芒星・五重結界』、二十五個もの星を用いた『対結界』魔術、退魔に対する力に対して優位を取る魔術を『銀弾』の力でねじ伏せられた。

 銀や水銀は古来より毒として用いられ、その毒には吸血鬼を殺したり怪物を殺したり魔術師を殺したりと退魔の効果があるが第六真祖『銀弾』は退魔毒と言うべき力を臨界させ、液体金属のように扱い毒としての効果を高めている。

 つまり、吸血鬼でありながら吸血鬼の弱点の一つを克服し誰よりもうまく使いこなしており、魔銀とは銀と水銀両方の性質を兼ね備えている。つまり液体であり個体、本来は性質の違う銀と水銀を同じものとして扱える。

 結果、彼は人間社会に必要とされ眷属を作る暇を持たず、孤独を貫いた。

 吸血鬼ヘリスは、そんな彼に傷を付け血を飲んだ唯一の吸血鬼である。

 自身の血脈と違う真祖ではない眷属を共食いして力を得る事や真祖に眷属が歯向かい下克上を果たす事は極稀にあるが真祖を食い散らかした下級吸血鬼はヘリスしかいない。フォルテですら第一世代の眷属であるため格自体は高く真祖食いが起きても何ら不思議はない。ただの末端、下の下の下であるヘリスが真祖の力の一部を食った事は『銀弾』の信頼を失墜させるには十分だった。

 第三真祖の血を操る能力と第六真祖の銀を操る能力は混ざり、変質し、一つになった。

 取り込んだ銀を魔銀へと変換し血液に混ぜて操る能力へと。




 尾に張り付いた銀血を飛ばす。空中で鋭利な形になって空を切った。

 銀血にはもちろん退魔の力を宿している。

 世界最高峰の魔術殺し、魔法すら無力化しかねない怪異の存在を相手取るは創星の魔法使い。

夜空を映す星図(ウラノメトリア)』は既に展開済みである。

 首都高速湾岸線、落ちる星の光と赤く鈍く輝く銀の弾丸による銃撃戦。

 冬樹の圧倒的有利と思われたその戦いは予想を覆し、吸血鬼ヘリスが圧倒していた。

 流れ落ちる星を撃ち落とす赤い銀弾、それは恐ろしいというほかない。

 地にあって天を落す怪物がいまだ健在だったのだから。

「咲哉ァ!テメェ後でぜってェ文句言ってやっからなァ!」

 とまぁ、煽てられて見事一番厄介な相手と戦わされている冬樹はそれでも押されている程度に留めていた。

 咲哉ですら予想だにしていなかった獣状態の機動力、吸血鬼従来の身体能力に加え『鮮血』の力で身体強化を行い血の鎧で空気抵抗を極限まで抑える。よって、首都高速湾岸線を時速五百キロで駆け抜ける爆速狼が誕生した。

 対する冬樹は周囲のビルで最も高い場所に陣取り一万を超える星を落としていた。

 時折飛ばされる銀血は魔術的守りを全て無力化しながら飛んでくる。さながら散弾の様に、雨の様に。

 数少ない物理的攻撃力を持つ『夜に浮かぶ大三角(トライアングル)』をぶつける事で相殺できるがしかし、膠着状態。

 戦いが長引けば魔力に限界がある冬樹が先に終わる。だとしても決着を急げばボロが出て負ける。

 せめて、一瞬でも足を止めれば勝ち筋は見えてくる。

 高速道路を駆けている以上、行先は想像しやすい。

 進行方向の道路に罠を仕掛ける。と言ってもかなり原始的で簡単な物。つまりは落とし穴。

 支柱を星で破壊し進行方向を破壊する。仮に時速五百キロでも飛び越えれないほど大きく。

 それを目撃したヘリスは加速する。時速五百キロで飛び越えれないならその倍を叩き出すのみ。

 足の骨が壊れる音と共に加速していく。再生し元に戻った瞬間に地面を蹴って足を壊しながらより早く鉄と岩のジャングルを駆け抜ける。

 落とし穴に突入する直前、血の鎧を飛行するのに適した形、紙飛行機の様な翼と尾翼を携えて跳んだ。一見すればパラグライダーだが跳んだ際の速度を落とす事無く対岸へと辿り着く。

 だが、空中で進行方向と着地点を変える事は出来ない。地面に足を付けたその瞬間、あの五芒星の結界が起動する。次はより強力に念入りに。

五芒星(ファイブスター)十重結界(・デェズヴェゼス)

 浮かび上がる一つ目の五芒星の五つの角を交点としてさらに巨大な五芒星を描く。そうして十個もの星型が再びヘリスを閉じ込める。

 時間にしてまさに一瞬、瞬く間もない刹那に封じ込めた。

 その結界を、ヘリスは障子の紙を破るが如く突き破る。十重の結界ごと速度を落とすことなくその身に宿した退魔で。

 万策尽く、魔術に強いのであれば手は無い。

 ならば物理で叩く。

 高速道路の支柱や周りに立っているビル群を倒壊させ瓦礫に生き埋め作戦に打って出た。

 直前、ヘリスは速度を落とし回避しようとしたがそこは織り込み済み、回避地点から後ろのビル群も倒していた。

 もちろん、吸血鬼相手に決定打にはならない。故に冬樹は決定打になりうる魔術を使う。

 加えて冬樹の魔眼は観測特化の能力。例え瓦礫に埋もれようが砂埃で視界を遮られようが捉える事が出来る。一瞬だけ視界から外れるが観測の魔眼は砂埃を透視し熱を感知するようにヘリスの存在を捉え続けていた。

夜に浮かぶ大三角(トライアングル)

 その魔術を計千個は作り上げる。事前に着地点まで計算して。

 そしてヘリスは釣られるように、瓦礫を自慢の足で抜け砂埃を裂いて空へ跳んだ。

 最大のチャンスを逃すはずは無く、冬樹は回転する三角形の星々を掃射した。一度に全てではなく、断続的に、フルオートの銃を撃つように。

 血と銀の混ざった鎧を打ち砕くため。

 一発目が着弾する。微かに傷を付けミスリルの効果で魔術が掻き消えた。

 だが二発目三発目となれば話は変わる。そして千発ともなれば、例え退魔の力と言えど貫通する。

 新月の夜、魔銀の吸血鬼は星明りと共に砕かれた。

 魔術師の天敵を魔法使いが上回った瞬間だった。

 その存在が本物だったら、の話ではあるが。




 全弾撃ち尽くし、一息置いて歓喜が沸き上がった瞬間、砂埃の中で微かに赤い光が放たれた。

 敵を倒した刹那というのは最も隙が生まれやすい瞬間。人間でも動物でも安堵が胸中を満たすものである。

 咲哉は常に残心という戦闘後の隙を生まないための心構えをしていた。敵が動かなくなり死を確認できるまで警戒状態を解かない、といった一種の精神的極地。

 冬樹にできる訳が無い。咲哉でさえ習得に数年かかっているのだから。

 だが敵はこの瞬間を隙と認識できるだけの境地に居た。

 即ち、止まったのは回避するためでなく、冬樹が観測の魔眼で見られていた自分から目を離した一瞬に血で囮を造り、瓦礫をかき分け崩れたビル群の隙間から射線を通すため良い配置に隠密で辿り着く為。そしてこの状況を作り出す為だった。

 東雲冬樹は弱いが強い。弱い部分は単純に火力の無さ。それは夜になれば補える。そして強さは冷静さと分析力と頭の回転、それらで最大限活用できる魔眼。

 条件は限られるが一対一で距離があれば誰であれ勝てる。対応されようと応用を利かせる頭がある。事実、天敵であるヘリスを追い込んだ。

 今朝の動揺は誘えない、その眼には必ず倒すという意志が宿っている。東雲冬樹はこれ以上ないほど仕上がっていた。油断も隙も無い。ならば作るしかない。

 狙撃は見られれば対策を取られる。だから最後まで取っておいた。必要最低限の防御力を貫通できる攻撃力はここ一番で使用すべき。

 無意味に走り回ったのはこの状況を作り出す為、時折防御を貫通できるだけの攻撃を繰り出していたのは真の目的を探らせない為、そして、これを、満を持して確実に撃ち込むために自らの正体を隠し続けた。

 砂埃が払われそれは正体を晒す。

 人に非ず、獣に非ず、それは下級も下級の吸血鬼にして魔術師たちの天敵、格上に一矢報い、能力の略奪を果たした人と共に歩んだ獣、獣に成り損なった吸血鬼。

一匹狼(ノーハード)』ヘリス。

 彼が大きく開いた口の奥、鏃と矢柄の頭が見え、血で出来た矢は、赤い閃光と共に放たれ、音を超えた速度で冬樹の面前に直線で飛んで行った。

 その矢は彼の吸血機構、『猟犬乃矢(ハウンドクロスボウ)』、まさしく命を懸けた一矢だった。




 全ての自動防御機構が貫通される。冬樹の魔眼の、目の前に飛んできたその矢はもはやどのような手段を用いたところで魔眼を通って脳天を貫通する。

 一瞬の隙、警戒が緩んだ僅かな刹那に通された狙撃は成功する。それは確定事項といえる程、未来視など必要ないほど僅かな未来の先に東雲冬樹は絶命する。

 阻止しようとするものが居なければ、だが。

 火花のようなものが飛び散り、狙撃されたと気付いた時には上位の守りによって冬樹の命は助かっていた。

「なッ!」

 一歩、後退り、自身を守った結界クラスの盾を見る。不可侵の盾、魔銀に対抗できる究極結界、冬樹が単身での再現を諦めた超高度魔術。

機械仕掛けの輝盾(アイギス・マキナ)

 これをこの場で扱えるのは一人しかいない。

「シャル!?」

『はい!お呼びでしょうか』

 巨躯が動く駆動音、鉄と鉄がぶつかり合う轟音、そしてスピーカから聞こえる不釣り合いなほど透き通った可愛らしい声。

 環境適応型魔術兵器『スパイダー』、そしてパイロットのシャルロット・エンゼルスが、冬樹の援護にやってきた。間に合ったと言うべきだろうか。

「こんの……馬鹿かお前ッ!」

 そして当然の様に彼は怒った。

「神経焼けてんだぞ!お前はッ、二度と動けなくなるかもしれないんだぞ!」

「だから何ですか!冬樹が死ぬより遥かにマシです!」

 コックピットを開けてシャルロットは今にも泣き崩れそうな顔で言い返し、その迫力に冬樹は何も言い返せなかった。

「……なんで」

「冬樹の背中は私の居場所です」

 いつぞやのハワイを思い出しながらシャルロットは口にする。

「だから、私が動けなくなるその日まで、そこに居させてください」

 お互い初対面で言い争って、お互い役に立たず、その果てに一人の魔法使いが竜王を打ち倒した帰り道。居場所を求めたシャルロットに背中を貸した暁の日を大事にしまって。

「……ばか、バーカ、死んでも知らねぇぞ」

 そう言って冬樹はそっぽを向いた。耳を真っ赤に染めて。シャルロットが気付かない訳ないが何も言わず。

 想いは秘める。ずっと傍に居られるのなら彼女は吐露はしない。ただ、東雲冬樹が背中を預けたこの席だけは譲らないだろう。絶対に、決して。

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