邀撃作戦 【分断】
作戦は単純なものだった
冬樹が一人を引き付け、残りのメンバーでもう一人を倒すというもの。
挑発に乗る筈は無いし、二人でまとめて戦った方が早い。なら、どうやって分断するかがカギになる。
効果的なのは各個撃破が最も良いと結論付ける事、そのために連携を極限まで磨いたのだ。
前衛はアインとアリウス、後衛は冬樹と十輪、遊撃が楓、バランスの取れたこの配置は早々に破られた。
前衛は冬樹一人、それ以外は足止めを喰らった。
これが意外にもハマった。というよりも、遠距離主体の冬樹が思いの他接近戦にも対応していた。
端的に言えば、超至近距離で収束させた星をガトリングの様に撃ち続ける接近射撃。
対するヘリスは銀の盾で防ぎ続ける。無論、魔術の星は消える。だがしかし、星は弾丸の様に放たれれば終わりではない。盾を回り込み避けて目標へ飛んでいく。
問題点は一つ、狼形態のヘリスは想像よりも足が速い事にあった。つまるところ、走って星を回避できる機動力と加速力は冬樹とは真逆の戦闘センス。
ならばやることは一つ。
百の星を用いた転移、あらかじめ設定しておいた座標へと一緒に飛ぶ。仮に成功してもヘリスの足ならば十数分で戻れる場所。だからこそ、決着を急がなければならない。
「天星門」
アインと十輪に視線を送る。
後は任せたと。
そうして、星降る広場から創銀の吸血鬼と創星の魔法使いは姿を消した。
残る者は吸血鬼の少女と、それを打ち倒さんとする四人の精鋭だけだった。
「任せるって、言われてもなぁ」
十輪がぼやく。それも仕方ない事だ。
なぜならば吸血鬼フィアは移動手段が不明なまま近付いてきたのだから。
だとしても、ここで怖気づくわけにはいかない。自分の、皆の、命がかかっているのだから。
「さぁ、勝負よ」
銃口を構える、スコープを覗く。視線の先に、討つべき存在が居る。
「……そう、また助けてくれたんだ」
嬉しいような悲しいような、そんな表情を浮かべるフィアは俯いている。
「……えぇ、がんばります」
面前には十字教の量産型聖人と竜王に選ばれし槍使いの老兵、遠方に現代兵器を携えた医女、そして姿見えざる錬金術紛いの異能者。
真っ先に潰すべきは決まっていた。姿無き、錬金術紛いである。
瞬間、フィアの体は霧散し辺り一帯を高濃度の霧で包む。爆発の様に発生した霧は突風を巻き起こしながら広がっていった。
第四真祖『霧夜』の力、それは暗殺に特化した呪い。にも拘らず真祖『霧夜』はロンドンに置いて大量殺人を敢行した唯一の怪物である。推定人数百人超、その攻撃能力、逃走能力は未だ人類が捉えきれない程高度な物、故に、例え劣化と言えど霧に紛れられては冬樹の魔眼でもない限り見つけられない。
ビルの上、雲海の様に霧が広がる道路を見下ろしながら十輪は動く物を捉えた。
高濃度の霧、一メートル先に光が届かない。また、本来ならば極寒の中凍る筈の霧は吸血鬼の呪いだからか凍結することは無い。
それでも、動く物があった。
「やっぱり目が良いのね貴女」
ゾクリと、一瞬の悪寒が背筋を走る。自分の真後ろに既に居ると知らせるように。
振り向き銃口を突き付けようとした刹那、フィアは既に面前に居た。
押し倒し、首を絞める。声が出ないように、叫ばれないように、知らされないように。
「アッ……ガァッ……」
「あれと戦う前に血の補給はしとかないと、死にかねないし」
あれ、が誰を指す言葉なのか十輪にはわからない。唯一言える事は、これ以上強くなられれば勝ち目が無くなる。
とっさに懐に隠し持っていた拳銃を敵の腹部に突き付け数発放つ。効いている様子は無いが音で異常事態である事はわかる筈だった。だがそれが敵の行動を早める結果となった。
剥き出しになった牙、獣の威嚇に似た形相は恐怖を与え、血をその命を啜る為に色白の柔らかい女の肌、首筋からずれた肩辺りに突き立てる。
吸血鬼の捕食、それはまるで命を貪るように卑しく品の無い行為だった。
チュウチュウと吸い上げる音が静かに聞こえたわずか数秒後、フィアは悲鳴を上げて喉抑えた。
「何……これェえ。まさか……」
「えぇ、そのまさか」
十輪がフィアを蹴り飛ばし自分の喉を擦る。赤く痕の着いた喉と血が垂れ流される右肩を即座治療する。魔術と医術を掛け合わせた流派の技で。
「吸血鬼化対策と吸血対策の二点、私は唯一用意できた」
喉を焼く痛みと込み上げる怒りで思考が鈍る。次どうするべきか、というごく当たり前の予測が出来なくなっていた。
「対吸血鬼用の毒の味はどうかしら?」
「お前ぇぇぇぇぇ!」
吸血鬼化どころか血を吐きながら痛みを抑えるので精一杯だった。
だから、あれが来てしまった。
黒い光がビルの床と天井を突き破り、光と轟音、そして大きな揺れと共に黒い狐は飛び出した。
「十輪さん!」
半人半獣と呼ぶべきその姿は獣性を抑え制御できている証、その姿で三本の尾を生やした楓が十輪を抱きかかえ、大通りを挟んだ反対側のビルへ飛び移る。
「怪我!」
「すぐ治る。それよりも視線外さない」
「え?」
反対側のビルからフィアが跳ぶ。
その様はまるで獲物を定めた獣のようだ。
狙いはもちろん、そこにある獣。真っ黒な狐。
「私は退避する!気張って!」
「はい!」
十輪の事など無視してフィアが楓に襲い掛かった。
「さっきはよくも……」
「お互い様でしょ」
喉に手を伸ばし首をへし折りに行く。対して、触れればほぼ勝ちである楓は正面から手首を掴みに行った。だが霞を払うように腕が霧状になって霧散する。掴みに行った腕が空を切ると再構築し楓の首に触れた。
勢いそのまま、ビルの端へと寄られ力一杯首を締めあげられた。
「うぐッ……」
即座に手すりに触れ、伝って床の形を変形させ勢い良い逆ギロチンで腕を切断する。切断されれば流石に力は和らいだ。その間に振りほどき黒い光を放つ。
フィアは腕を再生させ次の攻撃に備える。黒い光が直進にしか進めないのであれば対策として狙いが定まらないようにすればいい。簡単な話、瞬間移動を連続して使えば捕まらない。霧化と実体化を連続して行い疑似的な瞬間移動を再現する。
それを、楓は捉える。
右に左に、前に後ろに移動するだけで上と下は無い。それだけで五回目に出てくる場所へ突撃した。
ビルを数軒貫き二人とも宙へ投げ出された。楓の攻撃に対しフィアは最小限のダメージで抑え込む。
だが、雪村楓は止まらない。
途中手にした瓦礫の破片を変形、細く長くし枝葉の様にして他のビルの瓦礫に接続、まとめて巨大な銀の杭へと変えた。
「喰らえ!」
加え火薬と雷管の技術を応用し一瞬の爆発で銀の杭を飛ばす。さながら銀の弾丸。
フィアはとっさに霧へと姿を変え回避する。実体化したのは楓の真後ろ、気付かない彼女へと噛みつきに行く。
刹那、槍がフィアの首を切り落とした。
「小娘、気ぃ付けろ」
アリウスがパルクールの要領で壁を駆け上りフィアの攻撃を阻止した。
数コンマ遅れて楓が振り返りフィアの存在に気付いた。もしアリウスが居なければと想像し怖気、喝を入れる。
「ありがとう」
「おう」
だがフィアも即座に再生、否、切り落とされた首も体もまとめて霧散し実体化した時に元に戻す。
地上に降り立った瞬間、鍛え上げられた肉体から放たれた拳がフィア目掛けて飛んだ。肉体には僅かに十字教の聖なる力が含まれている。
アインの拳だった。
直前でガードしたフィアは数メートル後退りアインを睨みつける。
「寄って集って、弱い者いじめは楽しい?」
「こうでもしなければ人間は吸血鬼には勝てないです」
「そう、でも、私にとっては貴方達の方がよっぽど脅威」
視線が交わる、三人とも同じ敵を見据える。
「本気出しても、文句、言わないでよ」
放たれる殺気、漂う死臭、そこに、生者の居ない呪いがぶちまけられる。
「ここからが本番かの、気ぃ引き締めい!」
「「はい!」」




