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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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邀撃作戦 【変調】

 時間は少し巻き戻り、星が落ちたその時。

 その光景をビルの上から遠目に咲哉と左肩に抱えられたアリスが目撃していた。

「始まったね」

「だね」

 絶対にフォルテはアリスを追ってくると確信があった二人は静かな夜の街に不気味さまで覚える。

 だからこそ、最大限の警戒を。

「……ごめん咲哉、背中にめっちゃ傷付いてる」

「今確認しないで、今は警戒して」

 ──────その時は、唐突に訪れた。

「結界領域」

 咲哉とアリスが結界に包まれた瞬間、真っ先に咲哉の抜刀が居合となり結界内と結界外の境界線を切り裂いた。

 結界領域は不発に終わる。しかし、どこから展開させたのかまるで見当がつかなかった。

 一瞬で、結界を展開させた、その速度は瞬くより早かっただろう。

 だが、咲哉はどこに居るのかすぐ見当がついた。

 風を切る音、自分達を目視できる場所、即ち、頭上。

 天を仰ぐように夜空を見上げる。そこに、赤く光る星があった。

 否、それこそがフォルテ、血を纏いし吸血鬼。

 頭上から奇襲を仕掛けた吸血鬼は赤い光を放ち加速度的に落下する。

 それはまさしく隕石、咲哉とアリスの居たビルは粉々に粉砕され周囲のガラスが割れていく。

 冷たい風が頬を掠め、その風に混ざって瓦礫とガラス片が飛んでくる。

「さぁて、戦いを……」

 そんな攻撃程度で咲哉が死ぬ訳が無かった。

 落下した直後、瓦礫とガラス片を掻き分けるように掻い潜り落下した直後のヘリスの心臓を突き刺し首を切り落とした。

 もちろん無傷ではない。全身にガラス片と瓦礫による細かい傷が出来ている。それでも、勝敗は急がなければならない。

 どんな相手よりも、こいつが一番危険なのだから。

「ダァァ……安心したよ。容赦なくて」

 即時再生、だが残機は二つ減った。

 復活した瞬間、再び素っ首が飛ぶ。

 絶え間なく続く攻撃、一撃一撃が即死級の必殺。天条咲哉は一切の攻勢を許さない。今までの防御主体の戦闘スタイルを崩してでも相手に攻撃させない。

 それが、咲哉の対吸血鬼戦法だった。

 約五十回命を散らしたところで初めて咲哉の手が止んだ。

 フォルテは自身の肉体の再生にかなりの時間を有するほどダメージが入っている。

「勝負あったね、フォルテ」

「慢心か?」

「自滅して巻き添えを喰らわせるつもり、なんだよね?」

 最後の奥の手すら見抜かれた上で、次の一撃で死ぬ予感があった。

 これが天条咲哉、稀代の武才、こと戦う事に置いて並び立つ者がいない。

 フォルテにとっては万事休すだった。

 だがそれでも、ある仮定に対して事実であるという確信がある。

 それは……

「弱くなったのう、咲哉」

 本来の実力であれば既に死んでいる。

「だが剣技の冴えはこれまで以上、だが、たかが技量でどこまで誤魔化しが効くか……」

 三度、首が飛んだ。

「そうだね、昔の方が強かったかもね。でも、僕の絶技には神仏が宿る。神域に至った人間を侮らない方が良いよ」

 それでも、不気味な笑みは消える事無く、ただただ漠然と目の前にある事実を述べる。

「人間じゃないだろう、お前」

 跳んで行った首が、ひとりでに話し出す。今度は体の方を捨てた。

 だが自滅特攻ならば咲哉は届かない場所に居る。だがそれは自滅特攻などではない。

 爆発した肉体は濁流の様に湯水の様に血液が溢れ出し街一帯を覆っていく。

 とっさに隠れていたアリスが咲哉の手を引っ張って距離を取った。

「アリスを抱えて走れ!間に合わなくなる!」

 咲哉が軽々アリスを抱え全速力で離脱する。

 だが、まるで津波の様になって押し寄せる血液から人の足で逃げるには限界がある。

 咲哉は横への逃走から上への逃走へ切り替える。

 パルクールの技術を応用させながらビルの壁を蹴って駆け上り難を逃れる。

「……どんだけ溜め込んでたの……」

 血は赤黒く、青くさえ見えた。不健康な血の色に悪寒が走る。

 まるで瀉血である。

 対してアリスはこの光景に全く別方向の寒気を感じていた。

「これじゃ姉様の……」

 その言葉にビクリと緊張が走る。

 アリスの、第五真祖の姉なんて現状一人しかいない。

 第三真祖『鮮血(スカーレッド)』、血液を操る能力。

 その彼女に残る伝説の一つ、近代の街をたった一夜で滅ぼした『血濡れ街』と呼ばれる吸血機構。

 その吸血機構が、目の前で構築された。

「【吸血機構(スカーレッド)】」

 血に溺れた街、浮上し顕現するは異界、飲み込み浸食するは人の世界。

 つまり、人を呑む生きた呪い。

「【血濡れ月夜(ブラッディムーンデイ)】」

 血に濡れた街、血液で構築された生きた街は本来であれば満月の夜に月を血だまりに映す残忍さと妖艶さを併せ持つ。しかし『鮮血』を彷彿とさせる光景はどす黒く、青ざめた血で構築されているからか残忍さよりも妖艶さよりも、不気味さが際立っていた。

「かつて『鮮血(スカーレッド)』は街一つを飲み込み自らの力として昇華させた。それがこの光景、血濡れの街、血染めの女、まさしく人類を呪った星の意思の体現だろう」

 摩天楼の一角に再生したフォルテが佇む、見下ろす。咲哉に宣戦布告するように、一望できる場所に陣取っていた。

「そうだね、確かに土地そのものを攻撃手段に変える彼女は生きた呪いそのものだろうね。でも……」

 だからこそ、咲哉は刃を振るう。

 それは、お前には大きすぎると。

「お前の呪いじゃない」

 一刀、異界を両断した。

 構築された街は形を保てなくなり流体へと戻っていく。異界は形を失い元の世界に飲み込まれ、血は死に蒸発して跡形も無くなっていく。その様子を見てからビルの上から飛び降り水柱ならぬ血柱を立てて着地した。

 バシャリ、バシャリ、と形を失った血の上を歩く。

 もはやこの勝負に先は無い。天条咲哉の完全勝利で幕を閉じる。だというのに。

「まだ笑える余裕があるの?」

 咲哉の問いかけに血だまりに倒れ半身を持っていかれたフォルテは笑みのまま答えた。

「ない、がしかし、な」

 笑っている。その顔はどこか威嚇しているようにも見えた。

「笑っているしかないというものよ」

 最大限の警戒を、まだ何か隠し持っている事を前提に咲哉はゆっくりと近付いた。

 再生は遅い、ならばまだ幾何かの猶予はある。

「それになぁ、それにねぇ……」

 何もなかった、近付いても特に何かをする訳でも無く、ただただ咲哉を見続けていた。自らの心臓が刃に貫かれそうになっているその刹那にも。

「はらぁ、へったなぁ」

 心臓を穿つ、残機全てが消し飛んだ。しかしその瞬間を待っていたと言わんばかりに反撃が開始される。

 先ずは爆発、血液の急増によるフォルテの爆発四散で肉片が飛び散った。飛び散った肉片は蠢き、咲哉の元へ集い呑み込もうとする。

 とっさに振り払って跳んで逃げるが散らばった血が細かな棘となって飛んでくる。

 上着で棘を防ぎ着地する。その間たったの二秒、その間にフォルテは再生していた。とても、人と言える姿ではなかったが。

 その光景に咲哉は一つの疑問が浮かび上がる。

 フォルテは第九真祖『異形(メタモルフォーゼ)』は有していない。つまり、異形となって活動できる力を持っていない筈なのだ。なのに、今、目の前に居るフォルテという吸血鬼は人の形を捨てた。

「お前ッ……俺たちの知ってるフォルテなの!?」

 笑う、笑う、笑う、ただ口角を吊り上げて笑う。

 それはピエロの様に、殺人鬼の様に、血の紋様を顔に塗りたくる。

 ただその瞳だけは、窪み、闇が広がっていた。

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