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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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邀撃作戦 【獣性】

 しくじった。

 この作戦における本当のエサは魔法使いの男じゃない。分かりにくい所に陣取っていた狙撃手の女の方だ。

 私が忍び寄って背後から襲おうとしたら忽然と姿を消してビル全体がうねりだした。

 銀に変わるコンクリート、逃げようとしても四方を閉ざされ逃げ場の無くなった巨大な棺桶の中で心臓を穿たれた。

 私の姿を見た女の反応からしておそらく誰にも伝えていない。

 油断も隙も無かった。慢心なんて私たちは持っていなかった。

 あの男は、魔法使いの男は、この時点で人類の天敵を騙し討ちできるだけの頭脳を有している。

 一対一ならもっと早い段階で終わっていた。

 彼が、ヘリスが居たから何とかなっていただけで居なかったら……。

 彼だけなら、どうとでもなったかも。だって、下級と言われようと彼は強いから。

 そんな希望的観測をする私が極寒の季節の夜風に触れた時、空に浮かぶ星々がヘリスを焼いていた。




 それはまさしく流星帯、束になった一万の星々は膨大な熱量を帯びて一匹の吸血鬼を殺すために降り注ぐ。

 もちろん決定打ではない。だが、手足ぐらいは千切っておかなければ疑似太陽を作る時間は稼げない。その間に結界を破る事だろう。

 故に、瀕死まで追い込む。そこまでしなければ次につながらなない。

 なのに……

「マジか」

 冷汗が噴き出る光景、吸血鬼ヘリスは降り注ぐ星々の中にあっても予想より耐えていた。

 だが苦悶の表情をしている。熱で焼かれるのだ、悲鳴を上げないだけでも流石としか言いようがない。

 ならばと、冬樹は結界を小さくし流星帯を細く密度が高い状態にする。これでやっと目に見える形で体が焼け始めた。

 加え熱傷は例え吸血鬼でも再生しずらい。時間を稼げる良い手だ。

「こりゃあ儂らの仕事は無いかもな」

「一応警戒してくださいです」

 とはいってもその瞳も態勢も戦えるようにはしている。

 だからこそ、予想だにしない所から綻んだ。




 ヘリスが焼かれている、あのヘリスが。

 誰よりも強くて、守ってくれていた優しい彼が。

 吸血鬼に成ったばっかりの時、私は泣きながら母親だったものの血を啜っていた。地面に這いつくばり、卑しく、媚びへつらうように。子供だった私に、私を吸血鬼にした真祖は教えた。

 一生そうやって生きろ、母親の様に、と。

 嘲り笑いながら。

 愉悦に浸って。

 我に返って泣いて、一人寂しく彷徨っていたら彼に出会った。街の片隅で小動物を食いながら時折人間の血を啜って生き永らえて、迫ってくる十字軍を巻きながら時には返り討ちにして。

 強かった。身体的にではなく精神的に、絶対に守ってくれるという安心感があった。

 だから、その光景は絶望だった。

 だって、誰よりも強かった彼が、血脈とか関係ない、階級なんて関係ない、下級とか何のそのな彼が、地面に這いつくばって焼かれている。

 私の希望が、より強い光でかき消される。

 悲鳴を上げる、潰れた肺のせいで声は出ない。

 涙を流す、血と共に。

 心は、擦り削れる。

 ただ生きたいという願いは、より強い生存を願う心に負けた。

 私達は死ぬ、このまま、何の思いも叶う事無く。

 ……でも、もし、叶うのならば。

 最後の最後、悪あがきがもし一矢報うのならば。

 今まで守ってくれたこと、その恩を一つでも返せるのなら。

 ……私の中には腹が減ったからヘリスにねだって分けてくれた血液がある。その血液にはもちろん少量ではあるが彼の血が混じっている。

 私は弱いからその血を自分の物に出来ず、ずっと体内を巡っていた。

 もし、その血がこの銀に触れれば、きっと、ヘリスが持っている力を取り戻せるはず。

 迷いはない。だって私は。私達は罪の無い生き物だ。生存を願う事が悪ならば人間なんて真っ黒なんだから。

 だから死力を尽くす。自らの行いに恥など無い。人間の様に我儘に生きるのみ。

「傷、舐めてくれて、ありがとう」

 激痛に眩暈がする。口から生暖かいものが流れ出る。吐き出した舌だった肉片は銀の壁を伝って落ちて行った。まるで私の末路を示しているように。

 血を失えば銀の毒で死ぬ。けど、死ぬ前に彼の血がほんの少しでもいいからこの銀の塊に触れれば、彼だけは、勝てる。

 意識が薄れ銀の毒に蝕まれる私の体は、冷たく、動かなくなっていった。




 再度、銀がうねりだした。もちろん作戦にはない。

「……楓?おい楓!」

「ちがッ……私じゃない!」

 燃える遺体一つ、だが蒸発し跡形も無く消えるはずの吸血鬼の血液は、ぼとぼとと流れ出ていた。

「……フィア?」

 燃えるヘリスが見たものは、朽ち果てて逝こうとする彼女。

 そして感覚としてそれが手足の様に動かせる事に気が付いた。

 その瞬間に彼女が一体何をしたのか、何があったのかを理解する。

 怒りを吐き出し怒声を上げるその前に、彼女の覚悟を無駄にしない為朽ち果てて逝く手足に力を込める。

 星が降り注ぐ地獄の最中、ヘリスは笑った。

 その顔を見て即座、冬樹は直感した。まだ何かしてくると。

「その銀を今すぐ銅に変えろ!」

 強い口調の命令、けれどおかげで楓はすぐ対応できた。

 加え、冬樹は一気に勝負へ出る。魔力の消費を度外視し後の事を考えず止めを刺しに行く。

 疑似天体、太陽の創星。

 魔力消費が格段に抑えられているとはいえ三分の二の魔力を使用し、直径三メートルのその星はヘリスの直上に創られた。

 その星は輝く前に銀によって貫かれ、霧散する。

「……は?」

 とっさに、冬樹は先ほどまで銀で今は銅のビルだったものを見る。

 ビルは確かに銅へと変わり動いていない。問題は、その上にある液体のように動いて銅とは繋がっていない、まるで銀色の、水面に映る月のような球体となって浮遊している物体だった。

 それを見た瞬間、アインが思い出す。

「まさか『銀弾(シルバー)』から力を奪った……」

 瞬間、銀から空気をかき分けて弾丸のようなものが飛ばされた。

 音速を超えたそれは対物ライフルに匹敵する威力を持つ。もしとっさの判断でアリウスが弾いてくれなければ今頃脳漿と臓物をぶちまける事態になっていた。

「いったん退くべきだ。これは想定外じゃろう」

 想定外、なんて規模じゃない。

「賛成です!『銀弾』は吸血鬼、そして……魔術師の天敵です!」

 球体となった銀はヘリスを包み込みあらゆる魔術から身を守る。その僅か後、結界が紙を破るように突破された。

「……いや、やるぞ。作戦は続行だ」

 空に浮かぶ星が流れる、落ちる。

「ここで食い止めなければ、全滅するからな」

 輝く命は星の様に、銀色の月に負けぬように眩く光る。




 燃える肉体は吸血鬼の死を意味する。

 そもそも吸血鬼の弱点は日光、銀、心臓と多いがその分不死そのものの強さは規格外である。吸血鬼以外の不死の殆どは百年で自我は崩壊するが、吸血鬼ならば数百年と保たれる。

 つまり、精神的に成長でき、肉体と心は連動する。心が大人になれば体も大人になっていく。

 だが、ヘリスは違う。

 死にかけた時に近くに居た吸血鬼の返り血が傷口に触れ吸血鬼となり、吸血鬼の中でも最弱に近い階級で生きてきた。もしこれが人間から成ったのであれば早い段階で死んでいた。

 特別ではない異例、それがヘリスという吸血鬼、生きる事に理性ではなく獣性で生存を選択する怪物。

 それでも、人の姿に成長できるという事は人の心の一片程度は獲得したという事。

 だから、彼は、フィアを助けるという選択をした。

 自らの舌を噛み、灰になっていく彼女に口伝いに血を流し込む。

 吸血鬼はこの世界にとっての異物、死ねば跡形も無く消える。

 でも、思い出まで消える訳ではない。

 あの時の様に、誰かを失うことは無い。今度は、今度こそは、命を救う手段があるのだから。

 炎が消える。熱が消える。冷たい、遺体のように目を覚ます。

「目、覚めたか?」

「…………きっも」

 銀の月の中、二人は幸せなキスをして……

 銀の膜を突き破って三つの星が飛び込み、二人が視認した刹那、強力な爆発を起こし一掃する。

「おいおい、ハッピーエンドぐらい見させろよ、空気読めねぇな」

 爆発を防いだヘリスが赤い銀色の狼となって砂塵を払う。

「うっせぇ、爆死しろ」

 無数の星が転回するその中心に、一際輝く星の命。

 退治する二人、本当の戦いが幕が切って落とされる。

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