表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
40/59

邀撃作戦 【開始】

 口に広がる悦楽。

 喉を通す歓楽。

 腹を満たす快楽。

 それを味わった時、初めておいしいという意味を知った。

 ここにはこれが沢山あって、決して尽きる事は無い。

 だからここに居た。この楽しみが失われることは無かった。

 けれどある日、違うそれを見た。

 きれい(おいしそう)で、かわいく(おいしそう)で、目が離せなかった。

 その日の内にそれの所に行った。

 きっとおいしい。それの肉付きもいつも食べてるものとは違ったから。


 その日、それを味わった。


 何一つ、満たされなかった。




「おい、フォルテのおっさん」

 誰かの声で目を覚ます。

 確か……。

「ヘリス……」

 だったはず。

「時間だぞ。体の方は回復したか?」

「あぁ、万全だ」

 重い体を起こし焼ける空を睨んだ。

 あぁ、随分と眩しい。

 これが吸血鬼の特性か。

「陽の光は慣れんな」

「何言ってんだよ。陽の元を歩む者(デイライトウォーカー)だろおっさん。太陽光は慣れてると思ってたが」

「慣れんさ。お天道様に顔向けできん人生だからな」

 もうじき陽が沈む。あと数分で世界は闇に染まる。

 そうなれば、後は僕の時間。

 楽しみだ。楽しみだ。

 白い髪、赤い目、絶世の、この世の物とは思えないあれを、■■■■る。

 欲情したように鼓動が早くなって、濡れるように唾液が満ちる。

 あと少し、あと少し。

 あと少し……。




 パタパタと作戦開始前に開始地点で扇を仰ぎ十輪が処置している楓に罵倒が飛ぶ。

「バカじゃねぇの湯あたりとかさぁ」

「ご、ごめんなさい。でも、もう冷えたので退場部です」

「呂律が回ってねぇじゃん」

「軽症だから私がササッと治しとく。そっちは?」

「準備万端。あとは敵が突っ込んできてくれたら大丈夫だ」

 冬樹が提示した作戦はシンプルかつ分かりやすいものだった。

「俺達が囮になって吸血鬼を誘い出し結界を予め設置している場所まで誘導する。うまくハマればこれで終わるだろうな」

「結界破りはどうするの?」

「対処しきれない飽和攻撃で身動きを取らせない。どっちか、もしくは両方にする事になるが」

 陰る、冬樹の瞳と表情はらしくなかった。

「不安ですか?」

 有ろう事か見抜いたのは楓だった。

「……目聡いな。あぁ、そうだよ」

 呆れるように冬樹は言い放った。

 仕方がない。だって彼はまだ十五の少年なのだから。

「どれだけ策を弄しても不安は拭えねぇよ。俺は」

 対する咲哉は信用してくれた。東雲冬樹ならばやってくれると。その事実がなおの事重圧となってしまった。

 けれど、答えなければ。信頼に、報いなければ。

 これはいつか人類がぶつかるべき問題、それがたまたま早まって、自分たちに回ってきたのだから。

「だからまぁ、出来る事はしようぜ。無理だと思ったら逃げてもらっても構わねぇからよ」

 ただの保険。それでも無いよりはマシだ。

 そして陽が沈む。闇が来る。生涯において最も長く、忘れられない夜が訪れる。




「子供達は全員退避、咲哉の庵に居るです」

「門は」

「閉じてくれたです」

「内側から開けると言え、一番安全な場所だよな。ありがとう咲哉」

『うん』

「気張れよ」

『そっちこそ』

 通信が切れた。咲哉が集中するために持って行った通信機器はお互いを激昂した後に静かになった。

 咲哉はアリスを抱え二人で遠くへ行った。フォルテの狙いがアリスならば確実に追ってくる。絶対と言っていた。

 それだけの執着、妄執と言うべき精神を理解していた。

『咲哉君大丈夫かな?』

「大丈夫じゃろう。あれだけ強ければ」

 通信機から聞こえる楓の声は心配していた。心配する必要などないぐらい強いが、一抹の不安はやはり残る。

 対して咲哉と実際戦ったアリウスは心配などせず信頼しきっていた。というか、心配する必要が無いようだった。

「咲哉がやられればどれだけ徒党を組もうと全滅は回避できんじゃろうて」

「……確かに、有利不利の前に咲哉が死ぬって事は、咲哉が戦う前より強くなってるしな」

 息を飲む音が聞こえる。

『今からでもレーヴァテインちゃんを向かわせた方が』

「咲哉が隠れ家と言えど安心できないっつって庵で待機させてるが」

 咲哉が門を使わない限り即座に咲哉の元へ駆けつける手段は無い。どちらにせよ、この段階で出来る事はもうない。

「腹ぁ括れ、もう俺たちにできる事はすべてした。あとは叩き潰すだけだ」

 冬樹、アイン、アリウスは広場の見通しが良い場所で四方を警戒し、十輪は廃ビルの屋上で狙撃銃を構え、楓は気配隠しを使って貰って物陰に隠れている。

 各々が冷汗を流し極寒の夜に白い息を吐いている。

 緊張も、恐怖も、不安も、全て飲み込んで……。

 邀撃作戦は開始された。

「でぇえ、こんな分かりやすい罠に引っかかる無能が居るとでも思ってんのかぁ?」

 気の抜けた、気の抜けない声が聞こえて五人全員に緊張が走った。

 ぬるりと暗闇からその声の主は現れる。

「お前……」

「あー、その眼、やっぱり俺を見つけれてなかったな。お前の性分か悪癖か、隅々まで見ようとしてねぇな」

 ヘリス、吸血鬼が姿を晒した。見上げるように顎を引き、さわやかな笑みを浮かべながら。

「随分余裕ぶっこいてんな。相方どうした。腹ペコでノックダウンか」

「あと少し近づけば罠が発動するからって焦んなよ」

 そう、あと少し。あと一歩二歩で結界の発動範囲内、にも拘らずヘリスは歩を進めない。まるで分っているかのように。

 その存在に対して冬樹の左右からアリウスとアインは守るように前に出た。

「それよりもよう、こっち見ろよ魔術師。探ってんじゃねぇよ」

 ヘリスと共にいつもいる女吸血鬼フィアとフォルテを探していた事が即座にバレた。

「安心しろよ。フォルテのおっさんは白髪のあっちを追いかけたからよ」

「安心できるかよ馬鹿垂れが」

 だが、もう一人、フィアはすぐ見つけた。場所は……。廃ビルの屋上。

 理解に一瞬かかる。女吸血鬼が居た場所は十輪がいた屋上、振り向き気付いた時にはもう遅かった。

「さて、やろうか」

 冬樹が動転した瞬間、ヘリスは地面を蹴って跳びかかる。結界の起動役は冬樹、反応が遅れれば閉じ込められない。

 真正面から冬樹を打ち破る為に動揺を誘った。わざわざ、姿を晒し、警戒させ、余裕が亡くなった所で攻勢に出る。

 様々な意味で理にかなっている。冬樹を最大限警戒しているからこその正面突破、全ての策を潰す為の力技。

 読んで無い訳なかった。

 瞬間、ビル全てがうねり銀色に染まっていく。動揺を誘った冬樹はいたって冷静に結界を起動させた。

五芒星・(ファイブスター)五重結界(クウィーンクウェ)

 地面に配置された陣が落ちてきた星によって五芒星を描き五角錐の結界となる。それが即座に五重、展開された。

「想定済みだ、人間舐めんな」

 だがしかし、彼には奥の手があった。

「そうか!だがッ……結界破りは俺だ!」

 振るわれる拳が結界に衝突する。結界は青白い電撃を放ち吸血鬼を拒絶するもひび割れる。が、一枚破られたところでヘリスは止まった。それもそのはず、結界を殴った拳はボロボロに焼け爛れていたのだから。

 再生は遅く、この結界自体が魔性を知りぞける退魔結界、下の下の吸血鬼であるヘリスでは例え結界破りの力を有していても破ることは難しかった。

 難しいだけで出来ない訳ではない。だが、対策済みである。

 展開される、無数の星々、今日は快晴、それは全力で降り注ぐ。

夜空を映す星図(ウラノメトリア)

 一万の星々が束となり結界内に一斉に降下する。

 それはもはやレーザー、ヘリスを焼き続け再生よりも上回る速度で肉体を破壊する。

 同時、銀と化したビルとは別のビルから十輪が狙撃銃を構える。次善の策としてマークした場所に一度だけ瞬間移動する魔術を予め仕込んでいたことでフィアの強襲を逃れた。

 そして銀となったビルには拘束され心臓を穿たれたフィアが磔にされていた。

 吸血鬼の性能を著しく奪われたフィアにその場から抜け出す手段は無く、退魔の結界内で恒星の光で焼かれるヘリスもまた吸血鬼の力を奪われつつあった。このままいけば弱り切った所を太陽を作り出して炙れば人間の勝ちである。

 不安だのなんだのぬかしつつも確実に勝ちの目を作り上げた冬樹は確かに性能面だけではなく頭脳面でも吸血鬼の天敵だった。

「あとは、煮るなり焼くなり、好きに出来る」

 楓によりフィアは完封、ヘリスは焼かれている真っ最中だった。

 その最中で走馬灯を見る。ある日の、日々の追想。

 仲間に捨てられ、路頭に迷っていた吸血鬼ではない昔を。フィアの面影に思いを馳せて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ