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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
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星空乖離

 空が明るくなりだした夜明け前、徹夜組は重くなる瞼を擦り睡魔と戦う。

 そうはいっても完徹しそうな勢いなのはただ一人、十輪夏海だけである。

 治療中の子供達、全十二名は快復とはいかないが食事が可能な状態までは戻った。魔術医療だからこそ成せる高速治癒、魔術師だからこそできる型破りの医療法。

 冬樹ほどではないが天才の域であった彼女のおかげで咲哉達が見つけてからの死者は一人も居なかった。

 全十二名の子供は無事、明日を迎えられる。

「ふわぁ……」

 襲い来る眠気から逃げるようにあくびを噛み殺す。

 ふと、なぜ用意したのか覚えていないもう一人分の医療用ベッドに視線を向けた。

 誰かが居た痕跡はない。けれども、誰かがそこに居なければならないような気がした。

 と、誰かが戸を叩く。

「……はぁーぃ」

 重い腰を上げて扉の前まで行ってふと気づく。

 誰が今この戸の前に居るのか、誰も居ない、気配が無かった。

「……だれ?」

 その言葉に反応してか否か、もう一度だけ戸が叩かれた。

 一息置いたその後、何人もの人間が強く何度も戸を叩くような音と揺れが十輪の目の前で発生した。

 心霊現象、まるで中に入れろと言わんばかりに強く増していく。

 だが冷静に、十輪は言う。

「私はあなたを助けない、救えない。どうか元居た場所へおかえりください」

 それは亡霊退散の心構えというか、悪霊以外はこの言葉でどこかに行ってくれる。

 そしてその言葉通りに音は消え室内は静まり返る。

「……お化け出るんだここ」

 なんだかんだ複雑な気分になりながらも持ち場へ戻っていく。

 変わっていない筈の光景、十三のベッドに眠る十三人の子供達を眺める。

 沈黙の後、静寂を破るような轟音が外から響き渡った。

 反応が遅れて悲鳴が上がる。

 そこで初めて良からぬ事が起きたと理解して十輪は外へ飛び出していった。




 上空から飛来する二つのそれは空気を切り裂き風切り音を響かせながら、広間の中央に突如として降り立った。

 金色の髪を揺らし、真っ赤な瞳の男は言う。

「おぉおぉ、人間がいっぱいだな、こりゃ久しぶりに腹一杯に成れるぜ、なぁ、フィア」

 その問いに若干の不機嫌さを見せながら、やさぐれたような女は白髪交じりの灰色の髪を揺らしながら赤い瞳で辺りを見渡した。

「そうねヘリス、でも乳臭そうな子供ばっかりじゃない」

「甘いのは苦手かぁ?」

 大きな音に飛び起きた子供たちが窓に見え、フィアは笑う。

「耳障りなキンキン声が嫌なだけよ。喰う時うるさいもの」

「あー、確かになぁ。そういうときは喉元噛み千切ってやれば静かになるぜ」

 怯え震える子供を覚めたばかりの脳で何とか避難させようとするアイン。だが、わずか一瞬の後に悪夢の影は目の前に現れた。

「よぉ、どこに行くんだ?」

 淀みきった赤い瞳がアインの視線と交差した。

 判断がわずかに遅れた。

 吸血鬼の超身体能力は象と蟻ほどの差がある。故に軽く蹴られても人体には車体に轢かれるほどの強い衝撃が走る。

 そも、人間が吸血鬼と対峙する場合は攻撃はすべて避ける事が前提である。殴られれば頭が吹き飛び、掠っても血による吸血鬼化もしくは成り損ない死ぬか。

 どちらにせよこの瞬間、アインはヘリスの蹴りを両腕で受け止めるも体は跳ばされ、コンクリートの壁を突き破り二十メートル後ろで止まった。

「あ……あぁ……」

 口の中に滲む鉄の味、強打した後頭部から流れる生暖かい液体、霞む視界と朦朧とする意識、今の一撃でアインは瀕死へと追い込まれた。

「まっじかぁ、生きてんのかよ。いいなぁ、まずはお前にするか」

 一歩、また一歩と、確実に獲物を追い詰める狩人が如き脅威を目の前に、星が落ちる瞬間を目撃した。

 それは冬樹の魔術、星を落とした大偉業。

「『夜空を映す星図(ウラノメトリア)』」

 展開された星々は二体の吸血鬼を真上から打ち抜きハチの巣にした。

「よぉ、吸血鬼」

 東の空に懸かる雲が陽を隠し、明るくなり始めていても十全に発動する星落としの魔術、恒星の性質を持った光は吸血の体内を焼いた。

 フィアの前に姿を晒す形で現れる。攻撃対象を自分に向けるために。そして油断なく。

 地上の星、既に開いた魔眼、展開された星空は容赦なく吸血鬼に止めを刺しに行く。

 が、しかし、この程度で死ねるほど吸血鬼は弱くない。

 ヘリスの標的が瞬時に冬樹へ変わった。同時に、フィアは自らの体を霧に変えあたり一面を包み込む。

 それはウラノメトリア唯一の弱点、星空を魔眼で直接観測しなければならないという条件。それを霧化し視界を塞ぐことで星落としの魔術を封じ込む。

 だが、それはあくまで星を作る際の話、一度作り出し展開されている星は関係ない。また、冬樹の魔眼は観測、視界を塞がれても対象を捉え続ける。

 霧に紛れたフィア、だが、瞬時に無数の星が眼前に飛んでくる。

「嘘でしょう!?」

 瞬く間に霧が晴れ、冬樹の目の前に負傷したフィアが現れる。

 容赦はない、次は逃れられないように前後左右上全方向から一斉に隙間なく星を撃ちだした。


 その時、短く小さく、悲鳴が上がった。


 東雲冬樹、星落としの魔術師にして星創りの魔法使い。彼は現人類の中で魔力の問題さえどうにかすれば最強の一角に名を連ねる。

 そんな彼には致命的かつ人間的な弱点を有していた。

 それは、動揺しやすい事である。

「……シャル?」

 血の飛沫がぶちまけられる。

 絹のような金色の髪と、色白な肌、小さく幼い後姿を真っ赤な真っ赤な鮮血で穢された。

 ほんの一瞬、目を離した。霧に紛れたフィアを捉える為に注視した。全方向、真後ろさえ見える魔眼から視線が外れた事を悟ったヘリスは直前まであった敵性存在排除の衝動よりも空腹を、渇きを潤す方を選んだのだ。

 そして、最も近くに居たのが子供達の避難を誘導していた。

「シャル!!」

 喉が潰れるような叫び声、魔眼で捉えていても即座に振り返ってしまい、さっきまであった星は瞬く間に霧散する。

 新しく作り出した星が飛翔する、数も威力も不安定で今にも崩れ去ってしまいそうだった。

 案の定、ヘリスが金髪の少女を盾にすると動揺した冬樹は心に引きずられ星が流れ星のように掻き消えた。

「は、ハハハーッ!ひっさしぶりの新鮮な飯だぁぁぁ!錆くせぇけどうめぇぇ……、うめぇえ!」

 雄叫び、もしくは遠吠え、歓喜の叫び声は廃墟の街に木霊した。

 そして、止めを刺し損ねたフィアが冬樹に手を伸ばす。

 歪む口角と剥き出し伸びる吸血用の犬歯。彼女にとっても数年ぶりのまともな食事。やっとありつけた、飢えて乾いた体を生き返らせる赤い水。

 どれほど下品でも今だけは気高さを捨てる。泥水を啜るように溜まり腐った血を舐め、飲みたくもない子供の血を口にして生き延びたのだから。

 冬樹の目を手で塞ぎ、腹部に回した手で抱き寄せ、後ろから首筋に牙を入れる。

 刹那、空が明るく、太陽に照らされた。




「ぎゃぁぁああああああああああ」

 全身に太陽光を浴びたフィアは照らされた皮膚が焼かれる。

 あまりの痛みに冬樹を手放すしかなく、即座に太陽の光から逃れるように影に駆け出す。だが、その影がもう一つの太陽で掻き消える。

「は?え?なんで……」

 同時、ヘリスもシャルを抱えたまま影に逃れようとする。だが、複数の太陽が影を消していく。

 星を越える光量、空を染め上げる最も近い恒星の光、それが複数地上に現れる。

大地を照らす星(ザ・サン)

 星落としでは無く星創りによる太陽の展開、ヘリスは即座にシャルを離しフィアを連れて遠く離れた。

 太陽は動かない、影を消すように新しく作り出されていく。

「シャル……無事か?」

 喉から漏れる空気、酷く血の気が引いた顔、嘲笑うかのように濡れた血。

「……ダ……メ……」

 瞳が訴える。止まってと。

 泣きそうな目が彼の顔を見る。

 どんな顔をしていたかなんて言うまでもない。




 時間にしてたった三分。隠れ家の方で寝ていた咲哉とアリスが楓に呼ばれ吸血鬼たちが現れた場に姿を晒す。

「冬樹!」

 結果咲哉は間に合った。間に合いはした。

 ただ、それはあくまでもミス一つしなければみんなが助かるとかそんな域の惨状。

 戦場に立つは血塗れの吸血鬼二体。対するは微動だにしない冬樹。その腕の中には金髪の少女が抱えられていた。

「アリス頼む!」

「う、うん……」

 だが冬樹は咲哉が来たことに気付いていない。

 それもその筈だ。その眼はもう見えない。瞳から血を流し、潰してしまったのだから。

 潰れた瞳を開き曝す、その奥底に夜空のように存在する読みを。

「……殺してやる」

 笑って、自らの命を消費して、星空を作る。

 吸血鬼共の命を奪うために。

「ダメだ冬樹!止まって!」

 咲哉の静止など届きうる事などなく、東雲冬樹は展開した。

 創星の本領を。

「彼方からの呼び声を」

 そして、宙が落ちる。

「その声を聞き入れたまえ」

 一つの命となって。

「『星を喰らう獣(ヘイエ)』」

 空を飛び跳ねる、海面から跳ぶように、巨大な星空を内包した海の獣。宙を映した巨大な鯨が呼び出された。

「殺してやる」

 その声は無機質で、感情などなかった。

 東雲冬樹の魂はこの時全焼したのだから。

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