表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
26/59

プロローグ

 通信機からノイズが鳴り響く。

 チャンネルはオープンにしてあるにも関わらずどことも繋がらない。あの日に起きた星を包む強大なスカイホールが乱した地球の魔力濃度が著しく高くなったためだ。

 けれども、ここまで至ったのは文明が滅びかけても生き残ってきた選りすぐりの死に損ない達、生き汚さについては言うまでもない。

 ゆえに、通信機に声が入る。

『こ…………ク……繰りか……こち………ク』

 とっさに、呼びかけられているその声が拾えるように調節する。そして…。

『……返す…こちらアーク』

 声が聞こえてきた。鮮明に、人類最後の砦、人工島の名が繰り返されていた。

「こちら日本列島奪還作戦斥候隊隊長東雲冬樹!」

『ッ!?……無事か!?』

「はいッ!」

 遥か海の向こうにいる男性の声は噛み締めるように喜びを押し殺す。

『報告を……』

 しかし、冬樹との繋がりを皮切りに生死不明の隊と別勢力の声が入る。

『北米大陸奪還作戦部隊『バニヤン』、被害軽微』

『こちらハワイ諸島駐屯部隊『シーブルー』、竜王『フレア』の協力により被害皆無。しかし周囲の環境は著しく変化。異界浸食の影響が出始めています』

『ノア代表、神凪(かんなぎ)、問題無し』

「東雲冬樹、今回の異常の原因と思しき個体と戦闘、後退させる事に成功しましたが予断を許さない状況です」

『なッ!』

 静まり返る、無線の先に居る誰かの一人が静かに口を開く。

『怪我人や死亡者はいないか?』

「死亡者はいません。怪我人もほとんど回復しています。ただ、シャルロットのみメンテナンスが必要かと」

 ホッとしたのか一息吐いた音が聞こえた。

『今すぐ救助隊は出せない。ただ生きる事を考えてくれ』

『『『「了解」』』』

 プツリと通信が切れていく。冬樹も電気の無駄遣いを減らすため切ろうとしたその時だった。

『東雲冬樹、そちらは今おはようかな』

「……神凪」

『彼に、よろしくと伝えておいてくれ』

 彼、わざわざ名前を出さず、それでも誰かすぐに分かった。

 咲哉に、と。

 その言葉を残して神凪は通信を切った。




 黒髪に黒い瞳の少女、雪村楓が地面に触れて力を使う。

 楓が地面に触れてその材質、形状を変化させ、作り上げたものは雨風と寒さを凌ぎ活動の拠点となる建物だった。

「これを後……三棟……」

 一つ作るのに体力を使うため意識が遠のく。

「もうやだぁ!こんなの続けたら疲労で倒れちゃう!」

「頑張ったらご褒美あげるよ」

「エッ!」

 振り向いた先に彼は居た。

 白髪に赤い瞳の少女に似た少年の姿をした齢百六十の神様擬きの人間紛い、天条咲哉が微笑みながら傍に佇んでいた。

「ご、ご褒美って?」

「想像に任せる」

「……ガンバリュ」

 我ながらチョロいと分かって居ながらも奮起して残りの仕事に手を付ける。

 楓が仕事を頑張る姿を見た後、咲哉は周りを見渡した。

「残りの食糧こっち持ってきてー」

「探索終了、いい物なかったです」

 探索の拠点を作りながら周囲に立ち並ぶ廃ビルや廃墟を探索し、食料を補完できる場所を探す。

 今現在、冬樹達が目的としていることはとにかく生き残ること。生き延びて、生きる事。

 生きとし生きる全ての生命の基本的衝動に従って環境を整えていた。目下、今の課題は食料だろう。

 そこに冬樹が少々ひきつった顔で通信室から出てきた。

「おつかれ、繋がった?」

「あぁ、繋がった。救助部隊は期待できそうにねぇが、いつまでもって話じゃねぇとは思う」

 シャルロットと話しをする冬樹が一瞬、咲哉を見た。

『彼に、よろしくと伝えておいてくれ』

 神凪、正体不明の男。その人物と知り合いの咲哉。気になる。

「冬樹、神凪元気だった?」

「お前からするぅ!?その話!」

 ケタケタと笑う彼に冬樹が自身の心配が杞憂であったことに肩を落とした。

「友人だよ、気になるし」

「……百六十も生きてら変な人間関係も生まれるか」

 首を傾げて咲哉が疑問の表情を浮かべる。

「元気だったよ。よろしくと伝えてくれと言うぐらいには」

 その言葉に一瞬、咲哉の表情が曇る。

「そう、ありがとね」

 咲哉のその意味有りげな表情を冬樹は見逃さない。けれど、聞くなと言わんばかりのその顔に冬樹は何も問い質さなかった。

「……何がよろしくだ……ばかやろう」




 太陽が高く上がった昼過ぎ、大雪の異常気象から一転雲一つない寒空の下、コンクリートの建物が周囲を囲むアスファルトの広場で木製で非殺傷性の武器を手にした少年少女達と一人の老人が咲哉の前に列をなす。

「今日もぉ?」

「おう!」

 と、子供がはしゃぐようにアリウスが答える。

「……百歩譲って模擬戦をするのは良いけど、列守ってよ」

「一番乗りじゃったよな。ジェイド」

「昨日もその前もッスね。んで、日が落ちて結局アリウスしか戦えないから今日は列譲るって約束ッスよね」

 良い歳過ぎた老人がかなり落ち込み気味に渋々子供たちに列を譲った。

「よし、勝ったら、今度こそ剣を教えてくれッス!」

「……勝てたら、ね」

 先手はジェイド、まだ子供で体は小柄で、けれど高い機動力を持った才能ある少年が咲哉に挑む。

 それは単なる暇つぶし、だったのだがジェイドを筆頭する異世界の子供達六人と冬樹達に付いて来ていた子供達三十人余りとこうやって遊ぶこととなった。

『良い子達なんだが、力仕事はできねぇんだわ。俺達が仮住まい完成させるまで面倒見てくんねぇか』

 と冬樹からお願いされたらあっさりと断れない。稽古や鍛練が楽しくないと言われたため勝ったら常識の範囲内でなんでも言う事を聞くと約束し、ハンデとして咲哉は直径二メートルの円の中から出たら負けを背負って。

 で、

「……、もう終わり?」

 全員からの猛攻を受けてなお咲哉は円の外に出ることはおろか危ういシーンすらなかった。

「もちっと手加減しろよー!」

「「「そうだそうだー!」」」

「かなり手加減はしてるんだけどなぁー」

 空が焼ける夕日、太陽が沈む寸前まで行っても咲哉は無敗のまま終わった。

「それじゃ儂も」

「時間切れ、もう夕食時だよ」

 そう言って咲哉達はそそくさと撤退する。

 一人肩を落として。

 その時、何かの視線を感じた。

 敵意が籠って居る訳でも無いし、確かな気配があるわけでもない。けれど何かが咲哉達を見ていた。

 視線が感じたほうに振り向く。何もいない。

「どうした」

 アリウスが咲哉を気に掛ける。その言葉に咲哉は真面目に言う。

「何かいた。用心して」

「……おうさ」

 その刹那、咲哉とアリウスは臨戦体制に移行した。いつでも戦えるように。

 結局、仮住まいもとい拠点に付くまでにその視線は消え何事も起きなかった。




 赤焼けの空、かつては不夜城を思わせる明るさを誇った街並みはその全てが廃墟都市になった。

 明かりはない。ここ以外は。

「さっむ!」

 日が暮れたら一気に気温が下がり熱を奪われる。温もりを求めて焚火に群がる。

「どうなってんだよ……」

「可能性として環境を変化させるほどの結界使い……です?」

「領域結界とか殺傷能力高すぎて俺ら死んでなきゃおかしいだろ」

「それもそうだね……。でも、仮に冬という概念を広域にわたって強化すれば豪雪を降らせる事だって可能な訳だし、想定を遥かに超える何かが居る事は念頭に置いておいたほうがいいかも」

「……なんか女子の会話に巻き込まれた気分……」

「「?」」

 冬樹と焚火の周りで暖を取りながら女子のような口調二名を相手取り状況の整理を始める。

「で、その何者かに見られてたってのは絶対か」

「断定は無理。でも、気配はあった。ほぼ直感だけど」

「咲哉の直感と気配探知は疑いようがねぇよ。お前がダメなのは賭け事だけだ」

 ムッと目を据わらせる咲哉を引き目にアインの報告を整理し始める。

「で、アインは」

「はい。こっちも断定はできないですが、敵性勢力が存在している可能性があるです」

「詳細は?」

 アインが懐から英語で文字が大量に書かれた地図を取り出し指をさす。

「この辺りに明らかに捕食目的で殺害された鹿が死後かなり立った状態で発見されました」

「なら野犬の可能性も」

「人の歯形でもですか?」

「……んー、かと言って人が鹿に齧り付いて生のまま食べる?グールとか、ゾンビとか、吸血鬼とか?のほうがしっくりくる、というか」

「答え言ってんじゃねぇか」

「……あいつな訳ないし、ゾンビに知能なんて残ってないし、ならグール?」

「グールって何です?」

「あぁ、グールってのは……」

 置いてけぼりのアインに合わせて冬樹が教鞭をとった。

「……劣化吸血鬼」

「こら」

「これでも伝わるだろ」

「分かる人にはね!?」

 致命的に人に教えるのが下手な冬樹に代わって咲哉が答えた。

「グールってのは人食いの化け物または怪異の事だよ」

「吸血鬼……とはまた違うです?」

「吸血鬼って読んで字の如くの怪物だけどほら、十字架効くけどグール効かないから。けど、怪力は無いし特殊能力もないしなんなら不死じゃない。個体として優れてないし群体としても人間より劣る、全てにおいて中途半端な化け物……」

 例外はいるけれどと言わんばかりに目が泳ぐ咲哉にアインが問い詰める。

「でも、いるならまずいです」

「まぁ、人一人を殺すだけの膂力はちゃんと兼ね備えてるからな」

「腐肉とか置いて無いなら大丈夫じゃない?」

「一応、見張りするか。夜警だ、やりたい奴いるか?」

「じゃあ俺やるよ。基本何もしてないし」

「ならここにいる三人でローテするか。一番」

「俺やるヨ」

「二番」

「ハイデス」

「急に語尾変えんなびっくりすんだろうがよ」

 笑いながら仲睦まじく談笑する。この二週間余りで冬樹達に咲哉が馴染んできた。合わせているとも思えるが少なくとも仲良くはできている。

 寒空によく響く手を叩く音がした。

 音がしたほうを振り向くと十輪が手を擦って温めながら白い息を吐いてみんなを呼んでいた。

「お風呂できましたよ」

「風呂?そんなのあったっけ?」

「楓ちゃんが頑張りました。ご褒美のために」

 アインと冬樹が咲哉のほうを見る。

「……お前魔性か?」

「討伐案件?」

「これ、もしかして逃げ道ヤバいことになってる?」

「確実に」

「言ったことには責任とれよ」

 逃げ場が封じ込まれてしまった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ