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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
21/59

赤い瞳

 血飛沫が上がる、全身から血が一気に抜け落ちる。

 肺はあばら骨ごと綺麗に両断され内蔵に到達するほどの深々とした傷が付けられた。

 鮮やかなるや無敵の剣技、ここに至るまでの一挙一動がすべて誘導、この技を決めるためだけの動きだった。

 アリウスの手からインペリアルが溢れ落ちる。それでも、咲哉の構えが解かれることはない。残心、咲哉の心は戦うため緊張の糸を張っていた。

 ドサリと、体が仰向けで倒れる。アリウスが倒れるその様を見て咲哉の残心が解けた。

「『僕』の勝ちだ。アリウス」

「……あぁ……」

 肺に穴が開いているため小さく言葉を返すことしかできない。それでも、老騎士は戦いの余韻の中にいる。

「……して、やられたのぉ」

 空から舞い散る雪花を見ながら生暖かい血が背を通って地面に広がり、傷口が酷く熱を帯びる。満足しておきながら体は生きようと必死に抗っていた。

 それもいつまで持つのかわからない。ならば後悔などしないうちに命を落としてしまいたいと。

 察してか否か、咲哉はアリウスに抜き身の刀を持って歩み寄る。その傍らに立つと逆手で刀を持って人体の急所、心臓がある位置に切っ先を向けた。

「……はぁ」

 白い息が吐き出され、少し持ち上げて刀を突き刺した。心臓ではなく、地面に。

 瞬間、鳥居の形をした門が現れその先に彼らが居た。

「ジェイド、アリシア」

 振り返り目が合う。不安そうな二人の視線が下に、アリウスに向いた瞬間駆け出した。

「アリウスッ!!」

 裸足で土を蹴り、鳥居を通って雪の上に飛び出した。

「アリウス!なんで、こんな……」

「今治癒を……まだ間に合う」

 アリシアが即座に治療にはいる。それを見た咲哉は刃の血を拭い、納め、背を向けてその場を後にしようとした。

「何でッスか。約束、お願いしたッスよね」

「……うん」

 足を止め振り返る咲哉にジェイドは睨み付ける。殺意と、恐怖を抱いて。

 けれど、ジェイドのその心をアリウスは手放さなかった。

「儂、が」

「喋らないで、まだ肺の結合が……」

 動く左腕で、アリウスはジェイドを捕まえる。

「儂が、喧嘩を、吹っ掛けたのだ。咲哉は、答えたにすぎない。最上の敬意を持って」

 その言葉でジェイドの中に困惑が生まれる。今ある感情を、尊敬する人の言葉を、どのように折り合いをつけて飲み込むべきなのかを。

 それを咲哉が示した。

「『僕』は約束を守らなかった。殺しはしなかったけど、殺そうとした。それは変わらない。恨んでも、憎んでも、天条咲哉は応えるよ」

 その言葉が少なからず彼らの救いになる。そう信じて。

 だからこそ、複雑な感情を飲み込んだ彼の言葉は強かった。

「……わかったッス。約束は守った。けど、破ろうとした。なら、必ず、アリウスより強くなって仇を討ってやるッス!」

「儂死んどらんのやガハッ!」

「喋るなって言ってるでしょう!?」

 アリウスが血を吐き、アリシアとジェイドが慌てふためくその間に咲哉は去った。言葉だけ残して。

「アリウス。死なないでよ」

 その言葉にアリウスの視線だけが咲哉に向いた。

「名残惜しくも今宵はここまで、また、俺と戦おうね」

 瀕死である筈なのに、殺されるような錯覚があった。

 咲哉の姿が見えなくなったその後で、アリウスは口を開く。

「また……か」

 過る、今日の戦い。あの強さにアリウスは何処か憧れていた。

「老いぼれの、残りの余生であれに敵うだけの力を、一体いくつ身に付けれるものか……」

 笑みが溢れていた。死を予感していたにもかかわらず、生きることに目が向いていた。まだまだ自分は強くなれると、そう確信して。




 目の前にいる少年は全身傷だらけと化していた。

 呆然と、立ち尽くす以外にない。が、すぐに平常心を取り戻したように見せながら問い詰める。

「な、な、傷、何してるんですか!?」

「無事だから、気にしなくても大丈夫、大丈夫だよ」

 しかし、左肩に空いた穴からは血が溢れ、腕はもはやまともには動かせない。そんな状態を大丈夫の一言で片付けようとする。

 見過ごせるわけがなかった。

 楓は自分の一番上に羽織ってあった服を脱ぎ、咲哉の左腕を固定するために詰め寄る。

「じっとして、今応急処置を……」

 何処か泣きそうな彼女に咲哉は申し訳なさそうに呟いた。

「……ごめんね、ありがとう」

 戦闘や緊急時の行動から楓がそもそも戦場なんて体験してない事は明白であるし、人の死や、ましてや重症も慣れているわけがなく、故に彼女は必要以上に他人を心配してた。死なないか不安で。

「これで……」

 不格好ではあるが首から下げて左腕を固定する。痛みは引かないが、少しは楽になった。

 そうこうしている内に船が空から降りてくる。海に着水はせずに建物に接触しないギリギリの範囲で空中に留まる。

「咲哉ー、楓ー!」

 船の上から冬樹が顔を覗かせて咲哉達を見る。

「無事かぁー?」

「なんとかぁ!」

 咲哉のその返答に安堵する。

「今、引き上げるー」

 門を複数開けば辿り着けるが、咲哉の傷を見て無理はさせまいという冬樹なりの配慮だった。

「先にあっちを頼むー!」

 咲哉の指差した先、そこにはアリウスとアルマと、子供達が居た。

「分かったよ、まったく」

 船は空中ホバリング状態へ移行しその場で固定される。

 瞬間、真っ先に飛び出してきたのはレーヴァテインだった。空中に身を投げ炎を噴射しながら咲哉の近くに降り立った。

「傷を見せてください。治します」

「これぐ……」

「大丈夫と言ったら殴らせていただきます」

 咲哉が口を結んで黙り混んだ。

 レーヴァテインが手に炎を宿すと傷口に優しく触れる。たちまち傷口が塞がり、何事もなかったように綺麗に治る。それこそ傷跡もなく。

「本当にいつも無茶ばかり、心配する私の身にもなってください」

 咲哉を癒すレーヴァテイン、その光景を見て楓は数歩退いてしまった。

 グサリと、心の奥底に突き刺さる。内蔵がひっくり返るような、そんな感触があった。




 空を飛ぶ船、アラクネに急ぎ人を乗せる。

「通信は……まだ回復しねぇか。閉じたのに何かが妨害してる?」

 冬樹が一人通信設備をいじくりながらぶつぶつを独り言を呟く。魔術師であり、魔法使いであり、術式技師である彼は機械は得意でない方だがこれでも必死こいて勉強してきた身、妨害電波等あらゆる可能性を考慮していた。

『異界の人間と思われる方々は全員乗りました。後は楓と咲哉さんとレーヴァテインさんだけです』

 艦内通信でシャルロットから報告が入る。

 正直、冬樹は一刻でも早く船を出して補給基地があるハワイへと行きたかった。なんなら、先程のドラゴンとの戦闘で船には大きな亀裂を生み、海を行けば確実に沈む。

 シャルロットを酷使するためかなり気が引けるが、冬樹は、そしてシャルロットはこのまま空路でハワイへ、そこからならば修理もできるし補給もできるし通信も入ると思っていた。

 このままよりか状況は好転すると思っているし、実際はそうである。

「楓と咲哉とレーヴァテインを回収後、直ちに日本を脱出する。数日間連続での航行となる。今のうちに休んでくれ」

 スカイホールが何度も開くとなれば少数の様子見するための部隊では手に終えない。大人数かつ、スカイホール開門に個人単位で対応できる精鋭が必要になる。

 問題は山積みで、悩みの種は無限にある。

 それでも安堵が身を包む。

 不測の事態をなんとかで来たのだから。

「……なんとかなるかなぁ、するしかねぇかぁ」

 背を伸ばし緊張感が解けていく。この後の大仕事に気合いをいれるための最後の休憩だった。

 けれどその大仕事を行うことはない。

 その証拠に、この瞬間に訪れたスカイホールとは似て非なる空間の異常、それを知らせる空間スキャンの結果を映し出すモニターから目を離してしまっていた。

 加え、この異常は一瞬のみ現れたもの、気付く暇はなかった。

 気付いたのは一手遅れたあと、咲哉と楓の声によって意識を向けられた時だった。




 ほんの少し前。

「さて、私達が最後です。乗りましょう」

 レーヴァテインが下ろされたゴンドラに二人を乗せて共に上に向かう。

 沈黙が訪れる。楓にとっては苦痛であり、数刻前の問答を思い出してしまう。

(あの、好きな人……とか、居る?)

(……居るよ)

 雰囲気と会話的に咲哉とレーヴァテインの関係を疑う。というか出来ていることを疑う。というか出来てないとおかしい。そもそも二人で今日まで生きてきたことを思えば何もないわけがなく。

「あの、二人はさぁあ?」

 二人は同時に楓を見た。無垢に純粋に向けられる瞳は穢れなく、投げ掛けられる質問にすべて答える様子を見せる。

「付き合って、る、の?」

「いいえ」

「違うよ」

「あっ、はい。そうですか」

 なんか、別の意味でどっと疲れ、溜め息混じりに肩を落とした。

 楓が怖くて覚悟までして聞いた質問はあっさりと切り捨てられた。そして何処か……した自分がバカらしくも思えるようで、また溜め息が出た。

「疲れた、お風呂入りたい」

「それは同意です。庵でご準備しましょうか?」

「……お願いします」

 昨日のお風呂の気持ちよさを思い出しつつ誘いに乗ってしまう。それほどまでに心地が良かった。

 しばらくしてゴンドラが到着する。

「お疲れさまです!」

 そこにはアイン、十輪の二人が待っていた。

「お疲れです。お二人も」

 作り笑顔でニコニコとした。

 刹那、五感に訴えかけられる尋常ならざる気配が心の臓を穿つ感覚が一瞬現れる。

 その気配は楓の他に咲哉のみが感じ取る。

 気配、存在感ともとれるそれは、明確にどこに現れたのか明確に把握できた。

 それは目と鼻の先、アラクネの船首に居た。

 赤く長い髪の毛、咲哉に似た赤い瞳、その赤を引き立たせる白い肌。外国人のような顔立ちに、神々しさを感じさせる西洋の服。

 その姿を見た瞬間、咲哉と楓は叫ぶ!

「冬樹!」

「東雲隊長!」

 その声に冬樹が飛び起き、それを目視する。

 総じて、それに全員が目を向けた。けれど、それを見た瞬間、赤い少女は行動を起こす。

「ワタシを見るな、人間(害虫)ども」

 思い切り船を蹴ると船体の前方が下に向かって大きく沈む。

 足場を失って空中に投げ出された甲板に出ていた人達はレーヴァテインと咲哉が咄嗟に空中移動し無傷で地面に下ろし、船内に居た人達は冬樹とシャルロットが術式で衝撃を緩和する。

 怪力、もしくは物体を操る力。しかも桁違いの。

 全員が死の予感をする。余さず、恐怖心を抱く。

 その最中で、一人、赤い少女に向かって怒り叫ぶ。

「お前、よくも……ハル様を……ッ!」

 その声の主は、感情の振れがあまりなかったレーヴァテインだった。

「レーヴァテイン、神が造った炎の剣……」

 鬼のような形相を、初めて見せるその顔に不安すら抱くほどに。

 けれど、歯牙にもかけない。赤い少女は憐れむように笑って話し掛けた。

「可哀想に、人間性(そんなもの)宿しちゃって」

 その言葉に歯を食い縛る。煮えたぎるような怒り、憎悪が沸き立つ。

「その顔で、その声で、ハル様を侮辱するなッ!」

 瞬間、強く引っ張られレーヴァテインは咲哉の腕に収まる。

「落ち着いて」

 咲哉が出てくると赤い少女の顔が明るく目映い笑顔に変わる。

「神様ぁ!」

「違う、俺は人間だよ」

 レーヴァテインが今だ煮えきらない表情を浮かべるも、歯を食い縛り力強く握られる腕を見て察する。咲哉の方がこの状況に怒っていると。

 互いに見つめ合う、片方は憎悪を宿して睨み付け、片方は好意を抱いてうっとりとしている。

「積もる話もあるんだろうけど、取り敢えずその体をどこで手に入れたのか答えてよ。ナナ」

「そんなこと忘れたよ。神様がワタシを殺した日から百五十年経ってるんだから」

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