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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
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プロローグ2

 微睡む意識が覚醒し始め、全身の感覚がはっきりとしていく。

「朝…。朝だ」

 見慣れない二段ベッド底、視線を傾けた先には鋼鉄の天井が広がっていた。さらに視線を下げると丸い窓がそこから写る風景は朝焼けの穏やかな空と海だった。

 私が今居る場所はとある船の上。海上移動用母船アラクネと呼ばれる兵器を乗せてかつて東京だった場所に向けて航行していた。

 溜め息が出る。どうしてこんな大役に選ばれたのか、戦闘経験なんて皆無に等しいのだから。そんな事を体を起こしながら考えていた。

「まぁ、遅刻しないだけマシか」




「また遅刻ですか」

「ごめんなさい」

 結局遅刻した。二度寝したあげく寝過ごして。

「あの雪村さんの娘さんだから見過ごしてきたけれど、流石に多すぎです」

 私を土下座させているのは同い年ぐらい容姿、黒髪と黒い瞳を持つ凛とした少女。十輪夏海とわなつみこれで二十歳だそうで。

「朝が苦手でして」

 苦し紛れの言い訳で逃れようとする。怒られると思っていたが、彼女の表情は穏やかだった。

「睡眠障害かも知れませんね。私も不眠病だったことがありますので、何か悩みがあるのなら相談に乗りますよ」

 顔に出ただろうか、母や父親と比べあまり役立てない自分に対して嫌気が差すし、今回も役に立てるか悩んでいることはある。けれど…。

「いや、睡眠障害とかじゃないと…思います。多分」

「…心当たりは有る物言いですね」

「うぐっ…」

かえでさん」

 優しい声で私の名前を呼ばれる。十輪さんの顔を見るとどこか懐かしい微笑みを向けてくれた。

「私、同じ日本出身の人って滅多にいないでしょう。だから、悩みがあるなら聞きたいし、解決してあげたい」

「は、はぁ」

「だからよければ話してくれると嬉しいな」

 こうなってしまうと本当の事、ただ二度寝してました、が言えなくなってしまう。

 自分だけが気まずい空気の中、冷や汗が滝のように流れ出た。

「あー、いや、その」

 きっと善意だ。けれど同郷の同性、仲良くなりたいという小さい欲。そしてバカな私の適当な嘘のせいで首が絞まっている。

 しかし、こうなってしまったならば本当の事を言わなければ…。そう思っていた時だった、

「いつまで説教するつもりだ」

 部屋の脇から姿を覗かせたのはボサボサの茶髪に変わった眼を持つ少年だった。

東雲冬樹しののめふゆき隊長!」

「あと一時間で到着だ。今のうちに準備しとけ」

 過労かどうか知らないがここ最近やつれている気がする。

「お前もな雪村。はじめての船旅で疲れたろうから、着いたら後衛で拠点作りに、十輪は俺等と一緒に探索だ」

 十輪さんの顔が楽しくなさそうな表情に変わる。

「年下に命令されて気分は良くないだろうが従ってくれよ」

 フラフラになりながら千鳥足で戻って行く。

「東雲さん、大丈夫ですかね?」

「死にそうで死なない人だから。あの人、上の人からなんて呼ばれてるか知ってる?」

 私は首を横に振る。

「ロストスターライト、不輝星(かがやかずのほし)

「不輝の星?」

 首を傾けると彼女は笑みで続ける。

「魔術の才能を持ちながら、なんの発展もない天文の魔術を学ぶ輝かない星」

 輝かない星、才能を磨かない腐った宝。

「けれどね、彼の師匠は天文は天文でも東洋魔術、陰陽術の使い手なの」

「俺と師匠がどうかしたか?」

「あひゃいっ!」

 彼女が肩を震わせ驚いた表情を浮かべる。

「無駄口叩いてないでとっとと準備しろ」

 声がする方へ顔を向けると彼が腕を組んで立っていた。音もなく戻ってきたのだ。

 睨み付け、動くのを待つ彼を見て私達は飛び上がり腹痛を起こすほどの緊張を起こしながら急いで準備に出る。




 一時間が経った。

 東京湾アクアブリッジだったものが倒壊している。

 そこはかつて日本だった土地、そこはかつて東京と呼ばれた高壁の都。二十年前失った世界を取り戻す作戦が開始された。

 外の空気は冷たく、凍えるような世界を前にしなければならないことを始めた。

「私はキャンプ地の設営と物資の整理かぁ」

「無駄口を叩かないでください。これも重要な作業の一つです」

 私よりも遥かに小さく幼い少女が魔術兵器と呼ばれる機械に乗って荷物下ろしを行っていた。

「…便利そうだね、天使ちゃん」

「パイロットに推薦して良いけど肉体の三割以上を改造する覚悟をしてね」

「遠慮します」

 環境適応型魔術兵器『スパイダー』と呼ばれる八つ足に複数の眼を持つの偵察機体で、蜘蛛に似ている。主腕と呼ばれる足とは違う後方に取り付けられた腕で瓦礫の撤去から戦闘まで、副腕と呼ばれる前方に取り付けられた腕で鉄骨等の切断から人命救助まで、パイロット次第ではあるが、あらゆる事をこなせる兵器を彼女は巧みに操縦している。

 彼女の名前はシャルロット・エンゼルス。天使ちゃんの愛称で親しまれている肉体の約四割を機械へ改造した金髪の少女。背中回りは痛々しい傷と露出した接続部が存在し、常に隠して生活している。

 現在は戦闘に出るわけでもないためコックピットを全開にし、自分の眼で荷物下ろしやキャンプの設営を行っている。

「…シャルロット副隊長。こちらは?」

「私の私物。そこに置いておいて」

「了解しました」

 男性整備員が地面にキャリーバッグを置いて船へ戻っていった。

「アラクネを拠点にしてるんだから私達も船で寝泊まりすれば良いのに」

「一々夜がくる度に沖に出ている船に戻るつもりですか?それよりもここで生活できる環境を整えてですね」

「って、言われてもなぁ」

 背筋を伸ばすついでに周りを見渡した。

 上陸したのは広い滑走路のような場所。地面はガタガタで草が生えまくり整備など行き届いてない。そこから高層ビル等の建造物が見える。

 窓ガラスは割れ所々鉄骨が剥き出しになっている。傾いたり倒壊していないのは地盤が強固である証かもしれない。

 首都東京、極東の島国でありながら栄え、賑わい、そして滅んでしまった国。かつての繁栄は露と消え、残ってしまった建物はまるで来る人を拒む要塞になってしまった。

 そんな街並みを見上げる私の視界の先にふと人影の様なものが見えた。けれどあまりに離れた距離、はっきりとは見えず私は木や鉄骨だろうと思ったいた。

 その人影が謎の光を発しながら飛び去るまでは。




『と、いうわけなのです隊長』

 無線からシャルロットの音声が聞こえ気だるげに対応してしまう。

「…マジか」

『謎の発光体は別の隊員も見ています。それが人かどうかまでは解りませんが、もし、もう居るのであれば…』

「わかってる。すぐ調査へ向かう」

『発光体は東に向かって飛んで行ったそうです』

「わかった。そっちはもしもに備えておけ。戦闘になれば合図を送る」

『了解しました。東雲隊長』

 それでも、シャルロットはこんな十六の青二才の言う事を聞いてくれる。自分には勿体ないほど優秀だ。

「ありがとう、シャルロット」

「い、いえ。任務ですので」

 そう言われブツリと無線が切れる。

「十輪、アイン。謎の発光体がこちらに飛んできたそうだ。これより、発光体の探索に切り替える。特になにもなければ良いけが」

 優主な部下に心配かけないように眠気を気合いで飛ばし、自信の体に渇を入れ叩き起こす。

「休憩は終わりです?」

「あぁ、ここから南下しながら探索だ。敵の可能性もある。十分注意してくれ」

「敵って、さっきからわんさか出てきてるじゃない」

 そう言われ足元に転がる無数の見たことの無い怪物の死体を見た。凶悪で人を食う怪物を筆頭に、多くの怪物が死体となってそこら中に転がっている。

 それはこの地球上には存在しない、多くの人間が神話の怪物、空想上の生き物と認識していた生命体達。

「こいつらならまだいい。もしも…異界の、生きた人間が住み着いていたら。その時が一番厄介だ」

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