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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
18/59

対界戦争ー終幕ー

 竜の死体が地上に落下した。五十メートルもの巨躯は瓦礫を吹き飛ばし建物を破壊しながら咲哉達の側に落ちた。

 咲哉が砂塵から目を守っているその隙にアルマは咲哉の足を退け拘束を解いてクラウンへと駆け寄る。

 そのあまりに必死な顔と後ろ姿に覚えがあった咲哉は何も言わず何もせず、ただ見送った。

「ッ!クラウン!……あぁ……」

 黒焦げになった体に触れ、高熱によって手が焼ける。それでも離れることは、離すことはしなかった。

「わたくしを二度も置いていかないで……」

 瞬間、黒焦げの竜体は息を吹き返す。

 その一瞬で咲哉は臨戦態勢に入った。

「嘘……、何で……さっきまで死んでたのに」

 楓が取り乱し目の前で起きた現象を上手く飲み込めていなかった。

「……契約、契約主が生きてる限り死なない不死の呪い……」

 対して咲哉はその現象に一つの答えを見出だしていた。

 もはやオリジナルの肉体は残っていない。それこそは愛の為に命を消費し続ける怪物そのものだった。

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

 体の隙間から空気が漏れる、炭化した体は水分が抜け、血が流れない。

「……生前の契約に従い死後、召喚された竜……」

 その言葉を発した咲哉を楓は横で見ていた。

 苦虫を噛んだように奥歯を噛み締めて、同情するように苦悶の表情を浮かべている。苦しそうな、悲しそうな、その時初めて楓は咲哉という人間の弱さを見た。

 緋色の瞳に何が映っているのか、黒瞳の少女に知るよしはない。

 けれど、辛そうな彼の袖を引っ張る。

 ハッとして振り返った咲哉の顔を星を見るように視線を交わして声を掛ける。

「大丈夫?」

 咲哉の視線が落ちる。少しの間地面を見つめ、上げた顔には安心させるための笑みが浮かぶ。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 どこか辛そうな瞳とは裏腹に笑った顔は不安を煽る。けれど自然と信頼はある。これから彼が行うことがきっと正しくなくとも救いにはなるのだと。

 楓が引っ張っている裾を離すと咲哉は腰に差した刀を抜いて右手で持つ。そうして、咲哉は未だ脈動し生き返ろうとする竜へ顔を向ける。

 一歩前に出る、重い足を無理矢理前に向けて出す。

 それはかつての日にあった悲劇の様、あの日に似た惨劇を、起こした側だとしても、せめてその言葉が最後の救いになることを願いながら歩みを止めない。

「く"……る"……な"ぁ"」

 原型を留めない魂が限界まで元に戻ろうと死に抗う。口だったものを開きながら咲哉に威嚇する。傍らで涙を溢す人の為に。敵味方の区別が既についていないにもかかわらず守るべき者だけは忘れずに。

 けれど咲哉は手を差し伸べて歩み寄る。

「『僕』は、君を傷付けない」

 刹那、大きく口を開け、その奥が輝く。

「咲哉!」

 思わず楓が呼び捨てて守ろうと駆け出す。けれどその必要はなかった。

 残ったものを全て用いて最後の息吹を放とうとする。それを見ていた咲哉は口を開く。

「……それは、後悔するよ……」

 優しい声だった。悲しい声だった。最後に見た光景、声に酷く似ていた。

「……ま……さか」

「触れるよ……」

 焦げた竜の鱗へ触れる。手のひらが焼ける痛みを一切表情を崩さないまま耐える。

 優しい顔が、笑顔が眩かった。

「初めまして、『僕』は天上の咲哉……」

 瞬間、クラウンの意識が回復する。

「君の名前を教えてください」

 白髪の、赤目の少年は、誰かを見送ったときの瞳を向け、竜は息吹を中断する。

「……クラ……ウン」

「クラウン、王冠」

「我が名は……道化である」

 悲しそうな涙声を出しながらすり寄るアルマに咲哉は優しく語りかける。

「…………死に行く、君は、思い出しか残せない。残される側は思い出の中でしか君に会えない」

 咲哉が笑う。その言葉に大きな何かをのせて。

「死に行く君の、死出の旅路に、不幸無き事を……」

 瞳の中にそれは宿る。慈悲、同情、憐憫、誰かを慈しみそして失った瞳はけれども眩く燃えるているようで、死に体のドラゴンに暖かく優しく向けられた。

「……助けて」

 か細くて何とか捻り出したかのようなその声の主に咲哉は瞳を向ける。

「……彼を……」

「……それは、生き返らせての間違いじゃない?」

 その言葉に胸が締め付けられるようで、アルマは口を結ぶ。

「『命ある者はいつか死ぬる者、二度目の生は無く再びの落陽も無し、故に一生、それが命の理』と」

「それは……」

「かつて死者の復活を求め、そしてあり得ないと結論付けた一人の魔術師の言葉……、そして、生前の契約で死後に召喚するという形で死者の復活を不完全ながらに完成させた最高峰の魔術の詠唱……」

「……どうして」

「『僕』にも、そんなことを教えてくれる優しい人が居たんだよ」

 子供のように笑う、無邪気に言葉が浮かぶ。優しく見つめてくれる。

「……あぁ、()が運命はこの時のために……あったのだな」

 ドラゴンが巨躯を動かし咲哉の前に頭を垂れる。

「クラウン……」

「大丈夫……である」

 二人の手が離れクラウンは寝そべったまま咲哉に語りかける。

「この世界にこそ、全ての世界の、救いがまだ残っていた。それが知れただけで、()が生は、再びの落陽を迎えられる」

 それはまるで首を差し出すかのようで、覚悟があった。

「……だめ……ダメ!貴方は死なせない!この命に変えてでも!」

「アルマ……」

「私は言ったはずです!二度も見送るつもりはないと!」

「だが我が未来は決定した」

 ドラゴンが今までにない優しそうな声で語り始めた。

「我が愛しの人、我が身と共に空を駆けた人、なんと言われても我が命はここまでだ。むしろよく持ってくれた方」

 瞳を濡らす少女を傍らに、クラウンは思い出を語る。

「初めて会ったのは、好奇心で人の領域に踏み入れ、そこの最強に落とされたときでした」

「…………幼き私にとって、貴方は恐ろしいものではなく、えぇ、えぇ、とても大きなトカゲに見えて……」

 一つ一つ語らう。思い出の話を。

「背に乗せて夜空を飛びまして……」

「共に鍛練を行って……」

「人の身を持たぬゆえ夜の営みに誘われた時はどうしようかと動揺したものです」

「……えぇ、でも優しくしてくれて……」

 それは人生における最高、故にここから先は地獄だった。




 不幸のきっかけは、兄の戦死。

 侵略国家、ティアモル帝国の魔の手が北方の雪国にまで届き、追い返すために第一皇子が軍を率いて国境付近に馬を走らせた。

 次期王と呼ばれるほどの人格者にして切れ者、最悪斥候として帰ってきても文句は無く、特に問題ないだろうと判断された。

 甘く見ていた。侵略国家と呼ばれる帝国の残虐さを。

 十七日経ったある日、第一皇子の側近が兄の死を知らせに舞い戻ってきた。

 率いる軍勢は二十万、加えて魔術魔法の類いを使い、聖剣魔剣の類いも数多く戦場に持ってきていると。

 父、王の顔から血の気が引いていくのがわかった。

 出した軍は一万、相手はその二十倍、勝ち目など無く、加えて現在、必死にかき集めても兵士騎士戦士の類いは二十万に届かない。国民も総力をあげて戦うと宣言するも全面戦争となればさらに数倍の戦力が投入される危険があった。

 王はすぐさま休戦の提案を申し出した。が、それは一時の足止めにしかならず、すぐさま進軍が開始された。

 戦争が始まった。前線は簡単に押され、奴等が通った後は焼け野原となっていた。

 地獄だった。戦いに赴いた皇子達は次々と薙ぎ倒され、残ったのは第三皇女と第八皇子だけだった。

 最後の希望を国宝のドラゴンウェポン『インペリアル』に見出だすもそれ一つでどうにかなる状況ではなかった。

 けれど私はインペリアルを手にクラウンの背に乗って洗浄を駆けた。けれど、兄達よりも簡単に敗北した。

 愛しい人を死なせ、私は捕虜として連れ去られた。そこで私は……。

 そんな私をクラウンは肉体が死んでも私を助けてくれた。国に帰る途中で彼を看取り、涙を流しながら一人国に帰った。憐れもない格好に槍を手にして、彼の血を浴びて。

 そこからの王は残酷になった。

 二つ目のドラゴンウェポンを作るという愚行に至り、ドラゴンを殺戮し、逃げた先まで追いかけて、ここに至る。

 私はまた見送る。団長ではなく、皇女として見送る。愛した人の最後を……。




 死を覚悟したクラウンを前に、アルマは引き留めることしかできなかった。

「お願い、これからも側に居て」

「それはできない。我が命は既に息絶えたいるだから」

 クラウンがカノジョをじっと見て、最後に語る。

「我が愛しい人よ、たとえ、次に召喚した時に今日この日の記憶が無かろうと、その顔を見れば次の我が命は必ず貴女を助ける。汚されたとしても、涙が枯れ果て、外道に堕ちていたとしても、その覚悟、罪、命、共に背負う。故に」

 優しく、彼は言う。

「一人で、身の回りでも背負えないと思ったそのときは、また、クラウンを呼んでくれ」

 歯を食い縛り、アルマは俯いて静かに頷く。彼女も覚悟したのだ。苦しめていた、愛しい人のせめてもの救いを最後に渡すために。

「異界の常ならざる者、神に等しく、人を越えている者よ、どうか我が因果、我が死なずを断ち切ってくだされ」

「わかったよ」

 咲哉が左に刀を差し、鯉口を切る。

「縁斬り『くさり断ち』、抜刀」

 魔力に似て非なる物が刀に纏わり付き、刀身は黒く染まる。

「我が力、()の剣、汝の技、全てを持ってここに『不死殺し(しなずごろし)』を!」

 鞘から出た抜き身の刀身は聖剣魔剣の類いを越えた神の剣だった。

 クラウンの側に立ち、剣を振り下ろす。固いはずの鱗を易々と斬り、骨と骨の隙間を縫って振り抜かれた瞬間、クラウンは痛み無く絶命した。

「さようなら、人を愛した竜。せめてあの世では幸せにね」

 ドラゴンの肉体は鉱物に似た物質に変化していく。けれど、ティアラの時と違い脆く崩れて脱け殻のようになっていた。

 抜いた刀を鞘に納め、アルマに寄る。

「せめて、忘れないであげてよ。それが、それだけが、彼が生きた証だから」

 その場を後にする。背中を向ける。彼がやるべきことは終わった。

 全ての戦いに勝敗が決まる。勝ちは冬樹、文句無い。

 対界戦争はこうして幕を閉じた。戦争は終わった。

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