対界戦争ー激動ー
その戦いは異次元だった。
グレイをアインが足止め、武器を持たずとも素手で互角に戦う様は見事と言う他ない。しかし、肉体に多大なる負荷がかかる奇跡は長持ちしない。事実、少しずつ押され始めていた。
対するロスターと十輪の戦いは十輪がわずかに優勢であった。
証明による影潰し、死角からの短剣投げを封じたことにより素の技量のみで戦わなければならない。対して十輪は銃器の扱いとナイフによる攻撃を織り混ぜた接近格闘術に関して高い技能を持ち合わせている。この状況で負けることはまずなかった。
そして、咲哉に相対するはアリウスとアルマ、他の二組の戦いから近付かせないように咲哉が間合いを考えながら立ち回り守りに徹する。
十輪が勝てばアインに手を貸しグレイに勝って、仮にアインが痛み分けたとしても二対二に持ち込み、咲哉が余裕をもって一人づつ片付けられる。
そうなれば冬樹側の勝ちだった。そうはなりそうになかった。
一瞬の隙、ロスターが投げた短剣を十輪が避けるも本命の狙いである照明の一つに直撃して僅かに影がある部分が現れる。
とっさにロスターが影に隠れる。
「黒ローブが影に逃避!」
冬樹の声で船内に響き渡り、シャルロットや近くに影があるものはそれから遠ざかる。
しかしどこからか出てくる気配はなかった。それを理解してか咲哉は攻勢に出る。
敵の攻撃を捌ききりながら自らの攻撃の激しさを増していく。
これにアルマは一瞬で翻弄され、守るようにアリウスがカバーに入る。
「アルマ団長!どうか一思いに!」
歯を食い縛り覚悟を決める。
槍に竜の顎が現れ、炎を、雷を、風の刃を発生させる。
「『友と共に歩もう』」
咲哉の手が一瞬止まる。
思考、自らの背後にはあれを受けきれないであろう人々がいた。
避ければ船ごと貫通しかねない、人が死にかねないと。
退いて構える、それを斬るために最適解を選び取る。が、咲哉の技をアリウスが止めに入る。
「貴方、死ぬよ!」
「そんなもの、とうの果てに覚悟した!」
咲哉の動きを止めて確実性を増させる。この槍の投擲こそが最終兵器にして奥の手。咲哉を倒し、船を落とす手段である。
「『竜王の涙』」
あらゆるものが熱によって溶ける、あらゆる命が雷によって息絶える、あらゆる形が風の刃によって切り刻まれる。
防ぐ術はなかった。けれど絶望することもなかった。
咲哉はアリウスを蹴り飛ばし矢面に立ち、不格好な構えから鮮やかな技を繰り出す。
「炎崩し」
一の太刀、炎を消し去り。
「雷切」
二の太刀、雷を切り裂き。
「風切り舞い」
三の太刀、嵐を切り払う。
「矢切」
四の太刀、槍の真正面から真っ直ぐ刃を当てて槍の投擲の軌道をずらす。
これら四つの剣技を一振りに乗せインペリアルの投擲を相殺した。
槍は船の外装を掠り地上に落ちていく。
「なッ!」
無防備になるアルマに斬りかかる。死なないように筋肉の健のみに狙いを定めて。しかし横からアリウスが入り咲哉の刀を受け止めた。
「もはや、人の技とは思えぬ」
つばぜり合い、咲哉一人で二人の足止めを完璧にこなす。
拮抗、アルマの胸中に苛立ちが積もる。薄皮一枚のはず、あともう少しで手が届く。そのあと少しがあまりにも、遠い。
(打開策を……)
咲哉が苦戦するもの、彼らの意識外からの攻撃を模索する。それはアルマの意思と関係なく唐突に訪れた。
船が大きく揺れる、強い衝撃でほぼ全員の体が宙に浮く。
それは地上からの魔術による砲撃、子供達四人による援護射撃だった。
とっさにアルマは雷を身に纏い咲哉に掴みかかる。空中からでも雷光のように移動し、そのまま船の外に放り出される。
アリウスがアルマを掴み振り落とされないようにするも老齢の騎士に次は横からの衝撃が加わる。そこには操舵室から振り落とされた楓の姿があった。
「バッ!」
そのまま咲哉、楓、アリウス、アルマの四人がアラクネから落ちる。
「咲哉!」
「冬樹!こっちは任せて!」
咲哉はとっさに草履と足袋を脱ぎ捨て空中で出来るだけ体勢を整える。
「レーヴァテイン!」
『承知しました』
レーヴァテインが咲哉の居る方向に指を突きだし、ルーンを空中に描くとその文字と同じものが足の裏に浮かび上がり落下しながら空気を蹴って移動する。
「手を!楓!」
咲哉から伸ばされた左手を楓が掴み取る。
「怖かったぁ!」
「大丈夫、大丈夫、死にはしないから」
泣きべそを掻く楓を慰める。その間にも敵の攻撃は止まらない。
上空のドラグーン三体が統率から外れ咲哉達の方へ向かって飛んでくる。噛み付かれれば肉は抉れ血潮が飛び散る。しかしそんなことすらお構い無く近寄った二体を瞬時に斬る。
もう一匹はアルマとアリウスを回収し、地上にゆっくりと落ちていく。
瞬間、咲哉の剣が二人に襲いかかる。
刀と槍がぶつかり耳障りの良い金属音と共に火花散る。受け止めると同時に他二体を既に撃退済みであることを悟る。
「団長!一度地上に!」
二振り目、片手の上段の構えから大きく振り下ろされた剣撃を防ぐもあまりに重くドラグーンごと地上に落とされる。
緩やかに地上に降り立ち、生まれたての小鹿のように足腰が震える楓を降ろして再度、二人に相対する。
「よもや、分断されてしまうとは」
「えぇ、ですがあの二人ならば成し遂げる……」
まだ瞳の死んでいないアリウスとアルマ、そして彼方より飛んでくるインペリアルが鎧の少女の前の地面に突き刺さる。
「成すべき事を成し遂げましょう」
炎が雷が嵐が一つの槍に集積する。
対する咲哉は無の構え。赤い瞳が揺れる。
「我の名はアルマ・ドラゴンスレイユ。貴殿を討ち滅ぼすものだ」
名乗りをあげてアルマは槍を引き抜く。呼応するように竜の力が身に宿る。
「……」
咲哉は無言で名乗りをあげられたことに驚いていた。そして、ならば、と口を開く。
「天条咲哉、我流、無名剣技、ご覧あれ」
雪花咲く極寒の街に、火花散らして刃交える。その光景を何も出来ない楓はただ見つめることしかできなかった。
上空五百メートル付近、こちらも火花が散っていた。
『雪村楓生存反応確認!咲哉共々無傷です!』
シャルロットの声が船内に響く。しかし、僅かかつ小さな音が声を掻き消す。
「ありがとうシャル。そして……」
冬樹の目線の先、本領を発揮したグレイによってアインと十輪は押されていた。
どれだけ傷を負っても倒れず、例え一人になっても戦うことを止めず、死を恐れず立ち向かう。
「こいつ、死に体になればなるほど強くなる!」
身に纏うそれは神性と呼ばれるもの。神の加護、神より授かった前例なき奇跡。死に向かって歩みを進めれば生きるための力が生まれる。
「アイン!一発で仕留める手段ある!?」
「無いです!」
「じゃあ私か!」
槍を投げ捨てる、盾を投げ捨てる、鎧すら自らを縛る枷、上半身の鎧を脱ぎ捨てその身を外気に晒す。極寒の空でそんなことをすれば加護は生命維持の為の力を生む。
発火、しかしそれすら生き残るために使う。
「最早恥も外聞もない!全力で、貴様らを迎え撃つ!」
高速で詰め寄る、拳を振るう相手は十輪、灼熱の拳に炎を溜め込みインパクトの直前に放つ。その直前、アインが二人の間に入り炎の拳を受け止める。が、炎が一気に噴出し、その時の衝撃で十輪が尻餅をつく。
そんなことすらお構いなしにアインは敵に掴み掛かり今度は自らの拳を顔面に見舞う。
肉が焼ける、激痛が走る。それでも表情を崩さず冷や汗ひとつ流さなかった。
焼け付いた皮がベリベリベリと剥がれ敵にくっつく。
それを見た十輪が何かを思う。
「ちょっ……!あんたもう子供居るでしょ!無茶したら……」
笑って誤魔化すアインが何かを思い浮かべる。
「この程度で音をあげられないです。そう、勝つためにってやつです!」
死に近づけば近づくほど、その状況や環境に抗うように力が増す。しかし裏を返せば死から一番遠い場合は弱いということ。
十輪の脳裏にアインが何が言いたいのかが浮かぶ。
「任せたです」
「えぇ、いいわ、全力でやったげる」
立ち上がり、二人同時に駆け出す。
対するグレイは炎を溜め込む。その様は悪魔の如く敵を笑う。
「勝つために、誇りさえも燃やして!」
噴出する、四方に向けて、爆発するように。
けれど、アインが前に立って後方には届かないように守る。
「ぐっぅう!」
皮膚が焼け爛れる。全身から水分が抜ける感覚がある。けれどその後ろで十輪が背中に触れて回復させる。
「援護する!」
しゃべる暇などなくとも手で感謝を伝え、後ろに居る人達の為に堪え忍ぶ。
神経が焼けないから激痛が絶え間なく続く。それでも意識を必死に保つ。
徐々に回復が火傷が出来るを上回り、そのすぐあと、グレイの炎が消えた。
今だった。十輪がアインの回復をやめ前に出る。死に向かうほど抗うその力の弱点。
触れる、瞬間、焼ける。痛みに耐えて彼女は火だるまの男に治癒の術式を発動し回復させる。
数秒と経たない間にグレイの力が弱体化する。炎さえも弱々しく力が衰える。
「なん……!」
「アイン!」
最後の力を振り絞り、アインが拳を握る。
「一時の間、眠ってろ!です!」
十輪が横に避け拳は敵の鳩尾に入る。刹那に駆け巡る衝撃と失われていく意識。瞬間的ではあるが心臓を止めて白目を向いて倒れ込むグレイを担いだ。
「先ずは一人目……」
全員が視線を動かしたわずかな隙、影の中から短剣が飛ぶ。短剣は甲板を照らし続けた証明に当たり、一面が黒く染まる。
『開門を確認!来ます!』
闇夜に包まれる、視界を奪われる。そして狙われるはこの中で一番弱った存在。
風を斬る、音を斬る、闇を斬る。その刃はアインの命を奪うために狙われる。
瞬間、甲板に一筋の光が降り注ぐ。
地を照らす光、冬樹の太陽を模写した疑似天体。その光が影の中から現れたロスターの姿を写し出す。加えて、影を媒体とした門は光に照らされて霞み、消えていく。
「ッ!」
ローブの隙間から見える瞳が明かりで視界を奪われ行動を制限される。
次に見えた時、目の前に拳が迫っていた。
アインに殴られ体が宙に浮く、自らが落とす影を門として開こうとするが冬樹の太陽の光が邪魔をする。
「再三度と邪魔してくれたわね!」
華奢な体からはあり得ない馬力と威力をもって高くジャンプした十輪の踵落としが顔面に直撃する。
叩きつけられる、脳が揺らされる。頭蓋が割れることは無かったがそのまま気絶してしまった。
「おらぁ!楓ちゃんとシャルロットちゃんとティアラちゃんを襲った分!」
「化けの皮……」
「……ンンッ!なんでしょうか?何か言いたいことが?」
「何でもないです」
拘束し武器を取り上げアインが二人を担いで安全な場所まで移動する。
「死んでない……わよね?」
「息はありです。……大量の短剣は何処に収納していたのです?」
「影の中じゃない?」
「あー……」
ローブが高い遮光性を持っており、常にローブの裏地が門になるように細工してあった。
「これ本当に、事前情報なしでよく対応したわね。咲哉」
「気配の探知が人の域を越えてましたです」
二人を鉄柱にくくりつけ、完全に無力化して漸く肩の力が抜けた。
「まだ終わってないのに、疲れた」
「もう一頑張りするです」
一息おいて動く。その顔色からは疲労が見える。
最後の難関、雲を突き抜けるその寸前、再び船が大きく揺れる。
体が大きく跳ね船全体に警戒音が鳴り響く。
『……きゃぁッ!』
「シャル!何が……」
冬樹がスピーカーを通してシャルロットに原因を追求するよりも早く、それは姿を現す。
鳴り響くは轟音、突き抜けるは赤雷、船に張り付いたそれはゆっくりと顔を見せる。
「……ドラゴン……か?」
血反吐を吐きながらそれでも這いずり現れたのはクラウン、の成れの果て。全身を赤黒く染め上げ優雅で高貴なドラゴンの姿はない。
吼える、殺意を剥き出しに甲板に這い出る。
「『聖人の光剣』」
弱ったアインが力を振り絞り竜退治の力を発揮する。威力も弱く、とどめは刺せないがダメージは与えると考えて。
しかし、瞬きの後にアインに大きな反動が帰ってくる。
「あぁッ!」
今までとは比べ物にならない激痛、体の内から大量のナイフが飛び出したかのような痛み。その痛みをもってアインは確信する。今目の前に居るものは竜ではないと。
「東雲隊長!この竜、もう既にドラゴンではないです!」
「なん……理由は!?」
「奇跡が効かないです!もうとっくに別の何かに……」
見れば見るほどおぞましく禍々しい。その様は悪魔のようにも見えた。
スピーカーからレーヴァテインの声が入る。
『横から失礼します。自前の解析能力で正体が割れましたので共有させていただきます』
間髪入れず、生真面目な声は告げる。
『不死、もしくはそれに属するものかと』
「アン……」
「「「『デットォ!?』」」」
『不死に関しましては咲哉様以外対応できる方がいないと思われます。連れ戻された方がよろしいかと』
船内が一気に凍り付く。空気が張る。目の前の事象に対して冬樹は究極の選択を迫られた。
けれど、そんな空気も、考えも、たった一人の声で一蹴される。
『そんなこ事してる暇はないでしょ!』
シャルロットの怒鳴り声がスピーカーを通じて船内に響き渡る。
「シャル落ち着いて……」
『倒せるよね!冬樹!』
『何を……』
『貴方なら倒せるよね!あの時みたいに!』
それは渇望と期待の声、ここで倒せないと言ってしまえば信頼も船も地に落ちる。けれど、彼女の期待ならば、彼女の信頼ならば、答える以外に道はない。
「倒せる!条件さえ整えば!」
『本当ですか!?しかし……』
「賭けだ!だが、ここで退く気はねぇ!」
この作戦はそもそもシャルロットの操縦技術頼みの賭け、今更何を賭けようが変わらない。
『わかった……、あの時みたいに、私が決戦まで連れていく!』
爪を立てドラゴンが一歩また一歩とゆっくりと近付く。鱗は剥げ、肉は裂け、翼は折られた。吠えようと何をしようと声すら聞こえない。ただただ、殺戮を繰り返すだけの怪物だった。
その怪物が再生を始める。それでも赤黒い表皮は変わらない。
「一度船から振り下ろす必要が……」
「余が出る」
「傷は!?」
「あそこまで弱っておるのならば万全である必要はない」
ティアラがにっこりと笑って冬樹に見せる。
「まっ……てて」
竜の言葉ではなく人間の言葉で促す。それを信じて冬樹は頷いた。
操舵室を駆け出るティアラの背中を見送って、彼女の成しうることを見届ける。
「……兄上、裏切者などと言ってすまなかった。そうなるまで、なってしまうまで、愛していたのだな。あの小娘の事」
吼える竜に、少女の形を象った竜は引導を渡す。
「我が身は人と共に」
翼を開く、魔力を貯める。そうして放たれる息吹は星明かりのように。
「星のような一生を」
竜形態の時と違い両手を合わせてその中に小さな星を作り、それを敵に向ける。息吹は反動と光熱を持ってクラウンを吹き飛ばそうとするも、しかし、爪を甲板に食い込ませて耐える。
「兄上……」
「せーっのぉ!」
「よいしょぉ!」
アインと十輪がティアラを後ろから支え反動による後退を防ぐ。
「もう一踏ん張りです!」
「頑張って!」
「ありがとう!」
息吹の威力が上がる。クラウンが下がり始める。
「……あ…………」
「さようなら兄上、いつになるかわからぬ、が、あの世で待っていてくれ」
クラウンが空に落ちた。その瞬間、ティアラの魔力が枯渇して息吹が止まった。
『皆気張って!術式最大出力!高速飛行!一気に雲を突っ切ります!』
『不死である以上、あれで倒せたわけではありません。執念も深い。閉門最中に乱入する事も視野に……』
「…………あ…………」
その声が聞こえたのは冬樹とレーヴァテインのみ。振り絞るように、今にも消えてしまいそうな声は確かに呼んだ。
「……あ………る……ま」
瞬間、クラウンの再生が加速する。赤い稲妻、黒い炎、血刃の風、再生が完了した後それらを纏いて飛翔する。
『なッ!?魔力反応増大!急速成長!?一年前の竜王の数値を超えています!』
魔力をジェット噴射してアラクネを追いかける。
『……速度急上昇中、接敵まで三十秒!』
言葉を詰まらせるシャルロットに冬樹は渇を入れる。
「シャル!」
『は、はい!』
「お前の力を見せてみろ!」
『……ッ!ハイッ!よろしいですが、何かに掴まっておいてください!』
船全体の術式に流れる魔力が加速する。なにかを見据え、シャルロットは声にする。
『全ての魔力をこちらに回します!後先は考えません!』
アラクネに張られた結界が破れ、全ての魔力が、船の行く先がシャルロットに委ねられる。
『接敵まで三、二……』
手に汗握る空中戦、その最中にてシャルロットは思いきった策を実行する。
『一!アラクネ急停止!』
零のタイミングで船の軌道をずらしクラウンが上に行くように仕向ける。
空中で静止したクラウンは翼を広げ魔力を溜める。赤雷が収束する、黒炎が凝縮する、血刃が吹き荒れる。
『術式ブースター起動!』
落下する前にロケットのように空へ向かって飛び始める。
そして……。
『第三術式起動!』
アラクネ全体が光に包まれ、前方に集束する。
『全魔術炉より術式に魔力装填開始、展開範囲を前方に限定、機体内重力地場強化、機体固定なし』
全術式が起動する、光の集束と共に盾が形成される。
『装填終了まで、三、二……』
瞬間、前方で赤黒い光が微かに輝く。ほぼ同じタイミングで互いの準備が整った。
『一……』
しかしほんの僅か、向こうの方が早かった。
地上に向かって今までとは桁違いの一条の光が息吹として放たれる。全てを焼き付くし、全てを破壊しつくし、全てを殺戮してもまだ足りない破滅の光が降り注ぐ。
故に、光の盾は輝きを増す。守りたいものがこの船には多く乗っているから。
『零!装填完了!『機械仕掛けの輝盾』ァァァァァァ』
三度大きく船が揺れる。クラウンの息吹を真正面から受け止め、せめぎ合う。
拮抗、息吹が止まることはなく、同時に盾が壊れることもなく。
ならば最後の一手は必殺となる。
『術式ブースター……限界突破!最大出力!』
船後部から術式を展開、そこから大量の魔力を噴出して推進力と変える。
蜘蛛に変えられた少女は空より落ちた。けれど今度は多くの仲間と空を行く力をもって彼方を目指す。
『これが私の………………意地だァァァァァァ!』
息吹を押し退け、船ごとクラウンに突っ込む。息吹が止めばそのまま一気に雲に突っ込み加速しながらその先を目指す。
『グググ……』
強化した重力地場でも体勢を保てなくなり始める。それほどの速度、それほどの重力がかかり始めていた。
『後……少し……』
まもなく雲を突っ切る、突破する、見えた希望を掻き消すかのように、魔力が減退した光の盾を赤黒い竜は突破する。
その口には先程と同じ息吹の光、至近距離かつ放つ準備は整っていた。
『あっ……………………』
走馬灯が溢れだす、死を覚悟する、こんなところで死ぬんだと涙が出る暇もなく息吹が輝く。
しかし、アラクネは船を突っ切った。月の出ていない星が輝く天幕の元に出た。
美しく、まるで砂をちりばめたかのような星空。その空を冬樹の魔眼は見逃さない。
開いた黒瞳、わずかな星の光すら見逃さないためにその魔眼は天文台と化す。
瞬きの後、息吹が放たれる。
されど、息吹が船を破壊することはなかった。
「我が身の内より現れろ『守護の七星』」
空中に魔方陣が描かれ、その中に北斗七星が現れて息吹を止める。
月の出ていない、曇りではない星空の元で、東雲冬樹は本領を発揮する。
「皆ありがとう。俺をここまで連れてきてくれて」
甲板に出て空がよく見える場所に出る。次々と星を作り続けその数は数える間もなく増えていく。
「ここから先は、俺の仕事だ」
静寂が訪れる、雲の海をアラクネは漂う。
星を纏った少年は静かに口にした。
「彼方への呼び掛けを、我が声を聞き入れたまえ」
呪文、もしくは詠唱を終えると冬樹の周りに小さな魚のようなものが漂う。
「『HEIYE』バックアップ任せるぞ」
(主、外、任される)
「あぁ」
(魔法、使う、可能)
「もう使ってる」
再び息吹の光が集まり始める。けれど三度目は撃たせる暇すらなかった。
冬樹が軽く腕を振るうと作り出した星が一斉に襲いかかる。衝撃によって船から剥がされたクラウンは空中で静止しながら冬樹を睨む。
けれどそれすら意に返さず冬樹は魔法を最大出力で扱う。
名を持たぬ魔法が名を持つ時、それは比類なき大偉業と化す。
「星よ……落ちよ」
瞬間、広範囲に渡って無数の星が現れる。
「『夜空を映す星図』」




