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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
14/59

対界戦争ー開戦準備ー

 咲哉の目の届く範囲に二人を留め、残りの二人は弱っている二人の面倒を見る。咲哉の傷は取り敢えずの応急処置を施してあった。

「……何か食べる?」

「要らねぇッス」

「そっかぁ」

 完全に生意気な子供と優しいご老人のやり取りだがその空気に明らかな異物として混ざる凶器が一つ。

 身を守るためか、はたまた隙を見て咲哉を殺すためか、どちらにせよジェイドは警戒心を解けなかった。

「君の名前は?」

「話し掛けるなッス!」

 少し拗ねる咲哉がふと別の部屋に視線を向ける。

 魔力が底を尽きて横になっているティアラと、原因不明の状態で冷や汗を流しながら横になっている楓の二人が居た。

「どう?良くなりそう?」

「ティアラ様は大丈夫です。ただ楓様が……」

「触れた物の材質と形状を変える超能……、自分の魂と肉体を変えてたんだ」

 レーヴァテインと冬樹は全身全霊をかけて楓の魔術的治療を行う。と言っても、外傷はなく治療するのは精神と魂の方、それは二人にとっても専門外だった。

「ここまで咲哉様が治して、その上で目を覚まさないなんて」

「俺はなにもしてないよ。彼女が自力で戻っただけ」

「助力はしましたでしょう?」

 レーヴァテインの目が咲哉に向く。手を貸してほしいという視線を向け、咲哉はその視線を受け動く。

「冬樹、変わってくれる?」

「わかった……俺がこの子らみるの?」

「刺されないように気を付けてね」

 納得いかない表情で冬樹が持つ魔術と魔法以外の武器、唯一のハンドガンを手に持って走ってこられても撃てる距離に陣取る。

 対して咲哉は楓の元へと歩み寄る。傍らに座り彼女の様子を見る。

「……これ……なんだろう?自分で自分を攻撃してるの?」

「魂と精神から分離した獣性が人間性を攻撃しています」

「抵抗してない……。まぁいいや、活動を止めれば大人しくなるよね」

 咲哉の右手が彼女の胸の上に触れないよう置かれる。

「……ほら、大人しくして」

 空中で咲哉が手を握りしめる。瞬間、楓の浅かった呼吸は深くなり目を覚ました。

「あれ?私……」

「おはよう楓ちゃん。もう夕方だけど」

 一部始終を見ていた冬樹はどこか背筋が凍る感覚を覚え、同じく見ていたジェイドとアリシアも息を飲む。

「人の……魂に触れたッスか?」

「ん?」

 咲哉が少年少女達の方に振り向く。

「騎士見習いと言えど魔術の心得もある自分、はっきり言って、それは魔法すら超越した力ッス……。そんなものどこで」

 その瞳には恐怖の色が浮かんでいた。けれど少女の方はむしろ好奇心を抱いているようにも見える。冬樹も同じく問いただしたいようにも見えた。

「喋らないんじゃなかったの?」

「話し掛けるなって言ったんッス!それは人の領域いや、領分を超えてるッス!」

「……宗教や信仰に関わること?」

 ジェイドがグッと引き下がる。咲哉の行動は彼等の信仰や神の類いをどうも踏みにじってしまっているものだった。

 しかし、魔術師を目指す冬樹と少女アリシアは全く違う見方をした。

「……魂は存在を証明できないものなんだよぅ」

 あの一瞬で警戒心よりも好奇心が勝ったアリシアは咲哉にほんの少し近寄る。その様子にレーヴァテインが警戒し、ジェイドがアリシアの肩を掴む。

「大丈夫だよレーヴァテイン。あんまり怖がらせないであげて」

「魔法や魔術の基盤は存在証明できない曖昧なものを存在していると仮定して行うものなんだぁ……でもねぇ……貴方が今行ったのはぁ……確実に存在している物への干渉なんだよぅ」

「補足すると、存在証明できないものっていうのは魔力だけじゃない。人、自然現象、過去や未来、そういった在るかもしれない物や現象だ」

 冬樹の補足も入り咲哉の中で分かりやすく理解する。

「つまり、在るかどうかも解らないものに俺は触れていたってこと?」

「レーヴァテインちゃん……、これ何の話?」

「目の前で、神の所業が起きたことによる尋問です」

「へ、へぇ」

 アリシアがまた少し近寄る。

「話を聞かせてほしいよぅ」

「ダメだアリシア!こんな危険人物に近寄るなッス!」

 目に見えて危険人物とかの言葉にダメージを負っている咲哉に慰めるついでに冬樹が訪ねる。

「俺も聞かせてほしい。魔術どころか新種の魔法の可能性すらある」

「これは……魔法じゃないよ」

 咲哉は自分の手を見て恨めしそうに見つめる。

「……とりあえずやることやってから話すよ」

 笑う彼に、その瞳に、明らかに陰りが見えた。太陽が月に隠れるように。




 門が開く。行き先は船アラクネ。門の出口が開いた瞬間、その場に居た全員がどよめく。

「重箱置いてて良かった。直通で来れた」

『結界ぃぃ!』

「せわしないねシャルロットちゃん」

 鳥居の門から咲哉がひょっこりと覗いてくる。

『どこですか!?どこに門有るんですか!?』

 操舵室のわずかな隙間に人一人が余裕を持って通れるほどの大きさの門を咲哉は出現させそこからまずは冬樹と抱えられたティアラが持ち込まれる。

「アイン……十輪……迷惑かけたな」

「別作戦も進んでいましたので大丈夫です」

「生きてティアラちゃんを奪還したから隊長の策を進めるんだけどね」

 続けて咲哉が楓をお米様抱っこして門を潜る。

「大丈夫!?楓ちゃん!?」

「肉体面に異常はないけど精神面で異常が出るかも。メンタルケアも含めて休ませてあげてて」

 十輪に先導されて咲哉は楓と冬樹から預かったティアラの二人をお米様抱っこで運ぶ。その間、楓はずうっと手で真っ赤な顔を覆い隠していた。

「……んで、もう二人ほど処遇をどうしようか悩んでいるやつらが……」

 全員の視線が集まるその先にレーヴァテインが、足元にジェイドとアリシアの姿があった。

 直感的に敵と判断したアインだが、同時に敵対心が無いことも感じ取った。

「……東雲隊長……これはどういうことです?」

「まぁ、色々あって捕まえ……た?後、咲哉の助力で大人しくしてくれるってさ」

 目を細めて冬樹が笑い、アインは何となく察する。

「……東雲隊長、準備は七割ほど終わってるです」

「わかった。門はこのまま開いておく。咲哉は……」

 冬樹がレーヴァテインの方を見ると彼女は首を横に振る。

「咲哉様が好きにすればよろしいかと。私はもう何も言いません。聞きませんから」

 彼女はジェイドとアリシアを置いて門を潜る。

「……条件は……守ってくれるッスか?」

「破りません。そちらが破らなければですが」

 冬樹は万全を期して警戒する。レーヴァテインも同様、二人以外の船員も何処と無く殺気立ったものを発する。

「……一応、丁重に扱ってくれ。捕虜として」

 アインは頷いて部屋を案内しようとしたその時、レーダーに反応が現れる。

『魔力反応複数確認、高速でこちらに近付いてきます!』

 シャルロットの声が船内に響く。冬樹とアインが急いで甲板に出ると遠方にそれは見える。

「ドラゴン……」

 重症を負った筈のクラウンが空を飛翔する。

 その背中にはアルマとロスターが乗っている。

「もう動けるのか!」

『後少し耐えてください!奥の手を起動させます!』

 焦る冬樹とシャルロットの声を聞いてアインは前に出る。

「……隊長、ここは病み上がりのアインにお任せです!」

 自信に満ちた笑みを浮かべるアインが冬樹に対して進言する。

「だが!」

「大丈夫です。この身は多くの奇跡を宿すもの、十字教の最高傑作です」

 信頼を胸に、冬樹は数歩下がる。

 信頼を受け、アインは守る事に自らを消費する。

「それは竜を打ち倒した奇跡、多くの見、多くを為し、遥か旅路の果てに守護聖人となった英雄」

 光が集う、それは大剣の形となって握られる。

「この一時に、このアインが守るべき物のために力を貸してくれ!」

 振るわれる光の剣は竜を切る。

「『聖人の光剣(アスカロン)』」

 遥か果てに飛翔するクラウンの翼を切り落とし、ドラゴンは失墜する。

「申し訳ないです。致命傷には……」

「十分!動きを止められただけでも」

 しかし冬樹は気付かなかった。そもそも、影を通る力なぞ見ていなかったのだから。

 近くの影から手が伸びる。それに気付いたときには黒いローブの男は目の前に居た。

「その首貰う」

「てめぇ……」

 短剣が喉元に迫る、冬樹が死を実感するよりも早くロスターの殺意が先行する。一瞬の出来事にアインすら対応できず、しかし、短剣が冬樹の喉を切り裂くことはなかった。

「やぁ、黒いローブの男」

 咲哉の腕が、瞬時にロスターを影から引きずり出し、組伏せるが自らの影に潜る。

「レーヴァテイン!」

「こちらには来ていません!」

 レーヴァテインの側にはジェイドとアリシアも居た。しかし、連れ去るようなことはなく。

「ティアラと楓は!」

『十輪から何事もないと報告がありました』

「一回皆集めるぞ!」

 冬樹がそう叫ぶ傍らで咲哉はドラゴンに目をやった。立ち上がり、喉を、口を開かせ輝かせる様を見た。

「冬樹!」

 咆哮、否、息吹である。結界ごと船を破壊するつもりで魔力を溜める。

 瞬時に咲哉はレーヴァテインを呼ぼうとする。が、レーヴァテインが咲哉の元に駆けつけるよりも早くシャルロットが手を打った。

『第三術式起動、魔力電池百基より術式に魔力装填済、展開範囲最大、機体固定完了済』

 アラクネの周りに術式が展開され不可侵の守りが起動する。

『全工程完了、発動『機械仕掛けの輝盾(アイギス・マキナ)』』

 余裕を持ってアイギスの盾を起動する。その盾は竜の息吹を難なく防ぎきる。

 そしてその息吹と同時にクラウンの姿が影に沈んだ。

『術式終了、魔術電池百基冷却に移行、再起動まで三十分、次まで間に合わないかもしれません』

「その心配は今の所ねぇよ」

 冬樹は咲哉を見る。甘い考えを払拭するように。

「咲哉……」

 冬樹を見る彼はどこか悟った顔をしていた。

「手を貸してくれ」

「いいよ。友人の頼みなら」




 船内に居る一部を除く全員を操舵室に集める。この中には万全とは言えないティアラと疲労が未だ取れていない楓も、本来無関係の咲哉とレーヴァテインもそこに居た。

 ジェイドとアリシアは咲哉の居た家に大人しくしている。門は既に閉じ冬樹達へ干渉する術はない。

 外は既に日が暮れ、雲が赤く染め上げられちらほらと雪が降っている。

「……全員居る?」

『私だけそちらに居ません』

「シャルロット以外は……居るね」

 深呼吸をして心を落ち着かせ神妙な面持ちで口を開く。

「これより、作戦を伝える」

 一気に身が引き締まる。現場の空気が一気に変わる。

「の、前に一つだけ確認をしたい」

 歩み寄るはティアラの元。膝を着き目線を合わせて冬樹が問う。

「これから、俺たちはスカイホールを閉じる。その気になればお前だけでも向こうに送り返せるが……」

 その言葉にティアラは首を横に振る。

「余の帰る場所はもうない。だから気にしないでくれ」

 優しい言葉に冬樹は心配そうに表情を歪めるが、続く言葉に心配は吹き飛ぶ。

「何より、今は貴様が居る場所が思いの外心地よい。故に、貴様達が居る場所をどうか、余の帰る場所にさせてくれ」

 その言葉に冬樹は笑って答えた。

「ハッ!いいぜ。その代わり」

 冬樹は立ち上がって彼女の頭を撫でる。

「頼ってくれよ。俺を、俺達を」

 今の一言で彼女に対する全員の警戒心は解けた。

 振り返り背を向ける冬樹が立ち去った後に彼女の傍らには同じぐらいの年の少女が居座る。端から警戒心もあまりなかった幼い少女が。

「さぁて!改めて策を伝える。前述通りスカイホールを閉じ、退路を閉じることが目的だ。そうすれば、向こうが俺達をどうこうする理由はなくなる」

「でも一回試みたけどまた開いたのでしょう?」

「あぁ。昨晩試したときはこちらのみ閉じた。だから今回は向こうとこっちを同時に閉じる」

「まさか向こうに行って」

「そらはない」

 冬樹は自らが組み立てた作戦を伝える。決して素晴らしいものとは言えないがそれでもしっかりしたものだった。

「門を閉じる魔術はこの中では俺しか使えない。本来は一番近い真下で起動させるが、今回は別に俺個人の魔法を使う必要がある」

『魔法ですか?』

「俺の魔法さえ万全に使えれば今ある問題はあらかた片付く」

「残った問題はなんです?」

「……敵の戦闘能力」

 冬樹の視線が咲哉に向く。

「……足止め?」

「できれば足止めを、出来そうか?」

「……加減が効かないって意味で難しいかも。まぁ、でも、あの二人との約束だからね。殺生は努力するよ」

 その言葉にどこか安堵する。

「わかった。シャルロット、船の方は動きそうか?」

『その件なのですが、魔力電池が……』

「では私が協力いたしましょう。魔力量に関しては無尽蔵に近いので」

 レーヴァテインも協力を申し出た。何処と無く不機嫌そうに。

「ありがとう!レーヴァテイン!」

「このままなにもしないのも目覚めが悪いと思いましたので」

 咲哉が満面の笑みでレーヴァテインの頭を撫で、不満そうな表情で頭を揺られる。

「そも、恐らくは人で動かせる代物ではありません。魔術で再現し足りない部分を科学で補強した神話の再現、正直私が居なければまともに動かせませんよ?」

『みみがいたい』

「協力ありがとうレーヴァテイン」

 冬木の感謝に笑顔で返し、作戦の全てが説明し終わる。

「取り合えず以上、開始は二時間後、それまでに準備を終わらせて……」

「よし!」

 咲哉が咲哉の会話に割って入り、提言する。

「飯を食べよう!」

 瞬間、全員の表情が曇った。まるで拷問を思い出すように。




 目の前にはいつの日かに食べられていたスープ缶が封を開けられていた。

「………………………………………………………………………………………………これ食べ物?」

「食べ物です」

 咲哉が明らかに動揺している。こんなものが食べ物なのか?と。

「この、薬と、油と、粉を固めた奴は何?」

「人工肉です」

「この、薬と、砂糖と、小さい豆を固めたものの集まりは?」

「人工米です」

「この、液、何?」

「工場廃棄物を食べられるように加工した物(液体)」

「………………………………………………………………………………………………これ食べ物?」

「食べ物です」

 食べ物を粗末にするなとあれだけ言っていた咲哉の手が止まる。それほどまでに不味かった。

「暖めれば……ギリギリ」

「言うな言うな。上手いって言いながら食ってんだから」

 憐れみの瞳を咲哉から向けられる。それが冬樹とアインに突き刺さる。

「これが俺達が食える一番いい代物かな」

「……食事は……」

 咲哉が顔をあげた。

「食事は!娯楽である!」

 その言葉に冬樹とアインが肩を震わせて驚いた。

「そも!好物と思い出は直結するもの!お腹一杯食べること!食べ物が美味しいこと!それだけで!人とは幸福を感じられる!」

「咲哉?どうし……」

「冬樹!『僕』はこの状況が気に入らない!栄養だけ摂ればいいんじゃない!食事とは楽しいものでなければ!そうでなくても!楽しいということを他人に奪われて良い代物じゃあないんだよ!」

 食べ物に関しては沸点の低い咲哉が怒りに似た感情で憤る。

「『僕』の家から米を持ってくる!塩と漬物も!お肉も持ってくる!こんな食べ盛りが沢山居る状況でこんなもの食べて力なんて出るはずないだろう!」

 そう言って咲哉は地面を蹴って門を出現させ俵を持ってくる。さらに蔵を開いて干し肉や漬物、その他多くの食べ物を持ってくる。

「ジェイド!アイリス!二つ約束したんだから僕のお願い!運ぶの手伝って!」

「えっ?なんスか?」

「何かあったのぅ?」

「咲哉さん?そこまでしなくても良いです」

「するの!『僕』が耐えられない!どんなに辛いときでも美味しいご飯って言うのは心を癒してくれるの!美味しいご飯一つで戦地の人間は生生き残れる!」

 やってることは近所のお節介なお年寄りだが、言っていることになぜか説得力があった。

「でもお前の蓄えが」

「知らん!若い奴らがひもじい思いしてる方が耐えられない!」

「いやお前も若いし……」

 咲哉がせっせと準備を進めて、

「米炊ける場所ある?」

「ないです」

「炊いてくるから!」

 俵だけ持って咲哉は自宅に帰る。

「握り飯にするから!すぐ帰ってくるから!」

 そう言い残して咲哉は門を潜る。冬樹とアイン、そしてジェイドとアリシアが取り残され、山積みの食材に唾を飲む。

「食べて良いっていってたよな」

「言ってたです」

「……これ私達も食べて良いのぅ?」

「だ、ダメッス!まずは毒味から」

「仲良く食べてよ!喧嘩したら怒るからね!」

 そんな咲哉の言葉に四人全員が固まる。

「……食べるです?」

 アインの言葉に全員が頷く。

「焼くぐらいは出来るぞ」

「手伝わせてよぅ」

 約一時間後、咲哉が作った握り飯と漬物やお肉といったご馳走が配られ、ある者は頬張り、ある者は米を泣きながら食べ、ある者達はよだれを滴ながらたらふく食べ、最終的にレーヴァテインの怒声が響き渡った。

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