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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
地に落ちた星、天に咲く花
12/59

瞳に宿る

「こんにちはー」

 操舵室にひょっこりと咲哉が顔を覗かせる。

 そして咲哉を見たことがない船員全員が気づいた瞬間に混乱しながら警戒し始める。

「……あっれぇ?」

「いや普通警戒するでしょう?」

「そうです。結界もすり抜けてるようです」

 何の動揺もなくアインと十輪が対応に当たるその姿が余計に混乱を生み、そして船内のスピーカーから幼い少女の声が発せられる。

『さらっと術式防壁すり抜けましたね。一応結界レベルなんですが』

「あの薄い幕?『門』を開けるなら簡単にすり抜けるよ。というか、その声シャルロットちゃん?もしかしてこの船本体?」

『本体ではありませんが……もしよければ防壁をすり抜けた話を詳しく教えていただいてもよろしいですか?先程、あなた以外の方が突破されたので』

 シャルロットの質問に咲哉は簡単に答える。

「詳しくって言われても、門があれば穴開けれる位しか……」

『この防壁は先程も言った通り結界と同等の力を有しています。概念的な拒絶、なら、ただ空間を繋げる程度では穴は開きません』

「なら空間じゃないものを繋げただけだよ」

 その言葉に全員が息を飲む。答えが一つしかないのだから。

「世界を繋げた。超小型の短距離移動用スカイホールとか」

『あっ、ああああぁぁぁぁ!!!』

 ブツリと船内放送が切れる。

「……なんかまずい?」

「超」

「まずいです」

 ハハハと笑う咲哉は溜め息混じりに手に持ったものを見る。

「皆、大変そうだなぁ。これ食べる暇あるかなぁ」

「何それ」

「冬樹につぶの方が美味しいって言われたからこし餡の団子を……冬樹は?」

 アインと十輪に質問するが明るくない表情をして沈黙。数秒経った後、アインが口を開く。

「……実は……」

 アインは語る。船に戻ってから一体何があったのか。事細かに、包み隠さず。




 遠吠えが響く、遠く広く。

 その様は獣。黒い狐は衝動にしたがって動き出す。

 雷のような速度で迫り来る槍を先程とは比にならないほどの硬度と大きさと速度で鋼鉄の壁を作り上げる。

 四肢は常に地面に触れ、尻尾は触れている空気や光を何かに変化させている。

 傍らで見ている冬樹とティアラの理解が追い付かない速度で楓だったものは異形となる。

 四つの足が地面を蹴る。次の瞬間にはアルマの前に飛び出し口を大きく開けて噛みつこうとする。

 その攻撃を盾で防ぎ槍を突き立てようとする。が、盾が変形し内側から棘のようなものがアルマに襲い掛かる。

 咄嗟に盾を投げ捨て楓と距離をとる。

 もはや人と人との争いにあらず。これは異形との戦い、人と人外の戦いである。

 それでも、アルマは一切の戸惑いを見せず槍を構える。

「……驚きはしました。しかし、貴女のような怪物を私は倒してきた。負けるわけにはいかない!」

 両手で槍を構える。それは守りを捨てた攻めの姿勢。

 先程とは比較にならない速さで駆け巡る。

 それに難なく対応する黒い狐は同じように鋼鉄の壁で行く手を防ぐも先程と違い今度は壁を突き破る。

「今度こそ!」

 雷が轟く、炎が燃え盛る、最大限の一刺しが黒い狐に直撃しようとする。が、しかし、周囲にある空気が重くゲル状になって塞き止め、光が屈折して集光する。

 物理的に重い空気は呼吸を難しくし、光の熱によって鎧の内側で焼かれそうになる。

 身動きがとれなくなったところで黒い狐は再び口を開く。

 口の奥、喉のところで発光する。

 それはただのエネルギー体、けれども人を殺すには十分な力を有した砲撃。

 発射、瞬間、アルマの体は尋常ではない速度で吹き飛ばされ建物を次々と貫通していく。

 建物の角に当たり空中に身が上がる。そしてその瞬間を見逃さず黒い狐の砲弾は再び直撃する。

 角度からして少し上向きに、今度は遥か彼方に飛んでいく。

 墜落したその場所は多くの建物が建ち並び雷のような速度ですら数秒かかる距離だった。

 明らかに能力の範囲と応用が段違いで上がっている。同時に本体の素の力も大きく向上している。

 雷をアルマは身に纏う。目では追えない速度で接近する。

 彼女は怪物退治など常だった。けれど、目の前に居るものを怪物では無いと認識を改める。

 あれは人に害を成す悪性の塊。人の道を外れた獣であると。

「インペリアル、殲滅形態に移行」

 雷が、炎が、真空の刃が、放出された後、集束する。

 それは竜の咆哮、それは竜の息吹、それは竜の怒り、全てを束ねてかつて城壁を突き破り大都市を壊滅させた一撃を……。

 同時、黒い狐は自らを中心に尾を円形に伸ばす。

 口を開き、その中のものを変質させ、手を加え、改造する。そうして出来上がったものは瞬時に肥大化し周囲のものを破壊しながら、なお大きくなっていく。

 黒い雷が轟き鼓膜を突き抜け、黒い太陽が顕現する。

 冬樹の魔眼は見逃さない。明らかにその配置ではないにも関わらず太陽が隠れていた事を……。

友と共に空を駆けよう(ドラゴンスレイユ)

 集束、そして解き放つ、渾身の一撃を。

竜王の涙(ティアードロップ)

 左足を建物の屋上で固定し雷のような速度をそのまま槍に乗せて投擲する。

 空間を貫き、大地を抉り、対象を穿つ。戦場を動かすほどの無敵の槍は、完成した黒い太陽と相対する。

 しかし、黒い太陽は何の干渉もなく砕け散る。

 そして中身が溢れ出た。

 それは百鬼夜行の最後に現れる黒い太陽にして最悪なる何か。

 命と呼べるものをしらみ潰し、無に返す大災害。

「『空亡(くうぼう)』」

 即座、冬樹は止めに入る。

 これは生まれて良いものではない。その直感が硬直した思考と体を叩き起こす。

「止まれ!楓!」

 刹那、インペリアルの軌道が変わる。

 雷の如く速度で黒い太陽の中身を穿ち、真空の刃が切り裂き、炎が細胞レベルで焼き尽くす。

 通りすぎたその後、多くの建物と舗装された地面がインペリアルの風によって破壊され巻き上げられる。

 瓦礫と砂塵を巻き上げ視界を妨げ、爆発に近い風が冬樹を吹き飛ばした。




 時間にして数十秒、失った意識を突発的に回復した呼吸と痛みが目覚めさせる。

 奇跡的に生まれた瓦礫と瓦礫の僅かな隙間で横たわっており、目を開いた時、目の前にはティアラが手を強く握っていた。決して離れないために。

「無事か?」

「なん……とか……」

 頭から血を流し、朦朧とする意識が痛みで覚める。

「……助けて……くれたのか?」

「助けようとしてくれたからな」

 笑うティアラが愛らしく見える。

「楓……を……」

 魔眼を開く。見ることにのみ特化した魔眼は瓦礫の山の向こうで今だ戦う黒い狐の姿を見た。

 しかし、次は一対一ではない。

 四対一、重装備かつ機動力と破壊力のあるアルマに加え、同じく重装備の騎士アリアスとグレイの二名、そして黒いローブのロスターと相対している。

 本来ならばもう少し目眩ましが効いていた。けれど、アルマを始め目眩ましから早々に回復した。それに疑問を持った冬樹は視点を変えて子供達を探す。

 見つけ、そして復帰の速さに納得する。

 魔術、もしくはそれに酷似したものを使用して自らの眼球、そして視神経を治癒する。

 冬樹が星による目眩ましを行い、直撃した瞬間、あの子供達は咄嗟にアルマの回復を優先した。一人一人の性能は低いものの六人全員でかかれば即座に終わる。

 経験の差、明らかに戦場を経験したことのある人間の動き。

 思考が行き詰まる。これからどうするかの考えが纏まらない。

 詰みであった。

 せめてティアラだけは、と言葉を発しようとする。

 ティアラの方を見て口を開こうとするも当の本人は首を横に振っていた。

 思考を先読み、冬樹の取ろうとしている行動を制止した。

 血まみれの冬樹にティアラは優しく手を伸ばす。

「……わ……たし」

 思考を読み、発した言葉と考えを照らし合わせ意味を理解する力を遮断、誰でもない、彼女は自らの口で言葉を紡ぐ。

「たすけ……られた」

 思考を読んで言葉を理解するということは、彼女らは本来相手の言語を理解できていないと言うことである。

 なのに、ティアラは冬樹の使う言語で、恐らくは聞き耳を立てながら覚えたであろう拙い言葉を。

「ありがとう」

 本来、思考を読むということは心の言葉を聞くと言う意味でもあるし、風景として思い浮かべていることを覗き込むことでもある。故に心を読む行為は自らが理解できる何かに変わる。

 自らの言語の言葉として、自分が見たことのある情景として。発した言葉をそれらと照らし合わせて理解する。海ならば自らが見たことのある海として、食事ならば自らの主食として。

 冬樹の心から見えるのは星空。大きく、あらゆるものを許容し、迷子を導く星だった。

 冬樹の星が輝く時、命を懸けてでもティアラを守ろうとした。

 言葉を照らし合わせても理解ができない。その光景は一切を語らない。けれど、優しかった。導こうと必死だった。

 浮かぶのは家族の事。何人たりとも立ち入ることはなく、ただ大自然を飛び回りいつしか竜を束ねる自分と共にあったもの。その全てを失って、宿したものをティアラは抑え込む。

 これはもはや憎悪による復讐劇にあらず、異種の優しさに触れた少女の形を象る、否、人の心を宿した『竜王』による恩返し。

「バカッ!やめろ!」

 にっこりと笑って見せる。

 彼女が握る手は寒空の下で触れてくれた手。助けを求めたときに伸ばしてくれた手をいつまでも握って居たかった。

 憎しみに心を囚われて前が見えなくなって殴りかかった事も許してくれた。

 そうしてさっきも、助けに来てくれた。

 返せるものはなく、けれど、返しきれない恩を無償でくれた。

 そんな彼を、彼の仲間達を守るため、彼女は人の姿を捨てる。

 瓦礫を掻き分け、四つ足四つ翼の美しきドラゴンが姿を現す。

 五十メートルを超えるドラゴンと見比べれば明らかに見劣りする。しかし、その瞳は、心は、魂は、あらゆるものを上回る。

 足りないものを心で補って、竜体を取り戻し、ティアラは竜王に至る。

 轟く咆哮は、優しく、何も破壊せず、討ち滅ぼす敵と相対する。

「アルマ団長!」

()が主!」

 まだ目の見えないクラウンがアルマの側に寄り、アリアスの掛け声と共にティアラを見た。

「そんな、竜体に戻るまでまだ時間がかかるはず!」

「竜王になったのです!魔力の生成量も()が物より遥か上を行っている」

 小さい体でありながら神話級の魔力を産み出し続け、少し吠えるだけであらゆるものを破壊しかねない。

 そんなものを目の前に、アルマは瞳を輝かせる。

「……アリアス!グレイ!ロスター!黒い獣を速やかに討ち滅ぼせ!」

「「「承知!」」」

「クラウン!行けるな!」

「はい」

 自らの魔力をもって治りかけの視力を素早く治す。

(われ)はアルマ!この身に竜殺しの力を刻みし第二皇女!アルマ・ドラゴンスレイユ!かの英雄の末裔として、そして、祖国の為!貴様の竜玉、ここで貰う!」

「なッ!?」

「何をおっしゃるのですか!竜玉は生きたまま取り出さなければ……」

「竜人の肉体ならば適切な処置をしなければ取り出す前に死ぬだろう。だが!竜の肉体であれば易々と死にはしない!何より!新たなドラゴンウェポンを御するためにも!故に!挑む!」

 その言葉にクラウンは頭を垂れた。その心、その有り様、その魂に魂まで売り飛ばしたのだから。

「どうかお乗りください。全身全霊をかけて、わが妹を打ち倒しましょうぞ」

「……ありがとう、我の、最愛なる者」

 アルマの持つ竜王の剣槍の力がクラウンにも宿る。

 過ぎたる力、それでも、クラウンは御して見せる。

「ここに!一世一代の竜退治!成し遂げてみせよう!」

 ティアラが飛び立つ。クラウンが飛び立つ。その様は独特で、鳥のように飛び立つのではなく、魔力をジェットのように噴出して空を行く。

 ロケットが飛び立つように二匹と一人は空へ舞い上がり、一瞬にして雲の上に辿り着く。

 静止と姿勢制御の時のみ翼を使う。

 そうして雲の上で静止した二匹の竜は初手、奥の手を使う。

 両者が羽を広げ、魔力の光が集う。

 片や竜王の力を宿し、炎と雷を。

 もう片や、小柄な身でありながら宿すは大質量の星の光。

 それこそは竜の息吹。人がくらえば一瞬にして消し炭になる竜の奥の手。

「「竜の息吹(ドラゴンブレス)」」

 放たれた息吹は真正面で直撃する。そうした結果、激しい光を放ちながら遥か上空で大爆発が起きる。

 起きた爆発の衝撃は地上にまで届き、大地を震わし、二度、三度、それ以上の爆発が何度も起こる。

 竜同士では本来争わない。生まれたときから強さが決まっているから。しかし争いとなれば自ずと最大級の武器を使うしかない。

 その結果、強力な魔力炉(しんぞう)を持つ方が必ず勝つ。

 だが、その戦いには本来は介入できない存在が着いている。

 クラウンの頭上、仁王立ちにてアルマは槍を振るう。

 雷が、炎が、風が、かつての竜王の力が容赦なくティアラに牙を向く。が、しかし。

我が元に集え(スタートアップ)守護の七星(グランシャリオ)』!」

 易々と竜王の力を防ぐ七つ星の護り。それはティアラの首にしがみつく魔法使いの仕業だった。

「魔力分けてくれて助かる。ティアラ」

 仄かに笑っているように見える竜の頭を撫でる。

「これなら、多少は力になれる。さっさと倒して楓を正気に戻すぞ!」

 総勢二十の星が展開される。

 竜殺しを背に乗せた強大な竜に、星を纏いし竜王は挑む。




 黒い狐とアリウス、グレイ、ロスターとの勝負は早々に決着がついた。

 時間が経つと共に動きが鈍り力の規模が縮小して弱くなっていく。そして、老齢の騎士アリウスの槍が黒い狐の腹部を串刺しにし地面に縫い止める。

 そもそもが無茶だった暴走じみた力の使い方が原因で痛みに悲鳴をあげれるほどの体力すら残ってはいなかった。

 人に戻ることはなく、狐は静かに目を閉じた。

 アリウス、グレイ、ロスターの三人は敬意も嘲笑も無く、自らが行うべき次の事柄に着手する。

「我らもお助けせねば。ジェイド、ブリッジ、ユーリア」

 少し離れた場所にいる少年少女達に三人は駆け寄り、視力の回復した少年達は黒い塊を持って地面に何かを描き名前を呼ばれた瞬間顔を上げる。

「準備はできてるッス!」

「いつでも、召喚可能です」

「でも、デカいの、無理」

「流石の手際。では、ドラグーンの召喚に取り掛かろう。セリア、マリア、アリシアはグレイの方をよろしく頼むぞ」

「了解しました」

「ジェイド~、ここの言葉なんだっけ~」

「そこは、『我が契約と約定に従え』だったと思うよぅ」

 少女達が淡々と図面に何かを描いていく。

 それは魔方陣。最も古い確実に魔術を使用できる手段。儀式である。

「アリウス様の方は既に用意してあるそこらの怪物で贄は足りるッス。グレイ様の方の贄はあの獣で間に合うと思うッス」

 アリウスが短剣で自らの手のひらを傷つけ詠唱を始めようとしたその時、カラン、と棒状で金属製の何かが投げ捨てられる音がした。

「……ごめん、ごめんね。もっと早く来てあげるべきだった」

 一斉にその音がした方向を振り向く。

 この極寒の中においては薄着で、アリウス達が見たことの無い民族衣装を身に付けた白髪の誰かの後ろ姿があった。

「大丈夫だよ、楓。ちゃんと元に戻れるから。だから意識をはっきり持って……」

 差し伸べられた左手を千切らんとする勢いで噛み付き血を流す。

 一切表情を歪めることはなく、白髪に誰かは語りかける。

「楓の中に人間性はまだ残ってる。大丈夫、人に戻れる」

 狐の瞳に慈悲と慈愛に満ちた優しい笑みが映る。

 噛む力は緩み、左手から離れる。

「さ……く…………や」

「うん、『僕』だ。天条咲哉だ」

 彼女が流す涙を、彼は優しく拭う。

 人としての、自分の在り方を取り戻した狐は姿を変える。雪村楓、黒髪黒瞳の少女へと。

 服は破れ腹部には穴が開いていた。しかし、少しずつではあるが目に見える速度で再生していた。

 とっさに咲哉は小さい鳥居の門を出現させ、腕だけを突っ込み藍色のコスモスの刺繍が施された羽織を取り出した。

「レーヴァテインが編んでくれた代物だから、暖かいはずだよ。今はゆっくり休んでね」

 魔力が籠った羽織を楓に掛けると頭を撫でて安心させる。

「貴様は誰じゃ」

 アリウスが痺れを切らし少女に優しく接する咲哉に問いかけた。

「……人に名前を聞くときは自分から名乗るべきだろう」

 その声は明らかに怒りを込めて、白髪を揺らしながら振り返り、赤い瞳がアリウス達を捉える。

「まぁ、名乗ってやるつもりもないんだけど」

 無表情、しかし瞳に真っ赤な炎が揺れている。

 肉体において瞳は魂と精神が唯一見える窓。見えるものによって抱いている感情や幻想が違う。

 咲哉は(はらわた)が煮えくり返り、ヘソで茶が沸けるほどその身の内に憎悪と言える憤怒を抱いていた。涼しい顔をしたその裏で。

 真っ赤な炎がそれを表していた。

「……傲慢……だのう」

 アリアスはそう言って目を細める。

 憐れみ、同情、相手の強さを図れない程度の強さの子供が戦地に迷い混み、あまつさえ相手を煽る。

 傲慢、咲哉の態度はそうとしか言えなかった。

「小僧。今なら目を瞑る。それを連れて、さっさと立ち去れい」

「断るよ。上で知り合いがまだ戦ってるし、足止め程度はさせてもらう」

 一歩、咲哉が前に出る。

 アリアスから溜め息が出た。

「相手をしてやってくれ。グレイ。遊び相手にはなるじゃろう」

「承知しました師匠」

 命を受けグレイは少し頭を垂れて咲哉の方を向き、アリウスとロスターは魔方陣に向き直る。

 手には槍と盾を、腰には剣を携え、全身甲冑の男は白髪の少年に歩み近付く。

「少年。怪我をしても知らんぞ」

「心配無用……」

 刹那、咲哉の姿が消える。

 否、視認できない速度でグレイに近付いた。音も無く、空気が微動することもなく不自然に自然の摂理に反して。

 グレイが槍を振るい咲哉に間合いを取らせる。

 一瞬にしてスイッチが入る。戦闘態勢に移行する。いや、させられた。

 恐怖、殺気、突如としてそれらはそこに現れ、白髪の少年に宿っている。

「いい剣だね。手入れが行き届いている」

 白髪の少年の手にはグレイが腰に携えた剣が握られている。あの一瞬で咲哉は剣を奪って見せた。

「手癖が悪い」

「……だけど、貴方が手入れしてる訳ではないよね」

 瞳が甲冑の男に向く。炎が揺れる目が殺気と共にグレイを捉える。

 首を落とされる錯覚、一瞬で五体を切り落とされる直感。

 本能が叫ぶ。逃げろと。

 理性が縮こまる。相手にしてはならないと。

 数多の戦場を戦って生き残り続けてきたグレイは瞬時に守りに撤する。

 それが間違いだった。

 再び咲哉の姿が消える。次の瞬間にはグレイの体はアリウスの頭上を越えて後方に飛ばされる。

 一瞬の出来事に整理が追い付かない。

 グレイは確かに防いだ。盾に衝撃があった。ただ、その衝撃は剣が直撃して発生したものではない。剣に纏われた何かによる衝撃だった。

 おもむろに左腕を見る。鋼鉄の盾は砕け散り、鎧の隙間から血が滲む。

「あっがッッ!」

 自覚して激痛が走る。骨が折れたような感覚が左腕に、しかし折られたのではなく絶たれていた。骨が切られていた。

 地面に落ちアスファルトを転がり、次に見た咲哉の姿はおぞましく映る。

「……師匠!ロスター!手を貸してくれ!」

 瞳から炎が見える。影で顔が見えないその最中、瞳だけが輝いている。揺らめいている。

「こいつ、人間ではない!」

 遠目から見るその姿、人外そのもの。在り方がそもそも人ではないその存在にその場にいた全員が恐怖する。

「いいや、俺は人間だよ」

 幼子は肩身を寄せ合い、勇気ある男の子は守ろうと動く。

 老齢の騎士は真っ先に盾と槍を構え一歩、また一歩と歩み寄る人外に睨む。

 黒いローブの男も得物の短剣を手に戦闘態勢に入る。

「ふざけるなよ……、貴様!自らの姿を見てみろ!」

 その様、まさしく人の敵。産まれてすぐ深い山奥のとある人々によって『神』と崇められしありとあらゆる神話を探しても存在しない新たな神。その正体、誰よりも命を潰す者。

 鬼神、そう崇められた人外に他ならなかった

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