推しはモブ。私もモブ。
モブ子が推すのは・・・ @短編その47
ちょっと追加。(2020/07/19)
私の推しは、ガイレル様です。
推し。
そうです。この言葉でもう、分かったでしょう。私は役立たずの異世界転生者です。
これといった才能もなければ、バイタリティーも無く、魔法や剣の才能も無い。
ほんのちょっと、前世の記憶を持って生まれただけの凡骨です。
前世でもゲームだ、アニメだ、漫画だ、ノベルだと、そんなものに夢中だった19歳のライト腐女子でした。
ガイレル様も、そんな乙女ゲーの中の登場人物、攻略対象でした。
死んで転生したようなんですけど、死因は覚えていません。きっと即死だったんですね。
まあそれはいいとして、今私はゼブライ王国の王城で勤務しているコンパニオン・・介添えです。
家も落ちぶれて、男兄弟が生まれなかったし、親戚ももう老人ばかり。継ぐ子は私だけ。
なので我が領地の民には、幾ばくかの金銭を与えて引越せと言い渡し、今は無人となりました。
つい最近国王陛下に領地をお返しして、身軽になったところです。
古いだけの公爵家は、私一人になったのです。
領地運営は大変なのは、父を見ているので分かっています。
あんな面倒で大変な思いをして、何が楽しいっちゅーねん!!です。
私の仕事であるコンパニオンというのは、メイドでも侍女でも無い仕事です。
王妃様やお姫様に付き添うお仕事です。
お出掛けする時について行ったり、異性を牽制するのがメイン、というのでしょうか。
あとは来客時のお茶のご用意、パーティーなどの招待状や事務補佐など、結構細々としていますが、字が書ける人がするお仕事です。ちょっとしたお稽古事も教えることもあります。簡単な読み書きなどもお教えする事も。
なのでメイドや侍女のようなお仕着せは着ずに、ドレスを身に纏います。
王家の方や、海外貴賓の接客もいたします。
そして刺繍もお仕事の一つです。
普通の刺繍で無く、タペストリー・・・3メートルサイズの巨大な紋章などの大作も仕事となります。
意外と忙しいんです。
そして身分も王家、それに該当する者しかなれないワケで、私は腐っても公爵家、ふふふ。
まあ、使用人としての立ち位置も、面倒極まりないのです。
本日はナルデア姫様に介添えです。
兄上で王子のギルブリット様は、護衛の少年と一緒に狩りに行っています。
置いて行かれて、お姫様はものすごく不機嫌です。
この狩りには、騎士のガイレル様も参加しているのです。
そうです。
私の前世での推しであった、ガイレル様にそっくり、名前も同じ!最推しです!
でもこの世界では『モブ』です。あんなにハンサムで、剣技も持っているのに。
仕方がないです。王子殿下とその護衛が、馬鹿みたいに強いのですから。
所詮、主人公枠を外れたのですもの。まあ私はモブのモブですけど。
彼と出会った?いいえ、初めて見掛けたのが10年前。ガイレル様が16歳の時。私と同い年です。
彼は王子殿下の護衛をしていました。王子殿下は8歳でした。
学園に上がるまでは、彼が護衛だったのです。剣の稽古も彼が教えてました。
私は6歳のナルデア様の介添えで、兄である王子殿下と一緒に、剣を振りたいと言ったお姫様のお側にいたので、彼とも話す機会があったのですが、今は護衛役から外れたので話すことはないのです。しょんぼり。
まあナルデア様の剣の稽古は、軽い木刀を振るだけ、それも10分と持たないお遊戯でしたので、その後は走り出してどこかに逃走するので、私は必死で追いかけっこをするのでした。
一度追いかける時にずっこけて、膝をすりむきドレスを汚してからは、パンツにロングブーツという小姓のような格好にしました。姫が脱走しようとしたら、ダッシュしてとっ捕まえるのです。
「見事な走りですね」
「!!!」
「あ、フィーリス嬢?」
ガイレル様に言われ、もう恥ずかしくて・・褒められた走りで、逃げ出してしまいました。
それ以来、ガイレル様を見ると走り逃げてしまい、あまり話す事もなくなってしまいましたが・・
「やっぱり見に行きたい!!兄上とサトクラ、今日はガーゴイルを退治に行くって言ってたの」
「ダメです。王子殿下も仰っていましたし、サトクラもいけないと言っていたではありませんか」
「だって!!最近一緒に行ってくれないんですものーー!!」
おお、ついに始まってしまいましたねぇ・・駄々っ子攻撃が。
国王陛下でさえもこれには困ってしまう、姫のわがまま炸裂です。
唯一制御出来る王妃様は、今日はお茶会をされていますし・・
「いいえ、やはりダメです」
「もう!いいもん、一人で見に行くもん!!」
「ナルデア様!」
今日の私はドレスなので、姫が駆け去るのに追いつけませんでした。
多分馬舎に行って、馬で向かう気です!
私も昔は、領地を馬で駆け回っていました、乗馬には自信があります!!
姫の馬は早駆けするので、なかなか追いつきませんでしたが、そこは技量でカバーです。
ようやく追いついて、並走します。
「ナルデア姫様!!いい加減にわがままはおやめください!!」
「な!フィーリス、あなた早いわね!」
「ここは魔物やモンスターがうじゃうじゃする場所です!さあ、早くお戻りください!」
と言っている側から、何かの影が前方に見えた。
あれは・・トロール?
「姫様!!右に走って!!」
私は姫の乗る馬の尻を、思い切り殴りました。
ぶひいいいん、と変な鳴き声を発し、馬は右へ舵を切って駆けて行ってくれました。
私は・・・囮となろう。そう決心してトロールに向かって駆けた。
ああ、ガイレル様に、一目・・・
「くふぅ・・」
「大丈夫ですか、フィーリス嬢」
口の中が・・熱い・・・喉が焼け・・そ・・変な味・・・
目が回って・・焦点が・・・
なんだか体が・・・怠い・・
あれ・・?人の声がする・・・
「大丈夫か、ダライエ公女!今ポーションを飲ませた。運べるか?ガイレル」
「はい、行けます」
「ソーサーに乗ってください。その方が早いし揺れないです、ガイレル隊長」
「うん、そうしたらいい、頼むぞ、サトクラ、ガイレル」
「あー!私も乗りたい!」
「お前は反省するべきだ!!ダライエ公女は、自分を犠牲にしたんだぞ!!」
「だって・・・」
「では、飛びます!」
声が遠ざかって・・・
うわ、浮遊間・・・でも、私・・体が・・あれ?
誰かに抱っこされている・・?
ああ・・・目が回る・・・
気が付くとベッドの上です。
ポーションを飲んだおかげで、生きていました。
そのポーション を飲ませてくれたのが・・・ええーーー・・・
ガイレル様ですって。これはもう、死ねる。死にかけたけど、もういっぺん死ねる。
いや今は生きねば。
お妃様がナルデア様を連れてきて、大謝りされました。
まあ私は公爵家ですけど、そんな大層な様子で謝らなくても。でも反省してくださいね。
その後、兄である殿下と一緒に護衛の方も見舞いに来てくれて、兄として、と謝って頂けました。
本当、王子殿下は素晴らしいです。流石次期王で攻略対象です。
不思議なことに、別の乙女ゲーのキャラだったガイレル様、どうしてここにいるの?
どんなゲームタイトルか、誰がヒロインか、忘れてます。殿下の名前以外思い出せませんが・・
でも、こんな護衛の少年って、いたっけ?
まあ私はモブです。モブオブザイヤーがあったら、間違いなく優勝です。
ガイレル様が助けてくれたからって、恋仲になるわけではありません。
だって26歳ですもの。適齢期、過ぎてますもの。
・・お見舞いに、いらっしゃいませんでしたもの・・
そんなわけで、1週間ほどお休みを頂いて、王城に復帰しました。
ナルデア様は2週間の謹慎だそうです。もういいですよ〜、王妃様〜〜。
許して差し上げてくださいませ。
今度、騎士団宿営地の門の上に飾られている紋章付きの旗を交換することになり、私が刺繍で縫うことになり、古い団旗を見せてもらいに来ました。なんと入口にガイレル様がいました。
「やあ、もう大丈夫かい?フィーリス嬢」
「・・はい、ガイレル様。その節は・・ありがとうございます」
ポーションをまうすとぅーまうす、です。
された記憶がないので妄想しました・・でも恥ずかしいです。
団旗を刺繍したのが、5年前だそうで、すっかり風化して色が薄くなっています。
前に縫った方がパターンと色指定を残してくださいました!これでかなり楽になります。
団旗は大変大きいです。前世にあった畳よりも、ひと回りは大きいです。
これは大変です。一年近くかかってしまうかもしれません。
噂では、ガイレル様は来年結婚するのだとか。
その時に、花嫁さんと門でクリスタル画を作る筈です。
騎士団員は慣例で、結婚するとこの門の前でクリスタル画を作るのです。
前世で言えば写真です。大きさはハガキ大、厚さ1センチのクリスタルに、そのままの風景を閉じ込めるのです。
・・そうね。
それまでには縫い上げて差し上げましょう。間接的ですが、命の恩人ですもの。
推しの幸せを願うのは宿命なので!!
団旗は外しっ放しには出来ないので、門の前に吊るし直しました。
大きな制作物なので、騎士団の宿営地にある部屋を一つお借りし、縫っては休憩がてら団旗を見る。
その繰り返しとなりました。糸屑もいっぱい出るので、王城内では出来ない作業なので、貸して頂けてよかったです。
あれから半年、かしら?
ああ・・もう直ぐ完成です。思ったよりも早く仕上がりそうです。
出来上がったら、この部屋から立ち退かなくては。
ここはとてもいい部屋でした!最高でした!
この小窓から練習風景が眺められたのです。
時々、ガイレル様の姿も見る事が出来ました。
モブにしては良い待遇です。
ガイレル様、お幸せに。
今も、きっといつまでも、ガイレル様は私の推しです!!
その頃、騎士団長の団長室では・・
「なあ・・お前、いい加減にしろよ。折角彼女をこんな近くで仕事してもらってたのに。半年もいたのに、何やってんだ、お前は!!食事に誘うとか、せめてお茶でもとか!なんで誘わないかな?」
「・・・はい」
部下の様子に、騎士団長は大きく溜息を吐きます。
「お前は最初からこけてるんだよなぁ・・・女性に『いい走り』って。バカにしてるとしか思えねえ」
「いえそんなつもりは!ほ、褒めたつもりだったんです・・」
「普通は『大変ですね』とかだろ?確かに見事な走りだったとしてもだ!だからモテねーんだ。この顔だけ詐欺」
「好きでも無い子になんで声掛けないといけないんですか」
「もう10年前の話しても仕方がねー。団旗の話し合いにも、お前を使ってやったのに・・なにしてるんだ」
「いえ、嬉しすぎて。いざとなると、勇気が出ないもんですね」
「勇気も言う気もねーじゃねーか」
「どうしようもないですもの」
「お前ってやつは!!1番のチャンス、ポーションを飲ませるも、お前にさせてやったのに!見舞いにも行かねえ!」
「あ、はい・・でもつい思い出して、照れ臭くなって」
「どあほう!!いいか、これが多分最後のチャンスだ!!完成した旗の受け取りで、ちゃんとプロポーズしろよ!!」
「え!まだ付き合ってもいないですし」
「結婚を前提として、と言え!!ったく、何年拗らせてるんだ、ガイレル!!」
結婚の単語を聞いて、ガイレルさんの顔が真顔になりました。
「そういえば、俺が結婚するって噂が流れているんですが・・」
「ほう、そうか?そろそろ告白して、結婚するんじゃないかってのは聞いたがな。みんなきっとイライラしてんだ。その噂に乗っかって、結婚しちまえ」
「誰です!噂を発展させたのは!!もしかして、フィーリス嬢に誤解されてるかもしれないじゃ無いですか!!」
それをずっと聞いていた親友、ラヴィアが笑います。
「誤解、今解きに行ってもいいのよ?ついでに告白も済ませれば?」
「うううっ」
ガイレルさん、顔が真っ赤です。今日はどうやら無理なようです。
団旗は明日には完成です。
ガイレルは、はたして?
団旗・・・旗なだけに!!
介添はコンパニオンで書きました。フランス語のシャペロンでもよかったけどね。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。