リズの木の実 秘密の友ですの。オーホホホホホ
お許しが得れました。わたくしは早速行動に移します。朝、いつもの様に城中に向かうと……まぁ!政権交代がありましたの?パトリシアが皆の中心となっておりましてよ!勿論、シャルルもさり気なく居られますけれど……。サーシェリーが、輪の外でツンと澄ましておりますの。
エレーヌがそっと囁いてきます。
「昨日のお茶会で彼女だけがお声をかけられなかった、そういう事なのですよ」
……、わたくしの一言でこうも変わるとは……これからは、少しばかり気を付けなければなりませんわね。
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「エレーヌにお聞きしたいのですが、こう、親しくなるにはどうしたら良いでしょうか、彼女の嵌めている指輪を、手に入れたいと思ってますの」
執務室で彼女に問いかけます。わたくしは人づきあいという経験があまりありませんの。祖国では同じ様な年頃の令嬢は、ほぼお姉さまの取り巻きでしたし……。
「そうですわね、この国の風習に『女同士の秘密の誓い』というものがございます。他愛のない子供のお遊びなのですが、それを持ち出されたら良いかと」
「秘密の誓い?どういう事なのか、詳しく話して」
「お互いにお互いの秘密を守る。という約束遊びなのですよ。誓いの言葉の後に、身に着けている品物を交換するのです、年頃の令嬢達がよく交わしておりましてよ」
楽しそうですわね。でもまって下さいまし……、わたくしは秘密というものがありません。そもそも後ろめたい事などしてはならない立場なのですが。
「お互いの秘密を持つという事ですが、わたくしは何をお話をすればいいのかしら?」
「そうで御座いますわね……彼女をどうお使いになられるのですか?」
わたくしは少しばかり考えます。ターワンのお爺様は、サーシェリーを望んでおり、そして届いたソレには良からぬ事が書いてありましたの。
『そちの姉とあの美女を交換しようではないか、ちょっと面白い事を考えておるのじゃ……、アレを唆してのぉ……上手く行けば戦を止められる、ワシ良いもの手に入る、上出来きになる』
ワシ良いもの……孫の嫁のはずなのですが……、何を考えておられるのかは置いておきましょう。
「そうですわね……、とりあえずわたくしの手元に置いておきたいのですわ、キャロラインと共にあちらに向かえば、何かしら事を起こしそうですし」
「……、何も王妃様が、ご自身の事をお話にならなくても良いかと、あなたの秘密は陛下にも、誰にも言わなくてよ、位でよろしいかと、指輪の交換をした事を、秘密になさればよいのです」
「でもお話も無しに、いきなり秘密の誓いを、と持ち出しても大丈夫なものなのですか?」
「良いのでございますよ。王妃様なればこそ出来る事なのです。先ずはお茶にご招待をし、四方山話をするのです。そして、貴方とは気が合います、親しくなりたいと話されてから、秘密の誓いを持ち出せば、相手は容易に堕ちるかと……」
何か煙に巻く様な気がいましますが、取り敢えずわたくしは、エレーヌの段取り通りにいたしましたの。すると……
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――「わたくしが、王妃様の秘密の友に!有難き光栄で御座います。ええ、この事は誰にも言いません、神に誓って……」
あら、簡単に堕ちましてよ。わたくしは指にはめていた、ごくありふれた意匠の指輪を彼女に差し出します。それはエレーヌが選んだ代物ですの。彼女は自分のそれをわたくしに差し出しました。わたくしが日頃からそういう物をひとつほどしか身に着けないので、彼女達もそれに習っている様ですの。
「変わった形をしているのね。初めて見ましてよ、細かい網が美しいわ、ここに描かれているのは貴方の頭文字?」
楕円形をしており、蓋を開ければ、中に何かを仕込める様な型をしております。極々細かい銀の網目の上に、飾り石を嵌め込み、サーシェリーの頭文字が作られてますの。
「ええ、そうで御座います。そしてそれは蓋が開くのです、中にいい香りを染み込ませた、綿毛を入れるのですわ」
「綿毛を、そう……何か入っていますの?」
わたくしは指を顔に近づけると、慌ててサーシェリーが止めに入りました。
「ああ!駄目でございます。王妃様。失礼で御座いますが、リズの実はご存知ありませんの?」
「リズの実……知っていますけれど……」
「それが入っているのです。お顔に近づけ過ぎると……少しばかりふらつきますから……お気をつけ下さいまし」
意気揚々と教えて下さいますの。わたくしは少しばかり意地悪な事を聞いてみることにいたしましたの。
「わたくしの祖国では見た事がございませんの。リズの実はどうやって手に入れるのですか?グルトムにしか無いとかお聞きしましたけれど……」
わたくしの質問に少しばかり声を潜めて、悪戯っぽく話してきましてよ。あら、何か楽しいですわ、同じ年頃だからでしょうか。
「……、行商人からこっそりと買うのですわ。とってもお高いのです。ホントは……持っちゃいけない物なのですけど、でもわたくし達は、使いたいから、これが有れば、素敵なお方に支えて貰えますもの、うふふ」
うふふ……、いいのかしら?ご禁制のお品をこうも堂々とお披露目するとは、しかも王族の一員が……、何たる事です!少しばかり憤りそうになるのを、ぐっと堪えましたわ。ここで彼女が離れて行っては困りますもの。
「……そう、ならば気を付けなければね……そう……パトリシアはこれを使ったの?シャルルと仲が良さげですが」
「わたくしの知らないところで使ったと思うのですが、知らないって言うのですよ、リズの実も買えないって!そりゃ少しばかりお高いけれど、買えない身分のあの子がお兄様に……」
頬を膨らませ話す彼女。
「では、シャルルには……どの様なお方が相応しいと貴方は思っているの?わたくしから見れば、二人はお似合いよ」
「……、それは……言ってはいけないって、お父様に止められていますの……絶対に話しちゃだめって……」
どこか甘い彼女、だめだと言われているのに、あの時外で話されてましてよ。わたくしはそれを思い出しながら、彼女に誰にも秘密にするから教えなさいと、唆す様に話します。
「ほら、わたくし達は『秘密の友』なのでしょう、だめよ、話してくれなきゃ」
指輪を見せながら、少しばかりくだけて話をいたしました。しばらくモジモジとしていたサーシェリーでしたが……、心を決めたらスラスラと話し始めました。
「秘密の友。ええ、そうで御座いました。その、お兄様には王妃様が相応しいってお父様が……もし今の陛下が……その、その後王妃様が女王様になられて、お兄様と……なればいい、と聞いたのです」
……、それを聞き呆れ果て、しばらく物が言えませんでしたの。秘密の友は便利ですわね。全く……陛下の弟君様においては、何を考えてらっしゃるのかしら?謀反と取られても仕方なくてよ。しかし表立って動く事は、今のところ考えて無いご様子ね。
「まぁ……、そんな事あるはずありませんわよ。いけないお父様ね、クスクス」
少しばかりわざとらしいですが、悪戯っぽく笑いましたの。それに応えたサーシェリー。
「はい、ほんとにそう思います。王妃様と陛下とはとても仲良くて……わたくしも、そうなりたいと思ってますの、うふふ」
こうしてわたくしとサーシェリーは『秘密の友』とやらになりましたの。
これは、面白い事になりそうですわ。オーホホホホホ!