意地悪されてわたくしは目が覚めましたの オーホホホホ。
姫様!危ない!そう声が耳に響いた!
馬の嘶く声、蹄の音、姉上の愛馬『ロクサーヌ』が私に向かってくる!避けなくては!でも、突然の事で足が竦んで動けない……。ああ、わたくしはここで死ぬんだわ、お母様の様に……そう思った。
狂った様にこちらに近づく姉上のロクサーヌ……、姉上、意地悪な姉上、妾腹のわたくしを王妃様と共に母娘して、薄ら汚いモノの様に見て、そして酷いことをたくさん仕掛けてこられた。きっと今のこの状況もわざとなのでしょう、何故こんな事をなさるの?
「文句があるなら、お前の母親に言えばよろしいのではなくて!」
言われ続けた言葉が耳にこじりついている、意地悪な姉上の甲高い声。わたくしのお母様も、王妃様に日々嫌がらせをされて、だけどそれに負けじと立ち向かっていた、毅然とされて笑い飛ばしておられた、でも……
ある日同じ様に馬をけしかけられ、その時のお怪我が元で病に伏し、私を置いて先に逝ってしまった。王妃様がされた事を、そっくりそのままわたくしに繰り返してくる姉上、母娘して嫌がらせばかりしてくるなんて、ああ……走馬灯ってあるのね、今までの面白くもない、あんな事なこんな事が……!
ドンッ!
立ちすくんでいると、側仕え?衛兵?庭師?誰かに力任せに押されました。敷石の地面に転がり倒れたわたくし。痛みを感じる前に、わけがわからなくなりましたの。
ただ……、遠くで蹄の過ぎゆく音、悲鳴、笑い声が聞こえた事は覚えてます。
☆☆☆☆☆
……、ああ……悔しい、悔しくてよ。お母様……、でもどういう事なのかしら、何故かこんな思いは、初めてではない気がしますの……。いつ?どこでとはわからないのですが、ぼんやりと思い出します。
『どうして私ばかり……』
姿形は全然違う『自分』が、同じように冷遇され嘆いています。魂は永遠不滅と学びました。きっと産まれる前の事かもしれません、そうだとすればわたくしはよくよく『運』に見放されているのかもしれません。
「かわいい姫、卑下してはいけません、貴方も国王陛下の血を継いでるのですから」
お母様の声が……聞こえる。
「強くなるのです。わたくしは……、良い人過ぎました。やられたらやり返す事ぐらいしておけば、こんな事までされなかったのやもしれません」
お母様の声が聞こえる。
『悔しい、私いい子になんかならなきゃ良かった、意地悪なことしているあの子達が笑って過ごして、私が泣いて過ごして、今度生まれ変わったなら、意地悪する方に生まれたいな、素敵な世界に生まれ変わりたいの』
かつての自分の声が聞こえる。見たこともない景色、ねずみ色の石の箱みたいな建物、はしたなく見えてる足!わたくしどんな処にいたのかしら……。でもその気持ちはわかりますわ。
(そうよね、そうなの……、どうしてわたくしばかり……お伽噺の様な事はない、生まれ変わったら、幸せに……なんて嘘ばかり、『前』と大差がありませんことよ!ズルいですわ、もし、もし目が覚めたら……わたくしは!)
現在のわたくしの声が聞こえた。黒の世界が薄ぼんやりと白く明るくなる。それと重なる身体中の痛み、頭が割れるように痛む。
「……いた、い……」
額に濡れた布、薬湯の香りが濃く鼻につきます。酷い気分の中でわたくしは目を開きましたの……、そこには心配そうに覗き込む、マーヤの顔が……。ああ……変わらぬわたくしの部屋。
「姫様、ああ……神よ、ありがとうございます。姫様が目を覚まされましました……マーヤですよ?わかりますか?だれか!国王様にお知らせを」
「ええ……、ああ……わたくしは」
わかりました、との声、バタバタと慌ただしいい空気、そしてわたくし、ゴチャゴチャとしている頭の中。ザワザワしている耳の中、ドキドキ胸打つ身体の中、全てが痛みと共にあります。
「お怪我をされて、頭を打たれたのですよ、馬場から馬が……、お妃様と同じ様になったのかとマーヤは、心配で心配で……」
マーヤが泣きながら話してきます。そう、目が覚めたのね……、見た夢の中を思い出します。お父様は……、お忙しいお方、きっと大臣あたりを使いによこすわ、とわたくしはまだぼんやりとしていて、回らぬ頭でこれからを考えました。
「マーヤ、起き上がります」
小さい声だけどはっきりと伝えました。わたくしの言葉には逆らう事はできない側仕えのマーヤ、いつもと違うわたくしに戸惑う様な様子と、咎める様な目の色をしつつも、寝台の上に身体を起こす様取り計らってくれましたわ。
背に沢山のクッションを挟み持たれます。夜着の上にガウンを羽織る様にと差し出され、それを少々、痛みを堪えて袖を通しましたの。
「髪を整えて、頭に傷は無いのね、良かったこと」
そろりと手をやると、案じていた物はそこには無く、ホッとしましたわ、はい、さようでございますとマーヤが返事をし、そろりとブラシで梳いていきます、手から伝わる案じる気配……。どうやら大きなコブがあるらしく、そこは避けている様子がわかります。下ろした髪をリボンで後ろで柔らかく括られ身支度が整った時。
「姫様、ご使者が来られました」
侍女が取り次ぎを入れて来ました。わたくしは通す様に許しを与えると、背筋を伸ばし威厳を正します。
「姫様にはご機嫌麗しゅう……」
儀礼に乗っ取り口上と共に、下僕を従え礼をする男。思惑通りお父様の側近の一人が来ましたわ。わたくしは、まだあれこれ辛い状況なので、みなまで言わさず結論を述べますの。
「ああ……大臣、挨拶はけっこう、わたくしを突き飛ばした者と、馬丁をむち打ちの刑に処しなさい!」
は?その場に居合わせた者達全てが、同じ声を上げていました。




