王族の婚姻とは 〜こういうものですわよ。オーホホホホホ
太陽とお月さまが喧嘩をしました。それまで一緒に仲良くお空に並んでいたのですが、お月さまはプンプンして夜に引っ越してしまいました。
太陽もプンプンしています。ギンギラギンに光ってます。暑くてあつくて、どこもかしこもカラカラに乾いて、地上の生き物は困っていました。
月もプンプンしています。キンキラキンに光っています。なので夜が暗くなりません。カッ!と真っ白に光っている空、明るすぎて眠ることが出来ないので、地上の生き物は困っていました。
神様はそれをご覧になって、太陽とお月さまを呼び出されました。仲良くする様にお話しされたのです。しかし…、
太陽も月もプンプンしたままそっぽを向きました。神様がいくら言っても聞き入れません。イライラした神様は、ポカリ!ポカリ!とこぶしで太陽とお月さまを叩かれました。
パリン!パラパラパラパラ、バリン!バラバラバラ……
太陽とお月さまの輝きの素にヒビが入り、地上へ落ちて行きました。ドンドン、グサグサ、ズズズ……輝きの欠片は地面に突き刺さり潜って行きました。
太陽はいくぶんおとなしくなり、お月さまも、キンキラキンからフワリとしか光らなくなりました。地上に落ちた欠片は、人間が地面を掘り、拾い集めて暗い夜に灯りとして、使うようになりましたとさ。
〜太陽とお月さまのお話より抜粋
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お茶会も無事に終わり、いよいよ出立が近くなった夕方、太陽やお月さまの欠片と言われている、『蓄光石』をマーヤが部屋に運んで来ました。外が暗くなるにつれてそれは薄黄色に明るく輝きます。
「お義母さまに返してくださいませと、頼みましたけど無理でしたわね」
お母様が持っていらした物を思い出して、少しばかり寂しくなりました。それはまばゆく透明な光を放つ物でした。その光の中でおとぎ話の本を読んで頂いた事はわたくしの大切な思い出です。
「夕食前でございますが、甘茶をお入れしましょうか」
マーヤが聞いて来ましたので、ふと飲みたくなったわたくしは、熱い物をと言っておりましたら、じいがお父様の訪れを告げて来ましたの。わたくしの出立が近いこともあり、色々とお忙しい中わざわざ?宵闇が訪れた時刻でございました。
「急ぎだ、公の場ではないから顔を隠すこともあるまい、しかし嫁入り前の娘と二人きりはいかん、クロシェを呼んでこい」
わかりました。とじいがマーヤに目配せをいたしました。マーヤは手早くお茶の支度をし、じいと共に部屋から下がりました。少しばかり緊張をしながら様子を伺っておりましたの。
「失礼いたします」
自室に下がり雑務をされていたクロシェ夫人が入って来られました。椅子に座るお父様。マーヤが置いていったお茶を入れる彼女。華奢なティーカップに、とろりとした甘いお茶が注がれました。一口ふた口……黙ったままに飲んでいましたら、コレを読みなさいと、封書を一通差し出して来られました。
「……、ラジャからの報せだ、他言はならぬ、クロシェも見たこと聞いた話は忘れろ」
はいかしこまりました陛下、と声がしました。ラジャ、グルトムとの通過点にあるお国ですわ、王室は、お兄さまのご身内であらせられるお方々、そしてお母様の『生国』となったお国。
わたくは、不謹慎にも高まる期待の中でそれを取り出し、しっかりと読み進めていきますの、ご挨拶に続きこの間の感謝の意、そして……。
「これはどういうことですの?グルトムが海を超えて打って出るとは……」
「書面通りの事だ、ダーダがきな臭いと思っていたのだが、それは守備の為だったという話だ」
「それにここに書かれてある、ターワンの王とは……」
「この前来た使者殿だな、えらく年配だとは思っていたが、孫の嫁の下見に海を渡ったらしい、今はグルトムの王室に居られるそうだ、ドローシアと共に国に戻るおつもりらしい、早く立たせろと書いてあったろう」
まぁ……わざわざ下見に……、というよりは探りに来られていたのやもしれませんわね。ターワンは、ダーダの隣国、親しき中なのやもしれません。グルトムとも親交があるターワン……、どうなるのかしら。
そして、出立を促す事が確かにしたためられております、でもお姉さま達は……いえお義母様ですわ、どうなりますの?
「大丈夫ですの?お義母様がご同行されて、巻き込まれ無いかと少しばかり案じます」
「そもそも……、王妃には愚かな事をやめさせる様に諫言させるために向かわせるのだ、法王様からも戦争を起こさせない様に尽力せよと仰せがあった」
読み終えたそれを元に収めながら、わたくしは情報を整理していきます。お義母様のとりなしで収まればよろしいですけれど……、もし『人質』に取られて我が国に力を貸せとなったら……。
「もし『質』に取られたら……どうなざいますの?お父様」
「……、まだしばらくは動かん、ドローシアの婚礼がある故……、そこでだお前にひとつふたつ、あちらで動いてもらいたい」
あちら……隣国ですわね、ふぅ、所詮王族の婚姻なんてこんなものですわ、わたくしは気を引き締めて、封書をお返ししたあとで頷きました。
「隣国との荷の話でお前には月々『化粧料』を送ることになっておる、そしてあちらの王女を貰い受けた時には、あちらから送られる手はずになっておるのだがな……、どういうわけか、嫁に出さぬと言い始めておるのじゃ」
「お兄さまのお話ですわね、内々にて進めているとお聞きしておりますが、一人娘でしたわね、ナフサから少しばかりお聞きしております」
「……、そうだお前より三つ四つばかり年下になるな、王子は顔も知らぬ相手と婚約したくないとほざくからな、幾度か王女に対面させてはいるのだが……、それがしくじったやもしれん、ああ……とっととまとめておくべきだった。でだ、お前には王の首を縦にふるように、取り計らってもらいたい」
お兄さまの婚約を進めろという事ですのね、それは『化粧料』とやらに絡んでいそうな気がいたしましてよ、それとなく分からぬように、荷を動かすのでしょうか……、中身はどの様なお品なのでしょう。
ぬるくなったお茶を飲みます。ここで答える言葉は決まっております。
「わかりました。ご期待にそえるよう、力を尽くしますわお父様」
「もう一つは、コレを夫に渡せ、そして次の『狩猟大会』には招待状を出す故、来られたしと伝えるのじや」
薄茶色の小さな革袋を取り出したお父様。差出されたそれを受け取ります。手のひらに乗る程の小ささにも関わらず、重さがありますわ。巾着の口紐を解き中身を取り出しました。
つるつるとした石がひとつ出てきました。鼠色の中に黒、黄色、赤、白、が斑に文様を描いているそれにわたくしは覚えがありました。幼い頃にお母様に教えて頂いた、アレですわ。
「……、コレは『髭面のジョンの石』ですわ、そうでしょうお父様」
「ほう、知っておるのか、マリアに聞いたか?アレの生まれだと知っていても当然だからな、そうだ、それはジョンの石、そしてお前の化粧料の箱の中に入る代物だ」
……、鉱山で成り立っている我が国、他国とのやり取りもあるというのに、わざわざ隠して送るとは、この石を優れた職人が多い隣国で、密かに加工させるおつもりなのだわ、わたくしは石を袋に収めました。聞きたいことは山とあります。
なんのためにと聞けば、国力を上げる為だと仰るに違いありません。どの様にと聞けば、嫁げばわかると仰るでしょう、そして当然ながら『否』の選択はありません。
一介の姫にしか過ぎ無いわたくしの全ては、王であるお父様が握られてますもの。なのでわたくしは答えます。
「かしこまりましたわ、お父様、お渡しして、そうお伝えいたします」
わたくしの答えに満足そうに頷かれたお父様。この後、御用がお済みになられたのか、さっさとお帰りになられました。
「ふぅ、夕食前に忙しないこと、クロシェ夫人、ご苦労様でした、下がってよい」
わたくしは少しばかり独りになりたくて、彼女をさげます。外はもうとっぷりと暮れておりましてよ。それにしても……お姉さまのご婚礼の裏にそんな思惑があったなんて……。
「ご存知なのかしら、でも知ってらしたら、恋の病にはなられなかったはず……」
端正な顔立ちだったグルトムの王子を思い出します。黄色い灯りが力を帯びてまいりましたわ、それを眺めていると……、
さぁ……この先どうなるのかしら?些か不謹慎ではありますが、楽しみだこと。ふふ、誠に楽しみで御座いましてよ、オーホホホホホ。




