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天才二人でやることか?  作者: 炒り玉子
5/10

4話 凡庸なカラオケ回(前編)

―頭脳の天才のこの僕とまともに渡り合えるのはやはりあいつだけだ…!


白井が何かのタブレット端末を操作する。


―ヤンキー界でも幅を利かせた運動の天才、俺と戦えるのは奴だけ…!


坂谷は先に鉄球のついた短い棍棒を持つ。


「今日こそ決着をつけよう、坂谷」


「望むところだぜ」


「「カラオケの点数勝負の決着をな!」」


そう、二人は今日放課後を使ってカラオケに来ていた。


この時間に学会用の資料でもまとめればノーベル賞が数百回とれるはずの才能を持つ白井は…カラオケに来ている!


この時間にオリンピック出場を申し込めば金メダル噛み放題のはずの坂谷は…カラオケに来ている!ドリンク飲み放題付きで!


「まずは俺からだな」


坂谷は先に鉄球のついた短い棍棒…マイクを持ち立ち上がる。


「どれだけガンバりゃいい~誰かの~為なの~」


坂谷が予約したのはカラオケの定番、ウルトラソウルだった。



*****



着実に歌い続け、一番の見せ所のサビに入る。


「そーしてー輝ーく!ウルトラ…」


ガチャ


最悪タイミングで店員が入ってきた。


「お待たせしました!デラックスパフェです」


でかさが大きめの柴犬ぐらいあるデラックスなパフェを満面の笑みでもって入ってくる店員。


「頼んでないです!」


坂谷が額に血管を浮き上がらせて店員をにらみながらそう言う。


「申し訳ありません!」


満面すぎる営業スマイルで、デラックスパフェを抱えたままスッと部屋から出ていく店員。


「くそ!最初からだ!」


「まぁまぁそう怒んな。あの人が悪いのか店側の指示ミスかまだ分かんないだろ?」


渾身の「ウルトラソウル! Hey!」を邪魔されてキレ気味の坂谷をなだめる白井。


「うーん、でもあのパフェおいしそうだったなー。甘いもん食べたくなってきた。」


白井はメニュー表を見始めた。


「やっぱパフェは高いからな…プリンにしよ」


タブレット端末の注文機能で白井がプリンを注文する。


「…もっかい行くぞ」


坂谷は再びウルトラソウルを予約した。



*****



そしてもう一度サビまでは歌い進んだ坂谷。


「そーしてー輝ーく!ウr」


ガチャ


再び見計らったようにあの店員が入ってきた。さらにその手に持たれていたのは…


「お待たせしました!デラックスパフェです!」


またも小型のワニぐらいあるデラックスなパフェを持ってきた。


「頼んでないです!」


坂谷の握るマイクからピキリと壊れそうな音がする。


「もうしわけありません。このパフェ、このまま廃棄という形になってしまうんですが、もしよければこちらサービスでお食べいただけませんか?」


素晴らしい営業スマイルのその店員が言う。


「あ、無料なんですか?ありがとうございます!そこおいてってください」


比較的、物腰の柔らかい白井が笑顔で店員に言った。


「ご協力ありがとうございブァックシュ!」


直後、

パフェに直でくしゃみをかます店員。


「パフェ置いてきますね」


しかもそのまま置いていこうとする店員。


「あ、やっぱ大丈夫です」


さすがの白井も真顔で断った。


「承知いたしました!」


くしゃみしたことについてはなかったことのように扱ってくる店員へのイライラに耐えつつ、ちらっと店員の名札を見る白井。


『ドリンク運び係 亜例苦栖』


と書かれている。


―亜例苦栖…!?なんて読むかわからない上に名前に『苦』が入ってる!


「失礼いたしましたー」


名前にあっけにとられているうちに、店員は出て行ってしまった。


「あいつなんなんだ?奴をぼっこぼこのミンチにしてハンバーグにしたい衝動が抑えきれねえ!なあ白井!」


「なんで最後一回火を通したいのかは知らないけど。あいつにあと一回だけチャンスをやろう」


白井は深呼吸して落ち着きを取り戻して言った。


「僕がもう一度プリンを頼む。もしそこでちゃんとプリンが出てきて、それがおいしかったら僕はあいつを許す。」


「もしプリンが出なかったら?」


血の気が収まらない坂谷が聞く。


「その時はハンバーグにする!」


白井も叫んだ。そしてプリンを注文する。


かつてこんなに殺気高いプリン注文があっただろうか。


「まぁいい。俺はもう一回ウルトラソウルを歌う」


坂谷も懲りない奴である。


「…多分あいつ亜例苦栖 (アレックス)だな?キラキラした名前しやがってからに」


白井はつぶやく。



*****



「そしてーかがy」


「お待たせしました!デラックスパフェです!」


悪い意味で期待を裏切らない店員。


「来るタイミングちょっとずつ早くなってんじゃねえよ!一回目はまだ『ウルトラ』まで言わせてくれてたらだろ!」


坂谷の権幕をものともしない営業スマイルの店員。


手には小さめのカバぐらいの大きさのデラックスなパフェを抱えている。


「あとそのパフェちょっとずつおっきくなってるよな!」


「あ、これは僕のさじ加減です」


「お前が作ってんのかよパフェ!絶対くしゃみしただろ製造工程で!」


「よくわかんないですが…頼んでないんですね?」


「頼んでないです!」


坂谷の持っているマイクはバキリと音を立てた。多分壊れた。


「失礼いたしましたー」


もはや凶器を感じるほどの満面のスマイルで部屋を後にする店員。


「あいさつだけはいいもんな、アレックス。許せん」


さすがの白井も少し怒り口調で言った。


「アレックス?あいつそんな名前なのかよ。ふざけやがって…」


坂谷が近くのコップを握りつぶして言った。


「「俺(僕)らの怖さをわからせないとな!」」


…これがこの店の伝説に残る、モンスター客とモンスター店員の戦いである


(後編に続く)


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