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28【商業活動】

立て込んでいたので久々更新です。

 ネコサンの朝ごはんのねこまんまを作ります。

 用意するのは、宿のおっちゃんに炊いてもらった麦、粉末スープ、付け合わせに俺が種から錬金した根菜。

 全部を深皿に入れてお湯も入れてまぜまぜしたら終了。

 もっとちゃんと他の料理も作ってみたんだけど、ネコサンは一番のお気に入りがコレ。シリアル並みに手抜きなのに、これがお気に入りで俺はちょっと微妙な気持ち。


 俺とレオの朝食は、ここ数日は宿屋のお任せで、トマト煮なのかトマトスープなのか判別できないくらい野菜が入っているスープと、パンとオークのベーコン。

 スープは野菜のうま味が生きていて好みの味。前の世界の外食に比べると、見劣りするところはある。けれど、食い物に命をかけるあの国と比較したらいけない。

 織物展で会った坊ちゃんたち、坊ちゃんのサンドロと、護衛のロベルトとお目付け役のマルコムの三人組も同じ宿に泊まっていた。彼らも旅をしながら観光しつつ商売の勉強をしている。ついでに彼らは国王が行き来して警備に痛くない腹を探られるのは面倒だからしばらくここで逗留して時間をつぶしているのだ。彼らは暇を持て余しているようでよく声をかけてくるし、マルコムはネコサンをよく目で追っている。

 習慣の違いか食事時はあまり重なったことはなかったのだけれど、今日は珍しくかちあい、サンドロは粉末スープに興味を示した。

「そのさっき出してた粉って何?」

「粉末スープ」

「粉なのにスープ?」

「これにお湯を注ぐとスープ」

 一匙掬って見せ、コップを出すよう訴える。坊ちゃんは素直に用意したら、護衛が無言でサンドロから取り上げる。

 サンドロは品のよさげなイケメンではあるし、世の中は色々な主義嗜好がある。でも俺は彼に手を出すつ趣味はない。俺はレオを見守ったりネコサンをもふもふできればいい。

 この世界で性欲を感じたためしがないのだ。最初はストレスか病気かと思っていた。でも、違う。この世界の人型にそういう興味が持てない。犬や猫を見るような、別種の生き物というか、好感や親しみは抱いても、交配対象として心身が認識しない。枯れた、と端的にも言える。

「怪しい薬なんて入れないのに・・・ああ、でも、オークや鳥を食べたら気分が悪くなったりします?」

「ないよ」

「じゃあ、どうぞ」

 コップに粉末スープを入れると、レオが魔法でお湯を注いでくれた。

 ロベルトさんは一口飲んだ後、一気に飲み干した。その勢いの良さがなんとも戦士らしい。

「これは かなりうまい」

「ロベルト!ずるい!ないじゃないか!」

 わめきながらも、コップをこちらに差し出す彼はなかなかしっかりしている。

「次からはお金取りますからね」

 この一言は、ちらちらこちらをうかがっている人たちへの宣言。

 粉末スープは俺たちの食糧であって売り物ではないのだ。




「こんなコクのあるスープが湯を注ぐだけなんて信じられん!売ってくれ!」

「いや 言い値で払うからどうかうちの商会と契約してくれないか!」

「これなら王都でも商売できますよ!出店するときはぜひうちと一緒にいかがですか?」

「倍額払うから俺にも飲ませてくれ」

 数杯分提供すると起こった粉末スープに対する売ってくれコールは心底面倒くさかった。

 錬金術で手間暇無視したぼったくり工芸品は仕入れ先のごまかしようがある。「いやー、私も流れものの商人からしいれたので」と転売を理由にしらを切れるが、食品は賞味期限があるので同じ言い訳はできない。すぐに製造元だと判明する。世の中にはレオみたいに嘘を見破るスキルを持っている場合もある。流れ者をしながら稼げるのに、組織に拘束されては面倒だ。だったら方法は一つ。

「極論、適当な大きさに砕いた骨を一度軽くゆでて臭みをとったあと、臭みけしの野菜と半日煮込めば完成です。だから自分で作ってください」

「あっさりばらしますね」

「郷土料理みたいなものですし、自分で作るよりは、あちこちの店で飲めるようになったほうが楽なんですよね。モンスターの骨は素材扱いにされますけど、オークは食材にしたいです。粉にする方法は秘密で」

 マルコムさんやほかの商人たちは拍子抜けしていたけれど、全部本音である。粉にする方法を秘密にしたのは、全部手の内を出すよりは信ぴょう性がありそうだから、それだけ。

 真剣に誰かラーメン作って欲しいし、もしかしたら、勇者が再現してこの世界に存在するかもしれない。だから広がれ豚骨スープ。

 食事を終えたネコサンが俺のショートブーツの端っこを噛みながら「はよしろ」と訴えてきている。レオも心なしか不機嫌で、指先から火を出したり引っ込めたりを繰り返している。結局、宿屋のおっちゃんが「困っているからやめないか!」とかっこよくかばってくれその場を収めてくれた。なかなか様になっているところを見るとおかみさんもそんな感じで口説いてみたんだろうか。

 でも、俺知ってる。あのおっちゃんネコサンのまえでええかっこしいしたいだけ。それはネコサンもわかっているようでおっさんが近づいてきたら目を見て「にゃん」とかわいらしく鳴いていた。あざとい。




 今日はみんなで宿の部屋に引きこもってごろごろすることにした。ベッド二つとテーブルとイスと簡素なキャビネットしかない部屋で、前の世界ではビジネスホテル程度の設備だが、この世界ではかなりいいほうの宿で、ランクを落とすと、複数名で雑魚寝する部屋しかないとのこと。

 町で買ったものの荷物整理とかやることはあるし、宿屋のおかみさんがぜひ豚骨風スープ作りを伝授してくれと現金ちらつかせて頼んできたので引き受けた。朝飯の時に詰めかけた商人たちは適当にあしらうけれど、宿屋のおかみさんは好感度を上げておいて損はない。むっちりしたおかみさんに色目を使いたいとかそんな理由ではない。ちょっとだけ、ネコサンがおっちゃんを誘惑しすぎてもうしわけないとも反省しているのだ。宿屋のおっちゃんが誘惑されるとか誰も得をしない展開である。

 レオは俺の攻略本を読みながら次の旅先を検討しつつネコサンを撫でている。レオは芸術大好きだから王都に向かって主要な芸術都市を押さえていくルートを選ぶんだろう。

 スキルの攻略本は、俺が手に取っている間しか読めなかったけれどちょっとだけレベルアップして、俺が手放しても許可している間は読めるようになっていた。中身はいまいち変化がなく相変わらず観光ガイド仕様である。ダンジョンのページが追加され「アンデッドモンスター多数。時々財宝あり。力試しに最適。いえーい」とだけ書かれていた。このあほなページの執筆者は間違いなく邪神様だ。絶対行きたくない。

 モンスター図鑑も大雑把な絵と、この辺の地域でよく見かけるとか、食えるかどうかしか書いていない。この世界は暴れる魔王はおらずモンスターが徘徊しているくらいなので平和な証拠かもしれない。

 俺はネコサンが道中で狩ってオークの加工商品を錬金術で作っている。旅の資金稼ぎの内職だ。肉や骨を食品にした後、毛と皮は別々にして保存しておいた。ネコサンは物を伸縮できる魔法も使えるすごいネコサンだったのでとても助かった。実物より大きくすることはできないようだけれど、旅道具と商品が背負子二つ分にまとめられたのはありがたい。

 錬金術ではなんでも作れるわけではない。条件がいくつかある。

 その一、段階を踏むこと。例えばオークの皮からカバンを作るとき、一度、生皮を錬金術でなめし皮に加工してからでないとカバンにできない。素材から材料、材料から製品の二段階の工程が必要になる。

 その二、材料がそろっていないと作成できない。何もないところから黄金を作り出すようなことはできない。材料が必要である。唯一の例外は植物の類で、種から実をつけるところまですっとばしてできる。

 その三、作りを理解しているものでないと作り出せない。ダイヤや真珠は作れるが、サファイアやエメラルドは作れない。材料がわかっていないものは作れない。これは条件その二とも関係している。ダイヤは炭素のみでできていることを知っているからで、真珠は貝殻を作る成分が異物を核にして出来上がったもの、要は貝殻と同じ成分で材料もすぐに見つかる。料理も一度自分で作ってからでないと錬金術で作成できない。

 その四、芸術性の求められる装飾品の類を作るときには自分のセンスが反映されていたたまれないものが出来上がる、らしい。レオ曰くとてもじゃないが売りに出せないものになってしまうのだ。前の世界では開運祈願で元気なデザインの品物が普通に販売されていたからありなんじゃないかなぁと思うのだけれど、レオ指導のデザインのほうが高額買取してもらえるので、こちらの世界ではレオに監修してもらう必要がある。とにかく男のアレの形状のキャンディーを神社で売っている世界の基準ではだめらしい。

 ちなみにカバンなどの日用品の類は見本が見つかりやすいのでそちらは監修いらずである。

 魔法らしき現象を再現するのは大地もしくは、大気を材料にした錬金術になる。落とし穴や、野宿用のカマクラや土鍋づくり、真空を作り出しで呼吸器があるモンスターの息の根を止めること、大気中から水を出すこと。

 便利にあれこれできるように見えて、世間の魔法使いが一番使いやすい攻撃魔法の火球は錬金術ではどうにも再現できない。土鍋を作るときの『焼かれた』工程はイメージできるのにそれを実体化できない。

 人間相手で揉めた場合は真空で息の根を止める虐殺か、落とし穴や土壁で足止めの二択しか選べない何とも言えない能力である。実際は後々の面倒ごとを考えると足止めして記憶消去して逃亡が一番無難な選択だ。人殺しがよろしくないのは、後々復讐者に追跡されたくないからに尽きる。

 レオやネコサンの将来を考えると、お尋ね者になることは絶対にできない。

 あちらは俺を旅仲間程度にしか思っていなかったとしても、俺はうちの子だと思っているので真面目に将来の心配をする。レオたちが独り立ちするにしても悪影響が出ないようにしたい。俺が内職している間に、レオは自分の取り分を使って、ちゃんと商売の勉強をしているので能力的な心配はしていない。一度、手練れの商人に粗悪品をつかまされて落ち込んでいたけれど、それもまた勉強。問題は、俺がその商人を家ごとぶっ壊したいのを我慢するのがしんどいってことくらい。

 ことを荒立てると後々不利益が巡ってくるから、冷静に考えて、闇夜に紛れ商人のところに忍び込んで男の象徴のアレを短くした。真ん中部分をチョッキンして先端部分をくっつけ、その間の記憶を消しただけである。お役所に「朝起きたら短くなっていました・・・うわぁん」訴えたところで「うわぁ なにを言っているんだね」と憐みの目で見られるだけだ。人間の犯行って立証できないのがとにかく大事。その晩どこからともなく「くりーえーてぃぶだったら余も負けないんだからな!」と囁きが聞こえてきた。邪神様は見ていたらしい。ダンジョンに引っかかったら小さくなるトラップが生まれないことを祈っておこう。

初レビューいただきました。大変うれしいです。ありがとうございます。

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