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26【予想外の冒険者ギルド】

「想像してたのとちがう。冒険野郎がいない」

 俺の感想がまずこれ。

 案内を買ってでてくれた門番の上官のおじさんはバンと名乗った。名乗ったときにネコサンが愛想よく「にゃん」と挨拶したら「…なまえを…よんでくれた…?」と感動していた。そこらへんは個人の受け取りかた次第なのでつっこみはしない。

 上機嫌のバンさんがにこにこしながら案内してくれた冒険者ギルドは、白い土壁のこぎれいな町役場といった雰囲気で、明り取りの窓が大きくとられ明るく開放的、その奥のカウンターには受付役が四人並び、老若男女が手続きをしていた。

 イメージだと、薄暗くて愛想がいまいちの受付嬢がカウンターに一人いて、周りは酒瓶と武器を持った荒くれ者たちがやってくる新人を睨みつけるの想像していた。でも、実際にはずいぶん荒くれ者成分控えめである。

「こっちは一般受付だからな」

「ノブが想像してたのは専用受付の方だろ」

 バンさんとレオが、新米冒険者あるあるだなといった雰囲気で納得している。

 バンさんは説明を続けてくれた。

「一般受付の仕事は『冒険者や従魔の登録』『依頼』『低ランク依頼実施』主にこの三つだからな。昔は『高ランク依頼実施』も一緒だったんだが、揉め事が起きないように分離させたわけだ。分ける前までは頻繁に見回りが必要だったと爺さん世代が言ってたよ。冒険者登録したばかりでも『低ランク』はできるから小遣い稼ぎにやってくのもいい」

 専用掲示板には低ランクの依頼が張られていた。ちらりと見たけれど、薬草の採取というベタなものから、収穫の手伝いや、農耕の手伝い、道具の修理など、カノプスの町でしていた範囲の雑用である。あの町は、冒険者が少なかったから暇そうなノブにお鉢が回ってきたんだろう。

 依頼を見ながら頷いていると、バンさんが忠告してくる。視線はネコサンを追っているけど気にしない。

「間違っても『高ランク』はやめたほうがいい。危険度が高いのもそうだが、うかつにこなせてしまうと冒険者たちの矜持を折ってもめごとになる可能性もある。冒険者は三級と四級では随分と違うからな」

 そこがよくわからない。レオからざっくり説明されたけれど、盗賊は瞬殺できるしモンスターにはほとんど遭遇しないしで、この世界の一般的な冒険者の実力がわからない。錬金術を「魔法です」と誤魔化すにしてもどのくらいまで『普通の魔法』と言い切れるのかの上限値が知りたい。レオも人づきあいが枯渇気味。なので俺達には一般の冒険者の情報が少ない。大がかりな魔法を使わないカノプスでは気づいていなかったことだ。しかも今はネコサンがいて、そこそこ大きな獲物をしとめてくるので、それが異常なのか普通なのかは把握しておきたい。

 うまく隠ぺいして凶悪モンスター扱いされないようにしたい。

「冒険者の級ってどれくらい違うんですか。モンスターと冒険者の等級が一致しているとは聞いたんですが」

「四級で一番危険なのが、ツノウサギの駆除とかそんなもんで、農閑期の男たちに弓やこん棒もたせりゃすぐ終わるやつだ。ああ、五級は未成年のクラスな。

 三級は、武器を持って使い方を心得たやつじゃないと無理だ。三級に指定されてるモンスターは腕っぷしが強いだけか、しょぼい魔法しかつかわないからな。一人でオーク一体倒せるならまあ合格ってとこだな。

 二級はそれなりにのモンスターの群れが討伐できないとなれないからな。個人で魔法も武器も使えるか、パーティを組んでまとめて二級という扱いにしたりもする。このランクは実力の幅が大きいが、ミノタウロスやオーガの群れが倒せるくらいが真ん中だ。キラービーにてこずるやつもいたりするしな。

 一級は二級よりもさらに強くてな、もう雲の上の存在だな。それくらいのやつはめったにいない。いたら国から声がかかる。特級のドラゴンなんてのは災害みたいなもんだ。

 二級までの昇級は一定以上の仕事をこなすか、飛び級の試験を受けるかの二択。一級より上は試験や功績が必要になる。ここまでで質問はあるか?」

「ありがとうございます。そちらに関しては問題ないです。ただ、ネコサンって危ないモンスターじゃないですよね?」

 バンさんの語るモンスターは、前の世界でも有名どころなのでイメージはつかめる。オーガはまとめて窒息させて始末したが、正攻法では無理なので、うちのパーティの実力は準二級くらい。冒険者登録は大人扱いで四級になるだろう。三級になりたいとかそんなやる気は今のところない。生活に困らない範囲でいいのだ。

 気になるのはネコサンを町で連れ歩いてまたいちゃもんつけられないかということ。

 「ケットシーは、賢く多少の魔法や賊の察知もこなせ能力としては三級か四級だが、無害だから五級って扱いになってる」

「なるほど」

 ネコサンはケットシーだと思われているらしい。

 絡んできた兵士はむかつくけれど、死なない程度の闇討ちには自信がない。練習しておこう。

 前の世界風に言うと、四級は猟友会レベルで対処可能、三級は軍人レベルで対処可能、二級は軍隊レベルで対処可能といったところか。一級特級は災害クラスと。

 バンさんが紹介してくれたおかげもあって、問題なくギルドに登録できた。

 すごくありがたい。

 できれば、もっと前に登録したかったのだけれど、通行料が高く変わりにネコサンを置いてけという町があったので、町の横に土魔法で道路を作ってゴーレム馬車で通過した。道は戻しておいたので問題はないはずだ。

 ネコサンもバンさんの功績を認めたようで短時間だけれどもふもふを許し、おやつのダイコンを食べさせることもさせた。バンさんは満面の笑みで帰っていったのでよしとしよう。

 ついでに、ネコサンはケットシーとして登録された。

 ネコサンの登録が無事に済んだところで一緒に宿泊できる宿探しになった。

「ネコサン許可の宿ってあるかな?」

「これくらいの大きさなら割り増し料金で入れる宿はあると思う。あとは宿屋が猫派なら確実」


 宿は簡単に見つかった。むしろ、客引きされた。

 宿屋のおっちゃんにもふもふさせてくれないかと言われ、こちらもおやつを与える権利だけにとどめた。それでもおっさんは締まりのない笑みを浮かべてゆっくりしていってくれと言ってきた。割引まで申し出ようとしたところでおかみさんに尻を叩かれていたのはしょうがない。金銭の発生しないサービスをお願いしておいた。

 部屋についた時点で早速問題が出た。

 野営の時は土でかまくらをつくって二人と一匹で雑魚寝していたのだけれど、宿ではベッド二つになるわけでネコサンが不満を漏らした。ただし、ネコサンのベッドをよこせとかそういう話ではない。

 

「すみません、ネコサンの希望で全員で寝れるベッドのある部屋に代えてもらえませんか、だめなら、ベッド移動許可でもいいんですけど」

 宿屋のおっちゃんは胸を押さえてうずくまった。

 確かに、全員いっしょがいいネコサンはかわいいので仕方ない。


 くっつけたベッドの上をネコサンと一緒にころころ転がるレオを見ながら、異世界から来た俺が一番しっかりしないといけないのかもしれない。

 この世界の文字は、なんでか日本語表記ではないのに、俺にはすらすら頭に入ってくる謎仕様で、俺が文字を書くとなんでか手が勝手にこの世界の文字を書いていく謎仕様。もしかしたら邪神様のアフターフォローなのかもしれない。とりあえず読み書きには不自由してないので、そこまでレオに迷惑が掛からないのは安心である。この世界の識字率は知らないが、商人を名乗っているのでできていないとさすがにまずい。

 ただ、言葉でちょっとだけ気になっているのは、国名の響きは漢字風なのに、都市名や人名はカタカナ風のところ。なるべく文化的な溝も埋めていきたいので、ころころしているレオに聞いてみた。


「魔王討伐直後に建国ラッシュがあって勇者が命名してる」

「建国ラッシュって簡単に起きるの?」

「魔王が暴れたどさくさであれこれしたんだろう」

 ああ、乱世に乗じて下克上ね。それで、これ以上変更が起きて下々が迷惑被らないように勇者が締めたのね。邪神様から聞いたよりも勇者ちゃんとしてるな。

「勇者そういう仕事もしてたんだ」

「ついでに勇者が建国した玖明の王都グンマは勇者が一から開拓して今は人間の大都市になってるって聞く」

「王都グンマ…なんともいえない響きだね」

 勇者の出身はそちらだったのか。

 疑問が一つ解決したが、もう一つなんともいえない謎が爆誕した。


 言葉の件についてはすっきりしたので、次はネコサンをすっきりさせる番である。荷物からオークからむしった毛を使ったネコサン用ブラシを出すと、ネコサンが目をきらりと光らせ元のライオンサイズに変化する。ブラッシングはもとのサイズがいいのだ。

 ネコサンの隣に寝ころんでいたレオはちらりとこちらに視線をやった後、ネコサンと同じポーズでベッドに寝そべる。

 ペットと飼い主って似るんだなぁと感心しつつ、手早くレオの長髪を三つ編みにしてから、ネコサンのブラッシングに取り掛かった。

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