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25【本職王子】

 サンドロは弧李第三王子だけれど、名ばかり王子である。領地は村一つ程度なので直属の部下が参謀マルコムと騎士ロベルトしかいないので、下手な領主よりも力がないのだ。現在領地はマルコムの親を代官にしてあちこちに農業視察に出かけている。趣味と実益を兼ねている大事な視察だ。実益というのは、担ぎ上げようとする貴族につかまらないためだったり、領地の発展のためだったりとまっとうな理由がある。だからマルコムの父が留守番を引き受けてくれたのだ。

「私がカノプスに上陸したらまずいと思うのだ」

「ゴーレムの件が起きる前から農業見学の予定をしていたといっても、第三王子が単独視察したら波風立ちますからね」

 サンドロ当人にその気がなくても、王座狙いで武力を集めていると誤解されてはまずい。そのためにわざわざ、国王一行とは違うルートを選んで道草をくいながら向かっているのである。

「いつも通り、商人のだめだめ三男坊の設定で行けばいいだろ」

 そう言ったのはロベルトだ。この三人での視察では慣れっこなので今更演技力やらなにやら気にする必要はない。放蕩坊ちゃんと護衛と世話役の三人組で特に問題なく行動できている。三人ともそれなりに護身術を修めている。サンドロは「こんにちは」も言わずに「しね」してくる輩と昔からコミュニケーションしていたので、本職だったマルコムの母から「見習い卒業くらいの実力はある」と褒められていいる。

「先行している配下から二つ先の町エルナトについてわけのわからない報告がありました」

「あの通せんぼの町か」

 魔王が猛威を振るっていた時期に勇者が迷いの森を進むときに伐採してできた道に作られた町である。

 あの森の樹木が方向感覚が狂ってしまうと気づいた勇者たちは文字通り道を切り開いたのだ。ほかにもあそこの樹木はかなり特殊で魔法で燃やせなかったため、神から授かった剣で地道な伐採作業を行ったと伝えられている。

 今は森の向こう側に行くには町を通り抜けなければならないのだが、町が通行料をぼったくるのだ。町を壁沿いに移動しようとしてもいつの間にか迷ってしまうので、あの町を通り抜ける場合には金がかかる。行商人も行くことはあるけれど通り抜けをしないで入ったところから出ていくのが常だ。町の壁際に沿って歩こうとしてもいつの間にか壁から外れた場所を歩いているし、モンスターまでもが町の壁にたどり着く前に迷っている。

 国や前代領主の名誉のため言っておくが、代々あの町はぼったくりをしているわけではない。

 他の町に比べて若干割高程度であったのだけれど、領主が今の人物に交代してからあれこれ理由をつけて金額を上げ始めたのだ。

 国としての態度は静観。多少遠回りにはなるが別ルートも存在する。わざわざ注意しなくても、商人や旅人の流れが悪くなり勝手に自滅していくだろう。モンスターすら迷う迷いの森の横断部分にある町は重要拠点なので国が安く買いたたけるならと放っているのだ。


「では報告です。エルナトの側面を通り過ぎるまがまがしい植物系モンスターが出現し、見張りの全員がぱんつの代えが必要になりました。モンスターは町には攻撃を加えませんでしたがぱんつにはひどい攻撃でした。モンスターの名前は、町で公募した結果『ジョバジョバット』になったようです」

 報告するマルコムの目は死んでいた。

 サンドロやロベルトの目も死んだ。

「その名称は、効果お」

「ロベルト!言ってはいけない!」

「…そのモンスターはうごめく木のツルでできていたのですが、とにかく形状がまがまがしく夢に出てまたジョバ…いえ、聞かなかったことにしてください。とりあえず、ほかの町では目撃証言が出ていないのは良かったのか悪かったのか」

「各町に炎が使える魔法使いを派遣するか雇うことを推奨させよう、それと、洗濯屋の営業を確認しておけ」

 サンドロの命に部下二人はうつろな目で頷いた。

 念のため、この織物の町シェリアクでしばらく逗留することも決めた。今のうちに下着を買いあさっておいたら儲けが出るんじゃないかなとも思う。自分たちの小遣いや余計な滞在費は自分で稼ぐ主義なのだ。




「あんた 下着ばっかり仕入れてナニしようってんだい?」

「おやパンツの大将じゃねーか、ここでも買い物かよ」

 お忍びとはいえ、一国の王子が『パンツの大将』とひどい名前で呼ばれていることに、護衛のロベルトは思うところはあったけれど、マルコムが「むしろ意外性があって安全」とも言っていたけれど、目が死んでいるのでそれは自分自身に言い聞かせているだけだろう。当の王子は特殊スキルではないかと疑うくらいの鉄壁の外面を備えているのでどう思っているかはわからない。権力闘争よりも村長王子と呼ばれることのほうがましだと言い切る王子なので、変な呼び名が増えたところでどうでもいいのかもしれない。

 ただ、切実に癒しが欲しい。




 パンツの大将と一緒に街中を歩いていると町の出入り口でひと悶着が起きている。なにごとかと野次馬根性丸出しで出かけてみると、行商人風の人間とダークエルフの二人と門番が揉めていた。


「うちのネコサンは危ない子じゃない!いい子です!」


 二人の足元にはかなり大きな長毛種の黒猫がお座りしている。

 あの大きさならケットシーだ。

 この国では、使い魔の登録は冒険者ギルドで行うものになっている。

 理由は簡単、国ではできないからだ。

 国に定住している人間の管理はできるのだけれど、少数規模の冒険者や行商人の把握は、難しい。国境の町に兵士を置いたところで、そこを迂回されれば入国ができてしまう。何より悩ましいのが、冒険者や行商人から効率よく税金を取れないということ。なにせ彼らはひとところに留まらないで動き利益を上げている。

 そこを解決するために冒険者ギルドや商人ギルドに管理を委託したわけだ。

 ギルドは国に収益の一部を上げて営業許可を得ている。古の勇者の故郷にある【ギンコウ】に近い仕組みらしい。

 そして旅人がギルドへ登録する最大の利点が身分保障。


「僕らは商人ギルドに登録してるんだ」

「そのモンスターが登録されてないじゃないか」

「町に入る前にテイムしたんだよ」

「簡単に登録されていないモンスターを町に入れるわけにはいかん」

 行商人たちの話は筋が通っている。しかし、門番もおいそれと入れてはくれない。

 ありていにいって賄賂を求めているわけだが、行商人たちはまだ若いようで気づいていないようだ。

「よし、ネコサンの力を見せてやる」

 ダークエルフの言葉に兵士も周りもぎょっとした。まさかここで戦う気か。

 ロベルトとマルコムはとっさに王子をかばうが、行商人たちの行動は斜め上をいった。

 

「ネコサン おんぶ」

 人間のほうがそう命じると、黒猫はさっと人間の背におぶさった。そしてゴロゴロ言いながらほおずりしている。

「ネコサン だっこ」

 今度はダークエルフのほうが命じると、黒猫は人間から降りて今度はダークエルフの腕の中に飛び込む。

 なにあれ、うらやましい。癒しを求めていた人間にはのどから手が出るほどの光景だった。

 賄賂を要求した兵士は猫派ではないようで忌々しそうにしている。そうじゃないといいたいのだろう。

「ふざけや――」

 しかし、彼がすべてを言い終え剣を抜く前に、上官に横っ面を殴られ三回転することになった。


「私が見張りながら冒険者ギルドの登録場所まで案内しよう。できれば案内賃にもふもふさせてもらえるとうれしい」

 上官は猫派だった。

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