24【ネコサンの生態】
ネコサンはゴーレム馬車の中ではなく上に乗ったり自分で歩いたりと好きなようについてくる。
馬車を止めて休憩中にふらりと出かけてオークやスモールロックバードを狩ってくる。スモールといってもネコサンより二回りも大きい。ネコサンは頭の部分が好きでごりごりとすごい音をさせながらかみ砕いている。最初は俺もレオも少しひいていたのだけれど見慣れてくると、「きょうもげんきでかわいいなぁ」としか思わない。
余った部分で肉は塩焼きやトマト煮、骨はスープにする。野菜は種さえあれば季節関係なく錬金術で作れるので問題ない。種が手に入れられていない一部スパイスは使えないけれど、香味野菜と塩があればそれなりにうまいものは作れる。ネコサンは料理よりも、モンスターの頭や生の根菜が好きなようだ。根菜を具材にしようと切っていると全力でゴロゴロ喉を鳴らしながら頂戴アピールをしてくる。あざとい。そして、調理済みのものを勧めてみたけれど生が一番だと主張され俺もレオもそういうものらしいと納得した。
ネコサンの問題があるとするなら、一つ。
「…ごめん、やぶけた」
ネコサンがレオにじゃれて甘えるのはいい。見ていてとても和む。けれど、よくレオの服が裂ける。俺は錬金術でさくさく直せるので服は心配していない。レオにも傷がついてないので大事にはしていない。けれどさっさと修復しないと、レオのすばらしい外見をもってしてもカバーできない冒険したデザインの服になってしまう。さすがにダークエルフ系美男子のレオでも腰蓑姿では町の人にどよめかれてしまうことは間違いない。
「…みゃん」
ネコサンは飼い主に似ておおむねいい子だけれどあざとい。
「しょうがないな・・・」
布面積が減っていないなら特に問題なく修復はできるけれど、街中では騒ぎになってしまうのは確実だ。むしろネコサンの爪を喰らっても裂けない衣服の開発をしたほうがいいかもしれない。
まずネコサンの爪の威力を確認だ。
「ネコサン、ちょっと爪見せて」
「にゃん!」
いいよ!と言っているのがなんとなくわかる。ネコサンにとってレオは遊んでくれる兄ちゃんで、俺は野菜をくれる母ちゃんだと思っている節がある。そのおかげか、俺もレオもかなり好かれているのは確かだ。
しゃがんで、ネコサンのふわふわの毛で覆われた大きなお手を拝借し、観察。
爪がモンスターにも効果がありそうな刃物に見える。下手な包丁よりも切れそうだ。
ついでに肉球のぷにぷには控えめ。
手の観察に夢中になっていた俺は、ネコサンがくしゃみをしそうだった事に気づかなかった。
「にゃっちょ」
くしゃみしたネコサンの爪が俺の太ももに振り下ろされたら服や皮どころか肉まで裂けた血があふれた。
痛みはあったけれど爪剥ぎ実験の要領で瞬時に修復する。
残念だが、俺の芋ステータスではネコサンと触れ合えないようだ。ステータスのせいで生き物と触れ合えないのが残念だ。俺も身体強化の魔法をどうにか使えないものだろうか。
「ノブ、痛かっただろ」
「…みゃぅ」
とがった耳がしょぼんと垂れ下がり、ちゃんと反省している一人と一匹はとてもいい子だ。でもネコサンに近寄ろうとしたら後ずさられたのは切ない。
「レオ、ネコサンも落ち着いて、怒ってないから、ちょっと血が出ただけですぐ治ったし大丈夫。嘘は言ってないだろ」
「…言ってないけど」
確かに、真偽がわかるレオでもうろたえるくらいに出血は派手だった。ズボンは怪我を直した後修復したけれど、地面にはちょっとした血だまりができている。
「俺はネコサンとふれあうにはちょっと強度が足りないだけだから」
「…みゃぅ」
ネコサンは申し訳なさげにライオン並みに大きな体を縮こませる。
「え、縮んだ」
ネコサンは物理的に縮んだ。大きさは中型犬くらい。
この世界の猫の仲間は縮むらしい。
縮んだネコサンは、馬車の上ではなく中に入るようになり、俺とレオの膝上が指定席になった。縮んだとはいっても、今のネコサンの大きさでも一人の膝上には乗りきらない。
「なあ、レオ。ネコサンが乗車できてるなら夜の走行は高速モード使ってもいいかな」
「…あれは、絶対に深夜だけにしろよ」
普段のゴーレム馬車は外見を馬車らしくするのに比重を置いている。だから速度に比重を置くと内装はともかく外見がそれらしくなくなってしまうのだ。ちょっと、ワイルドな外見だと俺は思っているのだけれど、レオ曰く人に見つかると大騒ぎになるらしい。
モンスターみたいに襲ったりするわけでもないのに解せない。