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23【召喚呪文ではないはず】

 国王行幸ルートを外せば治安が悪いだろうことは覚悟していた。けれど、一日数回も襲撃を掛けられれば辟易してくる。禍根を残さないように盗賊は全滅させることに心の痛みも高揚感も一切感じなかった。しいて言うなら面倒だなぁとかそれくらい。武器もって襲って来るやつの命の価値は認めない。

 あまりに頻繁に盗賊に襲撃されるので、いつもは例外なく始末するところ、何人か残して、ねえどういうことなんだいと聞いてみた。お話にならないやつを順番に始末していったら、最後の一人がゴーレムの核が高騰しているから狙ったと答えた。なるほどわかりやすい。いままで農機具扱いだったけれど合体させると超強力とわかれば国は規制を設ける。賊やその他不穏分子に危険物が渡らないように流通経路なども見直されるだろう。だから既存のゴーレムの核の価値が高騰する。

 ちゃんと答えてくれた奴は歩行ができる程度にぶんなぐって、スキルで記憶を消去しておいた。記憶の消去は物理ではなくて、邪神様にダンジョンの情報のご褒美として記憶をいじれるスキルが欲しいですとお願いしたからだ。通信技術が未発達で録画や写真なんてない世界なので記憶さえ消しておけば穏便に逃亡できる。大それた悪事をするつもりはないけど、厄介ごとに巻き込まれたときに楽してとんずらしたいという切実な願望からだ。

 レオは、昔の話をすればするほど不幸なエピソードが掘り起こされてくるから、これ以上そういう目にあってほしくはない。

 過保護だと自覚はある。


 閑話休題。

 盗賊の遺体を埋めた後、のんきに馬車を走らせているとオークが一匹突っ込んできた。

火球(ファイヤー・ボール)

 馬車に乗ったままのレオの手元から飛び出した火球がオークの頭を包み込み黒焦げにする。きっと脳まで火が入ったことだろう。俺の窒息狙いは広範囲に有効なんだけれど息が続く間は生きているわけで高速で突っ込んでくる奴には弱いし、対象がもがくので売り物相手に使うのは適していないのだ。最近、盗賊以外にオークやオーガに遭遇することが出てきたのだけれどレオがあっという間に始末している。

「首から下はレアのまま、さすがレオ」

「メニューにとんこつスープを希望するぞ」

 喜色満面のレオは仕留めた特権で希望を叫んだ。

 うむ、嬉しそうでなにより。


 材料さえあれば、下茹でなど諸々含めて数時間煮込む必要があるスープが分単位でできる。それが俺の錬金術だった。俺の能力は、料理とか生活向きだよなぁとしみじみする。錬金術は、台所から生まれたとか話を聞いたことがあるので、その意味では正しい気もする。

 ただし、なんでも時間短縮できるわけではなく、この世界で自分が作ったことがあるメニューに限られる模様。幸い、カノプスではオークが山盛り事件があったので、宿のコックさんといろいろオークメニュー開発に勤しんだのだ。

 肉は香味野菜も豊富だったのでコックさんにお任せし、こちらは骨からとんこつスープ作りをしていた。ウッドゴーレムの練習を並行していたので、火にかけっぱなしでどうにかなるし材料ちょろまかしても文句を言われないので消去法で選んだともいえる。何度か失敗しつつも完成したスープはよくできていると胸を張れる。オークは味が豚肉系なので、味噌があれば豚汁にしたいところだった。さりげなく地域限定の調味料がないかとコックさんに聞いたところ、昔の勇者がどこかの国で故郷の調味料復活をやっていたという伝説もあるから探せばどこかにはあるかもとかなり重要な情報を落としてくれた。旅の目的が増えた瞬間である。


 食後に余ったスープはフリーズドライにして瓶に詰めて、いらない部位を埋めようとしたところでふと思いついた。

「俺が呪文となえたら何かおこるかな」

「錬金術で使い慣れてる土あたりにしときなよ…ノブの呪文でなにか起きるとは思わないけど」

 魔法らしくオークの焼けた頭を中心にした残りかすに手をかざし、思いついた呪文を唱えた。

「土魔法もこもこ(もこもこ)

 目の前の残骸には何も変化はない。けれど、オークが飛び出してきた森から、黒いもこもこした生き物が現れた。ゴージャスな長毛種の猫にとても良く似ている。レオが小さな声で「ネコサンだ!ネコサン」と言っているけれど、俺の知っている猫さんと違う点が一つ。

 このネコサン、ライオンくらいでっかい。



***



 ネコサンは落ち着きのあるネコサンだった。

 お目当てはオークの残骸だったようで、食べていいかと訴えてきている。言葉はわからないけれど全身でのアピールがとても分かりやすい。

 ちなみに鳴き声は猫と同じだった。こっちの言葉が通じているか半信半疑だったけれど、レオがいいよと言ったら即かぶりついた。賢い。レオがエサあげてもいいかなぁと袖を引いてきている。こちらも言葉を交わさなくても言いたいことがわかる。しかし、野生動物に不用意な餌付けはどうだろうか。甘やかして今後に悪影響がないか悩む間にネコサンはオークの頭蓋骨をバリバリ食っている。オークは普通サイズゴーレムがぶんなぐっても頭蓋骨が砕けないってコックさんが言ってたはずなんだけどな。野生動物としてそこそこ強いなら大丈夫かな。

 幸いにも保存食はそれなりに持っている。「いいんじゃないかな」というと、ネコサンが勢いよく振り向いた。本当に賢い。


 俺にはネコサンが猫の亜種なのかモンスターなのか区別はつかないけれど、こちらに敵意はないらしい。

 というか、レオが「ネコサン連れて行こう!僕がちゃんと面倒見るから!」を始めた。ネコサンもお座りしてくりくりした目で見つめてくる。

 あざとい。ネコサンどころかレオもあざとい。俺の弱いところを的確に狙ってきている。

 ネコサンは餌を自分でとってくると主張している。

 ネコサンのステータスを見てみた。


名前 :ネコサン

年齢 :もふもふ

仕事 :もふもふ

HP :もふもふ

MP :もふもふ

力  :もふもふ

魔法 :もふもふ

呪文 :もふもふ

スキル:いっぱいたべてげんきいっぱい

加護 :にゃい


 ステータスの存在意義を問いたいところだけれど、『にゃい』がすごくあざとい。

ネコサンはヒト型になったりせず、ネコサンのままです。それは宣言。

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