22【魔法と呪文】
俺のゴーレム馬車は軽自動車を参考にしたサイズで、前が座席、後ろが荷物置場になっている。
レオは女将さんとコックさんの見送りがよほどうれしかったようで、出発した後、ちらちら町の方を振り返っていた。見ていてすごく和む。町が見えなくなったら、前に錬金したネコサンのぬいぐるみを撫でまわしていた。
ホームシック早すぎないかな。精神年齢十代後半くらいと思っていたけれど下方修正が必要かもしれない。
細めの街道は馬車のすれ違いには少し心もとない。けれど、この馬車ならサイズは簡単に変えられるので特に心配はいらない。わざわざ細めの街道を行く理由はある。
太めの道は国王が使用する可能性があるからルートが被るとややこしいことになるのだ。えらい奴には近寄りたくないし、国王が滞在する町は警備が物々しくなるのは間違いない。
レオ曰く付き従っている下級兵士の質によっては、国外から来た旅人相手に恐喝じみたこともしかねないが、問答無用で息の根を止めると問題になるとのこと。公権力相手は面倒くさい。
「解決法は話が分かる上にちくって説教してもらうことしかない」
「話がわからないやつだったらだめじゃん」
「そうなんだよ、だめなんだよ。でも国王の評判もあるからな。ギルド会員ならそこそこ信頼あるから手を出されることはめったにないな」
後ろ盾のないものはひたすら回避とのこと。世知辛い。
ぼんやり馬車で移動しながら、武器構えて近寄ってくる盗賊の息の根を止める。オーガの時と同じ方法だ。王様ルートでの治安が重視される分、こっちのルートの治安はいまいちよろしくないだろうとは予想していた。法的に武器もって襲ってくる無法者は問答無用で息の根を止めてもいいとのことなので遠慮はしない。
脅して追い返したところで、追い返せないやつをカモにするんだろうし、特に同情はない。
盗賊の始末をしながらふと気づいた。
「俺がオーガにやったのと同じことできるやつがいたら簡単に王様暗殺できるんじゃ」
「そこはちゃんとしてるはずよ。察知できるスキルはある」
「もしかして俺がやったことばれる?」
「あれは魔法と違うし、そもそも、ノブにはちゃんと魔法の話してなかったからな…」
「手元であれこれする程度なら呪文なしでも怪しまれないっていうのは聞いたし、ゴーレムの核も勉強している魔法使いならまあ作れるってことも聞いた」
「定義とか概念の話な」
盗賊の遺体を埋葬、もとい隠滅してからレオによる魔法講義が始まった。
「まず、魔法はざっくり分けて三種類ある。手元で使う至近系、手元から離してつかう遠距離系、道具に対するする付加系、ノブの錬金術でごまかせるのは至近系と付加系。遠距離系は呪文を唱えるやつ。呪文なしで遠距離系を使うことは人間でもエルフでも無理。そういうことができるのはドラゴンの分類だな。鱗と牙と角があってブレスを吐くやつは種族がドラゴン」
「やべぇあぶねぇ奴が【分類ドラゴン】?」
なんとなく、パンダとレッサーパンダの関係を思い出した。名前は似てるし笹を食べるところは同じでも、見た目はかなり違うやつ。
「そうなる。分類ドラゴン以外が呪文なしで遠距離魔法は使えないんだ。そもそも、遠くに魔法を発現させるためには、その場所の理に干渉。そのために呪文を唱える。呪文じゃなくても何かしらのアクションを起こさないとその手のものは発動しない。モンスターで魔法使うやつは鳴き声とかに含まれてる。至近系は自分の魔力を放出してそれができる狭い範囲を支配して理に干渉って感じ」
どうやら【理】に干渉っていうのがポイントらしい。魔力やイメージ力や諸々を合算してたくさん干渉できると魔法の威力や効果範囲が上がっていく模様。
「俺の錬金術は、いつの間にかレベル上がってもみもみしなくても使えるようになってたしなぁ」
カノプスでやっていた地道な練習が実を結んだのかもしれないが、詳しいシステムはわからない。
けれど、モンスターを退治したらレベルが上がるというという仕組みでないことは何となく察した。確かに、非戦闘職のスキルはモンスター相手にしたら一向に上がらない。自分で経験を積むことが必要なのに納得した。
「錬金術はアクションがないから不意打ちし放題なんだよ」
「聞こえない範囲から呪文唱えたら奇襲できるんじゃないか?」
「熟練になると、こう、フワッとこっちに魔法が飛んでくる気配っていうか、理が一時的に書き換わることがわかるらしい。だから盾を作ったりとか守りようがある。僕もそこそこ生きてるから普通の魔法なら解る。でもノブの錬金術は気配がない。気配がないっていうかそれなりに距離があるはずなのに仕組みが至近系と同じ感じがする」
「仕組みが違うから警戒ができないってこと?」
真剣な表情で語っていたレオの目が急に泳ぎだした。ネコサン人形をなでる速度も心なし速い。
「まあ、それなんだけど…ノブの技は、部類が違うって言うか」
「呼吸器狙ったほうが簡単に息の根止められるし目立たなくていいかなって、粉塵を吸わせて気道をふさぐとこも考えたんだけど、毒があれば毒霧とか」
「その最小限の力で最大限の殺意なのがちょっと」
本職の暗殺者よりはだいぶ穏便でぬるいと思うんだけどな。
本職さんに会ったことないけど。