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17【商人が冒険する理由】

「町の外まで薬草取りに行ってくる」

「怪我でもしたの?」

「商人ギルドで小遣い稼ぎに」


 冒険者ギルドならともかく、なぜ商人ギルドが。

 理由は簡単。冒険者不足である。冒険者たちは今熱い稼ぎ場所というところに集中してしまい、優先度の高い順から片づけていくため、優先度が低い仕事が滞っているのだそうだ。そもそもこの町は農業が盛んなので、冒険者ギルドの基本業務は害獣退治中心で運営されている。もう冒険者というよりも猟友会とか農協の趣がある。そんな中、農閑期でもないので村の元気なおっちゃんにいちゃんを借り出すこともできず。商人ギルドも人手の確保に走っていた。そして、暇そうに町をぶらついていた冒険者らしきレオはちょうどいい人材だったようだ。

 髪と爪ダイヤはダイヤだと他所にばれて悪党に目を付けられないようにきらめきが目立たない半球形にカットして、革紐でペンダントにしてある。偶然色もついていたし、大きさや留め具も相まって高級な石だとはばれまい。

 レオ曰く、着用後一人で出歩いて因縁をつけられたりしないし、露店で買い物しても地面に唾を吐かれないと効果のほどを笑顔で語ってくれたけれど、俺は心がキリキリしてきた。呪いがえげつなくて元凶がいたら前向きに釘バットをお見舞いしてやりたい。でも、俺は芋ステータスだ。錬金術は土魔法だとごまかしながら身を守るすべを開発してゆく所存だ。手始めにスライムに『がったいしよ』と言われても力強く拒否できるくらいに強くなりたい。お守り効果があったのはいいことだけれど、日本のお守りには期限があった気がする。ストックをたくさん作っておこう。爪と髪は切ったら捨てずに保存、その後、錬金だ。

 こっちの内心に気づかないくらい普通の生活を満喫しているレオは、はじめての依頼にそわそわしている。依頼料よりも充実感を求めている。実は年上かと思って遠慮していたけれど、種族や呪いの状況も相まって精神年齢はノブ以下の気がしてきた。

 

「気を付けていってらっしゃい」

 宿屋の女将さんと作ったサンドイッチを持たせて、レオをお見送りする。ちょっと心配でそわそわしていたら、女将さんはあんた心配性だねと背中をばしばし叩かれた。女将さんは、レオが人見知り気味だとは察し、種族的なものなんだろうと納得してくれているようだ。面倒な詮索を回避するのに、レオと無難な設定を考えた結果、レオの父は人間、母はダークエルフ。俺はレオの父方の親戚で、集落に引きこもっていたレオと見分の旅に出ていることになった。

「大丈夫さ、アタシの息子も商売の修行に行く前に力試しでコボルト退治に参加したときゃそりゃ心配だったもんだが、薬草取りならめったなことはないさ」

「・・・そうすね・・・」

「暇なら魔法の練習すんだろ!」

「パン焼き窯の新調は終わったじゃないすか」

「コックがあんたの魔法が見たいってんだよ、ほら、トマトを粉にしただろ」


 モンスターに一度も遭っていないから心配は尽きない。

 だから、女将さんに魔法の練習をしたいけれど庭の片隅を使っていいかと聞いたら、あれよあれよと、土の魔法が使えるなら練習がてらかまどを直しちゃくれないかと言われた。しばらくのんびり逗留する宿なので頷いたところ、女将さんはパン焼き窯の新調も依頼してきた。さすがにタダではなく宿代割引だった。窯の扉は女将さんの旦那が調達してきたのでそれに合わせて作り上げた。材料から一気に作り上げるのは普通の魔法ではないので、土属性のモルタルを操ってちまちまとレンガを積み上げていく。俺の錬金術は芸術性や精密作業は要精進の状態なので、練習としてはなかなかいい題材だった。

 野次馬に来ていた宿のコックは、口笛吹いて感心していた。彼の実家は左官屋で土魔法の得意な弟が家業を継いだがその弟よりも上手いとほめられた。ここの国は、国が魔法を学ぶことを推奨しているのだそうだ。魔法のコントロールが今一つでも、魔力さえあれば使用できるトラクターことゴーレムの貸し出しを役所がしてくれる。あくまでも軍事利用ができない範囲には限られるが、おかげで生活水準は上がり王家の支持率も高いとか。

 国力を上げるのに国民のポテンシャルを引き出して生活を向上させるのは、正道だ。それなりに金がかかる政策だけれど軌道に乗れば税収も支持率も上がる。国の端っこにあるこの町までそれなりにそれが行き届いていることも鑑みると、ここの国の上層部はかなりやり手らしい。

 まあ、しがない行商人にはあまり関係はないのだが。

 待ちきれずにやってきたコックに、俺は厨房へ引きずられていった。


「コックさんは水魔法に適性があるから、空中から水を絞り出す感じで野菜から水だけを絞り出すんです」

 ドライフルーツは普通に市場で売られているので、野菜を乾燥させて調味料にするくらいは世界に影響はないだろう。ケチャップの開発に成功したら旅先での楽しみが増える。コックさんは調理場でのみおいしいものを追求するタイプのようだから、保存食に転用を考え付くのはまだまだ先だろう。思った以上にこの国は魔法教育に力を入れているからフリーズドライ食品の自力開発する可能性もありある。

「うまくいったらメシにトマトのフリカケ付けてやるよ」

「楽しみにしてます」

 フリカケとは日本のフリカケと同じ米にかけるフリカケだ。実はこの町の主食は米と麦が半々だったりする。

 米より手間をかけないで育てられるが収穫量は今一つの麦と、農業設備や管理は必要だけれど同面積で麦より収穫量の高い米。魔法やゴーレムがあるので米農家はそれなりにいて、米料理が食べられるのだ。

「あんた、けっこう魔法のセンスいいし、王都の研究院の試験受けたらどうだ?商人より稼げるとおもうぜ」

「あー、そういう堅苦しいのはちょっと」

 というのは建前で、ごりごりの研究者の前では魔法と誤魔化しができないかもしれないので。

 ついでにスキル攻略本の中には、最近レベルが上がったようで魔法道具の作り方ページが増えていた。何をしたらレベルが上がるのか、可能性としてあり得そうなのは世界の知識が一定以上増えたとかその類だろう。ゴーレムの核の作り方があった。材料も市場で購入できそうなので、こそこそと制作を始めている。

 うまく作れたらレオにびっくりサプライズができる。少なくとも旅に乗り物ができるわけだ。

 美青年にやたらと貢いでいる気がしなくもないけれど、気分的には、最近できた甥っ子を甘やかすおじさんとかそんな類だと言い訳しておきたい。


 夜更けに泥だらけになってお守りを失くしたレオが半泣きで帰宅するまでの話。

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