16【開き直っているのだよ】
「ノブは異世界から来たってわりに、随分落ち着いてたよな」
「覚えてないから、一周回って落ち着くしかなかったって感じ」
自分が丸腰で、刃物もって鎧着たやつらに囲まれてたら、家に帰ろうとか俺は誰だろうするまでもなく、やべぇやつから遠ざかろうと考えるのは自然だと思う。
「落ち着きすぎてごろつきの顔面にこん棒で突きくらわしてたけどな」
「あの時俺はちょっと混乱してたんだ」
邪神様とか色々情報過多で、まともそうな青少年がごろつきに捕まってたら助けて話を聞こうとかそういう気持ちになる。
「それより、旅のお供に粉末スープとハーブ塩は作っておきたいな」
俺の錬金術でお手軽においしいものを準備するならこの二つだ。水分飛ばして乾燥させるもしくは精製するだけ。外に漏れても大事にならない影響度なのもありがたい。
「塩は普通にそのままでいい気がするけど」
乗合馬車で食べたお肉は、食べれなくはないのだけれど、ちょっとだけ物足りなさもあった。毒で食えない食材があったらどうにかこうにが解毒して食おうとするやばい国、日本出身の俺はおいしいものに執着はある。この世界に馴染みつつあるので是が非でもおいしいものを食べたいというほどではない。けれど、お手軽にできるなら、日本人の性が顔を出してくるのだ。
「香辛料はお高いから、ハーブとか香味野菜を代わりにするんだ。ここの町は主産業が農業だし。あとは玉ねぎとトマトの粉末もあればいいかな」
香味野菜で臭みが消えて、玉ねぎとトマトでうまみを足せば、胡椒がなくてもおいしい調味料が出来上がる。辛みが欲しければ唐辛子を入れてもいい。窓の外を歩いていく荷車に乗っているのは七割が農産物なので市を探せば必要なものは手に入る気がする。
「ここの町って国境なのに農業がメインみたいだし」
「それは国策のせいな。国境沿いはごたごたが起こりやすいから、土地の人気が少なくて農耕用のゴーレムの核を貸出して、開拓地の所持を認めるってお触れ出してんだよ。自分で開墾した所なら何かあっても守ろうって気になるしな」
「ゴーレムの核って配布できるんだ」
「核に『耕す』『やめる』『移動』『行動範囲限定』くらいの単純な命令仕込んで他の命令は無視させとけば悪用はしづらくなる。仕組みが単純だと魔力も訓練もたいして必要ないのも普及してる理由だな」
なるほど、それで、本業農民にしか見えないおっちゃんおばちゃんがゴーレム荷車に乗っていたわけだ。ゴーレムはモンスターのイメージが強かったのだけれど、ここでは軽トラックかトラクターの延長らしい。
「ゴーレムって、俺も作れないもんかな。世話しなくていいなら馬より楽だよな」
徒歩の旅も体力的にきつくはないんだけれど、商人をやるならそれらしく荷物を曳いていたほうが世間に溶け込める。あとはゴーレムがけん引してくれるなら食材関連の荷物も増やせるし、二段ベッドが入るサイズの馬車なら旅の寝起きがすごく快適になる。
「お前が異世界人でもなぁ・・・」
***
ゴーレムの前に重要課題が出現した。。
俺とレオは基本ニコイチで行動している。俺がものを知らないのと、レオが人当り最悪の呪いがかかっているからで仕方ないのだけれど、一人でうろうろしたいときもあると思うのだ。
というのは建前で、俺と一緒にいると呪いが緩和されたレオは普通に美青年なので、ナンパされる。もちろん、俺は含まれないのでわかっているとは言っても傷つき、ついでにレオは俺が行かないから行かないと言い張るので周囲に性癖を誤解されたりと、とてもしんどい。
宿屋のおかみさんが微妙な気遣いをはじめそうだったので、誤解を解くのにかなりの時間を費やした。歳は離れているけれど親戚だしレオは人見知りなので、とひたすら繰り返したけれと、通行人には長々説得できないのが悩ましい。
なので、どうにかこうにか、俺がそばにいなくても、呪い緩和の方法を模索中である。
教会の神父様に寄付しながら聞いてみたら、アミュレットをお勧めされた。
まあ、レオは市販のものは試してみたことがあるようで胡乱な目をしていたけれど、こういう時こそチャレンジ錬金術である。アミュレットの作り方は教えられないと渋る神父だけれど、寄付の力は強かった。
「ドラゴンの鱗を使って作られた装備品は火や氷に強い。だから呪いに強い生き物の鬣や爪もので作ればどうだろうか」
ただ、このアドバイス通りにチャレンジすると、俺の髪の毛とか爪をお守りの袋に入れてレオに持たすという、字面的にだいぶきついことになる。人目に触れたら絶対、騒ぎになる。尊厳も木っ端みじんになる。
神父から基本的なアミュレットへの魔力の込め方ハウツーを習い、その日は撤収した。
「髪の毛と爪を小袋にいれてみよう」
「レオ、それはやめよう」
物理的にも精神的にも衛生的でないのでお断りする。
「でも、ものは試しだろ。ノブは禿げてないしちょっとだけなら」
すでに、呪いが緩和されるなら他人の髪や爪の携帯を視野に入れている精神状態がいたたまれない。
「髪や爪、そのままは、そうだった・・・そのままじゃなきゃいいんだ」
髪や爪が不衛生ならダイヤにしちゃえばいいじゃない。