表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

15【カミングアウト】

 起床して、ダンジョンの件は深く考えないように宿の窓を開ける。

 この町に来るまでの景色はふんわり中世近世な景色だった。モンスターが出歩くマイナス分、衛生の水準がプラスになっているだけの印象だった。テーマパークのナントカ村に生活感を出した、といえばいいか。

 でもこの町は、それとは一線を画し町中に魔法があふれている。宿屋の女将自慢の景色はとてもファンタジックだ。前の道を行きかう野菜の乗った荷車を曳くのは牛馬ではなくゴーレム。通行人は人間だけではなくエルフやドワーフも混じっている。町を囲う城壁はあるけれど、ただ囲ってあるというくらいで武装的なものが設置されているのは確認できない。あまり物々しさを感じないのは、隣国の海燕との関係がおおむね良好だからだろう。

 昨日、検疫で順番待ちをしていた時に世間話したおじさんは海燕から来ていた。弧李も海に面した国なのだけれど、この町は国内の海まで行くには山越えか遠回りが必要なので、海燕から来た方が近いとか。最近、商人ギルドに登録したばかりだと話すと、販売場所を借りて商売するときに申告と違うものを売ってたら締め上げられるから気を付けるんだぞとかあれこれ忠告された。特に国が価格統制している塩はギルドに卸すならともかく、露天販売は一晩牢屋で反省させられるとも。身震いしながら語る様子からなんとなく若かりし頃のおじさんの実体験の気がする。

 要は露店販売が心配なものは一回ギルドにもっていって様子見をすればいいってことらしい。


 窓から遠目で見えた市場に、昨日のおじさんはいるだろうか。




 商売はこの町から本格始動の予定でいる。前の町では逗留できる時間が限られていたのに、錬金術の練習でだいぶ時間を食ってしまい、弧李内での旅のルートを練れていない。とにかくさっさと弧李に入国してしまおうというのがこの町に来るまでの方針だった。

「もうちょっと余裕のある旅にしたい」

「弧李は僕もあんまり目立たなくて済むし、長めに滞在してもいいかもね」

 レオはハーフダークエルフなので、人間中心の国では逗留日程が制限されるのだ。

「そっちもあるし、移動中の携帯飯を作りたい」

「ノブのよくわかんない地元のやつ?」

「フリーズドライって言って、食べるときにお湯を注ぐと宿屋で食べてるものレベルのものになるやつ。もちろん日持ちもする」

「日持ちってどれだけ」

「保存容器がちゃんとしてれば数か月は軽くもつ」

 プラスチックやビニール袋の作り方というか主成分がよくわからないから、こちらの世界で再現はできない。一番手軽なのは瓶。量を持ち運ぶことを考えるならスチール缶を検討。酸素を抜いて二酸化炭素か窒素を詰める過程ができればいける。

「すごすぎて迂闊に売れないな」

「兵站になるからなぁ、個人使用できる分だけとは思ってる」

 こちらの世界史にはもう関与したくないから、商売場では考えていない。この時代の戦争で重要なのは兵器開発より食料確保だ。歴史上でも、優勢だったけれど気候が寒すぎたり食料が尽きたことを理由に渋々帰るということはままある。

「どうやってそんなに日持ちさせるんだ?腐ったものをもとに戻すとかじゃないんだよな?」

「水気をきるだけ」

「それだけ」

「地元の研究だと水気があるものは腐りやすくて、水気がないと日持ちするってわかってる。実際黒パンは日持ちしてるだろ」

「地元ってどこだよ?記憶がないとは言っても土地のことはわかってるんだろ、記憶がないのに知り合いに会うのが気まずいとかそういうのはあるかもしれないけど」

「…いや、それ以前の話で言うに言えなかったというか」

 彼に、地元は異世界ですと面と向かって言いにくいのは、なんだかんだ面倒見のいい彼をさらに悩ますのは心苦しいからだ。でも黙っていて不信感を抱かせるのも嫌なわけで。

「踏破不可能の北の大山脈の向こう?東の密林の向こう?南東砂漠の向こう?」

 不信と心配の表情で詰め寄られれば白状するしかない。

「…異世界」

「僕が真偽判定スキルあるからってさぁ…勇者様とか…まじかよ」

 予想以上の真実に頭を抱える彼。俺も勝手に呼び出された被害者側だけれどとても申し訳ない。

 異世界からくる、イコール勇者の扱いが常識みたいだけれど、俺にはたいそうな役目はない。そうえいば、一般人の、異世界人に対する反応ってのはどんなのが普通なんだろう。

「接触してきた上の方曰く、予定がないのに呼んじゃって、返却も無理だから、ゆっくりしていってねとかそんな感じのことを言われたから、レオには世間知らず以外で迷惑はかけないと思う」

「使命とかないんだ?」

「むしろ、世界を激動させるようなことはしない方がいい気がするし。でも、召喚した城の人間は使い勝手のいいコマが欲しかったみたいだけどステータス芋だったからポイ捨てされたわけで」

「…記憶ないの、そのせいじゃねーの」

 レオ先生。よくわからないです。

 俺の外見が違和感のない田舎者なのを利用してそこらへんから『都会の常識』や『旅の常識』を仕入れるのは難しくないけれど、『世界の常識』を当たり障りなく聞くのは難しすぎた。

「家がわかってる迷子と、家がわからない迷子とどっちが丸め込みやすいと思う」

 はい。この世界のせちがらさがすごくわかりやすかったです。

「召喚魔法ってそこまでできるもんなの?」

「わからないけど、国家規模の仕事なら改良とか研究とかしててもおかしくはないんじゃないか?勇者召喚とかすごい魔法は国家機密なんだろうけど…」

 覚えてない俺の昔は俺個人の問題でいいんだけど、異世界の方の身内が心配、もう帰れないとかなら最初からいなかったことにするとかもう事故で死んでるとかしてもらった方が気が楽だ。むしろ、そっちの件を邪神様に確認しておけばよかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ