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14【産声】

 魔法とモンスターの世界のはずなのに、この世界で半月旅をしてモンスターに会わない。

 街道はモンスターの群生地を避けて通されている。けれど、野垂れ死にした死体がゾンビになったり、群れからはぐれたゴブリンやコボルトくらいには遭遇してもおかしくないとレオは言っていたのだ。

 けれど一匹たりともで会わないまま、目的地の狐李の国境の町カノプスに到着した。

 検疫で解毒魔法と水と風の魔法を複合した洗浄魔法をかけられてから、身分証明をして中へ。国境警備にしてはお手軽に見えるけれど、ここ何十年も国家間の戦争は起きておらず、国同士のパワーゲームは経済政策中心に起きているとのこと。大陸二強の玖明と弧李の方針が、国同士で揉めるよりもモンスターの駆除や国内産業の発展などに努めていることもあり、ほかの国もそれに習っているのが現状。

 平和ってとてもありがたい。


 ノブは小金持ち向けの小ぎれいな宿で風呂に入って、ベッドに飛び込み今日はもう寝るぞと拳を突き上げた。



『久しぶりだな。わかる?余だよ。余?』

「元気そうすね。邪神様、ところでレオのほうは」

『うむ。寝かせとる』

 久々の邪神様の脳内通話だ。神様なのに意外と気遣いができる。前回もコンタクトは宿に泊まったタイミングだったので気を使ってくれているのかもしれない。

「そうですか、たすかります。邪神様暇なんですね」

『うむ。暇』

 気遣いがなんだか怪しくなってきたけれど、それより、こっちは用事がある。

「聞きそびれましたが召喚された人間って、使命とかそういうのないんですか」

 異世界召喚でよくある明確な目的をノブは持っていない。召喚主はノブの芋ステータスを見て必要ないとたたき出したので、現状は生活基盤の確保を目指し旅をしている。能力も生活便利スキルの枠をでないので、ここにきて魔王を倒せとと言われても無理ですとしか言えない。

『そういうのは初回だけだ。ちょっと余が作った亜種モンスターが魔王を名乗りだしてやべぇことになってな、下界のものではどうにもできんし、余たちが出向くと世界がぷっちんするしでな、昼の神がいろいろ算段を整えて勇者を呼び出してな。無事お片付けも成功し、勇者は未開の地を開拓し国を作り童貞王と呼ばれるようになったのだ』

「邪神様、もっと突っ込みどころが少なくなる話にしていただけませんか」

 世界史で処女王という単語は聞いたことはある気がするけれど、童貞王のインパクト。属性は似ているのに聞いた時の衝撃が違う。

『む。しかし、これでも必要な情報は絞ったのだぞ。勇者はハーレム狙いだったが誰も仲間以上の好意を向けてくれなかったからハーレムを作るために自分で開拓して国を興したとか、昼の神や部下が勇者が脱童貞できるか賭けを催そうとしたが成立しなかったから勇者が非処女になる可能性で賭けを催したとか』

「暇を持て余した神々ひでぇ」

 童貞王の動機が霞むくらい神々の行動がひどい。かの王はこれを知っていたのだろうか。いや知るまい。知っていたら闇落ちして第二の魔王になっていたことだろう。

『む。もてあそんではおらんぞ。高みの見物でやんややんやしているだけだ。まあ、ハーレムなんぞやめて一人に絞ればよかったのに、とはだれも忠告せなんだが』

 王様がかわいそうすぎる。もう何も聞くまい。

「…それで、ご用件は」

『暇なのでな、ちょっと話でもしにきたのだ』

「いや、ハーレムのために国を作ろうとした勇者より面白いこととかできないですから、モンスター退治で有名になろうとか、偉い人と懇意にしてのし上がろうとか、ダンジョン探索して一発あてるとか、そういうこともなく、国やギルドに目を付けられないような範囲で商売して穏便に暮らすつもりなので」

『ちょっとまった』

「…なんです」

『ダンジョン とは なんだ?』

 脳内通話なのにワクワク度がにじみ出てくる。

 この神様は読心を使ってくる。誤魔化しても無駄だし何の制限もなく思考を読ませ知識を提供したら果てしなくやべぇことになるだろう。亜種モンスター魔王の件が証明している。

「定期的に構造が変わる迷宮の一種で、中にはモンスターが徘徊し、それは階を下るたびに強力になっていくとても危険な場所なんです。しかし、同時に、迷宮の中には貴重な宝物がたくさんあるという。架空の迷宮ですよ」

『よし。作ろう』

 だよね。この邪神様クリエイティブだもの。

『夜様!何をおっしゃってるんですか!うかつにそんなもの作ったら権力者が実験台に奴隷や農民やらを湯水のように放り込みますからね!そんなことしでかしたら昼様が泣きます!』

『やだもん!ダンジョンつくるもん!』

 慌てて秘書が割り込んできた。もうノブのできることはない。ペットを飼いたい子供と母親じみた問答が始まる。

『面白半分で新型モンスターとか追加するつもりなんでしょう!だめです危ないからダメ!』

『出ないようにちゃんと余が気を付けるから』

『あなたソレ魔王の時も同じこと言ってましたからね!芋さんも責任取ってください!』

『ノブもだめというのか?』

 やべぇ、巻き込まれた。

「いくつか規則を設けて、まず新型は最下層に一匹だけ、部屋からは出ないというようにして。階を降りるのも階下へ降りる部屋には部屋からは出れない魔物を置いておけば、無駄死に要素は減るかなと」

『ちゃんと止めて!』

「この邪神様止めても内緒で作るにきまってるし、そうした方が絶対大惨事ですよ」

『ぐ、まったくその通り…確かに魔王事件の時もそんなでした』

 内部は初心者向きの作りにして、無謀な野郎以外は生還できるように配慮しとけばいい。

『うむ。無辜の民にあまりに害となるものは止せと契約もしておるからな、無駄な放り込みはしないようにお告げはしておく。そちらも元気でな。余の加護というか同情があるから強い魔物は近寄ってこんから安心しろ』

「やっぱり、それの影響ですか」

『ぷる弱スライムは寄ってくるかもしれんが』

「ちょ!えっ」

『余はこれから当分はワクワクダンジョンで忙しい故』



世界にやばやばダンジョンが生れ落ちる瞬間であった。

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