8【世界情勢の確認であります】
とてもがっかりなことに、大粒ダイヤの錬金はレオから禁止を食らった。
「このサイズは悪目立ちするから禁止。しばらくは出所がいいわけがつくガラス細工でしのいで様子見」
「そだな、商売がてら見識広める旅費が稼げればいいもんな。炭はどこでも手に入るし」
自称ノブより年上でしょっぱい人生を送ってきたハーフダークエルフのレオはかなりの堅実志向だった。以前は追いはぎ手前のことをしていたけれど、足を洗うと決意してからはできる限り危険なことはしたくないと主張する。
犯罪まがいのことからきっちり足を洗いけじめをつけるという彼に、ノブは反論できなかった。彼は一度やってしまうと際限なく最後の一線が後退していくとその身で理解しているのだろう。確かに高額商品を売り出せば目についてトラブルを呼び込むことだろう。
ノブは戦えるステータスではないのだ。
宝石には手を出しにくいけれど、美しいガラス細工なら手が届く小金持ち向けの商売をしていたほうが、先々のことも考えると無難な選択だ。ノブはレオのスキルは聞いたが他のステータスは知らない。旅に便利な魔法を使えるのは知っていたけれど、話してもらっていないことを強引に聞くのはマナー違反な気もする。
むしろ、人見知り気味の彼がノブにスキルまで明かしたことに驚いていたくらいだ。
そもそもデザイン係のレオが商人として活動したいと言っているのだから、ノブは彼についていく。攻略本も言ってみればガイドブックであり、直接その場を訪れたわけでもない知識をぺらぺらと喋りまくったら怪しまれる。直に確認はしておいたほうがいい。
それに、自分より年下に見える彼が「ノブがいたら前に門前払いくらった町に入れる」ときらきら笑顔で言い出したら、いいよお兄ちゃんいくらでもついてくよと言いたくもなるし、どこかまともな神職にレオの呪いを解呪できないか確認もしたい。解呪的なことはレオも考えていたかもしれないけれど、呪われているのでまず神殿や教会立ち入りをお断りされている可能性が高い。あとは何気に金がかかりそうだが最終手段「ダイヤさんおねがいします」が使えるし、相手の神職がどれだけ使えるかはレオが真偽判定できる。
冒険者とすれば微妙だが商人としては紛れもなくチートなパーティだ。
よほどのことで金が入用になっても炭さえあれば即時解決する。
投げ売りされているつくりの甘いガラス製品を手に入れて、その町で作り直して売ればいいだけ。旅の間持ち歩くのは食料と日用品だけで済む。商品も小さいのでかさばらないと十分言い訳は立つ。
さて目下の課題はというと。
「行き先どうする?」
俺は、生活できればいいということでノープランもノープランだ。知識はあったがどこのだれでどんな生活をしていたのか記憶がないので元の世界への渇望もほとんどない。正直なところ、帰って浦島太郎状態だったら本格的にまずい。戸籍とか仕事とか評判とかかなりやばい。死亡扱いされていたら家がなくなっている可能性だってある。自分の居場所というよりもよく知る異世界といった方が合っている。ついでにどう考えても元の世界に帰るのも困難だろうと予想がつくとなると、落ち着いた生活ができればそれでいい。
むしろスキルを考えれば穏便にひと財産稼げるこっちに定住した方が楽だ。ただ、定住するにしても場所選びはきちんとしておきたいし、旅仲間が旅をご所望なのだ。
作ったガラスの髪飾りは金2枚くらいの売り上げを予定していたが、思った以上に評価が高く、なんと金3枚となった。さすがレオのデザインだ。懐具合も暖かいので、着た切り雀だった服を含め旅用に入用なものを買っても釣りがきた。丈夫さが売りの服はごわつきが気になったのでレオの分も錬金して表面を滑らかにしておいた。
レオがシャツに腕を通した時の笑顔がまぶしかった。これを世間ではくそかわと言うのだろう。ついでに服の修復とかも商売にできそうだ。
「僕が決めていいの?」
君、その、わあい、やったあって顔して、俺が今更嘘だと言うと思っているのかね。
「じゃあ、弧李の内地に行きたい」
俺の攻略本の地図は俺にしか見れないので使えないのでぱらりと紙の地図を開いて確認してみる。
前の足取りから確認しつつ思ったことがある。
「前いた国が経葉で、今いる国が海燕。経葉から直接、弧李にはいかなかったの?」
「経葉は弧李に経済封鎖食らってるんだ。よって商人は確実に締め出される」
締め出しとはすさまじく不穏な空気である。地図上の小さな国は何をしたというのか。
「ひぇー。なんかしでかしたの」
「十何年か前に玖明と弧李が貿易し始めて、最短距離のところにいるのが経葉で、調子に乗って関税かけすぎたんだよ。あと、王侯貴族が難癖付けて商人から商品取り上げるとかちょくちょくあったらしい」
「そりゃつまはじきにされるわけだ」
それはふつうにだめなやつ。山賊国家じゃねーか。そんなのがトップということは統治もきっとガタガタに違いない。国がくそで人材も逃げる悪循環も起きてるんじゃないかな。
「ついでに言っとくと、玖明は人間以外の人型は商売で来る以外は却下されてる。あそこは凶悪な魔物の出現が少ないんだ。だから他の種族と連携しようって思想がない。あと貯えも多い。属国の海燕は隣が弧李だから他種族についてはなぁなぁで定住しないなら許可してる」
「消去法で弧李一択だね」
「この海燕も商品の流れを見るくらいならいいとこだと思うんだけど長居できないのはちょっとな」
確かに町に入るとき衛兵に、旅人は長居するなとは言われたのを思い出す。まあ、敏腕商人というのは仕入れが終わったら売り時期を逃さないようにさくさく出立するものなので悠長に観光なぞしてはいまい。
「田目陸って国は、結構大きいけどすごいの」
「あそこは国境線が北の大山脈ほどじゃないけど山で行き来が面倒な場所なんだよ。内地は独特な文化が育ってるとは聞いたことがある。庵雫はドワーフ都市とかがある国で、白地は、国っていうかエルフの住んでる地域。小国群は弧李の拡大政策で追い出された亡国の王たちが作った国が点在してる」
「弧李しか落ち着けそうな国がない」
他の国は新規参入が難しい気配がぷんぷんする。
「椎土は滅んだあと定期で火の玉降るって話だしな」
「ひょえっ」
でたよ、ファンタジックやばい国。何、滅ぶとか、火の玉定期とか、国土規模でそれ起こるとか絶対やばいとこだよね。
「弧李は、南側は同盟都市の集まりってのもあるし来るもの拒まずだ。けど、王都がある北側に行く外国人はギルドに入ってないと移動に制限がかかる」
「種族差別とか?」
「むしろ、寛容だし宗教も自由。他の国が国境でやるべき確認を北と南の境目でやってんだよ。それもギルドが身元保証してくれればいい程度のやつなんだけど」
レオ曰く、ギルド登録が身元確認になるというのはギルド内での遵守事項が関係している。
仲間内で悪事を働くと【制裁】があること、依頼関連で違約金が発生することは国が特に重要視していることだ。しかも違約金は一回ギルドが立て替えて、ギルドから責任者に取り立ても行うのだそうで、そこの点も含めあちこちに国で信頼されているとのこと。
それでは、商人ギルドに登録しますか。
地図はマウスとペイントとエクセル先生にどうにかしてもらいました