エリオット参上
「きゃあああああ!」
悲鳴を上げたのはミカだった。
「かっこいい人が立ってる!」
ミカを虜にしたのはエリオットの容姿だった。
「見た目で男を判断するとは。ミカ!」
キッドが毒ついた。
「キッドだって見た目で女を判断してるでっしょ?」
ミカがやり返した。
「スカーレット様は特別だ。見ろ。この美しい姿を!」
キッドは顔がスカーレットを見て緩んだ。今にも飛びつきたい衝動を必死で押さえているようにも見えた。
「しかし、うまく化けたものだな」
「えっ?」
エリオットの言葉には反応して僕はスカーレットを見た。スカーレットの顔が少し青ざめたように見えた。
「ジン。君が見抜いたように彼女は魔女だ」
エリオットの言葉に今度はキッドの顔が青ざめた。
「どういうことだ、ジン。彼女は魔女じゃないっていったよな?」
確かにそういったけど。実は今疑念が浮かんでいる。
「ジン。君は私の名前を知っているな。頭に名前が浮かんだからだ。だが……」
そう、浮かんだ。そして、
「彼女の名前は浮かばなかった。スカーレットという名前が」
「ジン、本当なの?」
ミカの問いに僕は少し考えてから、
「確かにエリオットという名前が浮かんだ。でもどうしてそれがわかったのかな?」
僕はエリオットを見た。
「私にはそういった能力があるからだ。そして君も不可思議な力を持っている。魔女の狙いはその君の力だ」
「ジンも能力者ってことか?」
キッドが驚きの声を上げた。そして、もちろん僕も驚いた。キッド以上に。
僕が狙われてるだって?
「おしゃべりはそこまでよ。エリオット」
スカーレットの声が急に変わった。どこか冷たい感じがする声色だった。間を置くことなく姿も変わっていった。僕が知るあの黒髪の魔女だった。
「うおっ! こっちも好みだ!」
キッドはまたしても顔を緩めた。
「キッド、君は魔女の術にかかってる。それは彼女の本来の姿じゃない」
「えっ?」
ミカと僕が叫んだ。
「ああ、君たちもかかっていたか」
エリオットは笑った。
「今すぐに術を解いてあげたいが、彼女の本当の姿を見て怖がるといけないから、しばらくは夢を見ていた方がいい」
「エリオット!」
エリオットの挑発に魔女の顔が険しくなった。
「あまり調子に乗らないことだね、エリオット。自分が愛する国を失いたくはないだろう?」
「それで脅してるつもりか? ここで君を灰にしてやってもいいんだぞ?」
「うっ…、ぐっ……!」
魔女の顔はさらに険しくなっていった。明らかに力の差を魔女は知っているようだった。
「さあ、このままおとなしく帰れ。そして二度とジンに近づくな。いいな?」
「くっ……、お前も知ってるはずだ。わたしの世界はあの『少年』によって滅ぼされたことを……」
「先に仕掛けたのは魔女の方だ」
「うるさい! あいつに復讐しなければ気が済まない!」
「復讐をしたければ好きにすればいい。だが、影の国は関係ない。つまらない仕掛けをする気なら容赦しないぞ!」
部屋の空気が一変した。息苦しさを感じるほどの『熱さ』を僕は感じていた。エリオットが燃えさかる太陽にでもなったかのような錯覚を覚えた。それは魔女にも伝わっているようだった。魔女の顔がいよいよ恐怖に歪みはじめていた。
「さあ、好きな方を選べ!」
「わ、わかった……!」
エリオットの凄みに魔女は狼狽えて答えた。
「わかった、わかったよ。わかったから灰にはしないで。ジンにも二度と近づかない」
魔女はそう約束すると、怯えるように部屋から姿を消した。
キッドとミカは今のやりとりを理解していないようだった。何も感じなかったのかも知れない。
滅ぼされたのは影の国ではなく魔女が住んでいた世界だった。そして魔女は復讐を企んでいた。
実際に魔女が何を企んでいたのかは僕にはわからなかった。
僕はエリオットを見た。本当のことが知りたい。きっと僕はそんな顔をしていただろう。