プロローグ「これから始まる物語」
日は傾きかけていた。先はそれほど長くない。ただじっとそれを待つべきなのか。諦めて。それとも動くべきか。否定して。
蝶は舞った。確かに。伝えられた意思。それは最も遠い場所で思いを遂げた。最も望まれた最も望まない答えで。終わらないはずの歌はもう聞こえなかった。
1224。かつて神が愛した島。そこに二つの影が舞い降りた。
一つの影が口を開いた。
「見て。すべてが凍ってしまった世界。ここに人の姿はもうないわ」
もう一つの影がそれに答えた。
「空気さえ凍っている。見渡す限り白い世界だ。生命を終わらせるには十分だろうな」
そこはまさに死の世界にふさわしい景色が広がっていた。極寒の世界。凶悪な暴力風。そんな世界でも二つの影の声は暖かかった。二つの影の周囲には外気を遮断する空間が形成されていた。
「この無慈悲な結末を彼が望んだなんて……」
「彼は偉大な能力者の一人だったからな。こんな終わり方はあんまりだが、仕方がないさ」
一つの影が少し考えていたように見えた。
「この結末を回避しなければいけない。そのために私たちは何ができるかしら?」
「彼と戦うのか? この世界は手遅れだ。まだ可能性があるのは……」
「もちろん私たちの世界のことよ。彼の力が及ぶ前に……」
「そうだな。それには僕たちが力を合わせなければいけない。彼はあまりにも強大すぎる」
一つの影が優しく微笑んだように見えた。
「私たちにはまだ希望が残されているのね。運がいいわ」
「ああ。例の少年か?」
「ええ、そうよ」
その答えにもう一つの影も笑ったように見えた。
やがて二つの影が終わった世界から姿を消した。
世界が根源から分かれ、いくつもの姿を持つようになってから長い年月が経っていた。分化した世界。その一つ、神が愛した世界は幕を閉じた。