『リアルでは根暗ぼっちのプロエロゲーマーがオンラインゲームの世界に転移した件について』
僕の名前は"伊喜利幸雄"。大学に通う普通の大学生だ。
さて突然だが、僕は目が覚めたら全く違う世界。いわゆる異世界と呼ばれる場所に飛ばされたのだろう。
寝る前のことを思い出そう。確か息ヌキにエロゲーをしていた後にオンゲーのPVPイベントを周回していたはずだ。
より効率良くと考えて、限界まで周回に特化した装備に無駄をなくしたパターンを編み出して。後はひたすら回っていた。ただただ回っていた。
それ以外の記憶が見つからないということは。……多分寝落ちだと思う。エナジードリンクの数が5本では足りなかったらしい。
ああー思い出したら罪悪感がちゃばいな。もう少しで一桁ランクまでたどり着けたのにそれを逃すなんてマジで辛い。
目の前まで見えてたのに取れないなんて悔しいじゃん。
後悔にひとしきり襲われてから改めて今の現状について考える。
今自分がいるのは森の中だ。当然誰かがいる気配はない。
そして自分の服装を確認したら知らない服を着ていた。まさにファンタジー世界の物としかいえないような服を着ていた。
これを見て自分が異世界に飛ばされたのだと理解したのだが……しかしこの服どこかで見たような気もするんだよな。
まぁいいや。とにかくここから動こう。ここにいても仕方がないだろう。
取り合えず森の外に出ることを目的に歩くことにした。そうすれば何か分かるだろう。
そうして数分くらいだろうか、それ位の時間を歩いたところで開けた場所に出た。
そしてそれと同時に目の前にヤツが現れた。
青い鱗に幾つもの長い首を胴体から生やした怪物。数は1……2……3……。
8は無いからヤマタノオロチとかではないのだろう。
いやしかしこれは……。
僕はこいつを見て最初に感じたことが恐ろしい怪物に出会ったことへの恐怖ではなく、
ただ純粋な驚きに包まれた。
なぜなら僕は、コイツを知っている。
寝落ちする直前まで周回して狩っていたエネミーそのままの見た目だったのだ。
どういうことだ。何故僕のやっていたゲームのエネミーまんまのやつがいるんだ?
見つけていきなりその疑問に襲われた僕は、もし自分が狩っていたやつそのままなら推定ヒドラトリポカであろうモンスターと誰かが戦っていることに気付くのが遅れてしまった。
最初に目を引かれたのが頭頂部の左右に生えたその美しい金髪と同じ色をした獣のような耳だった。そこから明らかに僕の知っている人間ではないことが分かった。
そして次にその体型から恐らく、いや確実に女性であると分かった。あれで男性だったら……いやそれはそれでありかもしれないが。
闘いはどうやら土の礫を口から吐き出して彼女を中々近づかせないヒドラの方に分があるようだった。
多分このままだと彼女は負ける。素人目に見てもそれが分かった。
どうする? 助けようか?
自分があの巨大なモンスターに勝てるとは思えないが、だからといってこのまま彼女を見捨てるわけにもいかないだろう。
僕は礫の攻撃で体勢を崩し転んでしまった彼女とその隙を突いて凶悪な牙を突き立てようとしているヒドラとの間に割って入った。
そして目の前に迫るその大きな口に向かって片手を突き出す。
普通はそれだけで何ができるんだ、結局彼女と一緒に僕も食われるだけだろうと思うことだろう。
しかし僕にはこの時何故かこうすればどうにかなるということが直感で分かっていた。
急に突き出した腕を取り囲むように風が起こった。それは腕を覆い隠す小さな竜巻になり、そしてその中に現れた何かを動かすとこれまた何かが飛び出した。それは丁度目の前のヒドラに直撃し何とその巨体を吹き飛ばした。
腕を覆う竜巻が消えた後、僕の腕には一本の銃が握られていた。それにもまた既視感があった。ゲームの中で愛用していた武器だ。
吹き飛んだヒドラの方を見ると光の粒子になって消えていった。多分倒したのだろう。
ゲーム通りならアイツは土、今使ったの武器の属性が風で丁度奴の弱点なはずだ。
思っていたよりもあっさり終わったことに呆然としていると後ろから声をかけられた。
「あ、あなたあのヒドラトリポカを一瞬で……!!!」
振り向くと目の前にすっごい美少女の顔が迫っていた。近い近い止めてこの距離は流石に近い鼻先が微妙にかすってるていうかきれい可愛いヤバいヤバい付き合ってください。
美少女を目の前にしてこんな露骨に動揺するとか恥ずかしくて仕方ない。思わず顔をそらしてしまう。
「い、いや別に大したことはしてないよ」
「そんなことありませんよ! 本来なら腕の立つ者が5、6人いてやっと倒せるかどうかという相手なのですよ。それをたった一人で、しかも一発でなんて」
「いやまぁ、あんなの数えきれないほど倒してきたから敵じゃないし」
「数えきれないほどもですか!」
いや、ゲームの話なんだけど……、いやこの世界はどう考えてもそのゲームの世界だから……良く分からなくなってきたな。
目をキラキラさせて見てくる彼女の視線が罪悪感がちゃばい。
「ああ、自己紹介が遅れました私の名前はシスユイ。助けていただきありがとうございました」
「伊喜利幸雄です。そんな大したことはしてないからこそばゆいな」
これが彼女と僕の出会いだった。そしてこの出会いがきっかけで僕は壮大な冒険をすることになるのだった。
疲れた